「早く寝なきゃ」が眠りを遠ざける―入眠困難への睡眠衛生指導は「起きる時刻」から
第114回医師国家試験 C問題 第13問
国試問題にチャレンジ
入眠困難を主訴とする不眠症の成人患者に対する指導として適切なのはどれか。
- a.「一定時刻に起床し日光を浴びましょう」
- b.「可能な限り早い時刻に就床しましょう」
- c.「就床前にアルコール飲料を飲むようにしましょう」
- d.「一晩に8時間以上就床しているようにしましょう」
- e.「就床後,入眠できない時はじっと眠気が来るのを待ちましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
入眠困難の患者は「早く寝なければ」「8時間は眠らなければ」と考えて早くから長く床に就きがちですが、この焦りが覚醒を高め、寝床と「眠れない状態」を結びつけて不眠を悪化させます。睡眠衛生指導の基本は、毎朝一定の時刻に起床して日光を浴び、視交叉上核の体内時計をリセットして夜の眠気の時刻を安定させることです。眠くなってから床に就き、眠れなければいったん寝床を離れる刺激制御法、床上時間を実際の睡眠時間に近づける睡眠制限法も重要で、寝酒は睡眠の質を下げ依存の危険もあるため避けるよう指導します。不眠の背景にうつ病や睡眠時無呼吸症候群などが隠れていないかを確認しつつ、薬に頼る前に生活と行動を整える視点は、日常診療で広く役立つ基本となります。
解答・解説
正解はaです
本問は、寝つけない(入眠困難)ことを主な訴えとする成人の不眠症患者に対し、どのような生活指導(睡眠衛生指導)を行うべきかを問う問題である。 不眠症の治療では、睡眠薬を使う前に、あるいは使うのと並行して、睡眠に関する生活習慣を整える指導がまず行われる。その考え方の柱は次の3つである。 (1) 体内時計(概日リズム)を安定させる:毎朝決まった時刻に起き、朝の光を浴びる。 (2) 寝床と「眠れない状態」を結びつけない:眠気が来てから床に就き、眠れなければいったん寝床を離れる。寝床で過ごす時間を必要以上に長くしない。 (3) 睡眠を妨げる物質や行動を避ける:寝酒、夕方以降のカフェイン、就寝前の喫煙・スマートフォン使用などを控える。 入眠困難の患者は「早く寝なければ」「8時間は眠らなければ」と考えて早くから床に入り、寝床で長時間悩むことが多い。この焦りが緊張と覚醒を高め、「寝床=眠れない場所」という条件づけを強めて不眠を悪化させる。したがって、就床時刻や睡眠時間にこだわらせるのではなく、起床時刻を固定してリズムを整える指導が適切である。
選択肢考察
- ○a. 「一定時刻に起床し日光を浴びましょう」
適切である。ヒトの体内時計の周期は24時間よりやや長く、毎日リセットしないと寝つける時刻が少しずつ後ろへずれていく。このリセットの最も強い手がかりが朝の光である。光の刺激は網膜から視交叉上核(体内時計の中枢)へ伝わり、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を止めるとともに、その約14〜16時間後に再びメラトニンが分泌されて眠気が生じる。毎朝同じ時刻に起きて日光を浴びれば、夜に眠くなる時刻が安定し、入眠困難の改善につながる。休日も起床時刻を大きくずらさないことが望ましい。
- ×b. 「可能な限り早い時刻に就床しましょう」
不適切である。眠気がないうちに床に入っても寝つけず、「眠らなければ」という焦りで心身の緊張が高まり、かえって入眠が遠のく。寝床で眠れずに過ごす経験を重ねると、寝床そのものが覚醒を引き起こす条件となる。就床時刻にこだわらず、眠くなってから床に就くよう指導する。
- ×c. 「就床前にアルコール飲料を飲むようにしましょう」
不適切である。アルコールは一時的に寝つきを良くするが、分解されるにつれて夜間後半の眠りが浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒が増える。利尿作用による夜間の排尿や、上気道の筋肉を緩めることによるいびき・睡眠時無呼吸の悪化も起こる。さらに連用すると耐性が生じて飲酒量が増えやすく、アルコール依存症につながる危険もある。いわゆる寝酒は避けるよう指導する。
- ×d. 「一晩に8時間以上就床しているようにしましょう」
不適切である。必要な睡眠時間には個人差が大きく、また加齢とともに短くなる(成人でおおむね6〜8時間、高齢者では6時間前後で足りることが多い)。8時間という数字にこだわって長く床に就いていると、眠れずに寝床で過ごす時間が増え、熟眠感がさらに低下する。不眠症の認知行動療法では、むしろ床に就いている時間を実際の睡眠時間に近づけて短くする方法(睡眠制限法)が用いられる。日中の眠気で困らなければ十分と考えるよう指導する。
- ×e. 「就床後,入眠できない時はじっと眠気が来るのを待ちましょう」
不適切である。眠れないまま寝床にとどまると、寝床と「眠れない苦痛」との結びつきが強まり、不眠が慢性化する。寝つけないとき(目安としておよそ15〜20分たっても眠れないとき)は、いったん寝床を出て、暗めの照明の下でくつろいで過ごし、眠気を感じてから再び床に就くよう指導する。これは刺激制御法と呼ばれる行動療法の基本的な手法である。
不眠症とは
眠る機会や環境が十分にあるにもかかわらず、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などが続き、日中の倦怠感・集中力低下・気分の不調などの支障をきたす状態である。訴えの型によって入眠障害型、中途覚醒型、早朝覚醒型、熟眠障害型に分けられ、睡眠薬を選ぶ際の目安にもなる。
睡眠衛生指導の主な内容
・毎朝同じ時刻に起床し、朝の光を浴びる ・眠くなってから床に就き、就床時刻にこだわらない ・寝床で眠れないときはいったん離れる ・必要以上に長く床に就かない。睡眠時間は人それぞれで、年齢とともに短くなる ・昼寝をするなら午後3時前までに20〜30分程度にとどめる ・日中に適度な運動をする ・寝酒を避ける。カフェインは就床前の数時間は控え、就床前の喫煙も控える ・就床前のスマートフォンやパソコンの使用(強い光と精神的な刺激)を控える ・自分に合ったリラックス法(ぬるめの入浴、軽い読書など)を取り入れる
不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)
刺激制御法、睡眠制限法、睡眠衛生教育、リラクセーション、睡眠についての誤った思い込みの修正などを組み合わせた非薬物療法であり、慢性不眠症に対して効果が確立している。
鑑別すべき疾患
うつ病などの精神疾患、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)、概日リズム睡眠障害(睡眠相後退型など)、薬剤やカフェインによる不眠など、不眠の背景にある原因を見落とさないことが重要である。
POINT
・入眠困難への指導の基本は「起床時刻を固定し、朝の光で体内時計をリセットする」こと ・眠くなってから床に就き、眠れなければ寝床を離れる(刺激制御法) ・必要な睡眠時間には個人差があり、加齢で短くなる。8時間にこだわらせない ・寝酒は寝つきを一時的に良くするが睡眠の質を下げる。避けるよう指導する
