なぜ結核だけは「何剤も同時に」飲むのか―耐性菌を生まない治療戦略
第120回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
多剤併用療法による治療が必要な疾患はどれか。
- a.結核
- b.梅毒
- c.レジオネラ症
- d.インフルエンザ
- e.マイコプラズマ肺炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
感染症で多剤併用療法を行う主な目的は、薬剤耐性の出現防止、抗菌スペクトルの補完、相乗効果の3つで、とくに菌量が膨大で単剤では耐性株が選択されやすい結核では多剤併用が標準治療です。肺結核の初回治療はイソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトール(またはストレプトマイシン)の4剤を2か月、その後2剤を4か月続けるのが基本で、確実な服薬のためにDOTSが推進されています。梅毒はペニシリン系、レジオネラ症はニューキノロン系やマクロライド系、マイコプラズマ肺炎はマクロライド系、インフルエンザは抗インフルエンザ薬を、いずれも単剤で治療します。多剤併用が標準となる疾患には、ほかに非結核性抗酸菌症、HIV感染症、H. pylori除菌、ハンセン病があります。「なぜ併用するのか」という理由から理解しておくと、抗菌薬の適正使用や耐性菌対策の考え方にもつながります。
解答・解説
正解はaです
感染症治療で複数の抗微生物薬を同時に使う「多剤併用療法」が行われる主な理由は次の3つである。 ①薬剤耐性の出現を防ぐ:病原体の数が非常に多い場合、ある薬剤に偶然耐性をもつ変異株が一定の割合で含まれている。単剤で治療するとその耐性株だけが生き残って増える(選択される)が、作用機序の異なる複数の薬剤を同時に使えば、すべてに同時に耐性をもつ株はきわめてまれなため、耐性化を防げる。 ②抗菌スペクトルを補う:原因菌が確定する前の重症感染症などで、単剤では想定される病原体を十分カバーできない場合に、別の薬剤を加えて補う。 ③相乗効果を得る:例として、腸球菌による感染性心内膜炎でのアンピシリンとアミノグリコシドの併用がある。 本問の選択肢の中で、多剤併用療法が「標準治療として必須」とされるのは結核である。結核菌は増殖が遅く、病巣(特に空洞)内には膨大な数の菌が存在し、単剤治療では短期間で耐性菌が選択されてしまう。また、増殖の盛んな菌・酸性環境の病巣内で活動が鈍った菌・細胞内の菌など、性質の異なる菌集団をそれぞれ殺菌する必要がある。このため、作用の異なる複数の抗結核薬を長期間併用するのが原則である。 一方、梅毒、レジオネラ症、インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎は、いずれも適切な単剤で治療が可能であり、多剤併用は原則として必要ない。
選択肢考察
- ○a. 結核
結核の標準治療は多剤併用療法である。肺結核の初回標準治療(ピラジナミドを使える場合)は、初期強化期にイソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、ピラジナミド(PZA)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)の4剤を2か月間投与し、その後の維持期にINHとRFPの2剤を4か月間投与する(合計6か月)。高齢や肝障害などでPZAが使えない場合は、INH・RFP・EB(またはSM)の3剤を2か月、その後INH・RFPを7か月投与する(合計9か月)。多剤を併用する目的は、膨大な菌数の中に含まれる自然耐性株の選択を防ぐことと、性質の異なる菌集団を確実に殺菌して再発を防ぐことである。治療成功には確実な服薬が不可欠であり、医療者の目の前で服薬を確認する直接服薬確認療法(DOTS)が推進されている。
- ×b. 梅毒
梅毒の原因菌であるTreponema pallidumはペニシリンに対する感受性が保たれており、治療はペニシリン系抗菌薬の単剤で行う。わが国ではアモキシシリンの内服や、ベンザチンペニシリンGの筋注が用いられる。ペニシリンアレルギーがある場合はテトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)を単剤で用いる。治療開始後数時間〜1日以内に、菌体が壊れて放出される成分により発熱・悪寒・筋肉痛・皮疹の増悪などが一過性に生じることがあり、Jarisch-Herxheimer反応とよばれる。これは薬剤アレルギーではないため、通常は治療を継続する。
- ×c. レジオネラ症
レジオネラ属菌はマクロファージなどの細胞内で増殖する細胞内寄生菌である。そのため、細胞内への移行性が良いニューキノロン系(レボフロキサシンなど)やマクロライド系(アジスロマイシンなど)を単剤で用いるのが標準的である。細胞内への移行が乏しいβ-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)やアミノグリコシド系は臨床的に無効である。重症例でリファンピシンの追加が検討されることもあるが、多剤併用が必須というわけではない。
- ×d. インフルエンザ
インフルエンザは多くの場合、自然に軽快するウイルス感染症である。抗ウイルス薬を使う場合も、ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビル)やキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(バロキサビル マルボキシル)のいずれかを単剤で用いる。特に、重症化リスクの高い患者(高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患をもつ人など)や入院を要する患者では、発症早期からの投与が推奨される。複数の抗インフルエンザ薬の併用は標準治療ではない。
- ×e. マイコプラズマ肺炎
Mycoplasma pneumoniaeは細胞壁をもたないため、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗菌薬は無効である。第一選択はマクロライド系(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)の単剤投与である。マクロライド耐性株が疑われる場合や、マクロライドで解熱しない場合は、テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)やニューキノロン系に切り替える。テトラサイクリン系は歯の着色やエナメル質形成不全の懸念があるため、8歳未満の小児には原則として用いない。いずれも単剤で治療するのが基本であり、多剤併用は必要ない。
多剤併用療法が標準となる主な感染症
・結核:INH+RFP+PZA+EB(またはSM)の4剤併用で開始する。 ・非結核性抗酸菌症(肺MAC症など):クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)+RFP+EBを基本とする多剤併用。 ・HIV感染症:作用機序の異なる抗HIV薬を3剤以上(近年は2剤レジメンもある)組み合わせる抗レトロウイルス療法(ART)。耐性ウイルスの出現防止が目的である。 ・Helicobacter pylori除菌:酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬またはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン(二次除菌ではメトロニダゾール)の3剤併用。 ・ハンセン病:リファンピシン、ダプソン、クロファジミンによる多剤併用療法(MDT)。 ・C型肝炎:複数の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の配合剤。
結核治療の主な副作用
・イソニアジド:肝障害、末梢神経障害(ビタミンB6の併用で予防) ・リファンピシン:肝障害、体液(尿・涙など)の橙赤色着色、薬物代謝酵素(CYP3A4など)誘導による他剤との相互作用 ・ピラジナミド:肝障害、高尿酸血症 ・エタンブトール:視神経障害(視力低下・色覚異常) ・ストレプトマイシン:第8脳神経障害(聴力・平衡障害)、腎障害
抗菌薬の適正使用
不必要な併用や広域抗菌薬の長期使用は、薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)を助長する。原因菌の同定と感受性検査の結果に基づいて、より狭域の抗菌薬へ変更すること(デエスカレーション)が求められる。
POINT
・結核は耐性菌の出現を防ぐため、多剤併用療法が標準である(INH+RFP+PZA+EB/SMを2か月、続いてINH+RFPを4か月)。 ・梅毒はペニシリン系単剤(アレルギー時はテトラサイクリン系)で治療する。 ・レジオネラ症は細胞内移行性の良いニューキノロン系またはマクロライド系の単剤、β-ラクタム系は無効。 ・マイコプラズマ肺炎はマクロライド系が第一選択、細胞壁がないためβ-ラクタム系は無効。 ・多剤併用が標準の感染症:結核、非結核性抗酸菌症、HIV、H. pylori除菌、ハンセン病。
