StudyMed医師国家試験

「高血圧」の名に惑わされるな―体循環と肺循環で見抜く高血圧緊急症

第116回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第12問

急激な血圧上昇を認める患者で,高血圧緊急症の病態として考えにくいのはどれか。

  1. a.急性大動脈解離
  2. b.褐色細胞腫クリーゼ
  3. c.乳頭浮腫を伴う脳浮腫
  4. d.肺水腫を生じた急性心不全
  5. e.肺動脈性肺高血圧症を伴う呼吸不全

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高血圧緊急症の概念を問う問題だ。選択肢はどれも重症な病態に見えるけれど、ポイントは「どの血圧が上がって、どの臓器が傷ついているのか」を考えること。まず、高血圧緊急症の定義を言えるかな。
医学生医学生
血圧がすごく高い状態、たとえば180/120mmHg以上のことでしょうか。
ドクタードクター
半分正解だね。数字だけでは定義にならないんだ。高血圧緊急症は、血圧の急激な上昇によって脳・心臓・腎臓・大血管・網膜などの標的臓器に急性の障害が生じ、それが進行している状態をいう。入院のうえ静注薬ですぐに降圧を始めないと命や臓器機能が危うくなる。血圧は著しく高いけれど急性の臓器障害がないものは高血圧切迫症と呼んで、内服薬で数時間から数日かけて下げればよいとされる。
医学生医学生
数字よりも臓器障害があるかどうかで区別するんですね。
ドクタードクター
そう。そしてここでいう血圧は、大動脈から全身へ向かう体循環の動脈圧だ。では具体的に見ていこう。急性大動脈解離はどうかな。
医学生医学生
循環器の講義で、高血圧が最大の危険因子だと習いました。血圧が高いと解離が進みそうです。
ドクタードクター
その通り。血圧が高いほど解離の進展や破裂の危険が増すから、痛みのコントロールとともに、β遮断薬などの静注薬で心拍数と血圧をすみやかに下げる。収縮期血圧100〜120mmHg程度を目標にすることが多い。代表的な高血圧緊急症だ。
医学生医学生
褐色細胞腫クリーゼも、カテコールアミンが大量に出て血圧が急に上がる病態でしたよね。
ドクタードクター
そうだね。腫瘍への圧迫や手術操作、造影剤、β遮断薬の単独投与などをきっかけにカテコールアミンが一気に放出され、著しい血圧上昇、頻脈、頭痛、発汗が起こり、心筋障害や脳出血にもつながりうる。治療はα遮断薬のフェントラミン静注が第一選択だ。β遮断薬を単独で先に使うとα作用が優位になって、かえって血圧が上がってしまうから注意が必要だよ。
医学生医学生
乳頭浮腫を伴う脳浮腫は、頭蓋内圧が上がって代償的に血圧が上がるCushing現象のことかと思いました。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でもこの文脈で想定しているのは高血圧性脳症だ。脳血流には血圧が変動しても一定に保つ自動調節能があるけれど、急激で高度な血圧上昇でその上限を超えると、脳血管が受動的に広がって過灌流になり、血管外に水が漏れて脳浮腫が起こる。頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどを呈し、眼底では乳頭浮腫がみられる。MRIでは後頭葉優位の血管性浮腫、いわゆるPRESの像をとることが多い。
医学生医学生
肺水腫を生じた急性心不全はどうでしょう。心不全なのに血圧が上がるのが少しイメージしにくいです。
ドクタードクター
クリニカルシナリオ分類のCS1を思い出してほしい。収縮期血圧が140mmHgを超えるタイプで、急激な体血圧の上昇で左室の後負荷が一気に増え、左室が血液を送り出しきれなくなる。これを後負荷不整合という。その結果、左房圧と肺静脈圧が上がって肺水腫になるんだ。治療は硝酸薬などの血管拡張薬で負荷を減らし、NPPVで呼吸を支えるのが中心だ。
医学生医学生
救急科の実習で、夜中に突然息苦しくなって血圧が200近い患者さんにニトログリセリンを使っているのを見ました。あれがCS1だったんですね。
ドクタードクター
まさに典型例だね。では残る肺動脈性肺高血圧症を伴う呼吸不全はどうだろう。
医学生医学生
名前に「高血圧」と入っているので、つい当てはまりそうに思ってしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。肺動脈性肺高血圧症は、肺の細い動脈の内腔が狭くなって肺血管抵抗が上がり、肺動脈圧が上昇する病気。上がるのは右室から肺へ向かう肺循環の圧で、体循環ではない。負荷を受けるのは右室で、進行すると右心不全になる。右室の拍出が妨げられると左室に戻る血液も減るから、心拍出量はむしろ低下して、体血圧は下がる方向に働くんだ。
医学生医学生
体血圧の急上昇で臓器が傷つくという高血圧緊急症の概念とは、まったく別物なんですね。だから考えにくいのはこれだ、と。
ドクタードクター
その通り。発展として、高血圧緊急症にはほかにも、高度の高血圧を伴う急性冠症候群、子癇、加速型-悪性高血圧などがある。治療では静注のニカルジピンやニトログリセリンなどを使うけれど、下げすぎにも注意が必要だ。
医学生医学生
早く下げるほどよいわけではないんですか。
ドクタードクター
多くの病態では、最初の1時間で平均血圧の低下を25%以内にとどめ、その後2〜6時間で160/100〜110mmHg程度を目指すのが目安だ。長く高血圧が続いた人は自動調節能の範囲が高い側にずれているから、急に下げると脳・心・腎が虚血に陥ってしまう。例外が大動脈解離で、こちらは速やかにしっかり下げる。病態ごとに降圧の速さと目標が違うことを押さえておこう。

