StudyMed医師国家試験

黒く染まる皮膚、消えた人口の3分の1―「黒死病」ペストと感染症の歴史

第115回医師国家試験 E問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第115回 E問題 第15問

世界的大流行を引き起こし,中世ヨーロッパでは黒死病として恐れられた感染症はどれか。

  1. a.結核
  2. b.コレラ
  3. c.天然痘
  4. d.ペスト
  5. e.発疹チフス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医学史の問題だ。人類は何度も感染症の大流行、つまりパンデミックを経験してきた。それぞれの感染症が「いつ、どこで流行し、どう呼ばれたか」を対応づけて整理しておくと、知識がぐっと立体的になるよ。
医学生医学生
黒死病は世界史の授業で聞いたことがあります。たしか中世ヨーロッパの話ですよね。
ドクタードクター
そう。14世紀半ば、1347年頃から1351年頃にかけてヨーロッパを襲った大流行で、人口の3分の1前後が失われたとされる。原因になった感染症はどれだと思う?
医学生医学生
ペストだと思います。でも、なぜ「黒」死病なんでしょう。黒い膿が出るとかですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。ペスト菌が血流に入って敗血症になると、播種性血管内凝固、いわゆるDICによる皮下出血や、手足の末梢の壊死が起こる。それで皮膚が黒紫色に変色し、しかも致死率がきわめて高かったことが名前の由来と考えられているんだ。
医学生医学生
DICって、臨床実習の救急で敗血症の患者さんの凝固検査を一緒に見たのを思い出します。中世の人はそれを目で見ていたんですね。
ドクタードクター
そういうことだね。病原体はグラム陰性桿菌のYersinia pestisで、両端が濃く染まる両極染色が特徴だ。もともとはネズミなどげっ歯類の感染症で、その血を吸ったノミに刺されてヒトに感染する。交易路や人の移動に乗って広がり、17世紀のロンドンの大流行など、その後も数世紀にわたって流行を繰り返した。
医学生医学生
微生物学の講義で、ペストには病型がいくつかあると習いました。
ドクタードクター
3つ押さえよう。最も多いのが腺ペストで、ノミに刺された部位の所属リンパ節、たとえば鼠径部や腋窩が痛みを伴って大きく腫れる。敗血症型ペストはショックやDIC、四肢末梢の壊死をきたす。肺ペストは腺ペストから二次的に起こるものと、飛沫を吸い込んで一次的に起こるものがあって、進行が速く、未治療ではほぼ致死的だ。
医学生医学生
肺ペストだとヒトからヒトへ飛沫でうつるんですね。それは怖いです。では他の選択肢も、それぞれ別の呼び名があるということですか。
ドクタードクター
その通り。まず結核は欧米で「白いペスト」と呼ばれ、日本では「労咳」、明治以降は「国民病」「亡国病」とまで言われた。人口動態統計では1935年から1950年まで死因の第1位だったんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、結核は再興感染症の代表だと習いました。HIVや多剤耐性菌の問題があるからですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。次にコレラ。インドのベンガル地方の風土病が19世紀に世界へ広がり、これまでに7回の世界的流行が記録されている。日本では江戸末期の大流行で、発病から短期間で亡くなることから「コロリ」と呼ばれた。米のとぎ汁様の大量の水様下痢が特徴だね。
医学生医学生
天然痘は「疱瘡」ですよね。Jennerの種痘法も有名です。
ドクタードクター
そう。天然痘は日本では疱瘡や痘瘡と呼ばれ、16世紀以降はアメリカ大陸に持ち込まれて先住民の人口激減の一因になった。WHOの根絶計画で、1980年に世界根絶が宣言された。ヒトの感染症で根絶に成功した唯一の例だ。
医学生医学生
発疹チフスは、名前は知っているけれど流行のイメージが湧きません。
ドクタードクター
発疹チフスはリケッチアの一種による感染症で、コロモジラミが媒介する。衣服を替えられない不衛生で密集した環境、つまり戦争や飢饉、刑務所、難民キャンプで流行したことから「戦争熱」「飢餓熱」「監獄熱」と呼ばれた。黒死病とは呼ばれないね。
医学生医学生
呼び名を見ると、その感染症が流行した社会の状況まで見えてくるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが医学史を学ぶ面白さだ。臨床的な話もしておくと、ペストは現在、感染症法で一類感染症に分類されている。日本では1899年に初めて侵入し、1926年を最後に国内発生はないけれど、アフリカのマダガスカルやコンゴ民主共和国、アジア、南北アメリカの一部では今も発生がある。治療はストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ドキシサイクリン、ニューキノロン系薬などで、早期治療が予後を左右するよ。
医学生医学生
流行地からの帰国者で発熱と有痛性のリンパ節腫脹があったら、渡航歴を詳しく聞くことが大事ですね。
ドクタードクター
その通り。感染症の広がり方は、病原体の感染様式と人の移動や生活環境で決まる。COVID-19が交通網に乗って短期間で世界中に広がったのは、ペストが交易路で広がったことと本質的には同じなんだ。歴史は今の感染対策を考えるヒントになるよ。

