やせ型・ケトン体陽性・Cペプチド低値―インスリンでしか救えない糖尿病を見抜く
第120回医師国家試験 A問題 第51問
国試問題にチャレンジ
42歳の女性。1か月前から続く易疲労感を主訴に来院した。昨年の健康診断では異常を指摘されなかった。2か月前に感冒に罹患した。2週間前からトイレに行く回数が増えた。意識は清明。身長163cm,体重48kg。血圧130/72mmHg。尿所見:蛋白(-),糖3+,ケトン体2+。血液生化学所見:総蛋白8.2g/dL,アルブミン4.2g/dL,AST 22U/L,ALT 15U/L,アミラーゼ152U/L(基準44~132),尿素窒素23mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,尿酸7.2mg/dL,血糖384mg/dL,HbA1c 11.4%(基準4.9~6.0),Na 134mEq/L,K 4.6mEq/L,Cl 98mEq/L,Cペプチド〈CPR〉0.5ng/mL(基準0.8~2.5)。 適切な治療はどれか。
- a.インスリンの注射
- b.DPP-4阻害薬の内服
- c.SGLT2阻害薬の内服
- d.塩酸メトホルミンの内服
- e.GLP-1受容体作動薬の注射
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
やせ型の成人に比較的短期間で高血糖症状が出現し、尿ケトン体陽性で血中Cペプチドが低値であれば、インスリン依存状態の1型糖尿病(本例は急性発症型)を考えます。Cペプチドはインスリンと等モル分泌されるため内因性インスリン分泌能の指標となり、高血糖下での低値はβ細胞機能の枯渇を意味します。治療はインスリン補充が唯一の根本治療で、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は残存分泌能に依存し、メトホルミンは1型糖尿病や重症ケトーシスで禁忌、SGLT2阻害薬はインスリン併用時に限られ単独では正常血糖ケトアシドーシスの危険があります。劇症1型糖尿病は約1週間でケトーシスに至り初診時HbA1cが8.7%未満にとどまる点、緩徐進行1型糖尿病は2型と誤認されやすい点も併せて押さえておきましょう。糖尿病の病型をインスリン分泌能から見極める視点は、治療薬選択の誤りを防ぎ、ケトアシドーシスという致死的合併症を未然に防ぐ基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・42歳女性。1か月前から易疲労感、2週間前から排尿回数の増加(多尿)がある。 ・昨年の健康診断では異常がなく、少なくとも1年前には明らかな糖尿病はなかった。 ・2か月前に感冒(ウイルス感染が疑われる先行感染)のエピソードがある。 ・身長163cm、体重48kgでBMIは約18.1kg/m²と低体重であり、肥満を背景とする2型糖尿病の典型像ではない。 ・尿糖3+、尿ケトン体2+:インスリン作用が不足し、脂肪分解が進んでケトン体が産生されている(ケトーシス)。 ・血糖384mg/dL、HbA1c 11.4%:糖尿病型の高血糖(随時血糖200mg/dL以上かつHbA1c 6.5%以上)であり、糖尿病と診断できる。HbA1cは過去1~2か月の平均血糖を反映するため、高血糖は少なくとも数週以上続いていたと考えられる。 ・血中Cペプチド(CPR)0.5ng/mLと低値:CPRはインスリンと同じ量だけ膵β細胞から分泌されるため、内因性インスリン分泌能の指標になる。高血糖があるにもかかわらずCPRが低いことは、インスリン分泌能が高度に低下していることを示す。 ・尿素窒素/クレアチニン比が高めで、総蛋白もやや高く、浸透圧利尿による脱水傾向がうかがえる。アミラーゼの軽度上昇は、ケトーシスやケトアシドーシスに伴ってしばしばみられる所見である。
診断
やせ型の成人に、比較的短期間で高血糖症状が出現し、ケトーシスを伴い、インスリン分泌能が著明に低下していることから、急性発症1型糖尿病が最も考えられる。鑑別となる劇症1型糖尿病は、高血糖症状の出現から約1週間以内にケトーシス・ケトアシドーシスに至るきわめて急激な病型で、発症が急なため初診時のHbA1cは8.7%未満にとどまるのが特徴である。本例はHbA1c 11.4%と高く、症状も1か月前からであり、劇症型は考えにくい。確定には抗GAD抗体などの膵島関連自己抗体の測定を行う。
設問の考え方
インスリン分泌が枯渇しかけている1型糖尿病で、すでにケトーシスを生じている。ケトーシスはインスリン欠乏の直接の表れであり、放置すれば糖尿病ケトアシドーシス(DKA)へ進行して生命に関わる。不足しているインスリンそのものを補充する以外に根本的な治療はなく、経口血糖降下薬やインクレチン関連薬は、残存するインスリン分泌や作用を前提とするため、インスリンの代わりにはならない。
選択肢考察
- ○a. インスリンの注射
1型糖尿病は膵β細胞の破壊によりインスリンが絶対的に不足する病態であり、インスリン補充が治療の根幹である。本例はCPR 0.5ng/mLとインスリン分泌能が著しく低下し、すでにケトーシスをきたしているため、ただちにインスリン治療を開始する必要がある。意識は清明で現時点ではアシドーシスの有無が不明であるが、血液ガスで糖尿病ケトアシドーシスが確認されれば、輸液と速効型インスリンの持続静注で治療する。状態が落ち着けば、基礎インスリン(持効型)と追加インスリン(超速効型)を組み合わせた強化インスリン療法(頻回注射またはインスリンポンプ)に移行し、生涯にわたって継続する。
- ×b. DPP-4阻害薬の内服
