がんでも糖尿病でもない―高齢者を「要介護」へ導く骨折・転倒の重み
第115回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
2016年度国民生活基礎調査において,介護が必要となった原因を集計した結果を下に示す。 Aに該当する原因はどれか。

- a.糖尿病
- b.呼吸器疾患
- c.骨折・転倒
- d.Parkinson病
- e.悪性新生物(がん)
対話形式の解説
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ドクターまとめ
2016年国民生活基礎調査における介護が必要となった主な原因は、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱、骨折・転倒(約12%)、関節疾患の順で、骨折・転倒は第4位です。高齢者では骨粗鬆症やサルコペニア、バランス能力の低下を背景に転倒しやすく、大腿骨近位部骨折などを契機に歩行能力が低下して要介護状態に至る例が多くみられます。一方、悪性新生物は死因の第1位ですが介護原因としては数%にとどまり、糖尿病、呼吸器疾患、Parkinson病も同様に割合は小さいため、死因順位との混同に注意が必要です。要介護者では認知症と脳血管疾患、要支援者では関節疾患・衰弱・骨折転倒が上位となる傾向があり、後者はロコモティブシンドロームやフレイルと重なる介護予防の重点対象です。順位の大枠を病態と結びつけて理解することは、統計問題の得点だけでなく、骨粗鬆症治療や転倒予防といった日常診療の意義を実感することにもつながります。
解答・解説
正解はcです
国民生活基礎調査は、厚生労働省が世帯の保健・医療・福祉・年金・所得などを把握するために毎年実施する調査で、3年ごとに介護票などを含む大規模調査が行われる。2016年度はこの大規模調査の年にあたり、介護保険の要支援・要介護認定を受けた人について「介護が必要となった主な原因」が集計された。 図は要支援者と要介護者を合わせた総数の内訳で、上位から認知症(18.0%)、脳血管疾患(脳卒中)(16.6%)、高齢による衰弱(13.3%)と続き、その次にA(約12%)、関節疾患(10.2%)、心疾患(約5%)が並ぶ。 この順位を覚えていればAが骨折・転倒(12.1%)とすぐにわかる。覚えていなくても、選択肢のうち割合が1割を超えうるものを考えればよい。高齢者では、転倒による大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折(骨粗鬆症を背景とする)を契機に歩行能力が落ち、介護が必要になる例が非常に多い。一方、糖尿病、呼吸器疾患、Parkinson病、悪性新生物は、いずれも介護の原因としては数%程度にとどまる。 なお、関節疾患や骨折・転倒、高齢による衰弱は、いずれも運動器の障害や虚弱(フレイル)と関係が深く、介護予防ではこれらへの対策が重視されている。
選択肢考察
- ×a. 糖尿病
誤り。糖尿病は介護が必要となった原因の2.7%で、8位にあたる。合併症(脳卒中、網膜症による視力障害、腎不全、下肢切断など)を通じて介護の要因となるが、主な原因として直接挙げられる割合は小さく、12%前後を占めるAには該当しない。
- ×b. 呼吸器疾患
誤り。呼吸器疾患は2.2%で11位である。慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉などで在宅酸素療法を要するような例では日常生活が制限されるが、介護の主な原因としての割合は小さい。
- ○c. 骨折・転倒
正しい。骨折・転倒は総数で12.1%を占め、4位にあたる。要支援者に限ると15.2%で3位、要介護者に限ると10.8%で4位である。高齢者は骨粗鬆症やサルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の低下)、バランス能力の低下により転倒しやすく、大腿骨近位部骨折などを起こすと長期臥床から歩行能力が低下し、要介護状態につながりやすい。
- ×d. Parkinson病
誤り。Parkinson病は3.1%で7位である。進行すると歩行障害や姿勢反射障害により介護を要するが、疾患自体の有病者数が限られるため、全体に占める割合は小さい。
- ×e. 悪性新生物(がん)
誤り。悪性新生物(がん)は2.4%で9位である。日本人の死因の第1位であるが、介護が必要となった原因としての割合は小さい。死因の順位と介護原因の順位を混同しないことが重要である。
2016年国民生活基礎調査:介護が必要となった主な原因(上位)
総数(要支援+要介護) 1位 認知症 18.0% 2位 脳血管疾患(脳卒中) 16.6% 3位 高齢による衰弱 13.3% 4位 骨折・転倒 12.1% 5位 関節疾患 10.2% 要介護者(要介護1〜5) 1位 認知症 24.8% 2位 脳血管疾患 18.4% 3位 高齢による衰弱 12.1% 4位 骨折・転倒 10.8% 5位 関節疾患 7.0% 要支援者(要支援1・2) 1位 関節疾患 17.2% 2位 高齢による衰弱 16.2% 3位 骨折・転倒 15.2% 4位 脳血管疾患 13.1% 5位 心疾患 6.7% (認知症は4.6%で6位)
読み取りのポイント
・要介護度が重い層では、認知症と脳血管疾患が上位を占める。 ・要支援の軽い層では、関節疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒といった運動器の問題や虚弱が上位となる。これらはロコモティブシンドローム(運動器の障害による移動機能の低下)やフレイルと重なり、介護予防の重点対象である。
その後の調査
2019年調査でも上位5つは同じ顔ぶれ(認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患)であり、2022年調査では骨折・転倒が高齢による衰弱を上回って3位となっている。脳血管疾患は以前は1位であったが、2016年調査で認知症が初めて1位となった。
POINT
・介護が必要となった原因(総数)の上位:認知症 > 脳血管疾患 > 高齢による衰弱 > 骨折・転倒 > 関節疾患(2016年) ・骨折・転倒は約12%で4位 ・要介護では認知症・脳血管疾患、要支援では関節疾患・衰弱・骨折転倒が上位 ・糖尿病、呼吸器疾患、Parkinson病、悪性新生物はいずれも数%程度