まとめ

中世ヨーロッパで「黒死病」と恐れられたのはペストで、14世紀半ばの大流行ではヨーロッパ人口の3分の1前後が失われたとされます。病原体はグラム陰性桿菌のYersinia pestisで、げっ歯類からノミを介してヒトに感染し、腺ペスト・敗血症型ペスト・肺ペストの病型があり、敗血症型ではDICや末梢壊死で皮膚が黒く変色することが名の由来と考えられています。ほかの歴史的感染症の呼び名として、結核は労咳・白いペスト、コレラはコロリ、天然痘は疱瘡、発疹チフスは戦争熱・飢餓熱があり、天然痘は1980年に世界根絶が宣言されました。ペストは現在も感染症法の一類感染症であり、海外の流行地では発生が続いています。感染症の流行史を知ることは、病原体の感染様式と社会環境の関係を理解し、現代の感染対策を考える土台になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

人類史上の感染症の大流行(パンデミック)と、その当時の呼び名を問う医学史の問題である。

考え方

「黒死病(Black Death)」は、14世紀半ば(1347年頃〜1351年頃)にヨーロッパを襲った大流行を指す呼び名で、ヨーロッパ人口の3分の1前後が失われたとされる。原因はグラム陰性桿菌のペスト菌(Yersinia pestis)による感染症、すなわちペストである。菌が血流に入って敗血症をきたすと、播種性血管内凝固(DIC)による皮下出血や、手足の末梢の壊死によって皮膚が黒紫色に変色し、死亡率がきわめて高かったことがこの名の由来と考えられている。 ペストはもともとネズミなどのげっ歯類の感染症で、ノミを介してヒトに感染する。交易路や人の移動に伴って拡大し、その後も数世紀にわたってヨーロッパで流行を繰り返した。 ほかの選択肢もそれぞれ歴史的な大流行を起こした感染症であるが、日本や世界での呼び名や流行の時代背景が異なる。感染症ごとの「流行の時代・地域」と「別名」を対応づけて整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  結核

    結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による感染症で、古代エジプトのミイラにも病変の痕跡が見つかるほど古くから存在する。18世紀後半〜19世紀の産業革命期には、都市への人口集中と劣悪な労働・住居環境を背景にヨーロッパで大流行し、「白いペスト(white plague)」とも呼ばれた。日本では肺結核は「労咳(ろうがい)」と呼ばれ、明治以降は「国民病」「亡国病」と称されるほど患者が多く、人口動態統計では1935年(昭和10年)から1950年(昭和25年)まで死因の第1位であった(戦争末期の1944〜1946年は統計が欠ける)。それ以前も、明治後期から常に死因の上位を占めていた。1882年にRobert Kochが結核菌を発見し、その後ストレプトマイシンなどの抗結核薬やBCGワクチンの普及で患者は減少した。しかしHIV感染症の流行や多剤耐性菌の出現などで再び問題となっており、再興感染症の代表とされる。黒死病とは呼ばれない。

  2. ×b.  コレラ

    コレラ菌(Vibrio cholerae)による経口感染症で、米のとぎ汁様の大量の水様下痢と脱水をきたす。もともとインドのガンジス川下流域(ベンガル地方)の風土病であったが、1817年に始まる流行を第1次として、貿易の拡大や軍隊の移動に伴い19世紀に世界中へ広がった。これまでに7回の世界的流行が記録されており、1961年に始まったエルトール型による第7次流行は現在も続き、アフリカや南アジア・東南アジアなどで発生がみられる。日本には1822年(文政年間)に初めて侵入し、1858年(安政年間)の江戸での大流行では、発病から短期間で死に至ることから「コロリ」と呼ばれた。黒死病とは呼ばれない。

