StudyMed医師国家試験

手のひらの膿疱と胸の痛み―離れた2つの症状をつなぐ掌蹠膿疱症性骨関節炎

第114回医師国家試験 A問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第114回 A問題 第37問

68歳の男性。上前胸部痛を主訴に来院した。2年前から両手掌に皮疹が繰り返し出現していた。1年前から上前胸部痛を自覚していたという。1か月前から上前胸部の疼痛が増悪したため受診した。両手掌に膿疱性皮疹を多数認める。両側の近位指節間関節の腫脹と圧痛を認める。両側胸鎖関節の骨性肥厚と熱感および圧痛を認める。この患者の胸部エックス線写真を別に示す。  関節病変の原因として最も考えられるのはどれか。

第114回 A問題 第37問の問題画像
  1. a.関節リウマチ
  2. b.強直性脊椎炎
  3. c.慢性疲労症候群
  4. d.掌蹠膿疱症性骨関節炎
  5. e.リウマチ性多発筋痛症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚の症状と関節の症状をひとつの病気で説明できるかを問う問題だ。注目してほしいのは、痛む場所が「上前胸部」で、そこに骨が太くなるような変化があること。そして手のひらに繰り返す膿疱。この2つが同じ患者さんに出ていることの意味を考えよう。
医学生医学生
PIP関節が腫れて痛いと聞くと、まず関節リウマチを考えてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。でもPIP関節炎だけで病名を決めると、ほかの所見がこぼれ落ちてしまう。まず上前胸部という場所について考えよう。ここは胸骨、鎖骨、第1肋骨が集まる部分で、胸鎖関節や胸肋関節がある。そこに骨性肥厚と熱感があるのは、かなり特徴的な所見なんだ。
医学生医学生
胸鎖関節の病気というのは、あまり講義で聞いた覚えがありません。
ドクタードクター
そうかもしれない。胸鎖関節を含む前胸壁に骨肥厚や炎症をきたす代表が、掌蹠膿疱症に合併する骨関節炎なんだ。胸部エックス線写真でも、鎖骨内側端から胸骨柄、第1肋骨にかけて骨硬化や骨肥厚がみられ、胸肋鎖骨間骨化症を示唆する像になっている。
医学生医学生
手のひらの膿疱は、皮膚科の実習で見た掌蹠膿疱症と似ています。膿疱なのに細菌は出ないと教わりました。
ドクタードクター
その通り。掌蹠膿疱症は手掌・足底に無菌性膿疱が繰り返し出る慢性の炎症性皮膚疾患で、小水疱から膿疱になり、痂皮や鱗屑を伴う。患者さんの一部、報告によって幅はあるけれど10〜30%程度に骨関節炎を合併するとされ、その好発部位が前胸壁なんだ。手掌の膿疱と胸鎖関節の骨肥厚がそろえば、掌蹠膿疱症性骨関節炎と考えるのが最も自然だね。PIP関節のような末梢関節が侵されることもある。
医学生医学生
では関節リウマチはどこで否定できますか。
ドクタードクター
ポイントは2つ。関節リウマチでは手掌の膿疱は出ない。そして関節リウマチの骨変化は骨びらんや骨粗鬆化が中心で、骨が太くなる骨増殖性の変化は特徴ではない。皮膚と関節の両方を一元的に説明できないんだ。
医学生医学生
骨が「削れる」のがリウマチ、「増える」のが今回の病気、という対比ですね。強直性脊椎炎も骨が増える病気だったと思うのですが。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。強直性脊椎炎も骨増殖性で、前胸壁の付着部炎を伴うこともある。ただ好発は10〜30歳代の若年男性で、仙腸関節炎や安静で悪化し動くと楽になる炎症性腰背部痛で始まることが多い。HLA-B27との関連が強く、進むと竹様脊椎になる。68歳の発症で腰背部症状の記載がなく、手掌の膿疱も説明できないから合わない。
医学生医学生
リウマチ性多発筋痛症は高齢者に多いので、年齢だけなら合いそうです。
ドクタードクター
年齢は合うね。でもこの病気は両肩や首、腰回りの痛みとこわばりが主体で、赤沈やCRPが上がり、少量のステロイドがよく効くのが特徴だ。手指の小関節炎は主体ではないし、膿疱や胸鎖関節の骨肥厚とは結びつかない。巨細胞性動脈炎の合併に注意する病気としても覚えておこう。
医学生医学生
慢性疲労症候群は、関節が腫れたり熱を持ったりという客観的な所見がないので違いますね。
ドクタードクター
その通り。慢性疲労症候群は強い疲労感が6か月以上続き、労作後の悪化や睡眠障害などを伴うけれど、関節の腫脹、骨の変化、皮疹といった客観的な炎症所見は伴わない。
医学生医学生
皮膚の病気と関節の病気が別々にあると考えず、ひとつで説明できる病名を探すことが大切なんですね。
ドクタードクター
まさにそこがこの問題の核心だ。発展知識として、掌蹠膿疱症性骨関節炎はSAPHO症候群の一型と位置づけられている。滑膜炎、痤瘡、膿疱症、骨化過剰症、骨炎の頭文字だね。骨シンチグラフィでは胸鎖関節部の集積が「牛の頭」のように見えることがある。関節リウマチと違ってリウマトイド因子や抗CCP抗体は通常陰性だ。
医学生医学生
治療はどうするんですか。皮膚科と整形外科、どちらで診るのかも気になります。
ドクタードクター
皮膚科、リウマチ科、整形外科、さらに歯科や耳鼻科が連携することが多い。増悪因子として扁桃炎や齲歯、歯周病などの病巣感染、喫煙、歯科金属アレルギーが知られていて、扁桃摘出や歯科治療、禁煙で改善することがある。皮膚にはステロイドや活性型ビタミンD3の外用、紫外線療法、骨関節症状にはNSAIDsが基本で、難治例では生物学的製剤も検討される。臨床で注意したいのは、皮疹より関節症状が先に出る人もいることだ。原因のはっきりしない前胸部痛を診たら、手のひらと足の裏を見せてもらう習慣をつけておくといい。

