糖尿病と2か月の微熱、そして血痰―まず疑うべきは結核、まず出すべきは喀痰
第114回医師国家試験 E問題 第36問
国試問題にチャレンジ
71歳の男性。血痰を主訴に来院した。2か月前から微熱があり,2週前から断続的に血痰の排出が続いている。かかりつけ医で糖尿病の内服加療中であるが,コントロールは良くないと言われているという。呼吸音は両側胸部にcoarse cracklesを聴取する。胸部エックス線写真(A)及び胸部造影CT(B)(C)を別に示す。 次に行うべき検査はどれか。

- a.FDG-PET
- b.スパイロメトリ
- c.喀痰抗酸菌検査
- d.尿中肺炎球菌抗原検査
- e.血漿EGFR遺伝子検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
2か月続く微熱と血痰という慢性の経過に、コントロール不良の糖尿病や高齢といった危険因子が重なり、画像で上葉背側を中心とする結節影・浸潤影とtree-in-bud所見による経気道散布がみられれば、まず肺結核を疑います。確定診断には病変からの菌の検出が必要で、喀痰抗酸菌検査を日を変えて3回行い、塗抹で感染性を、核酸増幅検査で結核菌と非結核性抗酸菌の区別を、培養で菌種同定と薬剤感受性を評価します。FDG-PETは炎症にも集積して鑑別に役立たず、スパイロメトリは感染拡大の危険があり、尿中肺炎球菌抗原や血漿EGFR遺伝子検査は臨床像に合いません。結核を疑った段階から空気感染対策をとり、診断後は直ちに保健所へ届け出ることも欠かせません。慢性の呼吸器症状を診たら危険因子と画像パターンから抗酸菌感染症を想起し、適切な検体採取と感染対策を同時に進める姿勢は、臨床現場で院内感染を防ぐうえでも重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・71歳の男性。主訴は血痰。 ・2か月前から微熱が続き、2週前から断続的に血痰が出ている:数週間~数か月にわたる慢性の経過で、急性の細菌性肺炎とは合わない。慢性に進む肺の感染症(抗酸菌感染症など)や肺癌を考える経過である。 ・糖尿病の内服治療中だがコントロール不良:高血糖状態では好中球やマクロファージ、細胞性免疫の働きが低下し、感染症にかかりやすくなる。糖尿病は肺結核発病の代表的な危険因子である。高齢であることも結核の発病・再燃の危険因子となる。 ・両側胸部でcoarse crackles(水泡音:気道内の分泌物によって生じる低調で断続的な副雑音)を聴取:気道の炎症や分泌物の貯留を示す。
画像所見
・胸部エックス線写真(A):両側肺野、とくに右上肺野から中肺野と左中下肺野に粒状影・小結節影が散在している。 ・胸部造影CT肺野条件(B):右上葉の背側寄りを中心に、浸潤影と大小の結節影、気管支壁の肥厚、細い気道に沿って分岐する粒状影(tree-in-budパターン:細気管支内に分泌物や乾酪物質が詰まり、芽をつけた木の枝のように見える所見)がみられる。これは病変が気道を通じて広がる経気道散布を示し、抗酸菌感染症に典型的な像である。 ・縦隔条件(C):肺野の病変の一部が描出されているが、腫瘤を形成する悪性腫瘍を思わせる所見ははっきりしない。
診断へのプロセス
慢性の発熱と血痰、コントロール不良の糖尿病、上葉背側を中心とする結節影・浸潤影と経気道散布を示す粒状影がそろっており、まず肺結核を疑う。鑑別としては、同様に慢性の経過で結節影や気管支拡張を伴いうる非結核性抗酸菌症(NTM症)、細菌性肺炎、肺癌などがある。いずれにしても最優先すべきは結核の有無を確かめることである。結核であれば空気感染で周囲へ広がるため、診断がつくまでは陰圧個室などでの空気感染対策を講じ、診断がついたら直ちに保健所へ届け出る必要がある。
設問の考え方
抗酸菌感染症の確定診断には、病変部の検体から菌を検出することが必要である。喀痰の抗酸菌検査(塗抹・培養・核酸増幅検査)は非侵襲的で、結核とNTM症の両方を診断・区別でき、感染性の評価(排菌の有無)にも直結する。したがって次に行うべき検査は喀痰抗酸菌検査である。
選択肢考察
- ×a. FDG-PET
FDG-PET(フルオロデオキシグルコースを用いた陽電子放射断層撮影)は、ブドウ糖の取り込みが亢進した部位を描出する検査で、主に悪性腫瘍の病期診断や転移・再発の検索に用いる。しかしFDGは結核などの活動性炎症巣にも強く集積するため、本例のような病変の良悪性の区別には向かず、抗酸菌感染症の診断にも役立たない。高額で被曝もあり、現時点で行う検査ではない。
- ×b. スパイロメトリ
スパイロメトリは肺活量や1秒量を測定し、閉塞性・拘束性・混合性の換気障害を判定する呼吸機能検査である。COPDや気管支喘息、間質性肺疾患の評価には有用だが、感染症の病原体診断には役立たない。さらに、結核が疑われる患者に行うと強制呼出で飛沫・飛沫核が生じ、検査室を介した感染拡大の危険があるため、結核が否定されるまでは避けるべきである。
