お酒をやめた後に何が起こるか―アルコール依存症治療の「4つの柱」を整理する
第114回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
アルコール依存症の治療について適切なのはどれか。
- a.入院治療が第一選択である。
- b.断酒会は匿名参加が原則である。
- c.離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。
- d.脳症の予防としてビタミンDは有効である。
- e.患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
アルコール依存症の治療は、解毒期・リハビリテーション期・断酒維持期の流れで進み、入院か外来かは離脱症状の重さ、身体合併症、治療意欲、家族の状況などで判断します。離脱症状は、アルコールによる抑制に適応した中枢神経が断酒で過剰に興奮して生じるもので、交差耐性をもつベンゾジアゼピン系薬が離脱けいれんや振戦せん妄の予防・治療の第一選択です。Wernicke脳症はビタミンB1欠乏が原因で、糖を含む輸液の前にB1を補うことが重要です。自助グループでは匿名参加が原則なのはAAで、断酒会は実名・家族参加が特徴であり、シアナミドやジスルフィラムなどの抗酒薬は本人の同意のもとで使います。離脱管理から倫理的配慮まで治療全体の流れを理解しておくことは、救急や一般病棟でも出会うアルコール関連の患者さんの診療に直結します。
解答・解説
正解はcです
アルコール依存症の治療は、大きく(1) 解毒期(離脱症状の管理と身体合併症の治療)、(2) リハビリテーション期(断酒の動機づけ、心理社会的治療、薬物療法)、(3) 退院・外来後の断酒維持(自助グループへの参加、外来通院)という流れで進む。本問はこの各段階の基本事項を問うている。 解毒期で最も重要なのは、飲酒の中断・減量によって起こる離脱症状への対応である。アルコールは脳内でGABA-A受容体の働きを強め、NMDA型グルタミン酸受容体の働きを弱める中枢抑制作用をもつ。長期間の飲酒で脳はこの状態に適応しているため、急に飲酒をやめると抑制が外れて中枢神経が過剰に興奮し、振戦、発汗、頻脈、不眠、けいれん発作、幻覚、振戦せん妄などが出現する。アルコールと同じくGABA-A受容体に作用するベンゾジアゼピン系薬は、アルコールの代わりに興奮を抑え(交差耐性を利用した置換)、離脱けいれんや振戦せん妄の予防・治療に有効であるため、離脱症状の標準治療薬となっている。 あわせて、栄養障害によるビタミンB1欠乏への対策、自助グループの特徴、抗酒薬使用時の本人同意の必要性も整理しておく。
選択肢考察
- ×a. 入院治療が第一選択である。
誤り。アルコール依存症の治療形態は、患者の状態に応じて外来と入院を選ぶ。重い離脱症状(離脱けいれん、振戦せん妄)の既往やそのおそれがある場合、重篤な身体合併症(肝硬変、膵炎、消化管出血など)や精神症状がある場合、外来で断酒が続けられない場合、家族が疲弊して家庭での支援が難しい場合などは入院治療を検討する。一方、離脱症状が軽く、治療意欲が高く、指示を守って通院できる患者では外来治療が可能であり、一律に入院が第一選択というわけではない。
- ×b. 断酒会は匿名参加が原則である。
誤り。アルコール依存症の代表的な自助グループには、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコホーリクス・アノニマス)がある。AAは米国で始まった団体で、名前のとおり匿名(ニックネーム)で参加するのが原則である。これに対し、断酒会は日本で発展した団体(全国組織は全日本断酒連盟)で、実名で参加し、家族も一緒に例会に参加することが多いのが特徴である。匿名性が原則なのはAAであり、断酒会ではない。
- ○c. 離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。
