カルテは5年、医療費は1.5倍―「桁」と「根拠法」で解く社会保障の正誤問題
第116回医師国家試験 B問題 第10問
国試問題にチャレンジ
社会保障制度について正しいのはどれか。
- a.診療録の保存義務期間は終診時から2年間である。
- b.国民健康保険組合の被保険者数は6千万人より多い。
- c.国民医療費は2000年からの20年間で3倍に増加した。
- d.介護保険第1号被保険者数は第2号被保険者数より多い。
- e.結核患者の医療費の公費負担は感染症法に規定されている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
結核患者の医療費の公費負担は、2007年に結核予防法が廃止されて以降、感染症法(入院は第37条、通院は第37条の2)に規定されています。診療録の保存期間は医師法で5年であり、2年は医療法施行規則で定められた病院の「診療に関する諸記録」の期間なので、取り違えに注意が必要です。統計では、国保組合の加入者は約270万人で6千万人を超える保険者は存在せず、国民医療費は2000年度の約30兆円から約1.5倍の増加、介護保険は40〜64歳の第2号被保険者が65歳以上の第1号被保険者より多い、という桁と大小関係をつかんでおけば正誤を判断できます。社会保障の問題は、細かな数字よりも「根拠法」と「おおよその規模」を押さえることが得点と実務理解の両方につながります。
解答・解説
正解はeです
本問は、医療に関わる法制度(診療録の保存期間、結核医療の公費負担)と、社会保障に関する代表的な統計(医療保険の加入者数、国民医療費の推移、介護保険の被保険者数)をまとめて問う一般問題である。 解くうえでのポイントは次のとおりである。 ・法律の規定は「どの法律の何に書かれているか」を正確に覚えておく(医師法・医療法・感染症法など)。 ・統計値は細かい数字まで覚える必要はないが、「おおよその桁」と「大小関係」「増加の倍率」はつかんでおく。選択肢b〜dは、いずれも桁や大小関係を知っていれば誤りと判断できる。 医療保険の加入者は全体で約1億2千万人であり、6千万人を超える制度は存在しない。国民医療費はこの20年で約1.5倍に増えたが3倍ではない。介護保険は40〜64歳の第2号被保険者のほうが65歳以上の第1号被保険者より多い。診療録の保存期間は5年である。以上から、結核医療の公費負担が感染症法に定められているとするeが正しい。
選択肢考察
- ×a. 診療録の保存義務期間は終診時から2年間である。
誤り。医師法第24条により、医師は診療したときに遅滞なく診療録(カルテ)を記載する義務を負い、その診療録は5年間保存しなければならない。保険診療では保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)でも、診療録を診療の完結の日から5年間保存することが定められている。 「2年間」というのは、医療法施行規則で病院に保存が義務づけられている「診療に関する諸記録」(病院日誌、各科診療日誌、処方箋、手術記録、エックス線写真、検査所見記録など)の保存期間であり、診療録そのものの期間と取り違えさせる選択肢である。なお療担規則では、診療録以外の療養の給付に関する帳簿・書類の保存期間は3年とされている。
- ×b. 国民健康保険組合の被保険者数は6千万人より多い。
誤り。国民健康保険組合(国保組合)は、医師・歯科医師・薬剤師・弁護士・建設業など同じ業種の自営業者などが集まって設立した組合が運営する国民健康保険であり、被保険者数は約270万人(平成30年度)にすぎない。 市町村(都道府県と共同運営)の国民健康保険を合わせても、国民健康保険全体の被保険者数は3千万人弱(令和元年度で約2,900万人)である。日本の総人口が約1億2,500万人であり、最大の医療保険者である全国健康保険協会(協会けんぽ)でも加入者は約4千万人であることを考えれば、6千万人を超える保険者は存在しないことがわかる。
- ×c. 国民医療費は2000年からの20年間で3倍に増加した。
誤り。厚生労働省「国民医療費の概況」によると、国民医療費は2000年度(平成12年度)が30兆1,418億円、2019年度(令和元年度)が44兆3,895億円で、2019年度は過去最高であった。2020年度(令和2年度)は42兆9,665億円で、前年度より1兆4,230億円(3.2%)減った。新型コロナウイルス感染症の流行で受診控えが起きたことが主な原因と考えられている。2000年度から2020年度までの20年間の増加はおよそ1.4倍(ピークの2019年度でも約1.5倍)であり、3倍ではない。 国民医療費とは別に、厚生労働省は「医療費の動向」で概算医療費(医療保険と公費負担医療の審査支払機関の速報データを集計したもの)も公表している。対象範囲が少し違うので金額も少し異なる。2020年度の概算医療費は約42.2兆円で、前年度より約1.4兆円(3.2%)減った。どちらの統計でも、20年間の増加は1.5倍前後である。 2000年度は介護保険制度が始まった年である。それまで医療費に含まれていた費用の一部が介護保険に移ったため、この年度の国民医療費は一時的に減った。その後は、高齢化と医療の高度化を主な要因として、年に数%程度のペースで増え続けてきた。
