セファゾリンは緑膿菌に届かない―「菌の性質」と「薬のスペクトラム」で解く抗菌薬の組合せ
第114回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
感染症と抗菌薬の組合せで誤っているのはどれか。
- a.オウム病 ―― ミノサイクリン
- b.放線菌症 ―― アンピシリン
- c.ノカルジア症 ―― ST合剤
- d.緑膿菌感染症 ―― セファゾリン
- e.レジオネラ症 ―― レボフロキサシン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗菌薬の選択は、原因微生物の性質と薬のスペクトラムの2つの軸で考えます。クラミジアによるオウム病やレジオネラ症のような細胞内寄生菌にはβ-ラクタム系が効かず、オウム病にはミノサイクリンなどのテトラサイクリン系、レジオネラ症にはレボフロキサシンなどのニューキノロン系やマクロライド系を用います。放線菌症はペニシリン系、ノカルジア症はST合剤をいずれも長期投与するのが基本です。一方、第一世代セフェムのセファゾリンはグラム陽性球菌に強いものの緑膿菌には無効であり、緑膿菌にはピペラシリン、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系などの抗緑膿菌薬を選ぶ必要があります。代表的な菌と第一選択薬の対応を理解しておくことは、院内感染や重症感染症での適切な初期治療に直結します。
解答・解説
正解はdです
代表的な感染症と、その第一選択またはそれに準じる抗菌薬の組合せを問う問題である。「誤っているのはどれか」型なので、その感染症に効かない(原因菌が感受性をもたない)抗菌薬を組み合わせた選択肢を探す。 考え方の軸は二つある。一つは原因微生物の性質で、細胞壁をもたない、あるいは細胞内に寄生する微生物(クラミジア、マイコプラズマ、レジオネラなど)には、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系薬(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系)が効かず、細胞内へよく移行するテトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系を用いる。もう一つは抗菌薬のスペクトラムで、同じセフェム系でも世代によって効く菌が大きく異なる。緑膿菌はグラム陰性桿菌の中でも多くの抗菌薬に自然耐性を示すため、「抗緑膿菌作用をもつ薬」を個別に覚えておく必要がある。第一世代セフェムのセファゾリンは緑膿菌に無効であり、これが誤りの組合せとなる。
選択肢考察
- ×a. オウム病 ―― ミノサイクリン
正しい組合せである。オウム病はChlamydia psittaci(クラミジア・シッタシ)による人獣共通感染症で、感染した鳥(インコ、オウム、ハトなど)の排泄物を吸い込むことで肺炎を起こす。クラミジアは偏性細胞内寄生体であり、ペプチドグリカンからなる典型的な細胞壁をもたないため、β-ラクタム系薬は無効である。テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)が第一選択で、マクロライド系やニューキノロン系も代替薬となる。
- ×b. 放線菌症 ―― アンピシリン
正しい組合せである。放線菌症はActinomyces israeliiなどの嫌気性グラム陽性桿菌による慢性化膿性疾患で、口腔内の常在菌が原因となり、顔面・頸部、胸部(肺)、腹部・骨盤(子宮内避妊具に関連)に病変を作る。膿の中に硫黄顆粒(ドルーゼ)と呼ばれる菌塊がみられるのが特徴である。ペニシリン系に良好な感受性を示し、ペニシリンGやアンピシリンを大量・長期(数週〜数か月)に投与するのが基本である。
- ×c. ノカルジア症 ―― ST合剤
正しい組合せである。ノカルジア症はNocardia属(好気性グラム陽性の分枝状桿菌)による感染症で、土壌中の菌を吸入して肺病変(空洞を伴うこともある)を作り、脳膿瘍など全身に播種することがある。細胞性免疫が低下した患者(ステロイド・免疫抑制薬使用者、臓器移植後、HIV感染者など)に多い。ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が第一選択で、再発を防ぐため数か月以上の長期投与を行う。重症例や中枢神経病変ではアミカシンやイミペネムなどを併用することもあるが、基本薬がST合剤であることに変わりはない。
- ○d. 緑膿菌感染症 ―― セファゾリン
誤った組合せであり、これが正解である。セファゾリンは第一世代セフェム系薬で、黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性株)やレンサ球菌などのグラム陽性球菌に強く、術後感染予防にも用いられるが、緑膿菌には抗菌活性をもたない。緑膿菌は外膜の透過性が低く、薬剤排出ポンプや染色体性のβ-ラクタマーゼ(AmpC)をもつため、多くの抗菌薬に自然耐性である。緑膿菌に用いるのは、抗緑膿菌作用をもつβ-ラクタム系(ピペラシリン、ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、メロペネムなどのカルバペネム系、アズトレオナム)、アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン)、ニューキノロン系(シプロフロキサシン、レボフロキサシン)などである。
- ×e. レジオネラ症 ―― レボフロキサシン
正しい組合せである。レジオネラ症はLegionella pneumophilaなどによる感染症で、汚染された循環式浴槽、冷却塔、給湯設備などから発生するエアロゾルの吸入で感染する。マクロファージ内で増殖する細胞内寄生菌であるため、β-ラクタム系薬は無効で、細胞内への移行性が高いニューキノロン系(レボフロキサシンなど)やマクロライド系(アジスロマイシンなど)を用いる。重症肺炎となりやすく、低ナトリウム血症、肝機能障害、意識障害などを伴うことがある。診断には尿中抗原検査が有用である。
β-ラクタム系薬が効かない病原体
細胞壁をもたない: マイコプラズマ 細胞内寄生性で細胞内移行が問題となる: クラミジア(オウム病、肺炎クラミジア、性器クラミジア)、レジオネラ、リケッチア(つつが虫病など) これらにはテトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系を用いる(リケッチアにはテトラサイクリン系が第一選択)。
セフェム系の世代とスペクトラムの概略
第一世代(セファゾリンなど): グラム陽性球菌に強い。一部のグラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラなど)にも効く。緑膿菌には無効。 第二世代(セフメタゾール、セフォチアムなど): グラム陰性菌への活性が増す。セファマイシン系のセフメタゾールは嫌気性菌(Bacteroides)にも効く。 第三世代(セフトリアキソン、セフォタキシム、セフタジジム): グラム陰性菌に強い。抗緑膿菌作用をもつのはセフタジジムである(セフトリアキソンは無効)。 第四世代(セフェピムなど): グラム陽性・陰性の両方に広く効き、緑膿菌にも有効。
放線菌とノカルジアの比較
放線菌(Actinomyces): 嫌気性、抗酸性染色陰性、口腔内常在菌、硫黄顆粒、治療はペニシリン系の大量長期投与。 ノカルジア(Nocardia): 好気性、弱抗酸性(改良抗酸染色で染まる)、土壌菌、免疫不全者に多い、治療はST合剤の長期投与。 どちらもグラム陽性の分枝状桿菌で、肺に空洞性病変を作ることがあり、Gram染色像だけでは区別しにくい。抗酸性染色の有無と培養条件で鑑別する。
POINT
・セファゾリン(第一世代セフェム)は緑膿菌に無効。抗緑膿菌薬はピペラシリン、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム、アズトレオナム、アミノグリコシド、ニューキノロンなど。 ・オウム病(クラミジア): テトラサイクリン系が第一選択。 ・放線菌症: ペニシリン系の大量長期投与。 ・ノカルジア症: ST合剤の長期投与。 ・レジオネラ症: ニューキノロン系またはマクロライド系。β-ラクタム系は無効。
