StudyMed医師国家試験

打つだけでは終わらない―インスリン自己注射は「測る」とセットで教える

第114回医師国家試験 E問題 第48問(連問)

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第48問

連問の共通文

次の文を読み,47と48の問いに答えよ。 48歳の男性。倦怠感と口渇を主訴に来院した。 現病歴:2年前から糖尿病を指摘されていたが医療機関を受診していなかった。3か月前から倦怠感,体重減少および口渇が出現した。ここ数日で口渇が顕著になったため来院した。 既往歴:特記すべきことはない。 生活歴:会社員で1人暮らし。喫煙歴は15本/日を28年間。36歳から禁酒している。朝食は菓子パン,昼食は社内食堂の定食,夕食はコンビニエンスストアのお惣菜などの食生活である。 家族歴:父が72歳の時に膵癌。母が脂質異常症。 現症:意識は清明。身長174cm,体重90kg。体温36.8℃。脈拍80/分,整。血圧126/88mmHg。呼吸数24/分。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。口腔内の乾燥を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。アキレス腱反射の低下を認める。 検査所見:尿所見:蛋白1+,糖4+,ケトン体4+,潜血(-)。血液所見:赤血球478万,Hb 15.4g/dL,Ht 35%,白血球9,800,血小板15万。血液生化学所見:総蛋白7.1g/dL,AST 29U/L,ALT 54U/L,LD 214U/L(基準120~245),γ-GT 173U/L(基準8~50),尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,随時血糖281mg/dL,HbA1c 10.8%(基準4.6~6.2),総コレステロール150mg/dL,Na 134mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 98mEq/L。

 血糖コントロールのためインスリン自己注射の指導を行うことになった。  適切なのはどれか。

  1. a.自己血糖測定機器の指導も行う。
  2. b.未使用のインスリン製剤は常温で保管する。
  3. c.21 Gの注射針を使用する。
  4. d.注射は毎回同じ部位に行うように指導する。
  5. e.薬剤の注入はできるだけ急速に行うように指導する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、インスリン自己注射を始める患者さんに何を指導するかという問題だ。針の太さ、注射部位、注入の仕方、保管方法、そして注射と一緒に教えるべきもの。手技の細かい知識が問われるけれど、どれも「なぜそうするのか」がわかれば覚えやすいよ。まず、この患者さんにインスリンが必要な理由は整理できているかな。
医学生医学生
血糖もHbA1cもかなり高くて、尿ケトン体も強陽性なので、インスリン作用がかなり不足しているからだと思います。
ドクタードクター
そうだね。高血糖そのものがインスリン分泌や作用をさらに悪くする「糖毒性」もあって、それを解除する意味でもインスリンを導入する。一人暮らしだから、退院後は自分で注射を続けられるようにしなければならない。では、注射と一緒に指導すべきものは何だと思う?
医学生医学生
血糖を自分で測る、自己血糖測定でしょうか。
ドクタードクター
正解。自己血糖測定、いわゆるSMBGの指導も行う、というのが今回の答えだ。目的は大きく3つ。食前や就寝前の血糖を知ってインスリン量の調整や効果判定に使うこと、冷汗や動悸が低血糖によるものか確かめて早く対処すること、シックデイのときに血糖の変化を把握することだね。
医学生医学生
OSCEの練習で簡易血糖測定器を使ったことがあります。指先を穿刺して、少量の血液で測るものですよね。
ドクタードクター
そう。患者さんには穿刺の手技、測定器の扱い、記録のつけ方まで教える。インスリン自己注射をしている人にはSMBGが保険適用になっているし、最近は皮下にセンサーを留置して連続的にグルコースを測るCGMも普及している。では、ほかの記述を見ていこう。未使用のインスリンは常温保管、はどうかな。
医学生医学生
インスリンは蛋白質なので熱に弱そうです。冷蔵庫に入れるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。未使用の製剤は2〜8℃の冷蔵庫で保管する。ただし凍結でも変性するから、冷凍室や冷気の吹き出し口の近くは避ける。一方で、使い始めたペン型製剤は、出し入れによる結露や注入器の不具合を避けるため、高温や直射日光を避けて室温で保管し、決められた期間内に使い切るんだ。
医学生医学生
未使用は冷蔵、使用中は室温、と分けて覚えるんですね。夏の車内に置きっぱなしはまずそうです。
ドクタードクター
まさにそういう具体的な注意をするんだ。次は針の太さ。21Gの針はどうだろう。
医学生医学生
採血実習で使ったのが21Gか22Gだった気がします。毎日自分で打つには太すぎますよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ゲージは数字が大きいほど細い。インスリン自己注射には32〜34G程度の非常に細い専用針を使い、長さも4〜6mm程度の短いものが主流だ。痛みが少なく、筋肉内への誤注射を避けて確実に皮下に入れられる。
医学生医学生
注射部位は、毎回同じところのほうが吸収が安定しそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
ひっかかりやすいところだね。同じ場所に打ち続けると、皮下脂肪が硬く盛り上がる脂肪肥大や、インスリン由来のアミロイドが沈着するインスリンボールができる。そこに打つと吸収が不安定になって血糖が乱れるし、正常な部位に打ち直したとたんに吸収が増えて低血糖を起こすこともある。
医学生医学生
じゃあ、腹部や太ももなど、毎回まったく違う場所に打てばいいんですか。
ドクタードクター
そこはもう一歩。吸収速度は腹部が最も速く、上腕、大腿、臀部の順に遅くなる。だから基本は同じ領域、たとえば腹部の中で、前回から2〜3cmずつずらしていくのがすすめられるんだ。ローテーションは「領域内でずらす」と覚えておこう。
医学生医学生
注入速度は、早く打てば痛みが短くて済むかと思ったんですが。
ドクタードクター
急いでも利点はないんだ。ボタンを押し切る前に針を抜いたり、薬液が漏れたりして、予定量が入らなくなる。ボタンはゆっくり最後まで押し、押したまま10秒程度待ってから針を抜く。これで薬液が皮下に行き渡り、正確な量が入るよ。
医学生医学生
手技だけじゃなく、測定や保管、低血糖への対応まで含めて一つの指導なんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、注射前の空打ちで針先まで薬液を満たし作動を確認すること、中間型や混合型のような懸濁製剤は十分に混ぜること、針は毎回交換し使用済みの針は硬い容器に入れて地域のルールで捨てることも押さえておきたい。低血糖時にはブドウ糖10g程度をとるのが基本で、α-グルコシダーゼ阻害薬を併用しているならショ糖ではなくブドウ糖を使う。外来で血糖が急に乱れた患者さんがいたら、まず注射部位の硬結を触って確かめる習慣をつけるといいよ。

