StudyMed医師国家試験

病気になる前の「暮らし」を測る―一次予防を支える国民健康・栄養調査

第114回医師国家試験 C問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第114回 C問題 第5問

我が国の一次予防推進の基礎資料となるのはどれか。

  1. a.患者調査
  2. b.人口動態調査
  3. c.国民健康・栄養調査
  4. d.医師・歯科医師・薬剤師調査
  5. e.全国在宅障害児・者等実態調査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の統計調査の問題だ。着眼点は2つ。まず「一次予防とは何か」を正確に押さえること。そのうえで、各調査が「誰を対象に、何を調べ、何に使うのか」を整理すれば、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
予防の3段階は社会医学の講義で習いました。一次予防が発症を防ぐこと、二次予防が早期発見・早期治療、三次予防が重症化防止とリハビリでしたよね。
ドクタードクター
その通り。一次予防には、栄養・運動・休養・禁煙といった生活習慣の改善による健康増進と、予防接種や事故防止などの特異的予防が含まれる。では、生活習慣の改善を国として進めるには、どんなデータが必要だと思う?
医学生医学生
病気の人の数……でしょうか。どの病気が多いかがわかれば、対策の優先順位をつけられそうです。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも、一次予防の対象はまだ病気になっていない一般の人たちだ。必要なのは「健康な住民がどんな体格や血圧で、何をどれだけ食べ、どれくらい歩き、お酒やたばこをどうしているか」という実態なんだ。病気になった人の数は、いわば結果のデータだね。
医学生医学生
なるほど、原因の側、つまり生活習慣そのものを測る調査が必要なんですね。それなら国民健康・栄養調査でしょうか。
ドクタードクター
正解。国民健康・栄養調査は健康増進法に基づいて厚生労働省が毎年行っている。無作為に選んだ地区の世帯員を対象に、身長・体重・腹囲や血圧、血液検査、歩数を測る身体状況調査、食事の記録から栄養素摂取量を出す栄養摂取状況調査、そして食生活・運動・睡眠・飲酒・喫煙を尋ねる生活習慣調査の3本柱で構成されているんだ。
医学生医学生
食塩摂取量や喫煙率の推移のグラフを、CBTの勉強でよく見ました。あれの出どころがこの調査なんですね。
ドクタードクター
そう。その数字が国民健康づくり運動である健康日本21の目標設定と評価にも使われている。ここで、ほかの調査がなぜ違うかも確認しよう。患者調査はどうかな。
医学生医学生
名前の通り、医療機関にかかっている患者を調べる調査ですよね。受療率とか平均在院日数とか。
ドクタードクター
そう。3年ごとに医療機関側から傷病名や入院・外来の別を調べる基幹統計で、医療行政の基礎資料になる。対象はすでに受診している人だから、発症前の健康増進とは目的が違うね。では人口動態調査は?
医学生医学生
出生や死亡の届出をまとめたものなので、死因順位から生活習慣病対策の参考にはなりそうです。そこで少し迷いました。
ドクタードクター
その迷いはもっともだ。出生・死亡・死産・婚姻・離婚の5つを毎年集計する調査で、死因統計は疾病対策の優先度を考える参考にはなる。ただ、生活習慣や身体状況を直接調べてはいないから、一次予防推進の「基礎資料」とは言えない。医師・歯科医師・薬剤師調査は2年ごとに医療従事者の分布を把握するもので、医師偏在対策などに使う。全国在宅障害児・者等実態調査は、在宅で暮らす障害のある人の生活実態とニーズを把握し、福祉施策に生かすものだ。
医学生医学生
どれも大事な統計だけど、対象が「患者」「出生・死亡」「医療者」「障害のある人」で、健康な一般住民の生活習慣を測っているのは国民健康・栄養調査だけ、ということですね。
ドクタードクター
見事な整理だ。もう一つ発展知識として、国民生活基礎調査も押さえておこう。世帯構成や所得、有訴者率・通院者率、健診の受診状況などを毎年調べる基幹統計で、国民健康・栄養調査の対象地区はこの調査の地区から抽出されているんだ。
医学生医学生
健診受診状況なら、二次予防の評価に使えそうですね。
ドクタードクター
いい発想だね。がん検診の受診率などはまさに国民生活基礎調査で把握されている。臨床の場面でも、外来で減塩や禁煙を指導するとき、日本人の平均的な食塩摂取量や喫煙率を知っていると説得力が増す。統計は国試の暗記項目であると同時に、目の前の患者さんを全国の中に位置づける物差しでもあるんだよ。

