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「こだわり」は強い?弱い?―2つの柱で押さえる自閉スペクトラム症

第116回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第11問

自閉スペクトラム症の特徴でないのはどれか。

  1. a.男児に多い。
  2. b.感覚過敏がある。
  3. c.対人関係の苦手さがある。
  4. d.就学前に症状がみられる。
  5. e.物事に対するこだわりが弱い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は自閉スペクトラム症、いわゆるASDの基本的な特徴を問う問題だ。「特徴でないもの」を選ぶ否定形の設問だから、まずASDの中核症状を正確に思い出せるかがカギになる。ASDの診断の柱は何だったかな。
医学生医学生
精神医学の講義で、対人関係の障害と、こだわりの2つが柱だと習った気がします。
ドクタードクター
その通り。DSM-5では、一つ目が「社会的コミュニケーションと対人的相互反応の持続的な障害」、二つ目が「行動・興味・活動の限定された反復的な様式」とまとめられている。この2領域が発達の早い時期からあって、生活に支障が出ていることが診断の前提なんだ。
医学生医学生
二つ目の「限定された反復的な様式」というのが、こだわりのことですね。
ドクタードクター
そう。いつもと同じ道順や手順でないと強い苦痛を示す、物を一列に並べる、手をひらひらさせるといった常同行動、オウム返し、特定の対象への極端に強い興味などが含まれる。つまりASDのこだわりは「強い」のが特徴で、「こだわりが弱い」は正反対の記述だ。これが今回の答えになる。
医学生医学生
なるほど、否定形なので逆の記述を探せばよかったんですね。感覚過敏はどこに入るんでしょうか。対人関係とは別の話に思えます。
ドクタードクター
いい疑問だね。実はDSM-5では、感覚刺激への過敏さや鈍感さは二つ目の柱、つまり限定された反復的行動の一項目として診断基準に組み込まれているんだ。掃除機やドライヤーの音を極端に嫌がって耳をふさぐ、服のタグの肌触りを嫌がる、偏食が強い、といった形で現れる。逆に痛みや暑さ寒さに鈍い子もいる。
医学生医学生
小児科の実習で、診察室の音に耳をふさいでいたお子さんがいました。あれも感覚過敏だったのかもしれません。
ドクタードクター
十分ありうるね。だから感覚過敏はASDの特徴に当てはまる。対人関係の苦手さは言うまでもなく一つ目の柱そのものだ。視線が合いにくい、会話が一方的になる、相手の気持ちや場の空気を読み取りにくい、友人関係を築きにくい、などだね。
医学生医学生
性差については、男の子に多いと習いました。
ドクタードクター
そう、男女比はおよそ4対1で男児に多いとされている。近年は3対1程度という報告もある。ただ、女児は周囲に合わせる振る舞い、いわゆるカモフラージュで困難が目立ちにくく、見逃されやすいことも知っておくといい。
医学生医学生
発症時期はどうでしょう。大人になってから診断される人もいると聞いたので、就学前というのは少し引っかかりました。
ドクタードクター
鋭い引っかかりだね。症状自体は発達早期から存在していて、多くは2〜3歳ころまでに言葉の遅れ、呼びかけへの反応の乏しさ、指さしをしない、ごっこ遊びをしないといった形で気づかれる。1歳6か月児健診や3歳児健診で指摘されることも多い。一方で知的障害を伴わない例では、集団生活で対人的な要求が高まるまで困難が目立たず、診断が学童期以降になることもある。それでも「症状は発達早期から存在する」という原則は変わらないんだ。
医学生医学生
診断が遅れることはあっても、症状そのものは小さいころからある、ということですね。整理すると、男児に多い、感覚過敏、対人関係の苦手さ、就学前からの症状はどれもASDらしくて、こだわりが弱いだけが逆、と。
ドクタードクター
完璧だ。少し発展知識も押さえておこう。以前は自閉症、Asperger症候群、特定不能の広汎性発達障害と分けられていたものが、DSM-5で連続体、つまりスペクトラムとして一つに統合された。ADHDも同じ神経発達症の仲間だけど別の疾患単位で、ただし併存は多い。ほかに知的能力障害、てんかん、不安症、睡眠障害を伴うこともある。
医学生医学生
治療薬はあるんでしょうか。
ドクタードクター
ASDの中核症状そのものを治す薬はないんだ。支援の中心は早期からの療育で、構造化された環境づくりや絵カードのような視覚的手がかりの活用、家族支援、学校や職場の環境調整が柱になる。かんしゃくや攻撃性といった易刺激性が強い場合には、リスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
医学生医学生
症状を「治す」より、その人の特性に合わせて環境を整える発想が大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、感覚過敏のある子の診察なら静かな部屋を選ぶ、手順を前もって絵や言葉で伝えるといった配慮だけで、診察がずいぶんスムーズになる。特性を理解していることが、そのまま診療の質につながるんだ。

まとめ

自閉スペクトラム症は神経発達症の一つで、「社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害」と「行動・興味・活動の限定された反復的な様式」の2領域が中核症状です。後者には同一性への固執や限定された強い興味といった「強いこだわり」に加え、感覚過敏・鈍麻も含まれるため、「こだわりが弱い」はASDの特徴と正反対の記述になります。男児に多く(約4:1)、症状は発達早期から存在して多くは2〜3歳ころまでに乳幼児健診などで気づかれますが、知的障害を伴わない例では診断が学童期以降になることもあります。DSM-5で自閉症やAsperger症候群がスペクトラムとして統合されたこと、根本的な治療薬はなく療育と環境調整が支援の中心であることもあわせて押さえておきましょう。2つの柱を軸に整理しておけば、否定形の設問にも迷わず対応でき、実際の診療で特性に配慮した関わり方を考える土台にもなります。

