StudyMed医師国家試験

肛門の診察は「仰向け」ではない―直腸・肛門指診を正しい手順で行う

第114回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第114回 E問題 第37問

48歳の女性。排便後の出血を主訴に来院した。日頃から硬便であり,時々,排便後に肛門を拭いた紙に鮮血が付着していた。昨日,付着する血液量が多かったため受診した。  直腸・肛門指診の手順で誤っているのはどれか。

  1. a.仰臥位で診察する。
  2. b.手袋を着用する。
  3. c.肛門周囲を視診する。
  4. d.示指に潤滑剤を塗り肛門内に挿入する。
  5. e.直腸内腔や肛門管内の触診をする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、排便後の出血を訴える患者さんに対して、直腸・肛門指診をどんな手順で行うかを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、体位、感染対策、視診、挿入、触診という一連の流れを頭の中で再現しながら読んでいこう。まず、この患者さんの出血はどこから来ていそうかな。
医学生医学生
紙に鮮血がつく程度で、普段から便が硬いので、肛門に近いところ、裂肛か内痔核あたりでしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。上部消化管からの出血なら黒色便になるから、鮮紅色の血液は出口に近い部位からの出血を示唆する。硬便で肛門上皮が傷つく裂肛や、内痔核がまず考えられる。ただ、40歳代以降では直腸癌や大腸ポリープでも同じような出血が起こりうるから、「痔だろう」と決めつけず、指診や必要に応じた大腸内視鏡で確かめることが大切なんだ。
医学生医学生
だからこそ、まずは直腸指診をきちんとやるということですね。でもOSCEの練習では、腹部診察はずっと仰向けで練習していたので、指診もそのまま仰臥位でいいのかと思っていました。
ドクタードクター
そこがまさにこの問題の落とし穴だ。脚を伸ばした仰臥位では、肛門が診察台側に隠れてしまって、視診もしにくいし指も入れにくい。わが国で標準的なのは左側臥位、いわゆるSims位だよ。左を下にして横になり、股関節と膝を曲げて殿部を診察者側に突き出してもらう姿勢だ。
医学生医学生
側臥位なら顔も診察者から見えにくいので、患者さんの恥ずかしさも少なそうですね。
ドクタードクター
その通り。身体的な負担も羞恥心も少ないのが利点だ。ほかに、仰臥位で両脚を挙げて開く砕石位や、膝と胸を台につけて殿部を高く上げる膝胸位を使うこともあるけれど、単なる仰臥位で行うものではない。だから仰臥位で診察する、が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
手袋の着用は当然正しい手順ですよね。
ドクタードクター
うん。便や血液、粘液に直接触れるから、標準予防策として必ず手袋をつける。患者さんと医療者の双方を感染から守るためで、終わったら手袋を外して手指衛生も忘れずに。次に、いきなり指を入れるのではなく、まず肛門周囲を視診する。ここでは何を見るかな。
医学生医学生
外痔核や脱出した内痔核、裂肛……あとは痔瘻の皮膚側の穴でしょうか。
ドクタードクター
よく出てきたね。痔瘻の二次口、皮垂(スキンタグ)、肛門周囲膿瘍による発赤や腫脹、腫瘤、湿疹なども確認する。視診で強い痛みを伴う裂肛が見つかれば、指の挿入を慎重にしたり控えたりする判断にもつながるから、順番に意味があるんだ。
医学生医学生
指を入れるときは、潤滑剤を塗った示指をそっと、という手順ですね。
ドクタードクター
そう。手袋をした示指に潤滑剤を十分に塗り、指の腹で肛門縁を軽く押さえて括約筋の緊張がゆるむのを待ってから、ゆっくり挿入する。口で呼吸してもらうなどの声かけも有効だ。局所麻酔薬入りのゼリーを使うなら、事前に局所麻酔薬のアレルギーがないか確認しておこう。
医学生医学生
挿入したら、直腸内腔と肛門管をぐるっと全周触るんですよね。消化器外科の実習で、指を回して腫瘤を探すように言われました。
ドクタードクター
まさにそれ。括約筋の緊張、ポリープや直腸癌などの腫瘤、潰瘍、硬結、圧痛を全周で確かめる。便の性状もわかるし、前壁越しには女性なら子宮頸部やDouglas窩、男性なら前立腺を触れる。Douglas窩の硬結は腹膜播種、いわゆるSchnitzler転移の手がかりにもなる。
医学生医学生
指を抜いたあと、指先についた便や血液を見るのも大事ですか。
ドクタードクター
大事だね。黒色便なのか鮮血なのか、粘液が混じるのかで、出血部位や疾患の見当がつく。それから、手順の最初に忘れてはいけないのが説明と同意だ。羞恥心の強い診察だから、目的を説明し、タオルなどで露出を最小限にし、異性の患者さんなら看護師に同席してもらう。
医学生医学生
説明と同意、体位、手袋、視診、挿入、触診、抜去後の確認という流れで覚えておきます。
ドクタードクター
完璧だ。臨床では、直腸指診は肛門疾患だけでなく、脊髄障害での括約筋緊張低下、前立腺肥大症や前立腺癌、骨盤内膿瘍の評価など幅広く役立つ。そして排便後の鮮血を「いつもの痔」と片づけて直腸癌の発見が遅れる例があるから、中高年では特に、指診と内視鏡で器質的疾患を除外する姿勢を持っておこう。

