結核と同じ抗酸菌でも薬は違う―肺MAC症の主役はマクロライド
第120回医師国家試験 D問題 第29問
国試問題にチャレンジ
56歳の女性。血痰と咳嗽を主訴に来院した。1年前から咳嗽と喀痰とを自覚していた。以前から胸部単純CTで中葉舌区の小結節影と気管支拡張所見を指摘されており,外来で定期的にフォローアップされていた。これまで喀痰抗酸菌培養でMycobacterium aviumが2回分離されている。3日前から血痰が出たため受診した。今回の喀痰抗酸菌染色は陽性だったが,結核菌PCR検査は陰性であった。胸部単純CTを撮影したところ病状が悪化しており,薬物治療を開始する方針となった。 リファンピシン,エタンブトールとともに使用する薬剤はどれか。
- a.ST合剤
- b.イソニアジド
- c.ピラジナミド
- d.アムホテリシンB
- e.クラリスロマイシン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗酸菌塗抹陽性の患者ではまず結核の除外が最優先であり、結核菌PCR陰性で同一菌種の非結核性抗酸菌が喀痰から2回以上培養され、特徴的な画像所見を伴えば肺NTM症と診断します。中高年女性の中葉・舌区に気管支拡張と小結節がみられる結節・気管支拡張型は肺MAC症の典型像です。治療はクラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)を軸に、リファンピシン、エタンブトールを併用する3剤療法が標準で、重症・空洞例ではアミノグリコシドを追加します。MACはイソニアジドとピラジナミドに自然耐性であり、マクロライド単剤投与は耐性化を招くため避けなければなりません。結核とNTM症の治療薬の違いを対比して理解することは、増加する肺NTM症に適切に対応するための基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
56歳の女性で、1年来の咳嗽・喀痰という慢性の呼吸器症状があり、今回は血痰を契機に受診した。以前から胸部CTで中葉・舌区の小結節影と気管支拡張所見を指摘されている。中葉・舌区に気管支拡張と小結節(小葉中心性の粒状影・分岐状影)が分布するパターンは、中高年のやせ型女性に多い肺MAC症の結節・気管支拡張型(nodular/bronchiectatic型)に典型的である。
診断のプロセス
喀痰抗酸菌塗抹が陽性であっても、まず否定すべきは公衆衛生上重要な結核である。本例では結核菌PCRが陰性であり、結核菌ではない抗酸菌、すなわち非結核性抗酸菌(NTM:nontuberculous mycobacteria)による病変と考えられる。 NTMは土壌や水系など環境中に常在するため、喀痰から1回検出されただけでは汚染や一過性の定着の可能性が否定できない。そのため肺NTM症の診断には、画像所見(結節影・気管支拡張・空洞など)があり他疾患が除外されることに加え、喀痰培養で同一菌種が2回以上検出されること(または気管支洗浄液で1回、あるいは肺生検で組織所見と培養陽性)が求められる。本例はMycobacterium aviumが喀痰から2回培養されており、特徴的な画像所見と合わせて肺MAC症(Mycobacterium avium complex症)の診断基準を満たす。
設問の考え方
肺MAC症は進行が緩徐な例も多く、診断後ただちに全例を治療するわけではないが、本例のように症状(血痰)があり画像が悪化している場合は化学療法の適応となる。標準治療は、マクロライド系薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)、リファンピシン、エタンブトールの3剤併用である。マクロライドはMACに対する治療効果の中心となる薬剤であり、リファンピシンとエタンブトールは主にマクロライド耐性の出現を防ぐ役割を担う。したがって、リファンピシン、エタンブトールとともに用いるのはクラリスロマイシンである。
選択肢考察
- ×a. ST合剤
ST合剤はスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤で、葉酸合成経路の2か所を阻害する。ニューモシスチス肺炎の治療・予防、尿路感染症、トキソプラズマ症、ノカルジア症などに用いられるが、MACには有効性が乏しく、肺MAC症の標準治療薬ではない。
- ×b. イソニアジド
イソニアジド(INH)は結核菌のミコール酸合成を阻害する結核治療の中心的薬剤で、潜在性結核感染症の治療にも用いられる。しかしMACはイソニアジドに対して自然耐性を示すため、肺MAC症の治療には用いない。結核と非結核性抗酸菌症とで治療薬の組み合わせが異なる点が本問の鍵である。
