白・紫・赤の指先に潜む膠原病―原発性と続発性Raynaud現象を見分ける
第116回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
全身性強皮症による続発性Raynaud現象の特徴はどれか。
- a.片側性である。
- b.家族歴がある。
- c.若年発症が多い。
- d.手指腫脹を伴う。
- e.血圧の左右差を伴う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Raynaud現象は寒冷や緊張を契機に指の細動脈が攣縮し、白→紫→赤と色調が変化する現象で、基礎疾患のない原発性と膠原病などに伴う続発性に分けられます。若年女性、両側対称性、家族歴、軽症で自己抗体陰性といった特徴は原発性を示し、30歳以降の発症、指尖潰瘍、爪郭部毛細血管異常、自己抗体陽性、皮膚硬化や手指腫脹の合併は続発性を示唆します。全身性強皮症ではRaynaud現象がほぼ全例にみられて初発症状となりやすく、初期の浮腫期には手指腫脹(puffy fingers)を伴うことが早期診断の手がかりです。片側性の虚血は局所の血管病変、血圧の左右差は高安動脈炎などの大血管病変を考えるべき所見です。障害される血管のレベルと全身所見を組み合わせて原発性・続発性を見極めることは、膠原病の早期発見に直結する重要な臨床スキルです。
解答・解説
正解はdです
Raynaud現象は、寒冷刺激や精神的緊張をきっかけに手指(ときに足趾)の細動脈が発作的に強く収縮し、指の色調が「白(虚血による蒼白)→紫(チアノーゼ)→赤(再灌流による充血)」と変化する現象である。しびれや痛みを伴い、温めると回復する。 Raynaud現象は、基礎疾患のない原発性(Raynaud病)と、基礎疾患に伴う続発性(二次性)に分けられる。両者の鑑別は、膠原病などの重大な疾患を見逃さないために重要である。 【原発性Raynaud現象の特徴】若年(10〜20歳代、多くは30歳未満)の女性に多い、両側対称性、家族歴を伴うことが多い、症状は比較的軽く指尖潰瘍や壊疽を生じない、爪郭部毛細血管の異常がない、抗核抗体などの自己抗体が陰性、他の身体所見がない。 【続発性Raynaud現象の特徴】発症年齢が比較的高い(30歳以降)、症状が強く指尖潰瘍・壊疽・指尖陥凹性瘢痕を生じうる、爪郭部毛細血管の異常(拡張・出血・脱落)、自己抗体陽性、皮膚硬化や手指腫脹など基礎疾患の所見を伴う。 全身性強皮症(SSc: systemic sclerosis)は、皮膚と内臓の線維化、血管障害、自己免疫を三本柱とする膠原病で、30〜50歳代の女性に好発する。Raynaud現象はほぼ全例(9割以上)にみられ、多くは初発症状である。発症初期は皮膚の真皮に浮腫が生じる浮腫期にあたり、手指がソーセージ状にむくむ手指腫脹(puffy fingers)がRaynaud現象とともに現れることが多い。したがって、本問では「手指腫脹を伴う」が全身性強皮症による続発性Raynaud現象の特徴として最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 片側性である。
誤り。全身性強皮症は全身性疾患であり、それに伴うRaynaud現象は通常両側の手指に生じる。片側性・一肢に限局する虚血症状をみた場合は、閉塞性動脈硬化症、胸郭出口症候群、塞栓症、透析用シャントによるスチール症候群、振動工具による振動障害の偏った曝露など、その肢に限局した血管の原因を考えるべきである。
- ×b. 家族歴がある。
誤り。家族歴を伴うことが多いのは原発性Raynaud現象(Raynaud病)の特徴である。全身性強皮症は遺伝性疾患ではなく、家族内発症はまれであるため、家族歴は続発性Raynaud現象を示唆する特徴とはならない。
- ×c. 若年発症が多い。
誤り。若年(思春期〜20歳代)発症は原発性Raynaud現象の特徴である。全身性強皮症の好発年齢は30〜50歳代で、女性に多い(男女比はおよそ1:10前後)。30歳を過ぎてから新たにRaynaud現象が出現した場合は、続発性を疑って基礎疾患を検索する。