- ×d. 介護保険第1号被保険者数は第2号被保険者数より多い。
誤り。介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と、40歳以上65歳未満の医療保険加入者である第2号被保険者に分かれる。令和元年度(2019年度)の介護保険事業状況報告では、第1号被保険者は約3,555万人(年度末)、第2号被保険者は約4,190万人(年度内月平均)であり、第2号被保険者のほうが多い。平成30年度でも第1号約3,525万人に対し第2号約4,192万人と、同じ大小関係である。 高齢化が進んでいるとはいえ、40〜64歳は25年分の年齢層を含むため、人数では65歳以上を上回っている。
- ○e. 結核患者の医療費の公費負担は感染症法に規定されている。
正しい。結核の医療費の公費負担は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に規定されている。 ・入院勧告・入院措置を受けた結核患者の医療(感染症法第37条):医療保険を適用したうえで、自己負担分を公費が負担する(所得に応じて一部自己負担がある)。 ・通院で治療する一般の結核患者の適正医療(同第37条の2):医療保険を優先して適用し、患者の自己負担が医療費の5%となるよう残りを公費で負担する。 かつて結核対策は結核予防法に基づいて行われ、公費負担もこの法律に規定されていたが、2007年(平成19年)に結核予防法は廃止され、結核は二類感染症として感染症法に統合された。
診療に関する記録の保存期間
・診療録:5年(医師法第24条、療担規則では診療の完結の日から5年) ・病院の診療に関する諸記録(処方箋、手術記録、エックス線写真、検査所見記録、看護記録など):2年(医療法施行規則) ・保険診療に関する診療録以外の帳簿・書類:3年(療担規則) ・処方箋(薬局での保存):3年(薬剤師法)
日本の医療保険制度の加入者(おおよその規模)
・全国健康保険協会(協会けんぽ):約4千万人。主に中小企業の被用者とその家族 ・健康保険組合:約2,900万人。主に大企業の被用者とその家族 ・共済組合:約900万人。公務員・私立学校教職員など ・国民健康保険(市町村):2千万人台後半。自営業者、非正規労働者、無職者など ・国民健康保険組合:約270万人。同業種の自営業者など ・後期高齢者医療制度:約1,800万人。75歳以上(および一定の障害のある65〜74歳)
国民医療費
保険診療の対象となる傷病の治療費の推計で、正常分娩、健康診断、予防接種、差額ベッド代、市販薬などは含まれない。財源は保険料が約5割、公費が約4割、患者負担が約1割である。2019年度の44兆3,895億円が過去最高で、人口一人当たりでは約35万円、国内総生産(GDP)比は約8%であった。2020年度は新型コロナウイルス感染症による受診控えで42兆9,665億円に減った(前年度比3.2%減)。速報性の高い統計として概算医療費(「医療費の動向」)があり、こちらでは2020年度が約42.2兆円であった。65歳以上が全体の約6割を占める。
介護保険の被保険者
・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援状態になれば給付を受けられる。保険料は原則として年金から天引き(特別徴収)される。 ・第2号被保険者:40歳以上65歳未満の医療保険加入者。末期がん、関節リウマチ、初老期における認知症など16の特定疾病が原因の場合に限り給付を受けられる。保険料は医療保険料と一括して徴収される。
結核の公費負担
結核予防法(1951年制定)は2007年に廃止され、結核は感染症法上の二類感染症となった。公費負担は、入院患者が第37条、通院の一般患者が第37条の2に規定されている。
POINT
・診療録の保存期間は5年(医師法)。2年は病院の「診療に関する諸記録」(医療法施行規則)。 ・国保組合の加入者は約270万人。6千万人を超える医療保険者はない。 ・国民医療費は2000年度約30兆円 → 2019年度約44兆円(約1.5倍)。2020年度はコロナ禍で約43兆円に減った。 ・介護保険は第2号被保険者(40〜64歳、約4,200万人)>第1号被保険者(65歳以上、約3,500万人)。 ・結核医療の公費負担は感染症法(第37条:入院、第37条の2:通院)。結核予防法は2007年に廃止・統合された。