まとめ

手掌・足底に無菌性膿疱を繰り返す掌蹠膿疱症の一部には骨関節炎が合併し、その好発部位は胸鎖関節・胸肋関節を中心とする前胸壁です。上前胸部痛に胸鎖関節の骨性肥厚・熱感を伴い、画像で骨硬化や異常骨化(胸肋鎖骨間骨化症)を認めれば、掌蹠膿疱症性骨関節炎を考えます。関節リウマチは骨びらんが中心で膿疱を伴わず、強直性脊椎炎は若年男性の炎症性腰背部痛、リウマチ性多発筋痛症は高齢者の肩・腰帯の痛みとこわばりが特徴で、いずれも本例の皮膚と骨の所見を一元的に説明できません。本症はSAPHO症候群の一型で、病巣感染・喫煙・金属アレルギーが増悪因子となるため、扁桃や歯の治療、禁煙も治療の一部です。離れた部位の皮膚症状と関節症状を一つの病態で結びつける視点は、脊椎関節炎や乾癬性関節炎など他の疾患を理解する際にも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・68歳の男性。主訴は上前胸部痛で、1年前から続き、1か月前から増悪している。上前胸部は胸骨・鎖骨・第1肋骨が接する部位であり、胸鎖関節や胸肋関節の病変を考える。 ・2年前から両手掌に皮疹を繰り返し、現在も両手掌に膿疱性皮疹が多数ある。慢性・再発性の手掌の膿疱である。 ・両側の近位指節間(PIP)関節に腫脹と圧痛がある(末梢関節炎)。 ・両側胸鎖関節に骨性肥厚、熱感、圧痛がある。 ・胸部エックス線写真では、胸鎖関節周囲(鎖骨内側端〜胸骨柄〜第1肋骨)に骨硬化・骨肥厚がみられ、胸肋鎖骨間骨化症を示唆する。

診断へのプロセス

まず皮膚所見から考える。手掌に慢性に膿疱を繰り返す疾患としては、掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬、角層下膿疱症、細菌・真菌感染症などが挙がる。手掌・足底に限局する無菌性膿疱の反復は掌蹠膿疱症の典型像である。 次に関節所見をみると、胸鎖関節を中心とする前胸壁の骨肥厚・炎症は、掌蹠膿疱症に合併する骨関節炎の最も特徴的な部位である。PIP関節炎も伴いうる。関節症状を伴わない角層下膿疱症はこの時点で考えにくく、手掌の膿疱と前胸壁の骨関節炎の組み合わせから、掌蹠膿疱症性骨関節炎と診断できる。

設問の考え方

設問は「関節病変の原因」を問うている。PIP関節炎だけに注目すると関節リウマチも浮かぶが、手掌の膿疱と、胸鎖関節の骨性肥厚という骨増殖性変化を一元的に説明できる疾患を選ぶことが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  関節リウマチ

    関節リウマチは滑膜炎を主体とする自己免疫疾患で、PIP関節・中手指節(MCP)関節・手関節などの左右対称性の多関節炎をきたすため、本例のPIP関節炎だけをみれば鑑別に挙がる。しかし、手掌の膿疱は生じない。また関節リウマチの骨変化は骨びらん・骨粗鬆化が中心であり、胸鎖関節の骨性肥厚のような骨増殖性の変化は特徴ではない。皮膚と関節の両方を説明できないので誤りである。

