免疫の司令塔を起こす伝令役―樹状細胞が獲得免疫のスイッチを入れる
第120回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
抗原提示を通じて獲得免疫を活性化する細胞はどれか。
- a.好酸球
- b.好中球
- c.NK細胞
- d.好塩基球
- e.樹状細胞
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
T細胞は抗原そのものを認識できず、抗原提示細胞がMHC分子にのせた抗原ペプチドを認識し、さらにCD80/CD86とCD28による共刺激を受けて初めて活性化されます。プロフェッショナル抗原提示細胞は樹状細胞、マクロファージ、B細胞で、なかでも樹状細胞は末梢で抗原を取り込んで所属リンパ節へ移動し、ナイーブT細胞を最も強力に活性化して一次免疫応答を始動させる、自然免疫と獲得免疫の橋渡し役です。好中球は貪食能が高くても抗原提示細胞ではなく、NK細胞は自然免疫のリンパ球、好酸球・好塩基球は寄生虫防御やアレルギーを担う顆粒球です。抗原提示と2シグナルの理解は、ワクチンのアジュバント、がん免疫療法、移植後のGVHDなど臨床の幅広い場面を理解する土台になります。
解答・解説
正解はeです
免疫は、病原体の種類を問わず速やかに働く自然免疫と、特定の抗原を認識して強力かつ記憶を伴う応答を示す獲得免疫(適応免疫)に分けられる。獲得免疫の中心となるT細胞は、抗原そのものを直接認識することはできず、抗原提示細胞(APC:antigen-presenting cell)が抗原を細胞内で分解し、その断片(ペプチド)をMHC(主要組織適合遺伝子複合体、ヒトではHLA)分子にのせて細胞表面に示したときに初めて、T細胞受容体でそれを認識できる。この過程を抗原提示という。 T細胞の活性化には、MHC上の抗原ペプチドの認識(第1シグナル)に加えて、CD80/CD86などの共刺激分子による刺激(第2シグナル)が必要である。MHCクラスII分子と共刺激分子を十分に発現し、T細胞を活性化できる細胞を「プロフェッショナル抗原提示細胞」と呼び、樹状細胞、マクロファージ、B細胞が該当する。なかでも、まだ抗原に出会ったことのないナイーブT細胞を活性化して一次免疫応答を開始させる能力が最も高いのが樹状細胞である。 選択肢のうち、好酸球・好中球・好塩基球は顆粒球、NK細胞は自然免疫系のリンパ球であり、いずれも主たる役割は抗原提示ではない。したがって、抗原提示を通じて獲得免疫を活性化する細胞は樹状細胞である。
選択肢考察
- ×a. 好酸球
好酸球は顆粒球の一種で、主要塩基性蛋白(MBP)などの細胞傷害性顆粒蛋白を放出して寄生虫の排除に働くほか、気管支喘息などのアレルギー性炎症にも深く関わる。一部の条件下でMHCクラスII分子を発現するとの報告はあるが、獲得免疫を立ち上げる抗原提示細胞としての役割は担っておらず、抗原提示細胞には分類されない。
- ×b. 好中球
好中球は末梢血白血球のうち最も多い細胞で、急性炎症の場に真っ先に遊走し、細菌や真菌を貪食して活性酸素や顆粒酵素で殺菌する自然免疫の主役である。貪食能は高いが、MHCクラスII分子や共刺激分子を通常は発現せず、ナイーブT細胞を活性化して獲得免疫を始動させる抗原提示細胞ではない。「貪食する細胞=抗原提示細胞」ではない点に注意する。
- ×c. NK細胞
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は自然免疫に属するリンパ球で、抗原による事前の感作を必要とせずに、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を傷害する。これらの細胞ではMHCクラスI分子の発現が低下していることが多く、NK細胞はそれを手がかりに標的を見分ける(missing self)。パーフォリンやグランザイムで標的細胞を殺し、IFN-γ(インターフェロンγ)を産生してマクロファージを活性化するが、抗原を提示する細胞ではない。
- ×d. 好塩基球
好塩基球は末梢血白血球の1%未満の顆粒球で、表面の高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合したIgEが抗原で架橋されると、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出してI型アレルギー反応を仲介する。IL-4を産生してTh2型の応答を促すことはあるが、抗原提示により獲得免疫を活性化する細胞ではない。
- ○e. 樹状細胞
樹状細胞は、木の枝のような多数の突起をもつ骨髄由来の細胞で、最も強力な抗原提示細胞である。皮膚(表皮のLangerhans細胞など)や粘膜などの末梢組織で未熟な状態として待機し、病原体などの抗原を取り込むと成熟しながら所属リンパ節へ移動する。リンパ節では、抗原ペプチドをMHCクラスII分子にのせてCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)に、またMHCクラスI分子にのせてCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)に提示し、同時に共刺激分子を高発現してナイーブT細胞を活性化する。取り込んだ外来抗原をMHCクラスIにも提示できる「クロスプレゼンテーション」の能力も備えており、自然免疫と獲得免疫の橋渡し役として獲得免疫を始動させる。
プロフェッショナル抗原提示細胞の比較
・樹状細胞:ナイーブT細胞を活性化する能力が最も高く、一次免疫応答の開始を担う。末梢で抗原を捕捉し、リンパ節へ運んで提示する。 ・マクロファージ:貪食能が高く、主にすでに活性化したエフェクターT細胞に抗原を提示して、その助けを受けて自身の殺菌能を高める。 ・B細胞:B細胞受容体(膜型抗体)で特定の抗原を効率よく取り込み、ヘルパーT細胞に提示することで、抗体産生への補助(クラススイッチなど)を受ける。
MHCクラスIとクラスIIの違い
・MHCクラスI:ほぼすべての有核細胞が発現する。細胞内で合成された蛋白(ウイルス蛋白や腫瘍抗原など)の断片を提示し、CD8陽性T細胞が認識する。 ・MHCクラスII:主にプロフェッショナル抗原提示細胞が発現する。細胞外から取り込んだ抗原の断片を提示し、CD4陽性T細胞が認識する。
T細胞活性化の2シグナル
第1シグナル:T細胞受容体がMHC上の抗原ペプチドを認識する。 第2シグナル:抗原提示細胞のCD80/CD86とT細胞のCD28が結合する(共刺激)。 第1シグナルのみで第2シグナルが欠けると、T細胞は活性化されずに不応答(アネルギー)に陥る。これは自己抗原に対する末梢性免疫寛容の機序の一つである。
臨床との関わり
樹状細胞の働きは、ワクチンのアジュバント(樹状細胞を活性化して免疫応答を高める)や、がん免疫療法(樹状細胞ワクチンなど)の原理の理解に役立つ。また、同種造血幹細胞移植後のGVHDでは、宿主の抗原提示細胞がドナーT細胞を活性化することが発症の引き金となる。
POINT
・T細胞はMHC分子上に提示された抗原ペプチドしか認識できず、獲得免疫の始動には抗原提示細胞が必要である。 ・プロフェッショナル抗原提示細胞は樹状細胞、マクロファージ、B細胞であり、ナイーブT細胞を活性化する能力が最も高いのは樹状細胞である。 ・樹状細胞は末梢で抗原を取り込み、リンパ節へ移動してT細胞に提示する、自然免疫と獲得免疫の橋渡し役である。 ・好中球は貪食能は高いが抗原提示細胞ではない。NK細胞は自然免疫のリンパ球である。