まとめ

直腸・肛門指診は、説明と同意を得たうえで、左側臥位(Sims位)を基本体位とし、手袋を着用して肛門周囲を視診し、潤滑剤を塗った示指をゆっくり挿入して直腸・肛門管を全周触診し、抜去後に指先の付着物を確認するという手順で行います。脚を伸ばした単なる仰臥位では肛門が隠れて診察できないため誤りで、代替として砕石位や膝胸位が用いられることはあります。指診では括約筋の緊張、腫瘤や圧痛、便の性状に加え、前壁越しにDouglas窩や前立腺も評価でき、羞恥心への配慮も欠かせません。排便後の鮮血は内痔核や裂肛が多いものの、中高年では直腸癌の可能性を常に念頭に置く必要があり、基本手技を正確に身につけることが見逃しを防ぐ第一歩になります。

解答・解説

正解はaです

症例の整理

48歳の女性が排便後の出血を訴えて受診した。普段から便が硬く、排便後に拭いた紙に鮮血がつくことが時々あり、前日は出血量が多かった。 ・鮮紅色の血液が紙に付着する、あるいは便の表面につく程度の出血は、肛門や直腸下部など出口に近い部位からの出血を示唆する(上部消化管からの出血では黒色便になる)。 ・硬便があり、排便時のいきみや硬い便の通過で傷つきやすい状況にある。 したがって、内痔核や裂肛(切れ痔)がまず考えられる。ただし、40歳代以降では直腸癌や大腸ポリープも同様の出血を起こしうるため、「痔だろう」と決めつけず、直腸・肛門の診察と必要に応じた大腸内視鏡検査で器質的疾患を除外することが重要である。

直腸・肛門指診の手順

1. 診察の目的と方法を説明して同意を得る。羞恥心に配慮し、カーテンやタオルで露出を最小限にする。異性の患者を診察する場合は看護師などに同席してもらう。 2. 体位をとる。わが国では、患者の負担と羞恥心が少ない左側臥位(Sims位:左を下にして横になり、膝と股関節を曲げて殿部を診察者側に突き出す姿勢)が標準である。ほかに砕石位、膝胸位が用いられることもある。 3. 手袋を着用する。 4. 視診:肛門周囲、会陰部、殿部の皮膚を観察し、外痔核、皮垂(スキンタグ)、裂肛、痔瘻の二次口、腫瘤、皮膚炎などを確認する。 5. 示指に潤滑剤(局所麻酔薬入りのゼリーなど)を十分に塗り、声をかけて力を抜いてもらいながら、ゆっくり愛護的に肛門へ挿入する。 6. 触診:肛門括約筋の緊張、肛門管と直腸の壁全周の腫瘤・硬結・圧痛、直腸内容(便の性状、血液)、直腸前壁越しにDouglas窩(女性では子宮頸部も、男性では前立腺)を調べる。 7. 抜去後、指先に付着した便や血液、粘液の性状を確認する。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。単純な仰臥位では肛門が診察台に面して視診も指の挿入もしにくく、標準的な体位ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  仰臥位で診察する。

    誤った手順であり、これが正解である。仰向けに寝て脚を伸ばした仰臥位では、肛門が診察台側に隠れてしまい、視診も示指の挿入も困難である。直腸・肛門指診の体位は、患者の羞恥心や身体的負担が少なく、肛門部を観察しやすい左側臥位(Sims位)が一般的である。そのほか、仰臥位で両下肢を挙上して開く砕石位(婦人科診察台などで行う)や、膝と胸を台につけて殿部を高く上げる膝胸位が用いられることもあるが、単なる仰臥位で行うものではない。

