StudyMed医師国家試験

その一錠が転倒を招く―高齢者の「ふらつき」と薬の関係を読み解く

第115回医師国家試験 F問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第32問

高齢者の転倒リスクを高める薬剤はどれか。2つ選べ。

  1. a.降圧薬
  2. b.骨粗鬆症治療薬
  3. c.尿酸排泄促進薬
  4. d.ビタミンD製剤
  5. e.ベンゾジアゼピン系抗不安薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢者の転倒と薬剤の関係を問う問題だ。考えるポイントは、薬が「どんな仕組みで」転倒につながるのか。眠気やふらつき、血圧低下といった作用の観点から各選択肢を見ていこう。
医学生医学生
骨粗鬆症の薬が入っていますけど、これは骨折を防ぐ薬なので逆ですよね。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。まず前提として、高齢者の転倒がなぜ重視されるかを確認しておこう。転倒は大腿骨近位部骨折などを通じて、寝たきりや要介護の大きな原因になる。危険因子には筋力低下やバランス障害、視力障害、認知機能障害などの内的要因と、段差や照明などの環境要因があるけれど、内的要因の中で比較的見直しやすいのが薬剤なんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、介護が必要になった原因の上位に骨折・転倒があると習いました。
ドクタードクター
そう、だからこそ薬剤の見直しは大事な介入になる。転倒を招く薬は大きく、中枢神経に作用して眠気やふらつきを起こすもの、血圧を下げて立ちくらみを起こすもの、低血糖を起こすもの、抗コリン作用をもつもの、に整理できる。この視点で選択肢を見るとどうかな。
医学生医学生
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は中枢神経に作用するので、当てはまりそうです。
ドクタードクター
正解。ベンゾジアゼピン系はGABA-A受容体の作用を増強して、抗不安作用だけでなく鎮静・催眠作用や筋弛緩作用ももつ。だから日中の眠気、注意力の低下、ふらつき、脱力が起こりやすい。高齢者では肝代謝が落ちていて、脂溶性の薬が脂肪組織にたまりやすいため作用が長引き、特に長時間作用型では翌日への持ち越しが問題になるんだ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、夜中にトイレに起きた患者さんがふらついて転んだ例があって、指導医の先生が睡眠薬を見直していました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。夜間頻尿も転倒の危険因子だから、睡眠薬との組み合わせは特に危ない。せん妄や認知機能低下の誘因にもなるので、高齢者では特に慎重な投与が必要な薬の代表だよ。では降圧薬はどうだろう。
医学生医学生
血圧を下げるのが目的の薬ですけど、それが転倒にまでつながるんでしょうか。
ドクタードクター
つながるんだ。高齢者は圧受容器反射の感受性が落ち、動脈硬化で血管も硬くなっているため、立ち上がったときの血圧調節がうまくいかず、もともと起立性低血圧を起こしやすい。そこへ降圧薬が加わると、立ちくらみやめまい、ときに失神を起こして転倒する。食欲低下や下痢で脱水になると過降圧が強く出やすいし、開始直後や増量時は特に注意が必要だ。
医学生医学生
OSCEで臥位と立位の血圧測定を練習しましたけど、こういう場面で役に立つんですね。
ドクタードクター
その通り。降圧薬を始めた高齢者では、起立時の血圧を確認するのが基本だよ。利尿薬やα遮断薬、硝酸薬も同じ理由で注意が必要だ。では残りの選択肢も確認しよう。尿酸排泄促進薬はどうかな。
医学生医学生
ベンズブロマロンですよね。肝障害や尿路結石には注意が必要ですが、ふらつく作用はなさそうです。
ドクタードクター
そう、中枢抑制や血圧低下を介して転倒を増やす薬ではない。骨粗鬆症治療薬も、ビスホスホネートなど骨密度を保って骨折を防ぐ薬で、転倒しやすい高齢者にはむしろ積極的に使われる。ビタミンD製剤はどう思う?
医学生医学生
骨の薬だから転倒とは無関係かと思っていました。
ドクタードクター
実はビタミンDは骨格筋の機能維持にも関わっていて、欠乏している高齢者では筋力やバランスが落ちて転倒しやすい。欠乏者への補充で転倒が減るという報告もあるんだ。過量投与による高カルシウム血症には注意が必要だけど、通常の用法で転倒を増やす薬とは扱われない。
医学生医学生
転倒を増やすどころか、防ぐ側にもなりうるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、多剤併用、いわゆるポリファーマシーそのものも転倒の危険因子だ。高齢者は代謝・排泄が遅れて薬が効きすぎやすく、服用薬剤数が多いほど転倒が増える。不要な薬の中止や減量、作用時間の短い薬への変更、降圧薬は少量から始めて起立時の血圧を確認する、といった対策が基本になる。そして一度転んだ人は、怖さから活動量が減って筋力が落ち、さらに転びやすくなる悪循環に陥りやすいことも覚えておこう。
医学生医学生
転倒した高齢者を診たら、まず薬のリストを見直す習慣をつけたいと思います。