まとめ

インスリン自己注射を導入する際は、注射手技だけでなく自己血糖測定(SMBG)の指導を併せて行い、インスリン量の調整、低血糖の早期発見、シックデイの血糖把握に役立てます。インスリンは蛋白製剤のため、未使用品は凍結を避けて冷蔵、使用中は室温で高温・直射日光を避けて保管します。針は32〜34G前後の極細・短針を用い、注射部位は脂肪肥大やインスリンボールを防ぐため同じ領域内で2〜3cmずつずらし、注入はゆっくり押し切って10秒程度待ってから抜針します。こうした一つひとつの指導の理由を理解しておくことが、患者が退院後も安全に治療を続けるための支えとなり、血糖コントロールが乱れたときの原因検索にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

症例の整理

48歳男性。糖尿病を2年間放置し、3か月前から倦怠感・体重減少・口渇が出現、数日前から口渇が著明になった。BMI は約29.7(174cm、90kg)の肥満で、菓子パンやコンビニ惣菜中心の食生活である。随時血糖281mg/dL、HbA1c 10.8%ときわめてコントロール不良であり、尿ケトン体4+から高度のインスリン作用不足(ケトーシス)がある。口腔内乾燥は浸透圧利尿による脱水を示す。アキレス腱反射低下は糖尿病神経障害、血尿を伴わない尿蛋白1+は糖尿病腎症を示唆し、長年の喫煙歴は大血管障害の危険因子である。

治療方針

肥満と生活習慣から2型糖尿病が基盤と考えられるが、強いケトーシスがあるため、清涼飲料水多飲に伴うケトーシスや緩徐進行1型糖尿病なども鑑別に挙がり、抗GAD抗体やCペプチドで病型を確認する。いずれにせよ、高度の高血糖とケトーシスがある状態はインスリン療法の適応であり、高血糖そのものがインスリン分泌と作用をさらに悪化させる「糖毒性」を解除する意味でもインスリンを導入する。1人暮らしで退院後は自分で注射を続けることになるため、入院中に自己注射の手技と、それに付随する知識を確実に身につけさせる必要がある。

設問の考え方

インスリン自己注射の指導では、注射の手技(針の太さ・長さ、注射部位の選び方とローテーション、注入速度と針を抜くタイミング)、製剤の保管方法、そして治療効果の確認と低血糖の予防のための自己血糖測定(SMBG)がセットで指導される。各選択肢がこれらの標準的な指導内容に合っているかを判断する。

選択肢考察

  1. ○a.  自己血糖測定機器の指導も行う。

    自己血糖測定(SMBG:self-monitoring of blood glucose)は、指先などを穿刺して得た少量の血液で患者自身が血糖を測る方法である。インスリン療法中の患者では、①食前・食後や就寝前の血糖を知ってインスリン量の調整や治療効果の判定に役立てる、②冷汗・動悸・手のふるえなどの症状が低血糖によるものかを確認し、低血糖を早く見つけて対処する、③シックデイに血糖の変化を把握する、といった目的で重要であり、インスリン注射と並行して測定器の使い方・穿刺の手技・記録のつけ方を指導する。わが国ではインスリン自己注射を行っている患者にはSMBGが保険適用となっている。近年は皮下にセンサーを留置して間質液のブドウ糖濃度を連続的に測る持続グルコースモニタリング(CGM)も普及している。

