狭いQRSが規則正しく駆け抜ける―心電図3ステップで読む発作性上室頻拍
第114回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
心電図を別に示す。 正しいのはどれか。

- a.心室頻拍
- b.洞性頻脈
- c.心室期外収縮
- d.発作性心房細動
- e.発作性上室頻拍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
頻拍の心電図は、心拍数、QRS幅、RR間隔の規則性とP波の位置という3点を順に確認すると診断を絞り込めます。QRS幅が狭ければ正常の刺激伝導系を通る上室性の頻拍、広ければまず心室頻拍を考え、RR間隔が完全に不規則でP波がなければ心房細動です。RR間隔が整で狭いQRSの頻拍が140〜250/分ほどで続き、洞性P波が先行せずP波がQRSに埋もれるか直後に見える場合は、発作性上室頻拍が考えられます。多くは房室結節リエントリー性頻拍や房室回帰性頻拍で、回路に房室結節を含むため迷走神経刺激やATP急速静注で停止しやすく、根治にはカテーテルアブレーションが行われます。WPW症候群に伴う心房細動では房室結節抑制薬が禁忌となるなど、正確な読影は治療選択の安全性にも直結するため、系統的な読み方を身につけることが重要です。
解答・解説
正解はeです
心電図の読み方
頻拍の心電図は、次の3点を順番に確認すると診断を絞り込める。 1. 心拍数:記録速度は25mm/秒で、四肢誘導・胸部誘導はそれぞれ約5秒分が記録されている。5秒間におよそ15〜16拍あるので、心拍数は約180〜190/分の頻拍である。 2. QRS幅:どの誘導でもQRS波の幅は狭く(0.12秒未満)、波形は通常の上室性の興奮伝導と同じ形をしている。つまり、心室への興奮は房室結節からHis束、Purkinje線維という正常の刺激伝導系を通っており、頻拍は房室結節より上(上室性)から起きていると判断できる。 3. RR間隔の規則性とP波:RR間隔はほぼ一定で整である。QRS波の前に洞調律のP波ははっきりしない。P波はQRS波に埋もれているか、QRS波のすぐ後ろ(ST部分の始まり)に逆行性P波としてみえる程度である。
診断
RR間隔が整で、QRS幅が狭い頻拍(regular narrow QRS tachycardia)の鑑別には、洞性頻脈、2:1伝導の心房粗動、発作性上室頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT)がある。洞性頻脈なら各QRS波の前に洞性P波(I・II・aVFで陽性)があり、安静時に180/分を超えることはまれである。心房粗動では、II・III・aVFで鋸歯状の粗動波(F波)がみえ、2:1伝導では心拍数が150/分前後に固定されることが多い。本例はいずれにもあてはまらない。心拍数が約180〜190/分と速く、P波がQRS波に埋もれる(またはQRS波の直後に出る)ことから、発作性上室頻拍と診断する。
選択肢考察
- ×a. 心室頻拍
誤り。心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)は心室の中から興奮が始まり、正常の刺激伝導系を通らずに心筋の中をゆっくり伝わる。そのためQRS幅が0.12秒以上に広がる(wide QRS tachycardia)。房室解離、融合収縮、捕捉収縮などもVTを示唆する所見である。本例はQRS幅が狭いので、心室頻拍ではない。
- ×b. 洞性頻脈
誤り。洞性頻脈は洞結節から出る興奮が速くなった状態(成人で100/分を超える)で、各QRS波の前に正常な形の洞性P波(I・II・aVFで陽性)が1対1で先行する。発熱、運動、精神的緊張、脱水、貧血、甲状腺機能亢進症、アルコールなどで起こる。発症や停止は徐々に起こり、安静時に140/分を超えることは少ない。本例はQRS波の前に洞性P波がみられず、心拍数も約180〜190/分と速いので、洞性頻脈とは考えにくい。
- ×c. 心室期外収縮
誤り。心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)は、本来のリズムより早いタイミングで心室から興奮が始まるものである。先行するP波がなく、幅の広い変形したQRS波が単発または散発的に出現し、その後に代償性休止期を伴うことが多い。本例は幅の狭い同じ形のQRS波が規則正しく続く頻拍であり、心室期外収縮の所見ではない。