  2. ×b.  手袋を着用する。

    正しい手順である。直腸・肛門指診では便や血液、粘液に直接触れるため、標準予防策として必ず手袋を着用し、素手では行わない。患者・医療者双方の感染防止のためであり、診察後は手袋を外して手指衛生を行う。

  3. ×c.  肛門周囲を視診する。

    正しい手順である。指を挿入する前に、まず肛門周囲、会陰部、殿部を視診する。外痔核や脱出した内痔核、皮垂、裂肛、痔瘻の二次口(皮膚側の開口部)、肛門周囲膿瘍の発赤・腫脹、腫瘤、湿疹などを確認する。裂肛など強い痛みを伴う病変が見つかれば、指の挿入を慎重にするか控える判断にもつながる。挿入前に肛門周囲を指で触れて硬結や圧痛の有無を確かめることも有用である。

  4. ×d.  示指に潤滑剤を塗り肛門内に挿入する。

    正しい手順である。手袋をつけた示指に潤滑剤を十分に塗り、指の腹で肛門縁を軽く押さえて括約筋の緊張がゆるむのを待ってから、ゆっくり愛護的に挿入する。口で呼吸してもらう、軽くいきんでもらうなどの声かけで挿入しやすくなる。潤滑剤としてリドカインなどの局所麻酔薬を含むゼリーを使う場合は、事前に局所麻酔薬に対するアレルギーがないことを確認しておく。

  5. ×e.  直腸内腔や肛門管内の触診をする。

    正しい手順である。挿入後は指を回旋させて肛門管と直腸の壁を全周にわたって触れ、肛門括約筋の緊張、腫瘤(ポリープ、直腸癌)、潰瘍、硬結、圧痛の有無を調べる。直腸内の便の有無と性状、異物の有無も確認する。前壁越しには、女性では子宮頸部やDouglas窩、男性では前立腺を触れ、Douglas窩への腹膜播種(Schnitzler転移)や炎症の有無を評価できる。指を抜いた後は、指先に付着した便・血液・粘液の色や性状を観察する。

直腸・肛門指診で用いる体位

・左側臥位(Sims位):左を下にした側臥位で、股関節と膝を曲げて殿部を診察台の端に出す。患者の負担・羞恥心が少なく、日本で最も一般的である。 ・砕石位:仰臥位で両下肢を挙上・開脚する。婦人科や泌尿器科の診察台で用いられ、肛門部をよく観察できるが羞恥心が強い。 ・膝胸位:両膝と胸を台につけ殿部を高く上げる姿勢。直腸前壁や前立腺を触れやすいが、患者の負担・羞恥心が大きい。 ・ジャックナイフ位(腹臥位で殿部を挙上):主に肛門手術で用いられる。

排便に伴う鮮血の主な原因

・内痔核:歯状線より口側に生じ、痛みは少ない。排便時に滴下・噴出するような鮮血や脱出を伴うことがある。 ・裂肛:硬便の通過で肛門上皮が裂ける。排便時の鋭い痛みと紙につく程度の鮮血が特徴で、硬便・便秘の人に多い。慢性化すると見張りいぼ(皮垂)や肛門ポリープを伴う。 ・直腸癌、大腸ポリープ:便に血液が混じる、便が細くなる、残便感などを伴うことがある。痔と思い込まれて発見が遅れることがあるため注意が必要である。 ・その他:潰瘍性大腸炎(粘血便)、虚血性大腸炎、大腸憩室出血など。

直腸指診でわかること

肛門括約筋の緊張(脊髄障害などで低下)、直腸・肛門管の腫瘤、便の性状(黒色便、血便)、Douglas窩の腫瘤・圧痛(腹膜播種、骨盤内膿瘍)、男性では前立腺の大きさ・硬さ・圧痛(前立腺肥大症、前立腺癌、急性前立腺炎)。

POINT

・直腸・肛門指診は左側臥位(Sims位)が基本であり、単なる仰臥位では行わない。 ・手順は、説明と同意 → 体位 → 手袋着用 → 視診 → 潤滑剤を塗った示指をゆっくり挿入 → 触診 → 抜去後に指先の付着物を確認、である。 ・羞恥心への配慮(説明、露出の最小化、同席者)が欠かせない。 ・排便後の鮮血は痔核・裂肛が多いが、中高年では直腸癌の除外を忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。