28週で打っても終わりじゃない―RhD陰性母体を守る「分娩後72時間」の一手
第115回医師国家試験 A問題 第16問
国試問題にチャレンジ
34歳の褥婦。産褥0日で入院中である。妊娠初期の血液検査で血液型はO型RhD(-)と判定された。輸血歴はない。家族歴に特記すべきことはない。妊娠26週の間接Coombs試験は陰性で,妊娠28週時に抗D人免疫グロブリンの投与を受けた。妊娠39週4日に自然陣痛が発来して入院し,2,760gの男児を正常経腟分娩した。新生児血液型はO型RhD(+)と判定された。 母体に行う対応として適切なのはどれか。
- a.薬剤投与は行わない
- b.アルブミン投与
- c.ハプトグロビン投与
- d.副腎皮質ステロイド投与
- e.抗D人免疫グロブリン投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
RhD陰性で未感作の母体がRhD陽性児を分娩した場合、分娩時の母児間輸血によって母体が抗D抗体を産生する感作が起こりうるため、分娩後72時間以内に抗D人免疫グロブリンを母体に投与します。妊娠28週前後に予防投与を受けていても、その効果は分娩時の大量の胎児赤血球移行には不十分なため、分娩後の投与は省略しません。投与された抗D抗体は母体に入った胎児赤血球に結合して網内系で除去させ、母体自身の抗体産生を防ぎます。感作されるとIgG型の抗D抗体が胎盤を通過し、次回妊娠で胎児貧血や胎児水腫、新生児重症黄疸を起こすため、流産・羊水穿刺・外回転術・腹部外傷などの感作イベント後にも予防投与が必要です。妊娠初期・28週・分娩後という管理の流れで理解しておくことが、将来の妊娠と児を守る確実な対応につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・34歳の褥婦、産褥0日。 ・母体の血液型はO型RhD(-)。輸血歴はない。 ・妊娠26週の間接Coombs試験は陰性:母体血中に抗D抗体などの不規則抗体はなく、まだRhD抗原に感作されていない。 ・妊娠28週に抗D人免疫グロブリンの投与を受けている:妊娠中の感作予防として標準的な対応である。 ・妊娠39週で正常経腟分娩。新生児はO型RhD(+)。
考え方
本例は「RhD陰性で未感作の母体が、RhD陽性児を分娩した」状況である。分娩時には胎盤剝離に伴って胎児赤血球が母体血中へ移行しやすく(経胎盤出血、母児間輸血)、RhD抗原を持つ胎児赤血球が母体の免疫系に認識されると、母体は抗D抗体を産生するようになる(感作)。初回の感作は今回の児には影響しないが、抗D抗体のうちIgGは胎盤を通過するため、次回以降にRhD陽性児を妊娠すると胎児赤血球が破壊され、胎児貧血、胎児水腫、新生児重症黄疸などの胎児・新生児溶血性疾患を起こす。 これを防ぐため、分娩後に児がRhD陽性であることを確認したうえで、分娩後72時間以内に母体へ抗D人免疫グロブリンを投与する。妊娠28週の投与から約3か月が経過しており、その効果は分娩時の大量の胎児赤血球移行をカバーするには不十分なので、分娩後にあらためて投与が必要である。 なお本例は母児ともにO型でABO式は適合している。ABO不適合であれば、母体に移行した児の赤血球が抗A・抗B抗体により速やかに破壊されるためRhD感作が起こりにくくなるが、本例ではその防御効果も期待できない。
選択肢考察
- ×a. 薬剤投与は行わない
RhD陰性の母体がRhD陽性児を分娩した直後は、最も感作が起こりやすい時期である。妊娠28週の予防投与だけでは分娩時の母児間輸血には対応できない。何もしなければ母体が抗D抗体を産生するおそれがあり、次回妊娠でRhD陽性児を妊娠した際に胎児・新生児溶血性疾患のリスクが生じる。したがって経過観察のみは不適切である。
