伸びるはずの記録が下がっていく―シャトルランが告げる小児の隠れた病気
第114回医師国家試験 C問題 第40問
国試問題にチャレンジ
9歳の男児。毎年学校で行われる体力測定において,有酸素運動能力の指標である往復持久走(20mシャトルラン)の折り返し数が7歳時をピークに低下していることが学校医に報告された。6歳:20回【19.2】,7歳:26回【28.6】,8歳:24回【38.5】,9歳:19回【48.0】(【 】内は全国平均回数)。身長の伸びはよく,体重の減少もない。本人に確認したところ毎年全力で走っているとのことである。 学校医として適切な対応はどれか。
- a.運動指導を行う。
- b.栄養指導を行う。
- c.体育実技を見学させる。
- d.医療機関への受診を促す。
- e.10歳時の体力測定の結果を待って対応を判断する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
小児の運動能力は成長とともに向上するのが正常であり、20mシャトルランの記録が年々低下するような「退行」は、何らかの疾患が潜んでいるサインと考えます。成長・栄養に問題がなく本人も全力で取り組んでいるなら、心筋症や先天性心疾患、不整脈、肺高血圧症などの心疾患、運動誘発性喘息、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患、貧血などを想定し、速やかに医療機関の受診を促すのが学校医として適切な対応です。原因不明のまま運動指導や体育見学、経過観察を選ぶことは、危険を招いたり診断を遅らせたりするおそれがあり、運動の可否は診断後に主治医が学校生活管理指導表で示すのが手順です。学校医は学校保健安全法のもとで健康上の問題を早期に把握し医療につなぐ役割を担っており、体力測定の経年変化は学校心臓検診を補う貴重な情報源になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・9歳男児。20mシャトルラン(往復持久走)の回数は、6歳20回 → 7歳26回 → 8歳24回 → 9歳19回と、7歳をピークに年々減少している。 ・全国平均は同じ期間に19.2回 → 48.0回と年齢とともに大きく伸びている。本児は6歳時には平均並みだったが、7歳でわずかに下回り、8歳で平均の約6割、9歳では約4割(19÷48.0≒0.40)にまで差が開いている。 ・身長の伸びは良好で体重減少もなく、成長や栄養の面で明らかな問題はない。 ・本人は毎年全力で走っており、意欲の低下や手抜きによる結果ではない。
考え方
小児の運動能力は、成長に伴う心肺機能・筋力の発達により、年齢とともに向上していくのが本来の姿である。いったん獲得した能力が年を追って低下していく(退行する)ことは生理的には説明がつかず、何らかの疾患が潜在している可能性を強く示唆する。シャトルランは有酸素運動能力(全身持久力)の指標であり、心臓・肺・血液による酸素の運搬と、骨格筋での酸素利用のいずれかに障害があると低下する。考えられる疾患として、心筋症(肥大型・拡張型)、先天性心疾患、不整脈、肺高血圧症などの心疾患、運動誘発性喘息などの呼吸器疾患、貧血、そして男児で運動能力が退行する点からは筋ジストロフィー(ベッカー型など)やミトコンドリア病などの神経筋疾患が挙げられる。
設問の考え方
学校保健安全法に基づき、学校医は健康診断や健康相談を通じて児童の健康状態を把握し、健康上の問題が疑われる場合には、遅滞なく必要な指導や医療機関への受診勧奨などの措置をとる役割を担う。本例では疾患の存在が疑われる以上、まず医療機関で原因を精査することが優先され、運動指導や運動制限の可否は診断がついたあとに判断すべきである。
選択肢考察
- ×a. 運動指導を行う。
誤り。本児は全力で走っているにもかかわらず持久力が年々低下しており、運動のやり方や練習量の不足で説明できる状態ではない。背景に心疾患などがあった場合、原因が分からないまま運動量を増やす指導をすると、不整脈や心不全の悪化、突然死などの危険を招くおそれもある。運動指導(運動処方)は、医療機関で原因を調べ、病状に応じた運動の可否や強度が決まってから行うべきものである。
