裂け目とほつれを見逃すな―関節鏡で読む半月板断裂
第116回医師国家試験 A問題 第45問
国試問題にチャレンジ
38歳の女性。右膝痛を主訴に来院した。3週間前にバレーボールの練習中に右膝を捻って受傷し,疼痛が軽減しないため受診した。MRI検査で右膝内側半月板断裂が認められた。右膝関節の関節鏡所見(①~⑤)を下に示す。 半月板断裂を示している画像はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膝関節鏡では、関節軟骨はなめらかな白い曲面、前十字靱帯は顆間窩を走る線維束、半月板は大腿骨顆と脛骨の間に挟まれた楔状の白い板として見えます。正常な半月板は表面と自由縁がなめらかですが、断裂では裂け目、めくれた弁状断片、線維のほつれがみられ、正常像と比較すると判別しやすくなります。内側半月板は関節包や内側側副靱帯と結合して可動性が小さく、荷重下の捻りで損傷しやすく、キャッチングやロッキング、McMurrayテスト陽性などを示します。半月板は荷重分散に重要なため、治療では血流のある辺縁部を中心にできるだけ縫合で温存し、切除は最小限にとどめます。関節鏡像の読み方を身につけることは、膝外傷の病態理解と治療方針の判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
症例の整理
38歳女性が、バレーボールの練習中に右膝を捻って受傷し、3週間たっても痛みが軽快しない。膝に体重がかかった状態で回旋(捻り)が加わる受傷機転は、半月板損傷や前十字靱帯(ACL)損傷の典型である。痛みが遷延していることから単なる捻挫ではなく器質的な損傷が疑われ、MRIで内側半月板断裂がすでに確認されている。したがって本問は診断を問うものではなく、膝関節鏡の画像の中から「半月板が断裂している所見」を読み取れるかを問う画像問題である。
関節鏡画像の見方
関節鏡では、関節内の各構造を次のような特徴で見分ける。 ・関節軟骨(膝蓋骨、大腿骨、脛骨の表面):白く光沢があり、なめらかな曲面として見える。 ・半月板:大腿骨顆と脛骨プラトーの間に挟まれた、断面が楔(くさび)状の線維軟骨。関節鏡では、上方の大腿骨顆と下方の脛骨関節面の間に、内側へ向かって薄くなる白い板状構造として見え、その自由縁(内縁)はなめらかな線を描く。 ・前十字靱帯:顆間窩の中を斜めに走る、白い線維束の集まりとして見える。周囲には赤みのある滑膜が見える。 断裂した半月板では、本来なめらかな表面や自由縁に、裂け目(亀裂)、めくれ上がった弁状の断片(フラップ)、毛羽立った線維のほつれが見られる。正常像と見比べることが判読のこつである。
設問の考え方
5枚の画像のうち、楔状の板状構造(半月板)が写っているのは④と⑤である。⑤は表面と自由縁がなめらかであるのに対し、④では半月板の実質に裂け目が入り、断端がめくれて線維がほつれている。よって半月板断裂を示すのは④である。
選択肢考察
- ×a. ①
上下に向かい合う二つのなめらかな関節軟骨面とその間の関節腔が写っており、膝蓋骨と大腿骨(膝蓋大腿関節)など関節軟骨面を観察した像と考えられる。いずれの面にも亀裂やほつれはなく、半月板のような楔状の構造は写っていない。半月板断裂の所見ではない。
- ×b. ②
丸みを帯びた大きな白い曲面が視野の大部分を占めており、大腿骨顆部の関節軟骨を観察した像である。半月板の楔状構造は写っておらず、半月板断裂を示す画像ではない。
- ×c. ③
顆間窩を走る白い線維束が写っており、赤みを帯びた滑膜に囲まれている。前十字靱帯を観察した像であり、線維の連続性は保たれていて明らかな断裂はない。前十字靱帯は前内側線維束と後外側線維束の2束からなり、本画像でも複数の束に分かれて見える。半月板の像ではない。
- ○d. ④
上方の大腿骨顆と下方の脛骨関節面の間に半月板が写っており、その実質に裂け目が入っている。断端はめくれ上がって弁状となり、白い線維がほつれて関節腔内に突出している。正常な半月板(⑤)のなめらかな表面・自由縁とは明らかに異なり、半月板断裂の関節鏡所見である。MRIで指摘された内側半月板断裂を直接観察した像と考えられる。
- ×e. ⑤
大腿骨顆と脛骨の間に、内側に向かって薄くなる楔状の半月板が写っている。表面と自由縁はなめらかで、裂け目やほつれは認めない。損傷のない半月板の像であり、④と比べることで断裂の有無を見分けられる。
半月板の構造と機能
半月板は大腿骨と脛骨の間にある線維軟骨で、内側半月板はC字型、外側半月板はO字型に近い形をしている。断面は楔状で、荷重の分散(衝撃吸収)、関節の安定化、関節液の分布などを担う。血流は辺縁部(外側1/3程度、いわゆるred zone)にしかなく、内側の自由縁側(white zone)は血流が乏しいため、断裂部位によって治癒の見込みが異なる。内側半月板は関節包や内側側副靱帯と強く結合して可動性が小さいため、捻りの力が加わったときに損傷しやすい。
受傷機転と症状
若年者ではスポーツ中の膝の捻り(荷重下の回旋)による外傷性断裂が多く、ACL損傷を合併することも多い。中高年では加齢による変性を基盤に、軽微な外力で断裂(変性断裂)を生じる。症状は膝関節裂隙の圧痛・運動時痛、関節水腫、引っかかり感(キャッチング)、断片が関節に挟まって膝が一定角度から伸ばせなくなるロッキングなどである。
診察と検査
・徒手検査:McMurrayテスト(膝を屈曲位から回旋させながら伸展し、関節裂隙のクリックや疼痛をみる)、Apleyテスト(腹臥位で膝90°屈曲とし、下腿を圧迫しながら回旋して疼痛をみる)など。 ・MRI:半月板は正常ではどのシーケンスでも低信号である。半月板内部の点状・線状の高信号のうち、関節面に達しないものは変性を、関節面に達するものは断裂を示す。 ・関節鏡:診断と治療を同時に行える。
断裂の形態
縦断裂、横断裂(放射状断裂)、水平断裂、弁状断裂、複合断裂などがあり、大きな縦断裂の内側部分が顆間部へ転位したものはバケツ柄状断裂とよばれ、ロッキングの原因となる。
治療
症状が軽ければ安静・消炎鎮痛薬・筋力訓練などの保存療法を行う。保存療法で改善しない場合やロッキングを伴う場合は関節鏡視下手術を行う。半月板を切除すると荷重分散能が失われて将来の変形性膝関節症のリスクが高まるため、血流のある辺縁部の断裂などでは可能な限り縫合術が選択され、修復が難しい部分のみ切除(部分切除術)する。
POINT
・荷重下の膝の捻り(回旋)で受傷し痛みが遷延 → 半月板損傷・ACL損傷を考える。 ・関節鏡で半月板は大腿骨顆と脛骨の間の楔状の白い板状構造として見える。正常では表面・自由縁がなめらか。 ・断裂では裂け目、めくれた弁状断片、線維のほつれがみられる。 ・MRIでは関節面に達する高信号が断裂、関節面に達しない高信号は変性。 ・半月板はできるだけ温存(縫合)し、切除は最小限にとどめる。
