減っているのに若い世代で増える―死亡率グラフの「逆向きの線」が示す子宮頸癌
第115回医師国家試験 C問題 第10問
国試問題にチャレンジ
1958~2018年の子宮頸癌,胃癌,大腸癌,肺癌,乳癌の女性の年齢階層別死亡率の推移を下に示す。ただし,死亡率は相対的な値として示してある。 子宮頸癌はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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医学生
ドクターまとめ
相対値で示された死亡率のグラフでは、数値の大小ではなく、全体の増減・年代による違い・変化の時期という「形」に注目して読み解きます。子宮頸癌は検診の普及などで高齢層の死亡率が長期的に低下した一方、HPV感染の若年化と若年層の検診受診率の低さを背景に、1990年代以降は40歳代を中心に死亡率が上昇しており、年代によって逆向きの動きを示すのが特徴です。ほかのがんでは、胃癌は全年代で一貫して減少、乳癌は全年代で増加、肺癌は高齢層で数倍に急増した後に横ばい、大腸癌は緩やかな増加の後に減少傾向という推移をたどります。子宮頸癌はHPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)で予防できるがんであり、疫学の推移とその背景を理解することは、若い世代への受診勧奨など日常診療での予防医学の実践にもつながります。
解答・解説
正解はcです
女性の5つのがん(子宮頸癌、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌)について、1958〜2018年の年齢階層別(40歳代〜70歳代)の死亡率の推移を相対値で示したグラフから、子宮頸癌を選ぶ問題である。縦軸は相対値なので、絶対的な死亡数ではなく「どの年代で、いつ頃から増えたか・減ったか」という形に注目して読む。
各グラフの形の整理
①:全年代で一貫して大きく減少している。 ②:1960年代から70歳代を中心に急増し(およそ4〜5倍)、1990年前後にピークを迎えたのちは横ばいである。 ③:1960年頃は全年代で高かったが、長期的に減少した。ところが1990年代以降、40歳代(さらに50歳代)では増加に転じ、近年は高齢層と若い層の差が小さくなっている。 ④:全年代で増加が続き、50歳代以上では2010年代まで上昇している。40歳代は2000年頃から頭打ちになっている。 ⑤:70歳代で1980〜1990年代にかけて緩やかに増え(1.5倍程度)、その後は減少傾向、ほかの年代はほぼ横ばいである。
子宮頸癌を見分ける考え方
子宮頸癌は、かつては高齢女性を中心に死亡が多かったが、子宮頸がん検診の普及や衛生状態の改善などにより、長期的に死亡率は大きく低下した。一方、子宮頸癌の大部分はヒトパピローマウイルス〈HPV〉の持続感染が原因であり、性行動の変化などを背景に若い世代でHPV感染と罹患が増えた。加えて日本では若年層の検診受診率が低いことも影響し、1990年代以降に40歳代を中心とした比較的若い世代で死亡率が上昇している。 「高齢層は減少、若い年代は近年増加」という逆向きの動きを示すグラフは③だけであり、これが子宮頸癌と判断できる。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。すべての年代で死亡率が大きく一貫して低下しており、胃癌を示すと考えられる。Helicobacter pylori(ピロリ菌)の感染率が世代を追うごとに低下したこと、冷蔵庫の普及などによる食塩摂取量・塩蔵食品の減少、胃がん検診の普及と早期発見・治療の進歩などが減少の要因である。
- ×b. ②
誤り。高齢層、特に70歳代で1960年代から1990年頃までに死亡率が数倍に増加し、その後は横ばいで推移していることから、肺癌を示すと考えられる。人口の高齢化に加え、喫煙の影響が時間差をおいて現れたことや、女性では非喫煙者にも多い腺癌の増加が関係している。年齢で調整した死亡率では近年わずかに低下しているが、高齢層では高い水準が続いている。
- ○c. ③
正しい。1960年頃は全年代で高く、その後は検診の普及などにより長期的に低下したが、1990年代以降は40歳代(および50歳代)で上昇に転じている。高齢層での低下と若い年代での増加が同時にみられるのは、HPV感染の若年化と若年層の検診受診率の低さを反映した子宮頸癌の特徴である。
- ×d. ④
誤り。全年代で増加し、とくに50歳代以上では2010年代まで上昇が続いていることから、乳癌を示すと考えられる。初経の早期化・閉経の遅延、出産数の減少や初産年齢の上昇、授乳期間の短縮、肥満(閉経後)など、エストロゲンへの曝露期間が長くなる生活様式の変化が増加の背景にある。40歳代は2000年頃から頭打ちとなっている。
- ×e. ⑤
誤り。70歳代では1990年代頃まで緩やかに上昇した後に低下傾向へ転じ、ほかの年代ではおおむね横ばいであることから、大腸癌を示すと考えられる。食生活の欧米化(動物性脂肪・赤肉の摂取増加、食物繊維の減少)などで増加したが、便潜血検査による検診や内視鏡治療の普及により、近年は死亡率の上昇が抑えられている。肺癌に比べると増加の幅は小さい。
女性の主ながんの死亡率の長期的な傾向
・胃癌:全年代で一貫して減少。ピロリ菌感染率の低下、減塩、検診の普及が背景。 ・肺癌:高度経済成長期以降に急増し、1990年代以降は年齢調整死亡率としては横ばい〜やや低下。女性の部位別がん死亡数では大腸癌に次ぐ上位である。 ・大腸癌:1990年代まで増加し、その後は横ばい〜やや低下。女性のがん死亡数の第1位である。 ・乳癌:一貫して増加。女性のがん罹患数の第1位である。 ・子宮頸癌:長期的には減少したが、1990年代以降は若い年代(20〜40歳代)で罹患・死亡が増加している。
子宮頸癌の疫学と予防
・原因:大部分は高リスク型HPV(16型、18型など)の持続感染による。主な感染経路は性交渉である。 ・一次予防:HPVワクチン。日本では2013年に定期接種となったが、接種後の多様な症状の報道を受けて積極的勧奨が差し控えられ、2022年4月に再開された。接種の機会を逃した世代に対するキャッチアップ接種も行われている。 ・二次予防:子宮頸がん検診(20歳以上、2年に1回の細胞診が基本)。日本は欧米に比べて受診率が低く、特に若年層で低いことが課題である。
グラフ問題の読み方
相対値で示されたグラフでは、①全体として増加か減少か、②年代によって動きが異なるか、③変化が始まった時期、に注目すると鑑別しやすい。
POINT
・子宮頸癌:高齢層では長期的に減少、1990年代以降は40歳代など比較的若い年代で増加 ・若年層の増加はHPV感染の若年化と若年層の検診受診率の低さが背景 ・胃癌は全年代で減少、乳癌は全年代で増加 ・肺癌は高齢層で数倍に増加後に横ばい、大腸癌は緩やかな増加後に減少傾向 ・予防はHPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)
