StudyMed医師国家試験

食べないとき、体は何を燃やすのか―骨格筋が差し出すアミノ酸と絶食の代謝地図

第115回医師国家試験 F問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第18問

絶食時の代謝状態として正しいのはどれか。

  1. a.血中のケトン体が低下する。
  2. b.肝臓にグルコースが流入する。
  3. c.肝臓から骨格筋に乳酸が運ばれる。
  4. d.骨格筋からアミノ酸が放出される。
  5. e.中枢神経で遊離脂肪酸が利用される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事をとらないときに体がどうやって血糖を保ち、エネルギーを得ているかを問う問題だ。ポイントは、物質が「どの臓器からどの臓器へ動くか」と「増えるか減るか」を整理すること。まず、絶食になるとホルモンはどう変わるかな。
医学生医学生
血糖が下がるのでインスリンが下がって、グルカゴンが上がります。生化学の講義で「同化から異化へ」と習いました。
ドクタードクター
その通り。コルチゾールやアドレナリンも増えて、代謝は「ためる」から「取り出して使う」方向に切り替わる。最初の数時間から1日前後は、肝臓のグリコーゲンを分解して血糖を保つ。でも肝グリコーゲンの量は多くないから、おおむね1日前後でほぼ使い切ってしまうんだ。
医学生医学生
そのあとは糖新生ですね。でも材料って何でしたっけ。脂肪酸からもグルコースが作れるような気がしていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だよ。偶数個の炭素からなる脂肪酸は分解されるとアセチルCoAになるけれど、ヒトはアセチルCoAからグルコースをつくれない。糖新生の材料は、骨格筋の蛋白質が分解されて出るアミノ酸、脂肪組織の中性脂肪から出るグリセロール、筋肉や赤血球の解糖でできる乳酸の3つだ。
医学生医学生
ということは、骨格筋から蛋白質が分解されてアミノ酸が出ていく、というのが正しい記述ですね。
ドクタードクター
正解。インスリンの低下とコルチゾールの増加で筋蛋白の分解が進み、主にアラニンやグルタミンの形で血中に放出される。アラニンは肝臓に運ばれて糖新生の材料になる。これがグルコース・アラニン回路だ。グルタミンは腎臓や腸で利用される。骨格筋は絶食時の材料の供給源なんだ。
医学生医学生
乳酸も同じように肝臓に運ばれるんですよね。Cori回路でした。
ドクタードクター
そう。だから「肝臓から骨格筋に乳酸が運ばれる」という記述は向きが逆だ。乳酸は骨格筋や赤血球から肝臓へ運ばれ、肝臓でグルコースに戻されて再び筋肉で使われる。肝臓は乳酸を処理する側で、送り出す側ではないよ。
医学生医学生
「肝臓にグルコースが流入する」も、なんとなく正しそうに見えてしまいました。
ドクタードクター
肝臓にグルコースがたくさん流れ込むのは食後なんだ。腸から吸収されたグルコースが門脈を通って肝臓に入り、グリコーゲンとして蓄えられる。絶食時は逆で、肝臓はグリコーゲン分解と糖新生でつくったグルコースを血中に放出し、脳や赤血球に届ける側になる。絶食時に肝臓へ入ってくるのは、遊離脂肪酸や糖新生の材料のほうだ。
医学生医学生
ケトン体はどうでしょう。臨床実習の内分泌内科で、糖尿病性ケトアシドーシスの患者さんを担当したときに、インスリン不足でケトン体が増えると教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。理屈は同じで、インスリンが下がると脂肪分解が進んで遊離脂肪酸が肝臓に運ばれ、β酸化でできた大量のアセチルCoAからケトン体がつくられる。だから絶食で血中ケトン体は低下ではなく上昇し、ケトン尿が出ることもある。
医学生医学生
脳も遊離脂肪酸を使えれば楽そうですが、使わないんですよね。
ドクタードクター
そう、脳は遊離脂肪酸をほとんど利用しない。遊離脂肪酸は血中でアルブミンと結合していて血液脳関門を通りにくいことなどが理由とされる。脳は普段ほぼグルコースに頼っているけれど、絶食が長引いてケトン体が増えると、それをエネルギー源として使うようになる。脳が使うのは遊離脂肪酸ではなくケトン体だ。
医学生医学生
脳がケトン体を使えるようになると、グルコースの必要量が減るから、筋肉を削らなくて済むということですか。
ドクタードクター
まさにその通り。長期飢餓では糖新生のための筋蛋白分解が抑えられて、筋肉が保たれる。体はうまく節約しているんだ。もう少し臓器ごとの役割も整理しよう。骨格筋はグルコース-6-ホスファターゼを持たないので、筋グリコーゲンを分解しても血中にグルコースを出せない。一方、肝臓はケトン体をつくるけれど、分解に必要な酵素がほぼないので自分では使えない。
医学生医学生
赤血球はミトコンドリアがないから解糖だけで、乳酸を出すんでしたね。各臓器の得意・不得意を地図みたいに覚えるとわかりやすいです。
ドクタードクター
その発想が大事だよ。臨床では、長期の絶食や低栄養の患者で筋肉量が落ちるのはこの代謝の結果だし、絶食後に急に栄養を入れるとリフィーディング症候群を起こしうるから、低リン血症などに注意しながら少しずつ再開する。周術期の絶食管理や高齢者の栄養評価でも、この知識が土台になるんだ。

