カテ室で身を守る3つの鍵―「時間・距離・遮蔽」と散乱線の正体
第114回医師国家試験 F問題 第59問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。胸痛のため救急外来を受診した。急性心筋梗塞の診断で冠動脈造影検査を実施することになった。 医療従事者として不要な放射線被ばくを避ける対応で適切なのはどれか。3つ選べ。
- a.照射野を広くする。
- b.線源からの距離をとる。
- c.造影剤の使用量を減らす。
- d.放射線照射時間を短縮する。
- e.防護衣(鉛プロテクター)を着用する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
外部被ばくを減らす基本は「時間を短く・距離をとる・遮蔽する」の3原則で、線量は時間に比例し、距離の二乗に反比例して減少します。カテーテル室で医療従事者が受ける被ばくの主体は患者の体から生じる散乱線であり、照射野を広げると散乱線が増えて逆効果になるため、必要な範囲に絞ることが重要です。造影剤は放射線源ではなく、その減量は造影剤腎症などの副作用対策であって被ばく低減策ではありません。防護衣に加えてネックガードや含鉛眼鏡、含鉛アクリル板を併用し、特に水晶体の防護に配慮することが求められます。自分とチームの被ばくを正しく管理する知識は、透視下手技に関わるすべての医療者にとって欠かせない基盤です。
解答・解説
正解はb, d, eです
状況の整理
45歳の男性が胸痛で救急外来を受診し、急性心筋梗塞と診断されて冠動脈造影(CAG:coronary angiography)が行われる場面である。冠動脈造影はX線透視下でカテーテルを操作する手技であり、術者・介助の看護師・診療放射線技師など、透視装置のすぐそばで作業する医療従事者が繰り返し放射線を浴びる。設問は「医療従事者として」不要な被ばくを避ける対応を問うており、患者の被ばく低減だけでなく、作業者自身の職業被ばくをどう減らすかという視点が求められている。
考え方
外部被ばくを減らす基本は「放射線防護の3原則」、すなわち時間(time)・距離(distance)・遮蔽(shielding)である。 ・時間:被ばく線量は線量率×被ばく時間で決まるので、X線を出している時間を短くすれば線量はそれに比例して減る。 ・距離:点線源から出る放射線の強さは距離の二乗に反比例して弱まる(逆二乗則)。 ・遮蔽:線源と人体の間に鉛などの遮蔽物を置けば、到達する放射線が減る。 カテーテル室で医療従事者が受ける被ばくの主体は、X線管から直接来る一次線ではなく、患者の体で散乱した散乱線である。したがって、患者に照射されるX線の量(照射時間・照射範囲)を減らすことは、そのまま散乱線を減らし、医療従事者の被ばく低減にもつながる。 選択肢のうち、3原則に直接該当するのは「距離をとる」「照射時間を短縮する」「防護衣を着用する」の3つである。照射野を広げることは逆効果であり、造影剤の量は被ばく線量とは関係しない。
選択肢考察
- ×a. 照射野を広くする。
誤り。照射野(X線が当たる範囲)を広げると、照射される組織の体積が増え、患者の被ばくが増えるとともに、患者の体から発生する散乱線も増える。医療従事者の被ばくの大部分はこの散乱線によるため、照射野を広げると作業者の被ばくも増加する。さらに散乱線は画像のコントラストも低下させる。実際には、観察に必要な範囲だけに照射野を絞る(コリメーション)ことが、患者・医療従事者の双方の被ばくを減らす基本的な対策である。
- ○b. 線源からの距離をとる。
正しい。防護3原則の「距離」にあたる。点線源からの放射線の強さは距離の二乗に反比例するので、距離を2倍にすれば線量率は約1/4、3倍にすれば約1/9に下がる。手技に直接関わらないスタッフは透視中に線源(X線管と、散乱線源となる患者の照射部位)から離れることで、被ばくを大きく減らせる。術者もインジェクターを用いた造影剤注入時などにはできるだけ離れることが望ましい。
- ×c. 造影剤の使用量を減らす。
誤り。ヨード造影剤はX線を吸収して血管を描出するための薬剤であり、それ自体が放射線を出すわけではない。使用量を減らしても医療従事者の被ばく線量は変わらない。造影剤量を必要最小限にすることは、造影剤腎症(造影剤投与後の急性腎障害)や容量負荷、アレルギー反応などの副作用リスクを下げる意味では重要であるが、放射線防護の対策ではない。
- ○d. 放射線照射時間を短縮する。
正しい。防護3原則の「時間」にあたる。被ばく線量は線量率と時間の積なので、透視・撮影の時間を短くすればその分だけ線量が減る。具体的には、手技に習熟して透視時間を短くする、必要なときだけフットスイッチを踏む、パルス透視で単位時間あたりのパルス数(フレームレート)を下げる、撮影(シネ)回数を必要最小限にする、といった工夫がある。患者と医療従事者の両方の被ばく低減につながる。
- ○e. 防護衣(鉛プロテクター)を着用する。
正しい。防護3原則の「遮蔽」にあたる。鉛(または鉛同等の材料)を含む防護衣は散乱線を大きく減衰させ、体幹の臓器を守る。カテーテル室では防護衣のほかに、甲状腺を守るネックガード、水晶体を守る含鉛眼鏡、寝台に取り付ける天吊り型の含鉛アクリル板や含鉛カーテンなども併用して遮蔽を強化する。
外部被ばく防護の3原則
1)時間:被ばく時間を短くする。線量は時間に比例する。 2)距離:線源から離れる。線量率は距離の二乗に反比例する(逆二乗則)。 3)遮蔽:線源と人体の間に遮蔽物を置く。X線・γ線には鉛やコンクリートなど密度の高い物質が有効である。 これらは外部被ばくに対する原則であり、放射性物質を体内に取り込む内部被ばくの防止には、汚染の拡大防止や吸入・経口摂取の防止など別の対策が必要となる。
カテーテル室での職業被ばく
・医療従事者の被ばく源の主体は、患者の体から生じる散乱線である。散乱線は患者の体のうちX線管側(入射側)で多い。そのため一般にX線管は寝台の下に置く(アンダーチューブ)配置が用いられ、術者の上半身や顔面の被ばくが少なくなる。 ・照射野を絞る、受像器(フラットパネルディテクタ)を患者にできるだけ近づける、不要な拡大撮影を避ける、といった工夫は、患者の被ばくを減らすと同時に散乱線も減らす。 ・水晶体は放射線感受性が高く、白内障のリスクがある。近年、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を受けて、わが国でも職業被ばくにおける眼の水晶体の等価線量限度が引き下げられ(2021年施行、5年間の平均で年20mSv、かつ1年で50mSvを超えない)、含鉛眼鏡の着用など水晶体防護の重要性が増している。 ・個人線量計を適切な位置に装着して被ばく線量を管理する。
放射線防護体系の3つの原則
上記の「時間・距離・遮蔽」とは別に、放射線利用全体の考え方として、正当化(利益が害を上回る場合のみ行う)、防護の最適化(合理的に達成できる限り低く:ALARA)、線量限度の適用(職業被ばく・公衆被ばくに適用し、医療被ばくには適用しない)がある。
POINT
・外部被ばく防護の3原則は「時間を短く」「距離をとる」「遮蔽する」である。 ・線量率は線源からの距離の二乗に反比例する。 ・医療従事者の被ばくの主体は患者からの散乱線であり、照射野を絞ると散乱線が減る(広げるのは逆効果)。 ・造影剤の量は被ばく線量に関係しない(造影剤腎症などの副作用対策としては重要)。
