StudyMed医師国家試験

「湿疹」に見えて4年治らない目頭の紅斑―異型細胞はどこから増える?日光角化症と表皮の層構造

第114回医師国家試験 D問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第114回 D問題 第62問

78歳の女性。顔面の皮疹を主訴に来院した。4年前から右内眼角部に皮疹が出現し,徐々に増大したため受診した。受診時に右内眼角部に鱗屑を伴う不整形の紅斑を認める。紅斑の中央部から皮膚生検を行った。顔面の写真(A)及び生検病理組織像(B)を別に示す。  異型角化細胞の増殖がみられるのはどれか。

第114回 D問題 第62問の問題画像
  1. a.角質層
  2. b.透明層
  3. c.顆粒層
  4. d.有棘層
  5. e.基底層

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の顔面にできた鱗屑を伴う紅斑の病理像から、異型角化細胞がどの層で増殖しているかを答える問題だ。臨床像から疾患を推定し、その疾患の病理の特徴を表皮の層構造と結びつけられるかがカギになる。まず、高齢者の露光部に長く続く鱗屑性紅斑と聞いて、何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
湿疹や白癬もありそうですが、4年もかけて少しずつ大きくなっているのは炎症にしては長すぎる気がします。
ドクタードクター
鋭いね。数日から数週で変化する炎症性疾患と違って、年単位で改善せずに増大するのは腫瘍性病変を疑うサインだ。鑑別には日光角化症、Bowen病、基底細胞癌、有棘細胞癌などが挙がる。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、高齢の方の顔の「治らない湿疹」が生検したら日光角化症だった、という症例を見ました。
ドクタードクター
まさに典型的な落とし穴だね。日光角化症は長年の紫外線曝露で角化細胞に遺伝子異常が蓄積して生じる表皮内の病変で、有棘細胞癌の前癌病変と位置づけられる。顔面や頭部、手背などの露光部に、鱗屑や痂皮を伴う紅斑として現れるんだ。では、表皮の層構造を下から言えるかな。
医学生医学生
下から基底層、有棘層、顆粒層、透明層、角質層です。組織学の実習で何度もスケッチしました。
ドクタードクター
完璧だ。基底層は1層の円柱状の細胞が並び、表皮幹細胞を含んで細胞分裂が起こる場所。ここで生まれた細胞が上へ移動しながら分化して、最後は角質となって剥がれ落ちる。では、紫外線でDNAが傷ついた細胞の異常な増殖はどこから始まると思う?
医学生医学生
分裂している場所だから……基底層でしょうか。
ドクタードクター
正解。日光角化症では、核が腫大して大小不同や濃染を示す異型角化細胞が、基底層を中心とした表皮の下層に増殖する。生検組織でも、異型細胞が表皮の下層、基底層付近に並んでいて、上の層の細胞の成熟は保たれている。これが日光角化症の典型像なんだ。
医学生医学生
有棘層は表皮で一番厚い層なので、そこで増殖しているのかと少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいポイントだね。日光角化症では有棘層の細胞は多くの部分で異型に乏しく、表皮はむしろ萎縮して薄くなることが多い。進行して異型細胞が上へ広がれば有棘層にも及ぶけれど、本質的な所見ではない。表皮全層に異型が及ぶのはBowen病の特徴で、ここが重要な鑑別点だ。
医学生医学生
角質層や顆粒層にも変化はあるんでしょうか。
ドクタードクター
あるよ。基底層の異型細胞が正常に分化できないため、角質層に核が残る錯角化や過角化が起こり、その部分で顆粒層が薄くなることもある。ただし、それは分化異常による二次的な変化で、異型細胞が増殖する場ではない。角質層はそもそも核を失った細胞の層だから、増殖はしないんだ。
医学生医学生
透明層は手掌や足底にしかない層だったので、顔面ではそもそも見えないですね。
ドクタードクター
その通り。顔面の皮膚では透明層は通常みられないから、選択肢としては真っ先に外せる。これで、基底層に限局した異型なら日光角化症、全層性ならBowen病、という整理ができたね。
医学生医学生
異型細胞が基底膜を越えて真皮に入ったら、有棘細胞癌になるということですか。
ドクタードクター
そう。基底層に限局、表皮全層、真皮浸潤という異型の広がりの段階で、日光角化症、Bowen病、有棘細胞癌を区別できる。有棘細胞癌では、角化した癌細胞が同心円状に重なる癌真珠もみられる。ちなみに基底細胞癌は名前が似ているけれど、基底細胞様の細胞が胞巣をつくり、辺縁で柵状に配列する別の腫瘍で、黒色調の結節や潰瘍を形成することが多い。
医学生医学生
治療はやはり切除になるんでしょうか。
ドクタードクター
外科的切除のほか、液体窒素による凍結療法、イミキモドやフルオロウラシルの外用、光線力学療法などが選択肢になる。一部は有棘細胞癌へ進展するから、見逃さないことが大切だ。臨床では、高齢者の露光部にある「湿疹」がステロイド外用でも治らない、長く続く、というときは日光角化症を疑って生検を考えよう。紫外線対策の指導も再発予防として欠かせないよ。