まとめ

高齢者の転倒は大腿骨近位部骨折などを介して寝たきりや要介護の主要な原因となり、修正可能な危険因子として薬剤の見直しが重要です。ベンゾジアゼピン系薬は鎮静・筋弛緩作用によって眠気やふらつきを起こし、高齢者では代謝低下により作用が遷延しやすいため、転倒リスクを高める代表的な薬剤です。降圧薬は、もともと起立性低血圧を起こしやすい高齢者で過降圧や立ちくらみを招き、転倒につながります。一方、骨粗鬆症治療薬は骨折予防の薬であり、ビタミンD製剤は欠乏者で転倒を減らしうる薬で、尿酸排泄促進薬も転倒とは関係が乏しい薬剤です。中枢神経作用薬・血圧を下げる薬・低血糖を起こす薬・抗コリン薬という整理とポリファーマシーへの意識は、高齢者診療の日常で直接役立つ視点です。

解答・解説

正解はa, eです

高齢者の転倒は、大腿骨近位部骨折などの骨折を通じて寝たきりや要介護状態の大きな原因となるため、その危険因子を把握し除去することが重要である。転倒の危険因子は、本人側の内的要因(下肢筋力低下、バランス障害、視力障害、認知機能障害、起立性低血圧など)と、段差や照明などの環境要因に分けられ、内的要因の中でも見直しによって修正しやすいものとして薬剤がある。 転倒を起こしやすい薬剤は、作用の仕方から大きく次のように整理できる。 ・中枢神経に作用して眠気・ふらつき・注意力低下・筋弛緩を起こすもの:ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、オピオイドなど ・血圧を下げて脳血流を一時的に低下させ、めまい・立ちくらみ・失神を起こすもの:降圧薬、利尿薬、α遮断薬、硝酸薬など ・低血糖を起こしうるもの:インスリン、スルホニル尿素薬など ・抗コリン作用をもつもの:第一世代抗ヒスタミン薬、過活動膀胱治療薬の一部など(せん妄・視調節障害の原因) 高齢者は肝・腎機能の低下や体脂肪率の上昇により薬物の代謝・排泄が遅れ、作用が遷延・増強しやすい。さらに多剤併用(ポリファーマシー)になりやすく、服用薬剤数が多いほど転倒が増えることも知られている。本問の選択肢では、降圧薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬が上記の典型に該当する。

選択肢考察

  1. ○a.  降圧薬

    高齢者は圧受容器反射の感受性低下や動脈硬化による血管の硬さのため、体位変換時の血圧調節がうまく働かず、もともと起立性低血圧を起こしやすい。そこへ降圧薬が加わると、過降圧や起立時の血圧低下がさらに強まり、脳血流が一時的に不足してめまい・立ちくらみ・失神を起こし、転倒に結びつく。食欲低下や下痢などで脱水を合併すると過降圧が顕著になりやすい。投与開始直後や増量時は特に注意が必要であり、転倒リスクを高める薬剤として正しい。