- ○c. 喀痰抗酸菌検査
肺結核や非結核性抗酸菌症を疑う場合、まず行うべき検査である。通常は日を変えて3回、喀痰を採取して調べる。塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色や蛍光染色で抗酸菌を検出)は結果が早く、排菌量と感染性の目安になる。核酸増幅検査(PCRなど)は結核菌群か非結核性抗酸菌かを迅速に区別できる。培養検査は感度が最も高く、菌種同定と薬剤感受性試験に不可欠であるが、結果が出るまで数週間を要する。痰がうまく出ない場合は高張食塩水の吸入による誘発喀痰や胃液検査、気管支鏡検査を考慮する。
- ×d. 尿中肺炎球菌抗原検査
尿中に排泄される肺炎球菌の莢膜多糖抗原(C多糖体)を検出する迅速検査で、市中肺炎の起炎菌推定に用いる。肺炎球菌性肺炎は急性の発熱、膿性痰、大葉性の浸潤影などを呈するのが典型的で、2か月に及ぶ微熱と経気道散布像を示す本例とは臨床像が合わない。なお、過去の肺炎球菌感染でも数週間~数か月陽性が続くことがあり、陽性でも直近の感染とは限らない。
- ×e. 血漿EGFR遺伝子検査
血漿中に流れる腫瘍由来のDNA(circulating tumor DNA)からEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異を調べる検査で、組織を採らずに行う液体生検(リキッドバイオプシー)の一つである。非小細胞肺癌(主に腺癌)と診断され、組織検体が得られない場合などにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の適応を判断する目的で行う。肺癌の診断がついていない段階で、しかも感染症を強く疑う本例で行う検査ではない。
肺結核の概要
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による感染症で、排菌患者の咳などで生じた飛沫核を吸い込むことで空気感染する。感染しても多くは発病せず潜伏感染となり、免疫が低下したときに内因性再燃として発病することが多い。発病の危険因子には、高齢、糖尿病、HIV感染症、副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬・生物学的製剤(TNF-α阻害薬など)の使用、透析中の慢性腎不全、胃切除後、低栄養、じん肺などがある。
症状
2週間以上続く咳・痰、微熱、寝汗、体重減少、全身倦怠感、血痰・喀血など。高齢者では症状が乏しいことも多い。
画像の特徴
肺尖部・上葉の後区(S1、S2)や下葉の上区(S6)に好発する。浸潤影、結節影、空洞、経気道散布による小葉中心性粒状影やtree-in-bud所見がみられる。糖尿病患者では下肺野病変や多発空洞など非典型的な分布をとることがある。
診断
・確定診断:喀痰などからの結核菌の検出(塗抹、培養、核酸増幅検査) ・補助診断:インターフェロンγ遊離試験(IGRA:QFT、T-SPOT)。感染の有無を示すが、活動性の発病か潜在性感染かは区別できない。 ・肺結核と診断したら、感染症法の二類感染症として直ちに保健所へ届け出る。排菌例は結核病床などへの入院が必要となる。
治療
標準治療はイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール(またはストレプトマイシン)の4剤で2か月、その後イソニアジドとリファンピシンの2剤で4か月、計6か月である。服薬の継続を確実にするためDOTS(直接服薬確認療法)が行われる。
非結核性抗酸菌症との関係
非結核性抗酸菌症(NTM症)は結核菌群以外の抗酸菌による感染症で、日本ではMycobacterium avium complex(MAC)が大半を占め、M. kansasii、M. abscessusなどが続く。近年増加しており、罹患率は結核を上回っている。中高年女性に多い結節・気管支拡張型(中葉・舌区の気管支拡張と小結節)と、喫煙歴やCOPDのある男性に多い線維空洞型がある。ヒトからヒトへはほとんど感染しない点が結核と大きく異なる。結核とNTM症は画像だけでは区別が難しく、喀痰の核酸増幅検査や培養による菌種同定で鑑別する。
POINT
・慢性の微熱・咳・血痰があり、糖尿病などの危険因子をもつ患者では、まず肺結核を疑う。 ・上葉背側(S1、S2)やS6の結節影・浸潤影、tree-in-bud所見は経気道散布を示し、抗酸菌感染症を示唆する。 ・確定診断は喀痰からの抗酸菌の検出であり、塗抹・培養・核酸増幅検査を通常3回行う。 ・塗抹は感染性の評価、核酸増幅検査は結核とNTM症の迅速な区別、培養は菌種同定と薬剤感受性試験に用いる。 ・結核が疑われる段階から空気感染対策をとり、結核と診断したら直ちに保健所へ届け出る。