- ×d. 発作性心房細動
誤り。心房細動では心房が1分間に350〜600回の無秩序な興奮をし、房室結節がそれを不規則に心室へ伝える。そのため、P波がなくなり、基線が細かく揺れる細動波(f波)がみられ、RR間隔が完全に不規則(絶対性不整脈)になるのが特徴である。本例はRR間隔が整なので、心房細動は否定できる。
- ○e. 発作性上室頻拍
正しい。RR間隔が整で、QRS幅の狭い頻拍が約180〜190/分で続いている。洞性P波が先行せず、P波はQRS波に埋もれるか、QRS波の終わりに逆行性P波として出ている。発作性上室頻拍の典型的な所見である。発作性上室頻拍の心拍数はおよそ140〜250/分で、突然始まり突然止まるのが特徴である。成因の多くは、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)と、副伝導路を介する房室回帰性頻拍(AVRT)である。どちらもリエントリー回路に房室結節が含まれるので、迷走神経刺激やアデノシン三リン酸(ATP)の急速静注で停止することが多い。
発作性上室頻拍の主な機序
・房室結節リエントリー性頻拍(atrioventricular nodal reentrant tachycardia:AVNRT):房室結節の近くに、伝導が速く不応期の長い速伝導路と、伝導が遅く不応期の短い遅伝導路の2本の経路があり、その間を興奮がぐるぐる回る。通常型(遅伝導路を下り、速伝導路を上る)では心房と心室がほぼ同時に興奮するので、逆行性P波はQRS波に埋もれるか、QRS波の終わりに偽性r'波(V1)や偽性S波(II・III・aVF)としてみえる。 ・房室回帰性頻拍(atrioventricular reciprocating tachycardia:AVRT):WPW症候群などのKent束(副伝導路)を使うリエントリー。房室結節を下り(順行)、Kent束を上る(逆行)順方向性AVRTでは、心室は正常の伝導系で興奮するのでQRS幅は狭い。逆行性P波はQRS波からやや離れて(RP間隔が70ms以上)ST部分にみえることが多い。逆に、Kent束を下り房室結節を上る逆方向性AVRTでは、QRS幅が広くなり、心室頻拍との区別が難しくなる。 心電図だけでAVNRTとAVRTを確実に見分けるのは難しく、確定には心臓電気生理検査が必要である。
頻拍の鑑別の進め方
・QRS幅が狭く、RR間隔が整:洞性頻脈、発作性上室頻拍、心房粗動(一定の伝導比)、心房頻拍 ・QRS幅が狭く、RR間隔が不整:心房細動、伝導比が変動する心房粗動、多源性心房頻拍 ・QRS幅が広い:心室頻拍、変行伝導や脚ブロックを伴う上室頻拍、逆方向性AVRT、WPW症候群に伴う心房細動(偽性心室頻拍)
発作性上室頻拍の治療
・血行動態が不安定な場合(ショック、意識障害など):同期下電気ショック(カルディオバージョン)を行う。 ・血行動態が安定している場合:まず迷走神経刺激手技(Valsalva手技、冷水への顔面浸水など)を行う。止まらなければ、ATP(アデノシン)を急速静注する。これも無効なら、ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬やβ遮断薬の静注を考える。頸動脈洞マッサージは、頸動脈の狭窄やプラークがある高齢者では脳梗塞の危険があるので注意が必要である。 ・根治療法・再発予防:カテーテルアブレーション(AVNRTでは遅伝導路、AVRTでは副伝導路を焼灼する)は成功率が高く、根治療法として推奨される。 ・注意:WPW症候群に合併した心房細動(偽性心室頻拍)では、ATP、ベラパミル、ジギタリスなど房室結節の伝導を抑える薬は副伝導路への伝導を増やし、心室細動を誘発するおそれがあるため禁忌である。
POINT
・RR間隔が整で、QRS幅の狭い頻拍(140〜250/分)で洞性P波がなく、P波がQRS波に埋もれる、または直後にみえる場合は発作性上室頻拍を考える。 ・QRS幅が狭ければ上室性、広ければ心室頻拍をまず考える。 ・RR間隔が不整でP波がない場合は心房細動。 ・洞性頻脈ではQRS波の前に洞性P波があり、安静時に140/分を超えることはまれ。 ・発作性上室頻拍の停止には迷走神経刺激とATP急速静注、根治にはカテーテルアブレーション。