まとめ

絶食時にはインスリンが低下し、グルカゴン・コルチゾール・アドレナリンが増加して、代謝は肝グリコーゲン分解、糖新生、脂肪分解とケトン体産生の順に切り替わります。糖新生の材料は骨格筋から放出されるアミノ酸(主にアラニン・グルタミン)、脂肪組織のグリセロール、骨格筋や赤血球から肝臓に運ばれる乳酸で、脂肪酸そのものは材料になりません。血中ケトン体は上昇し、肝臓はグルコースを取り込むのではなく放出する側になり、脳は遊離脂肪酸ではなく長期飢餓でケトン体を利用します。物質が「どの臓器からどの臓器へ動き、増えるか減るか」を臓器ごとの酵素の有無とあわせて整理することが、正誤判断の近道です。この知識は糖尿病性ケトアシドーシスの病態理解や、周術期・低栄養患者の栄養管理、リフィーディング症候群の予防にもつながります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

食事をとらない状態(絶食・飢餓)で、体がどのように血糖を保ち、エネルギーを得ているかを問う問題である。

絶食時の代謝の流れ

食後は、腸から吸収されたグルコースが門脈を通って肝臓に入り、インスリンの働きでグリコーゲンとして蓄えられる。絶食になると血糖とインスリンが下がり、グルカゴン・コルチゾール・アドレナリンなど血糖を上げるホルモンが増える。これにより代謝は「ためる」から「取り出して使う」方向に切り替わる。 1. 初期(絶食後数時間~1日前後):肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを血中に出し、血糖を保つ。肝臓に蓄えられたグリコーゲンは多くないため、おおむね1日前後でほぼ使い切る。 2. 糖新生の本格化:グリコーゲンが減るにつれ、糖以外の材料からグルコースをつくる糖新生が主な供給源になる。材料は、骨格筋の蛋白質が分解されて出てくるアミノ酸(特にアラニン・グルタミン)、脂肪組織の中性脂肪が分解されて出てくるグリセロール、筋肉や赤血球の解糖でできる乳酸である。糖新生は主に肝臓で、長い絶食では腎臓でも行われる。 3. 脂肪の利用とケトン体:脂肪組織から遊離脂肪酸が放出され、骨格筋や心筋などの多くの組織はこれをエネルギー源にしてグルコースを節約する。肝臓に入った遊離脂肪酸はβ酸化を受け、ケトン体(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸・アセトン)がつくられて血中に増える。 4. 長期の飢餓:脳がケトン体を主なエネルギー源の一つとして使うようになり、グルコースの必要量が減る。その結果、糖新生のための筋蛋白の分解も抑えられ、筋肉が保たれる。

考え方

各選択肢について、物質が「どの臓器からどの臓器へ」「増えるか減るか」を、上の流れに当てはめて確認する。骨格筋は蛋白質を分解してアミノ酸を血中に出し、肝臓の糖新生に材料を供給する。この記述が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  血中のケトン体が低下する。

    絶食でインスリンが下がりグルカゴンが増えると、脂肪組織で中性脂肪の分解(脂肪分解)が進み、遊離脂肪酸が肝臓に運ばれる。肝臓ではβ酸化でアセチルCoAが大量にでき、それがケトン体に変えられて血中に出る。したがって、絶食時には血中のケトン体は低下ではなく上昇する。尿中にケトン体が出ること(ケトン尿)もある。