- ×b. アルブミン投与
アルブミン製剤は膠質浸透圧を保つための血漿分画製剤で、低アルブミン血症や循環血漿量の補充に用いる。抗体を含まず、RhD抗原への感作を防ぐ作用はない。本例は正常経腟分娩で、出血性ショックや低アルブミン血症をうかがわせる情報もなく、投与の適応はない。
- ×c. ハプトグロビン投与
ハプトグロビンは血中の遊離ヘモグロビンと結合し、腎尿細管障害を防ぐ目的で、溶血時の高ヘモグロビン血症(不適合輸血、熱傷など)に用いられる。母体にはRhD陽性児の赤血球による溶血は起きておらず(母体はまだ未感作で抗D抗体を持たない)、感作予防の作用もないため不適切である。
- ×d. 副腎皮質ステロイド投与
副腎皮質ステロイドには非特異的な免疫抑制作用があるが、RhD抗原に対する抗体産生(感作)を予防する効果は示されていない。産褥婦に不必要なステロイドを投与すると、感染症や耐糖能異常などの副作用のみが問題となるため不適切である。
- ○e. 抗D人免疫グロブリン投与
RhD陰性・未感作の母体がRhD陽性児を分娩した場合、分娩後72時間以内に抗D人免疫グロブリンを母体に筋注する。投与された抗D抗体が母体血中に移行した胎児のRhD陽性赤血球に結合し、それらを脾臓などの網内系で速やかに除去させることで、母体の免疫系がRhD抗原を認識して自ら抗体を産生するのを防ぐ(受動免疫による能動免疫の抑制)。これにより次回妊娠時の感作率は大きく低下する。血液製剤であるため、児がRhD陽性であることを確認してから投与する。
RhD陰性妊婦の管理の流れ
1. 妊娠初期:ABO式・Rh式血液型と不規則抗体スクリーニング(間接Coombs試験)を行う。日本人のRhD陰性は約0.5%とまれである。 2. 妊娠28週前後:間接Coombs試験で抗D抗体が陰性(未感作)であることを確認し、抗D人免疫グロブリンを予防投与する。感作のリスクは妊娠後期に高まるためである。 3. 分娩後:児の血液型を確認し、児がRhD陽性であれば72時間以内に母体へ抗D人免疫グロブリンを投与する。 4. すでに感作されている(間接Coombs陽性)場合は予防投与の意味はなく、抗体価の推移と胎児貧血の評価(中大脳動脈最高血流速度の測定など)による管理に移る。
分娩以外で予防投与が必要な場面(感作イベント)
・流産(自然・人工)、異所性妊娠 ・羊水穿刺、絨毛採取などの侵襲的検査 ・胎児外回転術 ・腹部打撲などの外傷、性器出血(常位胎盤早期剝離など)
胎児・新生児溶血性疾患の機序
母体が感作されると抗D抗体(IgG)が産生され、次回妊娠時に胎盤を通過して胎児のRhD陽性赤血球を破壊する。胎児貧血が進行すると高拍出性心不全から胎児水腫に至り、出生後は高ビリルビン血症(核黄疸のリスク)を呈する。初回妊娠の児は通常影響を受けない。
補足
・ABO不適合が併存すると、母体に入った胎児赤血球が抗A・抗B抗体で速やかに処理されるため、RhD感作は起こりにくくなる。 ・母児間輸血量が多い場合には、Kleihauer-Betke試験などで移行した胎児血液量を推定し、投与量を追加することがある。
POINT
・RhD陰性・未感作の母体には、妊娠28週前後と分娩後72時間以内(児がRhD陽性の場合)に抗D人免疫グロブリンを投与する。 ・妊娠中に予防投与済みでも、分娩後の投与は省略しない。 ・投与前に間接Coombs試験で未感作を確認、分娩後は児のRhD陽性を確認してから投与する。 ・流産、異所性妊娠、羊水穿刺、外回転術、腹部外傷の後も予防投与の対象となる。 ・感作による障害は次回以降の妊娠で起こる(初回児は通常無症状)。