解答・解説

正解はeです

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は、神経発達症(発達障害)の一つである。中核となる特徴は次の2つの領域にまとめられる。 ①社会的コミュニケーションと対人的相互反応の持続的な障害(視線が合いにくい、会話のやりとりが一方的になる、相手の気持ちや場の空気を読み取りにくい、友人関係を築きにくい など) ②行動・興味・活動の限定された反復的な様式(同じ動作や言葉の繰り返し、手順や環境の変化への強い抵抗=こだわり、特定の対象への極端に強い興味、感覚刺激への過敏さまたは鈍感さ) これらが発達の早い時期から存在し、生活上の支障をきたしていることが診断の前提となる。 本問は「特徴でないもの」を選ぶ否定形の設問である。ASDの中核症状のひとつは「こだわりが強いこと」であり、「こだわりが弱い」はその正反対の記述であるため、これが特徴に当てはまらない選択肢となる。性差・感覚の問題・対人関係の困難・発症時期は、いずれもASDの典型的な特徴として知られている。

選択肢考察

  1. ×a.  男児に多い。

    ASDの特徴に当てはまる。男女比はおよそ4:1で男児に多いと報告されている(近年の調査では3:1程度とするものもある)。女児では対人面の困難が目立ちにくく、周囲に合わせる振る舞い(カモフラージュ)で症状が隠れることもあるため、見逃されやすい点も指摘されている。

  2. ×b.  感覚過敏がある。

    ASDの特徴に当てはまる。DSM-5(米国精神医学会の診断基準 第5版)では、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、あるいは環境の感覚的側面への並外れた興味が、限定された反復的行動の一項目として診断基準に含まれている。具体的には、特定の音(掃除機・ドライヤー・人混みの騒音)を極端に嫌がって耳をふさぐ、衣服のタグや特定の素材の肌触りを嫌がる、偏食が強いといった形で現れる。逆に痛みや暑さ寒さに鈍感な場合もある。

  3. ×c.  対人関係の苦手さがある。

    ASDの特徴に当てはまる。社会的コミュニケーションと対人的相互反応の障害はASDの中核症状である。DSM-5では、相互的な情緒的やりとりの困難(会話の往復が成り立ちにくい、興味や感情を共有しにくい)、非言語的コミュニケーションの困難(視線・表情・身振りの使用や理解の乏しさ)、年齢相応の人間関係を築き維持することの困難、の3項目すべてを満たすことが求められる。

  4. ×d.  就学前に症状がみられる。

    ASDの特徴に当てはまる。症状は発達早期から存在し、多くは2〜3歳ころまでに言葉の遅れ、視線が合わない、呼びかけに反応しにくい、ごっこ遊びをしない、指さしをしないといった形で気づかれる。1歳6か月児健康診査や3歳児健康診査で指摘されることも多い。なお、知的障害を伴わない例では、集団生活での対人要求が高まる時期まで困難が目立たず、診断が学童期以降になることもある(DSM-5でも、社会的要求が能力を超えるまで症状が完全には明らかにならない場合があるとしている)。

  5. ○e.  物事に対するこだわりが弱い。

    ASDの特徴ではないため、これが正解である。ASDでは逆に物事へのこだわりが強いことが中核症状である。DSM-5では「行動・興味・活動の限定された反復的な様式」として、①常同的・反復的な運動、物の使用、会話(手をひらひらさせる、物を一列に並べる、反響言語=オウム返し)、②同一性への固執、習慣への頑ななこだわり(いつもと同じ道順や手順でないと強い苦痛を示す)、③強度や対象が異常なほど限定・固執した興味、④感覚刺激への過敏さまたは鈍感さ、の4項目のうち2項目以上を満たすことが求められる。

DSM-5による自閉スペクトラム症の診断基準の概要

A. 複数の状況における社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害(相互的な情緒的関係、非言語的コミュニケーション、人間関係の発展・維持の3項目すべて) B. 行動・興味・活動の限定された反復的な様式(常同的・反復的行動、同一性への固執、限定された強い興味、感覚の過敏・鈍麻の4項目のうち2項目以上) C. 症状は発達早期に存在している D. 症状が社会的・職業的などの重要な領域で臨床的に意味のある障害を引き起こしている E. 知的能力障害(知的障害)や全般的発達遅延ではうまく説明されない

概念の変遷

かつては自閉症(自閉性障害)、Asperger症候群、特定不能の広汎性発達障害などに分けられていたが、DSM-5でこれらは連続体(スペクトラム)として自閉スペクトラム症に統合された。注意欠如・多動症(ADHD)も神経発達症に含まれるが、ASDとは別の疾患単位である。ただし両者の併存は多い。

併存しやすい状態

知的能力障害、ADHD、てんかん、不安症、睡眠障害などを伴うことがある。

支援

根本的な治療薬はなく、早期からの療育(構造化された環境づくり、視覚的手がかりの利用など)や家族支援、環境調整が中心となる。易刺激性(かんしゃく・攻撃性)に対しては、リスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。

POINT

・ASDの中核症状は「社会的コミュニケーション・対人関係の障害」と「限定された反復的な行動・興味(こだわりの強さ、感覚過敏・鈍麻を含む)」の2領域 ・こだわりは「強い」のが特徴 ・男児に多い(約4:1) ・発達早期(多くは2〜3歳ころまで)に症状が現れ、乳幼児健診で気づかれることが多い ・DSM-5で自閉症・Asperger症候群・広汎性発達障害がASDに統合された

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。