窓口で払うのは一部だけ―「現物給付」から読み解く日本の公的医療保険
第115回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
公的医療保険について誤っているのはどれか。
- a.現金が給付される。
- b.主たる財源は保険料である。
- c.被用者保険の加入者が最も多い。
- d.国民はいずれかの医療保険に加入する。
- e.小学校就学前の自己負担は2割である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
わが国の公的医療保険の中心である療養の給付は、医療サービスそのものを提供する現物給付であり、患者は窓口で一部負担金を支払うだけで医療を受けられます。傷病手当金や出産育児一時金、高額療養費などの現金給付もありますが、あくまで付随的なものです。財源は保険料が約5割で最多、加入者は被用者保険が約6割で最多であり、1961年の国民皆保険達成以降、生活保護受給者を除く全国民がいずれかの制度に加入しています。自己負担は原則3割で、義務教育就学前は2割、70〜74歳は原則2割、75歳以上は原則1割(所得により2割・3割)です。制度の仕組みを理解しておくことは、医療費に不安を抱える患者への適切な助言にもつながります。
解答・解説
正解はaです
わが国の公的医療保険制度の基本的な仕組みを問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。 押さえるべき柱は次の4点である。 1.給付の形:医療保険の中心となる「療養の給付」は、診察・検査・投薬・手術などの医療サービスそのものを提供する現物給付である。患者は窓口で一部負担金を支払うだけで医療を受けられ、残りは保険者から医療機関に診療報酬として支払われる。 2.財源:国民医療費を財源別にみると、保険料が約半分を占めて最も多く、次いで公費(国・地方の税金)、患者負担の順である。 3.加入者:国民皆保険(1961年達成)であり、原則として全国民がいずれかの制度に加入する。加入者数は被用者保険(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合など)が最も多い。 4.自己負担割合:原則3割で、義務教育就学前は2割、70〜74歳は原則2割、75歳以上は原則1割(所得に応じて2割または3割)である。 これらと照らし合わせると、「現金が給付される」という記述は医療保険の給付の基本(現物給付)に反するため、誤りとして選ぶことになる。
選択肢考察
- ○a. 現金が給付される。
公的医療保険の中心的な給付である療養の給付は、医療サービスそのものを提供する現物給付であり、現金を受け取って自分で医療を購入する仕組み(現金給付)ではない。したがって本記述は誤りであり、これが正解である。なお、医療保険にも傷病手当金(被用者保険で病気休業中の所得保障)、出産育児一時金、埋葬料、高額療養費の払い戻し、やむを得ず全額自費で受診した場合の療養費など、例外的・付随的な現金給付は存在する。しかし制度の基本は現物給付であるという点が本問の問いの趣旨である。
- ×b. 主たる財源は保険料である。
正しい記述である。国民医療費を財源別にみると、保険料(事業主負担と被保険者負担の合計)が約5割(出題時点の統計で約49%)を占めて最も多く、公費が約4割弱(約38%)、患者負担などのその他が約1割強(約12%)である。保険方式をとりつつ、高齢者医療や国民健康保険には多額の公費が投入されているのが特徴である。
- ×c. 被用者保険の加入者が最も多い。
正しい記述である。会社員や公務員とその被扶養者が加入する被用者保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、船員保険)の加入者が全体の約6割を占めて最も多い。自営業者・無職者などが加入する国民健康保険は約2割強、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は約1割強である。高齢化に伴い後期高齢者医療制度の加入者割合は増加傾向にある。
- ×d. 国民はいずれかの医療保険に加入する。
正しい記述である。わが国は1961年に国民皆保険を達成しており、国民は(健康であっても)いずれかの公的医療保険に加入する義務を負う。被用者保険の加入対象でない者は、住所地の国民健康保険または後期高齢者医療制度に加入する。例外として、生活保護受給者は国民健康保険から外れ、医療は生活保護の医療扶助で賄われる。
- ×e. 小学校就学前の自己負担は2割である。
正しい記述である。医療保険の一部負担金は原則3割であるが、義務教育就学前(小学校入学前)の乳幼児は2割に軽減されている。実際には多くの自治体が子どもの医療費助成制度を独自に設けており、窓口負担がさらに軽減・無料化されていることが多いが、医療保険制度上の負担割合は2割である。
医療保険制度の体系
・被用者保険:協会けんぽ(主に中小企業)、組合管掌健康保険(主に大企業)、共済組合(公務員・私立学校教職員)、船員保険。保険料は労使折半が原則。 ・国民健康保険:自営業者、農林水産業従事者、無職者、退職者など。保険者は都道府県と市町村(2018年度から都道府県も保険者に加わった)および国民健康保険組合。 ・後期高齢者医療制度:75歳以上(一定の障害がある65歳以上を含む)。運営主体は都道府県単位の後期高齢者医療広域連合。財源は公費約5割、現役世代からの支援金約4割、高齢者の保険料約1割。
自己負担割合(医療保険)
・義務教育就学前:2割 ・義務教育就学後〜69歳:3割 ・70〜74歳:2割(現役並み所得者は3割) ・75歳以上:1割(一定以上の所得者は2割〈2022年10月から〉、現役並み所得者は3割)
主な給付
・現物給付:療養の給付、入院時食事療養費、訪問看護療養費など(保険医療機関に直接支払われる) ・現金給付:傷病手当金・出産手当金(被用者保険)、出産育児一時金、埋葬料(費)、高額療養費(限度額適用認定証を用いれば窓口で現物給付化できる)、療養費
国民医療費
年間40兆円台で推移している。財源は保険料が約5割、公費が約4割、患者負担が約1割強。年齢階級別では65歳以上が約6割を占める。
POINT
・公的医療保険の基本は現物給付(医療サービスそのものの給付)である。 ・財源は保険料が約5割で最多、次いで公費が約4割。 ・加入者は被用者保険が約6割で最多。 ・国民皆保険(1961年):全国民がいずれかの制度に加入する(生活保護受給者は医療扶助)。 ・自己負担は原則3割、就学前2割、70〜74歳2割、75歳以上1割(所得により2割・3割)。