  2. ×b.  未使用のインスリン製剤は常温で保管する。

    インスリンは蛋白質(ペプチド)製剤であり、高温で変性し、凍結でも変性・失活する。未使用(未開封)の製剤は冷蔵庫(2〜8℃)で保管し、冷凍室や冷気の吹き出し口付近など凍るおそれのある場所は避ける。一方、使用を開始したペン型製剤は、冷蔵と室温の出し入れによる結露や注入器の不具合を避けるため、室温(おおむね30℃以下)で直射日光や高温を避けて保管し、製剤ごとに定められた期間(多くは開封後4週間程度)内に使い切る。夏の車内や窓際など高温になる場所に置かないよう指導する。

  3. ×c.  21 Gの注射針を使用する。

    G(ゲージ)は針の太さを表す単位で、数字が大きいほど細い。21Gは採血や点滴などで使われる太さであり、毎日の自己注射に用いれば痛みが強く、皮下組織の損傷も大きい。インスリン自己注射には、32〜34G程度の非常に細い専用のペン型注入器用針が用いられ、針の長さも4〜6mm程度の短いものが主流である。短い針は筋肉内への誤注射を避けやすく、皮下に確実に注入できる。

  4. ×d.  注射は毎回同じ部位に行うように指導する。

    同じ場所に繰り返し注射すると、皮下脂肪が硬く盛り上がる脂肪肥大(硬結)や、インスリン由来のアミロイドが沈着する限局性アミロイドーシス(インスリンボール)が生じる。そこに注射するとインスリンの吸収が低下・不安定になり、血糖が不安定になる。また、正常な部位に打ち直した際に吸収が急に増えて低血糖を起こすこともある。そのため注射部位は毎回ずらす(ローテーション)よう指導する。ただしインスリンの吸収速度は部位により異なり(腹部が最も速く、上腕、大腿、臀部の順に遅くなる)、血糖の日内変動をそろえるため、基本的には同じ領域(例:腹部)の中で前回から2〜3cm程度ずつ位置を変えていく方法がすすめられる。

  5. ×e.  薬剤の注入はできるだけ急速に行うように指導する。

    急いで注入する利点はなく、むしろ注入ボタンを押し切る前に針を抜いたり、薬液が皮膚から漏れたりして、予定量が入らない原因となる。注入ボタンは最後までゆっくり確実に押し込み、押したまま10秒程度(製剤の添付文書に従う)待ってから針を抜くよう指導する。これにより薬液が皮下に行き渡り、逆流や漏れを防いで正確な量を注入できる。

インスリン自己注射指導の主な項目

・準備:手洗い、製剤の種類と単位の確認、懸濁製剤(中間型・混合型など)は注射前に十分に混和する、空打ち(2単位程度)で針先まで薬液が満たされ注入器が正常に作動することを確認する。 ・針:32〜34G、長さ4〜6mm程度の専用針。原則として毎回新しい針に交換する(再使用すると針先の変形・詰まり・感染の原因となる)。 ・部位:腹部、上腕外側、大腿外側、臀部などの皮下。吸収速度は腹部>上腕>大腿>臀部。同じ領域内で毎回2〜3cmずつずらし、硬結部位は避ける。 ・注入:ボタンをゆっくり押し切り、押したまま10秒程度待ってから抜針する。 ・保管:未使用品は冷蔵(2〜8℃、凍結させない)。使用中は室温で遮光し、期限内(多くは開封後4週間程度)に使い切る。 ・廃棄:使用済みの針は蓋付きの硬い容器に入れ、医療機関や薬局など地域のルールに従って廃棄する。 ・関連する知識:自己血糖測定(SMBG)、低血糖の症状(冷汗・動悸・手指振戦・意識障害など)と対処(ブドウ糖10g程度または同量の糖質を含む飲料の摂取、α-グルコシダーゼ阻害薬服用中はブドウ糖を用いる)、シックデイの対処。

インスリン療法の主な適応

・インスリン依存状態(1型糖尿病など)。 ・糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、高度のケトーシス。 ・重症感染症、中等度以上の外科手術、重篤な肝・腎障害の合併。 ・糖尿病合併妊娠や妊娠中の高血糖で食事療法だけでは管理できない場合。 ・経口薬では良好な血糖コントロールが得られない場合や、著しい高血糖で糖毒性を解除する必要がある場合(本例が該当する)。

POINT

・インスリン自己注射を導入する際は、自己血糖測定(SMBG)の指導も併せて行う(効果判定と低血糖予防)。 ・未使用のインスリンは冷蔵(凍結不可)、使用中は室温で保管。 ・針は32〜34G前後の極細・短針。Gは数字が大きいほど細い。 ・注射部位は毎回ずらす(脂肪肥大・インスリンボールの予防)。同じ領域内で2〜3cmずつ移動。 ・注入はゆっくり行い、押し切ったまま約10秒待って抜針する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。