- ×b. 栄養指導を行う。
誤り。身長は順調に伸び、体重減少もないことから、栄養不足が持久力低下の原因である可能性は低い。栄養指導だけでは、背景にあると疑われる疾患の発見が遅れることになる。
- ×c. 体育実技を見学させる。
誤り。原因が不明の段階で一律に体育を見学させても、持久力低下の原因の解明や改善にはつながらない。また、不要な運動制限は児の体力や心理面、友人関係にも影響しうる。運動制限が必要かどうか、どの程度の運動まで許容されるかは、医療機関での診断に基づいて主治医が判断し、学校生活管理指導表を用いて学校に伝えるのが適切な手順である。
- ○d. 医療機関への受診を促す。
正しい。年齢とともに伸びるはずの有酸素運動能力が2年連続で低下し、9歳時には全国平均の約4割にとどまっている。成長・栄養に問題がなく本人も全力で取り組んでいることから、心疾患(心筋症、先天性心疾患、不整脈、肺高血圧症など)、呼吸器疾患(運動誘発性喘息など)、神経筋疾患(筋ジストロフィーなど)、貧血などの潜在的な疾患を疑うべき状況である。学校医の役割は、健康上の問題が疑われる児童を早期に把握し、医療機関での精査につなげることである。診察、心電図、心エコー、胸部X線、血液検査(CK、血算など)による原因検索が必要となる。
- ×e. 10歳時の体力測定の結果を待って対応を判断する。
誤り。すでに8歳・9歳と2年続けて記録が低下し、全国平均との差も年々開いている。もう1年待つことは、進行性の疾患であった場合に診断と治療の開始を遅らせるだけであり、心疾患であれば運動中の突然死などの重大な事態を招く危険もある。経過観察を選ぶ根拠はなく、速やかに受診を勧めるべきである。
学校医の職務(学校保健安全法施行規則に規定)
・学校保健計画・学校安全計画の立案への参与、学校環境衛生の維持改善に関する指導・助言。 ・健康診断、健康相談、保健指導への従事。 ・疾病の予防処置への従事、感染症・食中毒の予防処置への従事。 ・学校保健安全法では、学校は健康診断の結果に基づき、疾病の予防処置、治療の指示、運動・作業の軽減などの適切な措置をとらなければならないとされている。
学校生活管理指導表
・心疾患、腎疾患、アレルギー疾患などをもつ児童生徒について、主治医が運動強度や学校生活上の注意点を記載して学校に提出する書式。運動強度の区分(A: 在宅医療・入院が必要〜E: 強い運動も可)に基づいて、体育や行事への参加範囲を決める。
新体力テスト(文部科学省)
・小学生では握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン(往復持久走)、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げの8項目。 ・20mシャトルランは、一定間隔で鳴る電子音に合わせて20mを往復し、徐々にペースが上がる中で続けられた回数を記録するもので、全身持久力(最大酸素摂取量)の推定に用いられる。
小児で運動耐容能が低下する主な疾患
・心疾患: 肥大型心筋症(学童の運動中突然死の重要な原因)、拡張型心筋症、先天性心疾患、QT延長症候群などの不整脈、肺高血圧症、心筋炎後の心機能低下。 ・呼吸器疾患: 気管支喘息(運動誘発性喘息)など。 ・神経筋疾患: デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー(X連鎖性で男児に発症、血清CK高値、心筋症の合併がある)、ミトコンドリア病など。 ・その他: 貧血、甲状腺機能低下症など。 ・学校心臓検診(小学1年、中学1年、高校1年で心電図検査)で拾い上げられない疾患もあるため、運動能力の推移は健康状態を知る手がかりになる。
POINT
・小児の運動能力は年齢とともに向上するのが正常であり、年々低下する(退行する)場合は疾患を疑う。 ・成長・栄養に問題がなく本人も全力で取り組んでいるなら、心疾患、呼吸器疾患、神経筋疾患などの精査が必要。 ・学校医は健康上の問題が疑われる児童を医療機関の受診につなげる役割をもつ。 ・運動指導や運動制限は、診断がついてから主治医の判断(学校生活管理指導表)に基づいて行う。 ・異常が明らかなのに次回の測定まで待つのは不適切。