- ○d. 手指腫脹を伴う。
正しい。全身性強皮症の初期(浮腫期)には真皮の浮腫により手指がびまん性に腫れ(puffy fingers、ソーセージ様手指)、この時期にRaynaud現象が合併することが多い。その後、硬化期に進むと皮膚が硬く光沢をもつ手指硬化(sclerodactyly)となり、やがて萎縮期へ移行する。2013年ACR/EULAR(米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)分類基準では、両手指のMCP関節(中手指節関節)より近位に及ぶ皮膚硬化があれば単独で分類を満たし(9点)、それがない場合は「手指の皮膚肥厚」の項目として、手指腫脹(puffy fingers)2点、MCP関節より遠位・PIP関節より近位にとどまる手指硬化4点のいずれか高い方が加点される。Raynaud現象(3点)も項目に含まれ、合計9点以上で全身性強皮症と分類される。このように、皮膚硬化が明らかになる前の手指腫脹とRaynaud現象の組み合わせは、早期診断の重要な手がかりとなる。なお、混合性結合組織病(MCTD)でもRaynaud現象と手指腫脹の組み合わせが特徴的にみられる。
- ×e. 血圧の左右差を伴う。
誤り。全身性強皮症の血管障害は主に指趾の細動脈・小動脈レベルで起こるため、上肢の大きな動脈が狭窄して血圧に左右差が出ることはまれである。血圧の左右差は、高安動脈炎(大動脈炎症候群)、動脈硬化による鎖骨下動脈狭窄、大動脈解離、放射線照射後の血管障害など、大動脈やその主要分枝の病変で認められる。
続発性Raynaud現象の主な原因
・膠原病:全身性強皮症(最多、ほぼ全例)、混合性結合組織病(MCTD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性筋炎・皮膚筋炎、Sjögren症候群、関節リウマチなど ・血液疾患:クリオグロブリン血症、寒冷凝集素症、多血症など ・血管疾患:閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎(Buerger病)、胸郭出口症候群 ・職業性:振動工具の使用による振動障害(白ろう病) ・内分泌:甲状腺機能低下症 ・薬剤:β遮断薬、エルゴタミン製剤、一部の抗癌薬(ブレオマイシン、シスプラチンなど)、インターフェロンなど
全身性強皮症の主な所見
・皮膚:Raynaud現象、手指腫脹→手指硬化、指尖潰瘍・指尖陥凹性瘢痕、爪郭部毛細血管異常、色素沈着・脱失、仮面様顔貌、舌小帯短縮、毛細血管拡張 ・内臓:間質性肺疾患、肺動脈性肺高血圧症、逆流性食道炎(食道蠕動低下)、強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧と腎機能悪化)、心病変 ・自己抗体:抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体(びまん皮膚硬化型・間質性肺疾患と関連)、抗セントロメア抗体(限局皮膚硬化型・肺高血圧症と関連)、抗RNAポリメラーゼIII抗体(急速な皮膚硬化・腎クリーゼと関連)
Raynaud現象の治療
手指や全身の保温、禁煙、誘因となる薬剤の中止が基本である。薬物療法としてカルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジン系)、プロスタグランジン製剤、ベラプロストなどが用いられ、指尖潰瘍にはエンドセリン受容体拮抗薬が用いられることがある。
POINT
・原発性Raynaud現象:若年女性、両側対称性、家族歴あり、指尖潰瘍なし、自己抗体陰性、爪郭部毛細血管正常。 ・続発性Raynaud現象:30歳以降の発症、指尖潰瘍・壊疽、爪郭部毛細血管異常、自己抗体陽性、基礎疾患の所見を伴う。 ・全身性強皮症ではRaynaud現象が初発症状として多く、初期(浮腫期)に手指腫脹(puffy fingers)を伴う。 ・片側性の虚血は局所の血管病変、血圧の左右差は高安動脈炎・鎖骨下動脈狭窄などの大血管病変を考える。