DPP-4阻害薬は、インクレチン(GLP-1、GIP)を分解する酵素DPP-4を阻害してインクレチン濃度を高め、血糖依存性にインスリン分泌を促す薬である。効果は残存するβ細胞のインスリン分泌能に依存するため、分泌が枯渇しつつある本例では効果が期待できない。添付文書上も重症ケトーシスや1型糖尿病はインスリンの適応であり、本剤の投与対象ではない。
- ×c. SGLT2阻害薬の内服
SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖再吸収を担うSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)を阻害し、尿中へ糖を排泄させて血糖を下げる。インスリン分泌に依存しない作用機序で、一部の薬剤(イプラグリフロジン、ダパグリフロジン)は1型糖尿病に対してインスリンとの併用に限り適応がある。しかし単独では不足しているインスリンを補えず、インスリン欠乏下で用いると、血糖がそれほど高くないままケトアシドーシスに陥る(正常血糖ケトアシドーシス)危険がある。すでにケトーシスを呈する本例に、インスリンの代わりとして用いるのは誤りであり、重症ケトーシスでは投与禁忌である。
- ×d. 塩酸メトホルミンの内服
メトホルミン(ビグアナイド薬)は主に肝臓での糖新生を抑え、末梢のインスリン感受性を改善する薬であり、インスリンが存在することを前提に効果を発揮する。インスリンが欠乏した状態では十分な血糖低下は得られない。また、脱水やケトーシス・ケトアシドーシスなど代謝が破綻した状態では乳酸アシドーシスの危険が高まるため、重症ケトーシスや1型糖尿病は禁忌とされている。
- ×e. GLP-1受容体作動薬の注射
GLP-1受容体作動薬は膵β細胞のGLP-1受容体を刺激して血糖依存性にインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌の抑制、胃排出遅延、食欲抑制などの作用ももつ。注射薬ではあるがインスリンそのものではなく、残存するβ細胞機能に依存するため、インスリン分泌が枯渇しつつある1型糖尿病には効果が期待できず、インスリンの代わりに用いることはできない。食欲抑制・体重減少作用も、低体重の本例には不利である。
1型糖尿病の病型(発症様式による分類)
・劇症1型糖尿病:高血糖症状の出現から約1週間以内にケトーシス・ケトアシドーシスに至る。初診時の血糖は288mg/dL以上と高いが、HbA1cは8.7%未満にとどまる。発症時にはインスリン分泌がほぼ完全に枯渇している(尿中CPR 10μg/日未満、または空腹時血中CPR 0.3ng/mL未満かつグルカゴン負荷後0.5ng/mL未満)。膵島関連自己抗体は通常陰性で、膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1)の上昇や、先行する感冒様症状・消化器症状を伴うことが多い。妊娠に関連して発症することもある。 ・急性発症1型糖尿病:高血糖症状の出現後、おおむね3か月以内にケトーシス・ケトアシドーシスに至り、以後インスリン治療が継続して必要となる。経過中に膵島関連自己抗体(抗GAD抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体〈IAA〉、ZnT8抗体、膵島細胞抗体〈ICA〉)のいずれかが陽性となることが多い。自己抗体が証明できない場合でも、内因性インスリン分泌が欠乏していれば(空腹時血中CPR 0.6ng/mL未満が目安)、1型糖尿病と診断しうる。 ・緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM):膵島関連自己抗体が陽性で、診断当初はインスリンを必要としないことが多いが、年単位でインスリン分泌が低下していく。2型糖尿病との鑑別が重要である。
Cペプチドの意義
プロインスリンが切断されてインスリンとCペプチドが等モル生成されるため、CPRは内因性インスリン分泌の指標となる。外から注射したインスリンの影響を受けないので、インスリン治療中でも測定できる。空腹時血中CPRが0.6ng/mL未満であればインスリン依存状態の目安とされる。
糖尿病ケトアシドーシス(DKA)への対応
インスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加により、高血糖、ケトン体増加、代謝性アシドーシス(アニオンギャップ開大)、浸透圧利尿による脱水と電解質喪失をきたす。治療は、生理食塩水を中心とした大量輸液、速効型インスリンの少量持続静注、カリウム補充(インスリンでKが細胞内に移動し低K血症をきたすため)が三本柱である。
主な血糖降下薬と1型糖尿病
・インスリン:唯一の根本治療 ・SGLT2阻害薬:一部の薬剤がインスリン併用下でのみ1型糖尿病に適応。正常血糖ケトアシドーシスに注意 ・α-グルコシダーゼ阻害薬:インスリンとの併用で食後高血糖の補助に用いることがある ・DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬:1型糖尿病には適応がない
POINT
・やせ型、比較的短期間の高血糖症状、ケトーシス、CPR低値は、インスリン依存状態(1型糖尿病)を示す。 ・インスリン依存状態ではインスリン治療が唯一の根本治療であり、ただちに開始する。 ・インスリン分泌の残存を前提とする薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SU薬)や、メトホルミンは1型糖尿病に用いない。 ・SGLT2阻害薬は一部が1型糖尿病でインスリン併用時のみ使用可能で、単独使用は不可。ケトアシドーシスに注意する。 ・劇症1型糖尿病は発症から約1週間でケトーシスに至り、初診時HbA1cが8.7%未満であることが特徴である。
