感染直後の最前線に立つのは誰か―自然免疫と獲得免疫を「時間軸」で分ける
第115回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
ウイルスに初感染した際に感染初期から働く免疫担当細胞はどれか。2つ選べ。
- a.B細胞
- b.T細胞
- c.NK細胞
- d.形質細胞
- e.マクロファージ
対話形式の解説
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医学生まとめ
ウイルスに初めて感染した直後に働くのは、病原体に共通する分子パターンをパターン認識受容体で感知する自然免疫であり、NK細胞とマクロファージがその中心です。NK細胞はMHCクラスIの発現が低下した感染細胞を事前の感作なしに傷害し、マクロファージは貪食・サイトカイン産生・抗原提示によって初期防御と獲得免疫への橋渡しを担います。T細胞・B細胞・形質細胞は獲得免疫の担い手で、初感染ではクローン増殖と分化に数日〜1週間程度を要するため感染初期には働けません。再感染では免疫記憶による二次応答が速やかに起こり、これがワクチンの原理でもあります。免疫応答を「時間軸」で整理する視点は、抗体検査の解釈や感染症診療の理解にも直結します。
解答・解説
正解はc, eです
本問は、自然免疫と獲得免疫(適応免疫)の違いを、反応が始まるまでの時間という観点から問うている。 病原体が体内に侵入すると、生体はまず自然免疫で応じる。自然免疫は病原体に共通する分子パターン(PAMPs:pathogen-associated molecular patterns、例えばウイルスの二本鎖RNAなど)を、Toll様受容体(TLR)などのパターン認識受容体で感知するしくみであり、あらかじめ準備された細胞・分子が侵入後数分〜数時間のうちに働き始める。担い手はマクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などである。ウイルス感染ではとくに、感染細胞を直接破壊するNK細胞と、貪食・サイトカイン産生・抗原提示を行うマクロファージが初期防御の中心となる。 一方、獲得免疫はT細胞やB細胞が抗原受容体で特定の抗原を認識し、その抗原に反応するクローンだけが増殖・分化してから働く。初感染ではこのクローン増殖とエフェクター細胞(細胞傷害性T細胞、形質細胞など)への分化に数日〜1週間程度かかるため、感染直後の段階ではまだ戦力にならない。 したがって「初感染時に感染初期から働く」細胞として選ぶべきは、自然免疫を担うNK細胞とマクロファージである。
選択肢考察
- ×a. B細胞
B細胞は獲得免疫(液性免疫)を担う細胞である。初感染では、ウイルス抗原を特異的に認識したB細胞がヘルパーT細胞の助けを受けて増殖し、抗体を産生する形質細胞へ分化するまでに数日を要する。感染初期から働く細胞ではないため誤り。
- ×b. T細胞
T細胞は獲得免疫(細胞性免疫)を担う。ナイーブT細胞は樹状細胞などから抗原提示を受けて初めて活性化し、クローン増殖を経て細胞傷害性T細胞(CD8陽性)やヘルパーT細胞(CD4陽性)として機能する。初感染ではこの過程に数日〜1週間程度を要するため、感染初期から働く細胞とはいえず誤り。
- ○c. NK細胞
NK細胞は自然免疫を担うリンパ球で、事前の感作を必要とせず感染直後から働く。ウイルス感染細胞ではMHCクラスI分子の発現が低下することが多く、NK細胞はこれを「自己の目印の欠如」として感知し、パーフォリンやグランザイムを放出して感染細胞を傷害する。また、インターフェロンγを産生してマクロファージを活性化する。感染初期のウイルス防御の主役の一つであり正しい。
- ×d. 形質細胞
形質細胞は、抗原刺激を受けたB細胞が最終分化した抗体産生細胞であり、獲得免疫の担い手である。初感染で形質細胞が出現して抗体(まずIgM)を産生するまでには数日を要するため、感染初期から働く細胞ではなく誤り。
- ○e. マクロファージ
マクロファージは血中の単球が組織に移行して分化した細胞で、自然免疫の中心的な担い手である。パターン認識受容体でウイルス成分を感知し、感染直後から病原体や感染細胞の残骸を貪食するとともに、TNF-α・IL-1・IL-12などのサイトカインを産生して炎症反応やNK細胞の活性化を促す。さらに抗原提示細胞として獲得免疫の起動にもかかわる。感染初期から働く細胞であり正しい。
自然免疫と獲得免疫の比較
・自然免疫:反応開始は数分〜数時間。病原体に共通する分子パターンを認識し、特異性は低い。免疫記憶は基本的に形成されない(近年は「訓練免疫」として自然免疫にも一定の記憶様の現象があることが知られる)。担当細胞はマクロファージ、単球、樹状細胞、好中球、NK細胞、肥満細胞など。補体やインターフェロンなどの液性因子も含まれる。 ・獲得免疫:初回反応の成立に数日〜1週間程度。抗原受容体(T細胞受容体、B細胞受容体)により抗原を特異的に認識する。免疫記憶が形成され、2回目以降の同じ病原体の侵入には速く強く反応する(二次応答)。担当細胞はT細胞、B細胞、形質細胞。
ウイルス感染初期の防御
・Ⅰ型インターフェロン(IFN-α、IFN-β):感染細胞や形質細胞様樹状細胞が産生し、周囲の細胞を抗ウイルス状態にするとともにNK細胞を活性化する。 ・NK細胞:MHCクラスIの発現低下した細胞を傷害する。抗体が結合した標的を傷害する抗体依存性細胞傷害(ADCC)にも関与する。 ・マクロファージ・樹状細胞:貪食とサイトカイン産生、抗原提示によって獲得免疫への橋渡しをする。
細菌感染との違い
細菌感染の初期防御では、上記に加えて好中球が主役となる。
POINT
・感染初期(初感染直後)から働くのは自然免疫:マクロファージ、NK細胞、好中球、樹状細胞など。 ・T細胞・B細胞・形質細胞は獲得免疫を担い、初感染では働き始めるまでに数日を要する。 ・NK細胞はMHCクラスIの発現が低下したウイルス感染細胞を、事前の感作なしに傷害する。