まとめ

高血圧緊急症は、体循環の血圧が急激に上昇し、脳・心・腎・大血管・網膜などの標的臓器に急性障害が進行している状態で、静注薬による迅速な降圧が必要です。急性大動脈解離、褐色細胞腫クリーゼ、乳頭浮腫を伴う高血圧性脳症、肺水腫を伴う高血圧性左心不全(CS1)はいずれも代表例です。一方、肺動脈性肺高血圧症は肺循環の圧が上がる疾患で、右心不全から心拍出量が低下し体血圧はむしろ下がる方向に働くため、高血圧緊急症には当てはまりません。褐色細胞腫クリーゼではα遮断薬を優先すること、多くの病態では最初の1時間で平均血圧の25%以内の降圧にとどめ、大動脈解離では速やかに下げることなど、病態に応じた降圧戦略も重要です。「どの循環の圧が上がり、どの臓器が障害されているか」を意識することが、名称に惑わされず緊急度を判断する力につながります。

解答・解説

正解はeです

高血圧緊急症とは

高血圧緊急症(hypertensive emergency)は、単に血圧が著しく高いというだけでなく、血圧の急激な上昇(多くは180/120mmHg以上)によって脳・心臓・腎臓・大血管・網膜などの標的臓器に急性の障害が生じ、進行しつつある状態をいう。ただちに入院のうえ、静注薬で迅速に降圧を開始しなければ生命や臓器機能が脅かされる。一方、血圧は著しく高いが急性の臓器障害を伴わないものは高血圧切迫症と呼ばれ、内服薬で数時間〜数日かけて降圧すればよいとされる。

設問の考え方

ここでいう「血圧」は体循環(大動脈から全身へ向かう循環)の動脈圧である。したがって、体血圧の急上昇によって臓器障害が起こっている病態、または体血圧の急上昇を引き起こす病態が高血圧緊急症に該当する。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』でも、高血圧性脳症、急性大動脈解離を合併した高血圧、肺水腫を伴う高血圧性左心不全、褐色細胞腫クリーゼなどが代表例として挙げられている。 これに対し、肺動脈性肺高血圧症は肺循環(右室から肺へ向かう循環)の圧が上昇する疾患であり、名称に「高血圧」が含まれていても、体血圧の急上昇とは病態がまったく異なる。両者を区別できるかが本問のポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  急性大動脈解離

    高血圧緊急症の代表的病態である。大動脈の内膜に亀裂が入り、中膜が裂けて偽腔が形成される疾患で、高血圧は最大の危険因子である。血圧が高いほど解離の進展や破裂の危険が増すため、激しい痛みの管理とともに、β遮断薬などの静注薬で心拍数と血圧をすみやかに下げる(収縮期血圧100〜120mmHg程度を目標とすることが多い)。解離が腎動脈に及ぶと腎虚血によってレニン分泌が亢進し、さらに血圧が上がることもある。

  2. ×b.  褐色細胞腫クリーゼ

    高血圧緊急症に該当する。褐色細胞腫は副腎髄質などのクロム親和性細胞から生じるカテコールアミン産生腫瘍である。腫瘍への圧迫、手術操作、造影剤、一部の薬剤(β遮断薬の単独投与、メトクロプラミドなど)を契機にカテコールアミンが大量に放出されると、著しい血圧上昇、頻脈、頭痛、発汗、動悸をきたし、心筋障害・不整脈・脳出血などを起こしうる。これを褐色細胞腫クリーゼと呼ぶ。治療はα遮断薬であるフェントラミンの静注が第一選択であり、β遮断薬はα遮断を先行させたうえで使う(β遮断単独ではα作用が優位となり血圧がさらに上がるため)。