正しい。アルコール離脱症状は、慢性的な飲酒で抑制状態に適応していた中枢神経が、飲酒中断により過剰に興奮することで生じる。ベンゾジアゼピン系薬はアルコールと同じくGABA-A受容体の働きを強める薬で、アルコールと交差耐性をもつため、アルコールの代わりに中枢神経の興奮を鎮めることができる。離脱けいれんや振戦せん妄の予防・治療効果が確立しており、第一選択薬である。ジアゼパムやクロルジアゼポキシドなどの長時間作用型を用いて症状に合わせて漸減するのが一般的で、肝機能障害が高度な場合は肝代謝の影響を受けにくいロラゼパムなどを選ぶこともある。
- ×d. 脳症の予防としてビタミンDは有効である。
誤り。アルコール依存症に伴う代表的な脳症はWernicke脳症で、偏った食事や吸収障害によるビタミンB1(チアミン)欠乏が原因である。意識障害、眼球運動障害(眼振、外眼筋麻痺)、小脳失調性歩行の三徴を示し、放置すると健忘・作話を特徴とするKorsakoff症候群へ移行しうる。予防・治療に有効なのはビタミンB1の投与であり、ビタミンDではない。特にブドウ糖を含む輸液を行う際には、ビタミンB1を先に(または同時に)投与しないとWernicke脳症を誘発・悪化させるおそれがある。
- ×e. 患者に知らせずに抗酒薬を食事に混ぜて投与する。
誤り。抗酒薬(シアナミド、ジスルフィラム)はアセトアルデヒド脱水素酵素を阻害し、服用後に飲酒すると血中アセトアルデヒドが蓄積して顔面紅潮、頭痛、悪心・嘔吐、動悸、血圧低下などの不快な反応(ジスルフィラム−アルコール反応)を起こす。飲酒すると苦しい思いをするという認識を本人がもつことで断酒を支える薬であり、本人の同意と理解のもとで服用することが前提である。知らせずに投与すると、本人が飲酒した際に予期せぬ重篤な反応(ショックなど)が起こって危険であるうえ、患者の自己決定権を侵害し、医師と患者の信頼関係も損なうため、倫理的にも許されない。
アルコール離脱症状の経過(目安)
早期離脱症状: 最終飲酒から数時間〜48時間程度。手指振戦、発汗、頻脈、血圧上昇、不安、焦燥、不眠、悪心など。離脱けいれん(全般性強直間代発作)もこの時期に起こりやすい。意識が比較的保たれたまま幻聴などが生じるアルコール幻覚症がみられることもある。 後期離脱症状(振戦せん妄): 最終飲酒から2〜4日目ごろに出現しやすい。意識障害(せん妄)に、粗大な振戦、発汗・発熱・頻脈などの著明な自律神経症状、小動物や虫などの幻視を伴う。治療しないと死亡に至ることもある重篤な状態で、ベンゾジアゼピン系薬による予防と全身管理が重要である。
アルコール依存症の薬物療法
抗酒薬(嫌酒薬): シアナミド、ジスルフィラム。アセトアルデヒド脱水素酵素を阻害し、飲酒時に不快反応を起こす。 断酒補助薬: アカンプロサート。グルタミン酸神経系の過剰な興奮を抑え、飲酒欲求を減らす。飲酒時の不快反応は起こさない。 飲酒量低減薬: ナルメフェン。オピオイド受容体に作用して飲酒欲求を抑え、飲酒量を減らすことを目標とする(減酒治療)。 いずれも心理社会的治療と組み合わせて用いる。
心理社会的治療と自助グループ
認知行動療法、動機づけ面接、集団療法、家族への支援などを行う。退院後は自助グループ(断酒会:実名参加・家族参加が多い、AA:匿名参加)への参加が断酒継続に役立つ。
Wernicke-Korsakoff症候群
Wernicke脳症: ビタミンB1欠乏による急性脳症で、意識障害・眼球運動障害・失調の三徴。乳頭体や第三脳室周囲などに病変を生じる。 Korsakoff症候群: 記銘力障害、見当識障害、作話を特徴とする慢性期の健忘症候群。 治療・予防はビタミンB1の速やかな補充である。
POINT
・アルコール離脱症状(離脱けいれん・振戦せん妄)の予防・治療はベンゾジアゼピン系薬。 ・Wernicke脳症はビタミンB1欠乏。糖を含む輸液の前にビタミンB1を補充する。 ・匿名参加はAA、断酒会は実名参加。 ・抗酒薬(シアナミド、ジスルフィラム)は本人の同意のもとで使用する。無断投与は危険かつ非倫理的。 ・入院か外来かは離脱症状・身体合併症・治療意欲・家族状況などで判断し、入院が一律の第一選択ではない。