  2. ×b.  骨粗鬆症治療薬

    骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター〈SERM〉、活性型ビタミンD3製剤、副甲状腺ホルモン製剤、抗RANKL抗体など)は骨密度を維持・増加させて骨折を防ぐことが目的の薬剤であり、眠気やふらつきなど転倒を招く作用は一般にない。転倒しやすい高齢者にはむしろ骨折予防のために積極的に用いられるため誤り。

  3. ×c.  尿酸排泄促進薬

    尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシドなど)は腎尿細管での尿酸再吸収を阻害して尿中への尿酸排泄を増やし、高尿酸血症・痛風の治療に用いられる。注意すべき副作用は劇症肝炎を含む肝障害や、尿酸排泄増加による尿路結石であり、中枢神経抑制や血圧低下を介して転倒を増やす薬剤ではないため誤り。

  4. ×d.  ビタミンD製剤

    ビタミンDは骨代謝に加えて骨格筋の機能維持にも関与しており、血中25-ヒドロキシビタミンD濃度が低い高齢者では筋力やバランス能力が低下し転倒しやすいことが示されている。ビタミンD欠乏のある高齢者では、ビタミンD製剤の投与によって転倒が減少することが報告されており、転倒リスクを高める薬剤ではない。過量投与による高カルシウム血症には注意を要するが、通常の用法で転倒を増やす薬剤として扱われることはないため誤り。

  5. ○e.  ベンゾジアゼピン系抗不安薬

    ベンゾジアゼピン系薬はGABA-A受容体の作用を増強し、抗不安作用のほかに鎮静・催眠作用と筋弛緩作用をもつ。このため日中の眠気、注意力・反応性の低下、ふらつき、脱力を生じ、転倒の原因となる。高齢者では脂溶性の薬物が脂肪組織に蓄積しやすく、肝代謝も低下しているため作用が遷延しやすく、特に長時間作用型では翌日への持ち越し効果が問題となる。また、せん妄や認知機能低下の誘因にもなる。高齢者で特に慎重な投与を要する薬剤の代表であり正しい。

高齢者の転倒と骨折

高齢者の転倒は骨折、特に大腿骨近位部骨折、脊椎椎体圧迫骨折、橈骨遠位端骨折(Colles骨折)、上腕骨近位部骨折の原因となる。大腿骨近位部骨折は寝たきりや要介護状態の主要な原因の一つであり、転倒予防は健康寿命の延伸に直結する。また、一度転倒した高齢者は再転倒への恐怖から活動性が低下し(転倒後症候群)、筋力低下を介してさらに転倒しやすくなる悪循環に陥りやすい。

転倒の危険因子

・内的要因:転倒の既往、下肢筋力低下、歩行・バランス障害、視力障害、認知機能障害、起立性低血圧、尿失禁・夜間頻尿、パーキンソン病や脳卒中後遺症、サルコペニア・フレイル、服用薬剤(特に多剤併用) ・外的要因:段差、滑りやすい床、暗い照明、合わない履物、散らかった床など

転倒リスクを高める主な薬剤

・睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、オピオイド ・降圧薬、利尿薬、α遮断薬(前立腺肥大症治療薬を含む)、硝酸薬 ・血糖降下薬(低血糖による) ・抗コリン作用をもつ薬剤(第一世代抗ヒスタミン薬など)

薬剤面での対策

不要な薬剤の中止・減量、作用時間の短い薬剤や転倒を起こしにくい薬剤への変更、降圧薬は少量から開始し起立時の血圧を確認する、などが基本である。日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は高齢者で特に慎重な投与を要する薬物とされている。

POINT

・高齢者の転倒リスクを高める薬剤:中枢神経作用薬(ベンゾジアゼピン系、抗精神病薬、抗うつ薬など)と血圧を下げる薬剤(降圧薬、利尿薬、α遮断薬など)が代表。 ・ベンゾジアゼピン系は鎮静・筋弛緩作用に加え、高齢者では作用が遷延しやすい。 ・降圧薬は起立性低血圧・過降圧を介して転倒を招く。 ・骨粗鬆症治療薬・ビタミンD製剤は骨折予防の薬であり、ビタミンDは欠乏者で転倒を減らす。 ・多剤併用(ポリファーマシー)自体も転倒の危険因子である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。