まとめ

一次予防は生活習慣の改善や予防接種などによって発症そのものを防ぐ取り組みであり、その推進には病気になる前の一般住民の健康状態と生活習慣の実態を示すデータが欠かせません。国民健康・栄養調査は健康増進法に基づき毎年実施され、身体状況・栄養摂取状況・生活習慣の3つを調べることで、健康日本21の目標設定と評価の基礎資料となっています。患者調査は医療を受けている患者(3年ごと)、人口動態調査は出生・死亡・死産・婚姻・離婚(毎年)、医師・歯科医師・薬剤師調査は医療従事者の分布(2年ごと)、全国在宅障害児・者等実態調査は障害のある人の生活実態を対象とし、いずれも一次予防を主目的とする調査ではありません。各統計の根拠法・周期・対象・用途をセットで整理しておくことが、公衆衛生の問題を確実に解くとともに、診療で予防指導を行う際の土台にもなります。

解答・解説

正解はcです

問われているテーマ

予防医学は、一次予防(病気にならないようにする:健康増進・特異的予防)、二次予防(早期発見・早期治療:検診など)、三次予防(重症化・再発の防止とリハビリテーション)の3段階に分けて考える。本問は、このうち一次予防、すなわち生活習慣の改善を通じた健康増進施策を進めるための基礎データを得る統計調査がどれかを問うている。

考え方

一次予防を推進するには、病気になった人や亡くなった人の数ではなく、「病気になる前の一般住民が、どのような体格・血圧・血液検査値で、何をどれだけ食べ、どれくらい運動し、飲酒・喫煙をしているか」という健康状態と生活習慣の実態を把握する必要がある。この目的で健康増進法に基づいて毎年行われているのが国民健康・栄養調査であり、国民の健康づくり運動である健康日本21の目標設定や達成状況の評価にも用いられる。 一方、患者調査は医療を受けている患者、人口動態調査は出生・死亡などの人口の動き、医師・歯科医師・薬剤師調査は医療従事者の分布、全国在宅障害児・者等実態調査は障害のある人の生活実態をそれぞれ把握する調査であり、いずれも一次予防を主目的とした調査ではない。各調査について「誰を対象に、何を調べ、何のために使うか」を整理しておくと判断しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  患者調査

    病院・一般診療所・歯科診療所を利用した患者を対象に、医療機関側から傷病名、入院・外来の別、受療の状況などを調べ、傷病の実態を明らかにして医療行政の基礎資料とする調査である。統計法に基づく基幹統計で、3年ごとに実施される。推計患者数や受療率、平均在院日数などが得られる。対象はすでに医療を受けている人であり、発症前の健康増進を図る一次予防の基礎資料ではない。

  2. ×b.  人口動態調査

    出生、死亡、死産、婚姻、離婚の5種類の人口動態事象を、市区町村に提出される届出をもとに集計する調査で、毎年実施される基幹統計である。出生率、死亡率、死因順位、乳児死亡率などの算出に使われ、人口および厚生労働行政施策の基礎資料となる。死因統計は疾病対策の優先順位付けに参考とされるが、生活習慣や身体状況を直接調べるものではなく、一次予防推進の基礎資料とはいえない。