- ×c. ピラジナミド
ピラジナミド(PZA)は結核の初期強化期(INH+RFP+PZA+EBまたはSMの4剤を2か月)に使用され、治療期間を6か月に短縮するうえで重要な薬剤である。しかしMACはピラジナミドに自然耐性であり、肺MAC症の治療には用いない。
- ×d. アムホテリシンB
アムホテリシンBは真菌細胞膜のエルゴステロールに結合して膜障害を起こすポリエン系抗真菌薬で、侵襲性アスペルギルス症、ムーコル症、クリプトコックス髄膜炎などの重症深在性真菌症に用いる。抗酸菌(細菌)には効果がなく、肺MAC症の治療薬ではない。
- ○e. クラリスロマイシン
クラリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬で、細菌リボソームの50Sサブユニットに結合して蛋白合成を阻害する。MACに対して最も強い抗菌活性をもつキードラッグであり、リファンピシン、エタンブトールとの3剤併用が肺MAC症の標準治療である。マクロライドを単剤で投与すると短期間で耐性化し、耐性化すると治療成績が著しく悪化するため、必ず多剤併用で用いる。現在はクラリスロマイシンの代わりにアジスロマイシンを用いることも認められている。
非結核性抗酸菌症(NTM症)の概要
結核菌群とらい菌以外の抗酸菌による感染症で、日本では肺NTM症の罹患率が増加しており、結核を上回るとされる。原因菌の大部分はMycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareであり、両者をまとめてMAC(Mycobacterium avium complex)と呼ぶ。次いでMycobacterium kansasii、Mycobacterium abscessusなどが続く。環境(土壌・水回り・浴室など)から経気道的に感染し、ヒトからヒトへの感染は基本的にないため、結核と異なり隔離は不要である。
病型
・結節・気管支拡張型:中高年のやせ型女性に多く、中葉・舌区を中心に気管支拡張と小結節影を認める。基礎疾患のない人にも生じる。 ・線維空洞型:喫煙歴や陳旧性肺結核、COPDなどの既存肺疾患をもつ中高年男性に多く、上葉に空洞を形成し、結核に類似する。進行しやすい。 ・播種型:進行したHIV感染症などの高度免疫不全で生じる全身播種性感染症。
診断基準(肺NTM症)
臨床的基準:胸部画像で結節影、気管支拡張を伴う小結節、空洞などを認め、他疾患を除外できること。 細菌学的基準:喀痰培養で同一菌種が2回以上陽性、気管支洗浄液で1回以上陽性、または肺生検で抗酸菌症に合致する組織所見と組織・喀痰・気管支洗浄液いずれかの培養陽性。
肺MAC症の治療
・基本:マクロライド(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)+リファンピシン+エタンブトールの3剤併用。 ・空洞のある例や重症例では、アミノグリコシド系薬(ストレプトマイシンまたはアミカシン)の注射を一定期間追加する。 ・標準治療で菌陰性化が得られない難治例では、アミカシンリポソーム吸入製剤の追加が選択肢となる。 ・治療期間は長く、培養陰性化後もおおむね1年以上継続するのが目安である。それでも再燃・再感染が多い。 ・限局性病変で薬物療法の効果が不十分な場合は外科的切除も検討される。 ・エタンブトールでは視神経障害(視力低下・色覚異常)、リファンピシンでは肝障害や薬物相互作用(CYP3A4誘導)、クラリスロマイシンではQT延長や薬物相互作用に注意する。
結核治療との対比
結核の標準治療はINH+RFP+PZA+EB(またはSM)で2か月、その後INH+RFPで4か月である。MACはINHとPZAに自然耐性であるため、肺MAC症ではこれらの代わりにマクロライドを軸に組み立てる。なお、M. kansasii症はINH+RFP+EBで治療され、結核に近い治療反応を示す。
POINT
・中高年女性、中葉・舌区の気管支拡張と小結節影、喀痰で同一菌種のNTMが2回以上培養陽性→肺MAC症。 ・抗酸菌塗抹陽性ではまず結核を除外する(結核菌PCRなど)。 ・肺MAC症の標準治療:マクロライド(クラリスロマイシン/アジスロマイシン)+リファンピシン+エタンブトール。重症・空洞例ではアミノグリコシドを追加。 ・マクロライド単剤投与は耐性化を招くため禁忌的に避ける。 ・MACはイソニアジド・ピラジナミドに自然耐性であり、結核の治療薬とは組み合わせが異なる。