  3. ×c.  天然痘

    痘瘡ウイルスによる感染症で、強い感染力と高い致死率から古代より恐れられてきた。16世紀以降、ヨーロッパ人によってアメリカ大陸へ持ち込まれ、免疫のない先住民の間で大流行して人口激減の一因となったことが知られる。日本では6世紀頃から流行を繰り返し、「疱瘡(ほうそう)」「痘瘡(とうそう)」と呼ばれた。1796年にEdward Jennerが牛痘を用いた種痘法を開発し、20世紀にはWHOが患者の発見・隔離とその周囲の人へのワクチン接種を徹底する方式(サーベイランスと封じ込め)で根絶計画を進めた。1977年のソマリアでの患者を最後に自然感染はみられなくなり、1980年にWHOが世界根絶宣言を出した。ヒトの感染症で根絶に成功した唯一の例である。黒死病とは呼ばれない。

  4. ○d.  ペスト

    ペスト菌(Yersinia pestis)による人獣共通感染症である。14世紀半ばのヨーロッパでの大流行は「黒死病」と呼ばれ、人口の3分の1前後が死亡したとされる。その後も17世紀のロンドンの大流行など、ヨーロッパでは数世紀にわたり流行が繰り返された。敗血症型ペストでは、DICによる皮下出血や四肢末梢の壊死で皮膚が黒く変色し、致死率がきわめて高かったことが「黒死病」の名の由来とされる。感染者が都市から地方へ逃れることで、流行が国全体に広がったとも考えられている。現在もアフリカ(マダガスカル、コンゴ民主共和国など)、アジア、南北アメリカの一部で発生がある。

  5. ×e.  発疹チフス

    発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazekii)による感染症で、コロモジラミ(体じらみ)が媒介する。高熱とともに体幹から始まる発疹が出現し、やがて点状出血を伴う。抗菌薬を使わない場合の致死率は10〜40%に達するとされる。シラミが繁殖しやすい冬季や寒冷地、戦争・飢饉・刑務所・難民キャンプなど、衣服を替えられない不衛生で密集した環境で流行するため、「戦争熱」「飢餓熱」「監獄熱」などと呼ばれた。第一次世界大戦期には東欧・ロシアで大流行し、日本でも第二次世界大戦中から終戦直後にかけて流行した。黒死病とは呼ばれない。

ペストの概要

・病原体:ペスト菌(Yersinia pestis)、グラム陰性桿菌。両端が濃く染まる(両極染色)のが特徴。 ・感染経路:保菌動物のげっ歯類(ネズミなど)の血を吸ったノミに刺されて感染するのが基本。肺ペスト患者からは飛沫によってヒトからヒトへ感染する。 ・病型: 腺ペスト:最も多い型。ノミに刺された部位の所属リンパ節(鼠径部や腋窩など)が有痛性に大きく腫れる。 敗血症型ペスト:菌が血中で増殖し、ショック・DIC・四肢末梢の壊死をきたす。 肺ペスト:腺ペストからの二次性と、飛沫吸入による一次性がある。進行が速く、未治療ではほぼ致死的である。 ・治療:ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ドキシサイクリン、ニューキノロン系薬など。早期治療が予後を左右する。 ・法的扱い:感染症法で一類感染症に分類される。日本では1899年に初めて侵入し、1926年を最後に国内発生はない。

主な感染症と歴史的な呼び名

・ペスト:黒死病(中世ヨーロッパ) ・結核:労咳(日本)、国民病・亡国病(明治以降の日本)、白いペスト(欧米) ・コレラ:コロリ(江戸時代末期の日本) ・天然痘:疱瘡・痘瘡(日本) ・発疹チフス:戦争熱・飢餓熱・監獄熱

パンデミックの歴史からの教訓

感染症の流行の速さや広がり方は、病原体の感染様式(飛沫・経口・節足動物媒介など)と、人の移動や生活環境によって決まる。COVID-19のように飛沫で広がる病原体は、交通網が発達した現代では短期間で世界中に拡大する。一方で、HIV・梅毒などの性感染症や薬剤耐性菌も、現在なお人類が対策を続けるべき課題である。

POINT

・黒死病=ペスト(Yersinia pestis、ノミ媒介、14世紀ヨーロッパで大流行)。現在は感染症法の一類感染症。 ・コロリ=コレラ、労咳=結核、疱瘡=天然痘、戦争熱・飢餓熱=発疹チフス(コロモジラミ媒介)。 ・天然痘は1980年にWHOが世界根絶を宣言した。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。