まとめ

日光角化症は、長期の紫外線曝露によって高齢者の顔面などの露光部に生じる、鱗屑を伴う紅斑で、有棘細胞癌の前癌病変とされる表皮内病変です。表皮は下から基底層・有棘層・顆粒層・透明層・角質層で構成され、細胞分裂の場である基底層を中心に異型角化細胞が増殖し、表皮下層に限局するのが特徴です。異型が表皮全層に及べばBowen病、基底膜を越えて真皮に浸潤すれば有棘細胞癌であり、異型の広がりで3者を区別できます。角質層の錯角化や顆粒層の菲薄化は二次的な変化にすぎず、透明層は手掌・足底にしかみられません。長く治らない顔面の「湿疹」では本症を疑って生検を検討することが、皮膚癌の早期発見につながります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・78歳の女性。高齢者で、皮膚悪性腫瘍・前癌病変の好発年齢である。 ・右内眼角部(目頭)という顔面の露光部に皮疹がある。 ・4年前に出現し、徐々に増大している。数日〜数週で変化する炎症性疾患とは異なり、慢性・緩徐進行性の経過である。 ・鱗屑を伴う不整形の紅斑。鱗屑は表皮(特に角化)の異常を示唆する。 ・生検組織:表皮の下層、基底層付近に核の腫大した異型角化細胞が増殖している。

診断へのプロセス

高齢者の顔面露光部に生じた、鱗屑を伴う紅斑の鑑別には、湿疹・皮膚炎、白癬、日光角化症(光線角化症、老人性角化症)、Bowen病、基底細胞癌、有棘細胞癌などが挙がる。 ・湿疹や白癬は臨床像だけでは区別が難しいこともあるが、4年にわたって改善なく増大し続ける経過は炎症性疾患としては不自然である。 ・基底細胞癌は黒色調の結節や潰瘍を形成することが多く、有棘細胞癌はより隆起・潰瘍化して比較的速く増大することが多い。 ・Bowen病は表皮内癌で、異型細胞が表皮全層に広がる(全層性異型)。 本例の組織では、異型角化細胞の増殖が表皮の基底層を中心とした下層に限局しており、上層の細胞の成熟は保たれている。高齢者の露光部に生じた鱗屑性紅斑という臨床像と合わせ、日光角化症と診断できる。

設問の考え方

日光角化症は、長期の紫外線曝露で表皮の角化細胞(ケラチノサイト)に遺伝子異常が蓄積して生じる表皮内の前癌病変(早期の有棘細胞癌とする考え方もある)である。病理学的に異型角化細胞はまず基底層に出現・増殖し、表皮下層に限局するのが特徴である。この点が、異型が表皮全層に及ぶBowen病や、真皮へ浸潤する有棘細胞癌との違いになる。表皮の各層の構造を理解しておけば、異型細胞の増殖の場が基底層であることを答えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  角質層

    角質層は核を失った角化細胞が積み重なった表皮の最外層であり、細胞は増殖しない。日光角化症では、基底層の異型細胞が正常に分化できないことを反映して、過角化や錯角化(角質層に核が残る状態)がみられる。異型細胞の直上の部分では錯角化が、毛包・汗管の開口部の上では正常な角化が保たれ、両者が交互に並ぶことがある。しかし、これは二次的な角化異常であり、異型角化細胞が増殖する場ではない。