  3. ×c.  乳頭浮腫を伴う脳浮腫

    高血圧性脳症に相当し、高血圧緊急症の代表である。脳血流には、血圧が変動しても一定に保つ自動調節能があるが、急激かつ高度な血圧上昇でその上限を超えると、脳血管が受動的に拡張して過灌流となり、血管外へ水分が漏れ出して脳浮腫を生じる。頭痛、悪心・嘔吐、意識障害、けいれん、視力障害などを呈し、頭蓋内圧亢進を反映して眼底に乳頭浮腫がみられる。MRIでは後頭葉優位の血管性浮腫(可逆性後頭葉白質脳症〈PRES〉の像)を示すことが多い。過度の急速降圧は脳虚血を招くため、最初の1時間は平均血圧の25%以内の低下にとどめるなど段階的に下げる。

  4. ×d.  肺水腫を生じた急性心不全

    肺水腫を伴う高血圧性左心不全として高血圧緊急症に該当する。急激な体血圧上昇によって左室の後負荷が急増すると、左室が血液を十分に送り出せなくなり(後負荷不整合)、左房圧・肺静脈圧が上昇して肺水腫に至る。急性心不全の初期対応に用いられるクリニカルシナリオ(CS)分類では、収縮期血圧140mmHgを超えるCS1に相当し、急速に発症する呼吸困難が特徴である。治療は硝酸薬などの血管拡張薬による後負荷・前負荷の軽減と、非侵襲的陽圧換気(NPPV)などの呼吸管理が中心となる。

  5. ○e.  肺動脈性肺高血圧症を伴う呼吸不全

    高血圧緊急症の病態として考えにくく、これが正解である。肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺の細い動脈の内腔が狭くなることで肺血管抵抗が上がり、肺動脈圧(安静時平均肺動脈圧が20mmHgを超える状態)が上昇する疾患であり、上昇するのは体循環ではなく肺循環の圧である。負荷を受けるのは右室であり、進行すると右心不全をきたす。右室からの拍出が妨げられると左室に戻る血液量も減るため、心拍出量はむしろ低下し、体血圧は低くなる方向に働く。したがって、体血圧の急上昇による臓器障害という高血圧緊急症の概念には当てはまらない。

高血圧緊急症の主な病態

・高血圧性脳症 ・急性大動脈解離を合併した高血圧 ・肺水腫を伴う高血圧性左心不全 ・高度の高血圧を伴う急性冠症候群 ・褐色細胞腫クリーゼ ・子癇、重症高血圧を伴う妊娠 ・加速型-悪性高血圧(拡張期血圧が120〜130mmHg以上で、眼底に出血・白斑や乳頭浮腫を伴い、腎機能障害が急速に進行するもの) ・高度の高血圧を伴う脳出血や脳梗塞、頭部外傷、術後高血圧など

高血圧緊急症と高血圧切迫症

・緊急症:急性の標的臓器障害が進行している。入院のうえ静注降圧薬(ニカルジピン、ニトログリセリン、ジルチアゼムなど)を用いる。 ・切迫症:著しい高血圧だが急性臓器障害はない。内服薬で比較的緩やかに降圧する。

降圧の目安

多くの病態では、最初の1時間以内に平均血圧を25%以内で下げ、その後2〜6時間で160/100〜110mmHg程度を目指す。急激すぎる降圧は脳・心・腎の虚血を招くためである。例外として、急性大動脈解離ではすみやかに収縮期血圧120mmHg未満程度まで下げることが多い。

肺高血圧症と体血圧

肺高血圧症は安静時平均肺動脈圧が20mmHgを超える状態と定義され(2022年の欧州のガイドラインで25mmHgから改められた)、右心カテーテル検査で診断する。肺動脈性肺高血圧症は肺高血圧症の第1群にあたり、特発性・遺伝性のほか、膠原病(全身性強皮症など)、先天性心疾患、門脈圧亢進症などに伴うものがある。

POINT

・高血圧緊急症=体血圧の急激な上昇+標的臓器(脳・心・腎・大血管・網膜)の急性障害の進行 ・代表例:高血圧性脳症(乳頭浮腫・脳浮腫)、急性大動脈解離、肺水腫を伴う急性左心不全、褐色細胞腫クリーゼ、子癇、加速型-悪性高血圧 ・肺高血圧症は肺循環の圧上昇であり、体血圧の上昇とは別物 ・褐色細胞腫クリーゼにはα遮断薬(フェントラミン)を優先する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。