「MR」の2文字を見逃すな―ペースメーカー患者と検査の安全管理
第115回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
心臓ペースメーカー植込み患者に対して,ペースメーカーの機種を確認してから実施すべきなのはどれか。
- a.食道生検
- b.FDG-PET
- c.腹部造影CT
- d.超音波内視鏡検査
- e.磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ペースメーカー植込み患者に検査を行う際、最も注意が必要なのは強い磁場とラジオ波を用いるMRIで、リードの発熱、オーバーセンシングによるペーシング抑制、本体の移動や設定リセットなどの危険があります。条件付きMRI対応ペースメーカーであれば、本体とリードの両方が対応していること、施設基準、撮影前後の設定変更などの条件を満たしたうえでMRIが可能なため、MRCPのように名称に「MR」を含む検査では事前に手帳やカードで機種を確認する必要があります。一方、CT、FDG-PET、超音波内視鏡、生検は磁場を用いず、原則として機種を問わず施行できますが、高周波電気メスや放射線治療など別の注意点もあります。検査の目的だけでなく「どんな物理エネルギーを使うか」に目を向ける姿勢は、体内デバイスを持つ患者の安全な診療に欠かせません。
解答・解説
正解はeです
問われていること
心臓ペースメーカーを植え込んだ患者に検査を行うとき、どの検査ならペースメーカーに影響を与えうるか、という安全管理の問題である。
ペースメーカーとMRI
MRI(磁気共鳴画像)は、強い静磁場、高速に切り替わる傾斜磁場、ラジオ波(RF)を用いて画像を得る検査である。これらがペースメーカーに作用すると、次のような危険が生じる。 ・本体やリードの金属に力が加わって移動する。 ・RFでリード先端が発熱し、心筋に熱損傷が生じてペーシング閾値が上昇する。 ・磁場やノイズを心臓の電気活動と誤って感知(オーバーセンシング)し、ペーシングが抑制される。また、不適切な高頻度ペーシングが起こる。 ・設定がリセットされる、あるいは電池が消耗する。 このため従来、ペースメーカー植込み患者へのMRIは禁忌であった。しかし、MRIに対応した機種(条件付きMRI対応ペースメーカー)が開発され、日本でも2012年から使用されている。対応機種であれば、決められた条件を守ることでMRIを受けられる。
考え方
したがって、MRIを用いる検査を行う前には、植え込まれているペースメーカーが本体・リードともにMRI対応の組み合わせであるかを、手帳やカードなどで必ず確認しなければならない。選択肢のうちMRIを用いるのは、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)だけである。MRCPは名前に「MR」が付くため気づきやすいが、「胆管・膵管の撮影」という目的だけで判断して見落とさないよう注意する。
選択肢考察
- ×a. 食道生検
上部消化管内視鏡で鉗子を用いて食道粘膜の組織を採取する手技であり、磁場や放射線は使わないため、ペースメーカー植込み患者でも機種を確認せずに通常どおり施行できる。なお、内視鏡的切除や止血などで高周波電気メス(電気焼灼)を使う場合は、その電流をペースメーカーが心臓の信号と誤って感知するおそれがある。その場合は、ペースメーカーの設定変更や心電図モニターなどの配慮が必要になる。
- ×b. FDG-PET
PET(positron emission tomography:陽電子放出断層撮影)は核医学検査の一つで、ブドウ糖類似物質に陽電子を放出する放射性同位元素を結合させたFDG(18F-フルオロデオキシグルコース)を投与する。糖代謝が亢進している腫瘍や炎症の部位への集積を画像化する検査である。磁場を用いないため、ペースメーカー植込み患者でも機種を問わず施行できる。(PETと組み合わせて撮影するのが一般的なCTについても同様である。)
- ×c. 腹部造影CT
CT(computed tomography)はX線を用いる検査で、強い磁場を使わない。ペースメーカー植込み患者でも機種の確認なしに施行できる。腹部は通常、前胸部に植え込まれたペースメーカー本体から離れているため影響はほとんどない。なお、本体に直接X線を連続して当てると一過性のオーバーセンシングが起こりうるとの注意喚起があるため、胸部を撮影するときは本体への照射時間をできるだけ短くするよう配慮する。造影剤そのものはペースメーカーに影響しない。
- ×d. 超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:EUS)は、内視鏡の先端の超音波プローブで消化管壁や、膵臓・胆道などの周囲臓器を観察する検査である。超音波は磁場も電離放射線も伴わず、ペースメーカーの作動に影響しないため、機種の確認なしに施行できる。
- ○e. 磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉
MRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)は、MRIの強いT2強調像で胆汁・膵液など動きの少ない液体を高信号に描出し、胆管・膵管の形態を非侵襲的に評価する検査である。MRI装置を用いるため、ペースメーカーの移動・リードの発熱・誤作動・設定のリセットなどの危険がある。施行前に、植え込まれた本体とリードの組み合わせが条件付きMRI対応であることを確認しなければならない。対応機種であっても、検査直前にMRI用のモードに設定を変更し、検査後に元の設定へ戻して作動を確認するなどの手順が必要である。
条件付きMRI対応ペースメーカーで検査を行うための主な条件
・ペースメーカー本体とリードの両方が、条件付きMRI対応として認められた組み合わせであること(本体だけ対応していても、リードが非対応なら施行できない。使われずに体内に残されたリードがある場合も原則として不可)。 ・植込み後、一定の期間が経過していること。 ・決められた施設基準を満たし、循環器医と放射線科が連携できる施設で行うこと。 ・撮影前にMRIモードへの設定変更を行い、撮影中は心電図・パルスオキシメータなどでモニタリングし、撮影後に元の設定へ戻してペースメーカーの作動を確認すること。 ・静磁場強度や撮影条件(RF出力の指標であるSARなど)が機種ごとの規定の範囲内であること。 ・患者は、MRI対応であることを示すカードや手帳を携帯している。検査前にはこれらで機種を確認する。
MRIを用いる検査の例(ペースメーカー患者で注意が必要)
頭部・脊椎・四肢などのMRI、MRA(MR血管撮影)、MRCP、心臓MRI、乳房MRI、MRエラストグラフィなど。名称に「MR」を含む検査は、すべてMRI装置を用いる。
ペースメーカー患者で注意を要するその他の医療行為
・高周波電気メス:電流をオーバーセンシングしてペーシングが抑制されうる。双極型メスの使用や設定変更で対応する。 ・体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、放射線治療(本体への高線量照射で故障しうる)、ラジオ波焼灼術など。 植込み型除細動器(ICD)でも同様に注意が必要であり、MRIでは頻拍の検出機能を停止する設定変更などを行う。
POINT
・ペースメーカー植込み患者で機種の確認が必須なのはMRI検査(MRCP、MRAなど「MR」の付く検査すべて)である。 ・条件付きMRI対応ペースメーカー(日本では2012年から)は、本体とリードの両方が対応しており、施設基準を満たし、撮影前後に設定変更を行うという条件の下でMRIが可能である。 ・CT・PET・超音波・内視鏡・生検は、ペースメーカー患者でも原則として機種を問わず施行できる。