  2. ×b.  肝臓にグルコースが流入する。

    肝臓にグルコースがたくさん流れ込むのは食後である。腸から吸収されたグルコースは門脈を通って肝臓に入り、そのかなりの部分が取り込まれてグリコーゲンになる。絶食時は逆に、肝臓がグリコーゲン分解と糖新生でつくったグルコースを血中に放出し、脳や赤血球などに供給する。肝臓に流れ込むのは、グルコースではなく遊離脂肪酸や、糖新生の材料となるアミノ酸・乳酸・グリセロールである。

  3. ×c.  肝臓から骨格筋に乳酸が運ばれる。

    運ばれる向きが逆である。骨格筋や赤血球で解糖によりできた乳酸が血液に乗って肝臓に運ばれ、肝臓で糖新生によってグルコースに戻される。そのグルコースは再び骨格筋などで使われる。この循環をCori(コリ)回路という。肝臓は乳酸を処理する臓器であり、骨格筋へ乳酸を送り出すことはない。

  4. ○d.  骨格筋からアミノ酸が放出される。

    絶食時には、インスリンの低下やコルチゾールの増加により、骨格筋の蛋白質の分解が進む。生じたアミノ酸は、主にアラニンやグルタミンの形で血中に放出される。アラニンは肝臓に運ばれて糖新生の材料になり(グルコース・アラニン回路)、グルタミンは腎臓や腸で利用される。つまり骨格筋は、絶食時に糖新生の材料を供給する重要な臓器である。

  5. ×e.  中枢神経で遊離脂肪酸が利用される。

    中枢神経(脳)は遊離脂肪酸をエネルギー源としてほとんど利用しない。遊離脂肪酸は血中でアルブミンと結合しており、血液脳関門を通りにくいことなどが理由とされる。脳は通常はほぼグルコースだけに頼っているが、絶食が長引いて血中のケトン体が増えると、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸)をエネルギー源として使うようになる。脳で使われるのは遊離脂肪酸ではなくケトン体である。

絶食時に働く主なホルモン

・インスリン:低下。グリコーゲン合成・脂肪合成・蛋白合成が弱まる。 ・グルカゴン:上昇。肝臓でのグリコーゲン分解・糖新生・ケトン体の産生を進める。 ・コルチゾール:筋蛋白の分解と糖新生を進める。 ・アドレナリン・成長ホルモン:脂肪分解を進める。

糖新生の材料と、それを出す臓器

・アミノ酸(アラニン・グルタミンなど):骨格筋から出る。 ・グリセロール:脂肪組織の中性脂肪の分解で出る。 ・乳酸:骨格筋・赤血球の解糖で出る(Cori回路)。 なお、偶数個の炭素からなる脂肪酸は分解するとアセチルCoAになり、ヒトではアセチルCoAからグルコースをつくれない。そのため脂肪酸そのものは糖新生の材料にならない。

臓器ごとの役割

・肝臓:グリコーゲン分解・糖新生でグルコースを出す。ケトン体をつくるが、ケトン体を分解する酵素(スクシニルCoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ)がほぼないため、自分ではケトン体を使えない。 ・骨格筋:グルコース-6-ホスファターゼを持たないため、筋肉のグリコーゲンを分解しても血中にグルコースを出せない。蛋白質を分解してアミノ酸を出し、自分は遊離脂肪酸やケトン体を主に使う。 ・脂肪組織:中性脂肪を分解し、遊離脂肪酸とグリセロールを出す。 ・脳:通常はグルコースに頼るが、長期飢餓ではケトン体を使う。 ・赤血球:ミトコンドリアがないため、グルコースの解糖だけでエネルギーを得て、乳酸を出す。 ・腎臓:長期飢餓では糖新生の重要な場となる。

時期による変化

絶食の初期は肝グリコーゲンの分解、その後は糖新生、さらに長期になるとケトン体の利用が増えて筋蛋白の分解が抑えられる、という順に移っていく。

POINT

・絶食時:インスリン低下・グルカゴン上昇で、グリコーゲン分解→糖新生→脂肪分解・ケトン体産生の順に進む。 ・骨格筋は蛋白質を分解し、アラニン・グルタミンなどのアミノ酸を出して糖新生の材料を供給する。 ・乳酸は骨格筋→肝臓へ運ばれ、グルコースに戻る(Cori回路)。 ・血中ケトン体は絶食で上昇する。 ・脳は遊離脂肪酸を使わず、長期飢餓ではケトン体を使う。 ・肝臓はグルコースを取り込むのではなく、放出する側になる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。