  2. ×b.  透明層

    透明層は顆粒層と角質層の間にある薄い層で、角層の厚い手掌・足底にのみ明瞭に認められる。顔面の皮膚には通常みられないため、本例で異型細胞が増殖する部位にはならない。

  3. ×c.  顆粒層

    顆粒層はケラトヒアリン顆粒をもつ細胞が並ぶ層で、角化の直前段階にあたる。日光角化症では、角化異常(錯角化)を伴う部位で顆粒層が薄くなったり不明瞭になったりすることがある。しかし、これは分化異常に伴う変化であり、異型角化細胞が増殖している部位ではない。

  4. ×d.  有棘層

    有棘層は表皮で最も厚い層で、細胞同士がデスモソームで結合している。日光角化症では、有棘層の細胞は多くの部分で異型に乏しく、表皮はむしろ萎縮して薄くなることが多い。基底層の異型細胞と上方の有棘層との間に裂隙や棘融解(細胞同士の結合が外れる現象)がみられることもある。病変が進行して異型細胞が上方へ広がると有棘層にも異型が及ぶが、本症の本質的な所見ではない。有棘層を含む表皮全層に異型が及ぶのは、Bowen病の特徴である。

  5. ○e.  基底層

    日光角化症では、核が腫大し、大小不同や濃染を示す異型角化細胞が、表皮の最下層である基底層に増殖する。基底層は表皮の細胞が分裂・増殖する層であり、紫外線によりDNAが傷ついた角化細胞の異常な増殖もここから始まる。本例の生検組織でも、異型角化細胞の増殖は基底層を中心とした表皮下層にみられ、日光角化症の典型像である。異型細胞が基底膜を越えて真皮へ浸潤すれば有棘細胞癌となる。

表皮の構造(下層から順に)

・基底層:1層の円柱状細胞。表皮幹細胞を含み、細胞分裂が起こる。メラノサイトやMerkel細胞も存在する。 ・有棘層:数〜十数層。細胞同士がデスモソームで強固に結合する。Langerhans細胞が存在する。 ・顆粒層:ケラトヒアリン顆粒をもつ細胞が1〜数層並ぶ。 ・透明層:手掌・足底にのみ明瞭にみられる。 ・角質層:核を失った角化細胞が積み重なり、バリア機能を担う。 基底層で生まれた細胞は上方へ移動しながら分化し、約4週間(ターンオーバー)で角質となって剥がれ落ちる。

日光角化症(光線角化症、老人性角化症)

・長期間の紫外線曝露による表皮内の前癌病変である。高齢者の顔面(特に額・頬・耳・鼻)、頭部(脱毛部)、手背など露光部に多い。 ・臨床像:鱗屑・痂皮を伴う紅斑や、褐色調の角化性局面。湿疹と誤認されやすい。皮角(角状の突起)を呈することもある。 ・病理:基底層を中心とした異型角化細胞の増殖、錯角化と正常角化の交互配列、表皮突起の不規則な下方への突出、真皮上層の日光弾性線維症(紫外線による弾性線維の変性)。毛包・汗管の上皮は異型を免れることが多い。 ・経過:一部が有棘細胞癌へ進展する。 ・治療:凍結療法(液体窒素)、外用療法(イミキモド、フルオロウラシル)、外科的切除、光線力学療法など。

鑑別となる表皮内病変・皮膚癌

・Bowen病:表皮内癌で、異型細胞が表皮全層に及ぶ。露光部以外にも生じ、ヒ素曝露・HPV感染とも関連する。 ・有棘細胞癌:異型角化細胞が真皮へ浸潤し、癌真珠(角化した癌細胞が同心円状に重なった構造)を形成する。 ・基底細胞癌:基底細胞様の細胞が胞巣を作り、辺縁で柵状に配列する。顔面正中部に好発し、転移はまれ。

POINT

・日光角化症は高齢者の露光部に生じる、鱗屑を伴う紅斑で、有棘細胞癌の前癌病変(表皮内病変)である。 ・異型角化細胞の増殖は基底層から始まり、表皮下層に限局する。 ・異型が表皮全層に及べばBowen病、真皮に浸潤すれば有棘細胞癌である。 ・透明層は手掌・足底にのみみられる。 ・長期間改善しない顔面の「湿疹様」紅斑では、日光角化症などを疑って生検を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。