  3. ○c.  国民健康・栄養調査

    健康増進法に基づき、国民の身体の状況、栄養素等摂取量および生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進を総合的に推進するための基礎資料を得る目的で、厚生労働省が毎年実施している。無作為に抽出された地区の世帯員を対象に、①身体状況調査(身長・体重・腹囲、血圧、血液検査、歩数など)、②栄養摂取状況調査(食事内容の記録から栄養素等摂取量を算出)、③生活習慣調査(食生活、身体活動、休養・睡眠、飲酒、喫煙など)を行う。肥満や高血圧、糖尿病が強く疑われる者の割合、食塩摂取量、喫煙率などが得られ、健康日本21の指標評価にも用いられる。発症前の一般住民の生活習慣と健康状態を把握する調査であり、一次予防(健康増進)推進の基礎資料に当たる。

  4. ×d.  医師・歯科医師・薬剤師調査

    医師・歯科医師・薬剤師の届出に基づき、性・年齢、業務の種別(病院勤務・診療所開設者など)、従事する診療科、従事地域などによる分布を明らかにし、厚生労働行政の基礎資料とする調査である。2年ごとに12月31日現在の状況を把握する。医療提供体制や医師偏在対策を検討するための資料であり、国民の健康状態や生活習慣は調べないため、一次予防推進の基礎資料ではない。

  5. ×e.  全国在宅障害児・者等実態調査

    在宅で生活する障害児・者、難病等の患者などを対象に、その生活実態とニーズを把握し、障害者施策の推進に向けた検討の基礎資料とする調査で、「生活のしづらさなどに関する調査」とも呼ばれる。対象はすでに障害を有する人であり、目的は福祉施策の充実であるため、一次予防推進の基礎資料ではない。

予防の3段階

・一次予防:健康増進(栄養・運動・休養、禁煙など生活習慣の改善、健康教育)と特異的予防(予防接種、事故防止、職業病対策など)。発症そのものを防ぐ。 ・二次予防:早期発見・早期治療(がん検診、特定健康診査など)。 ・三次予防:治療による重症化・合併症の防止、再発防止、リハビリテーションと社会復帰。

主な保健統計の整理

・国民健康・栄養調査:健康増進法、毎年。身体状況・栄養摂取状況・生活習慣。健康日本21の評価に利用。 ・患者調査:統計法(基幹統計)、3年ごと。医療機関を利用する患者の傷病・受療状況。受療率、推計患者数、平均在院日数。 ・人口動態調査:統計法(基幹統計)、毎年。出生・死亡・死産・婚姻・離婚。 ・国民生活基礎調査:統計法(基幹統計)、毎年(3年ごとに大規模調査)。世帯構成、所得、有訴者率・通院者率、健診受診状況、介護など。国民健康・栄養調査の対象地区は本調査の地区から抽出される。 ・医師・歯科医師・薬剤師調査:2年ごと。医療従事者の分布。 ・全国在宅障害児・者等実態調査(生活のしづらさなどに関する調査):在宅障害児・者等の生活実態とニーズ。

健康日本21との関係

健康日本21は健康増進法に基づく国民健康づくり運動で、生活習慣病の発症予防(一次予防)を重視している。食塩摂取量、野菜摂取量、歩数、喫煙率、飲酒量などの目標値の多くは、国民健康・栄養調査のデータで現状把握と評価が行われる。

POINT

・一次予防(健康増進)の基礎資料=国民健康・栄養調査。 ・国民健康・栄養調査は健康増進法に基づき毎年実施され、身体状況・栄養摂取状況・生活習慣の3つを調べる。 ・患者調査は「医療を受けている患者」(3年ごと)、人口動態調査は「出生・死亡・死産・婚姻・離婚」(毎年)、医師・歯科医師・薬剤師調査は「医療従事者の分布」(2年ごと)が対象。 ・各調査の根拠法・周期・対象・用途をセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。