  2. ×b.  強直性脊椎炎

    強直性脊椎炎は体軸性脊椎関節炎の代表で、10〜30歳代の若年男性に好発し、仙腸関節炎・脊椎炎による炎症性腰背部痛(安静で悪化し運動で改善)で発症することが多い。HLA-B27との関連が強く、進行すると脊椎が強直して竹様脊椎(bamboo spine)を呈する。前胸壁の付着部炎や股関節・膝関節など大関節の炎症を伴うこともあるが、手掌の膿疱は生じない。68歳での発症、腰背部症状の記載がないことも合わない。

  3. ×c.  慢性疲労症候群

    慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)は、原因不明の強い疲労感が6か月以上続き、労作後の症状悪化、睡眠障害、認知機能障害などを伴う病態である。筋肉痛や関節痛を訴えることはあるが、関節の腫脹・熱感、骨性肥厚、画像上の骨変化といった客観的な炎症所見や皮疹は伴わない。本例の所見は説明できない。

  4. ○d.  掌蹠膿疱症性骨関節炎

    掌蹠膿疱症は手掌・足底に無菌性膿疱が繰り返し出現する慢性炎症性皮膚疾患であり、その一部に骨関節炎を合併する。骨関節炎の好発部位は前胸壁、すなわち胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合で、疼痛・腫脹・熱感・骨性肥厚を示し、エックス線やCTで骨硬化・異常骨化(胸肋鎖骨間骨化症)を認める。脊椎・仙腸関節や末梢関節(本例のPIP関節など)が侵されることもある。本例は両手掌の膿疱、両側胸鎖関節の骨性肥厚と炎症、画像上の骨硬化がそろっており、関節病変の原因として最も考えられる。

  5. ×e.  リウマチ性多発筋痛症

    リウマチ性多発筋痛症は50歳以上(特に高齢者)に好発し、両側の頸部・肩甲帯・腰帯(殿部・大腿近位)の疼痛とこわばりを主症状とする。微熱や全身倦怠感、赤沈亢進・CRP上昇を伴い、少量の副腎皮質ステロイドが著効する。高齢という点は合うが、手指の小関節炎は主体ではなく、手掌の膿疱や胸鎖関節の骨肥厚も説明できない。巨細胞性動脈炎の合併に注意すべき疾患でもある。

掌蹠膿疱症

・手掌・足底に、小水疱から始まり膿疱化する無菌性膿疱が多発・反復し、痂皮化、紅斑、鱗屑を伴う。膿疱内に細菌はいない(無菌性)。 ・中年(40〜60歳代)に多く、喫煙者に多いことが知られる。 ・増悪因子として、扁桃炎・齲歯・歯周病・副鼻腔炎などの病巣感染、喫煙、歯科金属などの金属アレルギーが挙げられる。 ・爪甲下膿疱、爪甲の肥厚・変形を伴うことがあり、肘頭・膝蓋部などに乾癬様の皮疹がみられることもある。

掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)

・掌蹠膿疱症患者の一部(10〜30%程度とされる)に合併する。 ・前胸壁(胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合)が最も多く、次いで脊椎、仙腸関節、末梢関節が侵される。 ・前胸部痛・腫脹・熱感・骨性肥厚を呈し、画像では骨硬化・骨肥厚・靱帯骨化(胸肋鎖骨間骨化症)を認める。骨シンチグラフィでは胸鎖関節部の集積が「牛の頭(bull's head)」様にみえることがある。 ・皮疹より関節症状が先行することもある。 ・SAPHO症候群(Synovitis 滑膜炎、Acne 痤瘡、Pustulosis 膿疱症、Hyperostosis 骨化過剰症、Osteitis 骨炎)の一型と位置づけられる。 ・関節リウマチと異なり、リウマトイド因子・抗CCP抗体は通常陰性である。

治療

・病巣感染の治療(扁桃摘出術、歯科治療)、禁煙、金属アレルギーがあれば原因金属の除去。 ・皮膚:ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、紫外線療法(PUVA、ナローバンドUVB)など。生物学的製剤として抗IL-23p19抗体(グセルクマブなど)が用いられる。 ・骨関節症状:NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が基本で、難治例では生物学的製剤などを検討する。

POINT

・手掌(足底)の無菌性膿疱の反復+前胸部痛(胸鎖関節の骨性肥厚・炎症)→掌蹠膿疱症性骨関節炎。 ・好発部位は前胸壁(胸鎖関節・胸肋関節)。画像では骨硬化・異常骨化(胸肋鎖骨間骨化症)。 ・増悪因子:病巣感染(扁桃炎・齲歯)、喫煙、金属アレルギー。 ・SAPHO症候群の一型。関節リウマチ(骨びらん、RF・抗CCP抗体陽性)との鑑別が重要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。