がんと心臓病は「増えて」いるのか―粗死亡率と年齢調整死亡率のすれ違いを読み解く
第113回医師国家試験 F問題 第34問
国試問題にチャレンジ
2006年(平成18年)に比して2016年(平成28年)で,粗死亡率が増加しているが年齢調整死亡率が減少しているのはどれか。2つ選べ。
- a.自殺
- b.結核
- c.心疾患
- d.悪性新生物
- e.脳血管疾患
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
粗死亡率は死亡数を人口で割った指標で年齢構成の影響をそのまま受けるのに対し、年齢調整死亡率は基準人口に合わせて補正し、高齢化の影響を除いて死亡リスクそのものの変化を比べる指標です。「粗死亡率は増加、年齢調整死亡率は減少」は、治療や予防の進歩で各年齢の死亡リスクは下がったものの、その疾患で亡くなりやすい高齢者が増えたことを意味し、2006年から2016年では悪性新生物と心疾患が該当します。脳血管疾患は高血圧管理の改善で、結核は罹患自体の減少で、自殺は死亡数の減少で、いずれも両方の指標が低下しました。年齢調整死亡率の基準人口が2020年に平成27年モデル人口へ変更されたことや、小集団で用いる標準化死亡比もあわせて押さえておきましょう。2つの指標の違いを理解することは、統計の数字を高齢化の影響と医療の成果に分けて読み解く力の基礎になります。
解答・解説
正解はc, dです
粗死亡率と年齢調整死亡率の違いを理解しているか、主要な死因の推移を知っているかを問う問題である。
二つの指標の意味
粗死亡率は、ある期間の死亡数をその集団の人口で割った値(日本の統計では人口10万対)である。集団の年齢構成の影響をそのまま受けるため、高齢者の割合が増えると、高齢者に多い疾患の粗死亡率は上がりやすい。 年齢調整死亡率は、基準となる人口(モデル人口)の年齢構成に合わせて計算し直した死亡率である。高齢化の影響を除いて、年齢ごとの死亡の起こりやすさそのものが変わったかどうかを比べるのに使う。
「粗死亡率は増加、年齢調整死亡率は減少」が意味すること
これは、各年齢での死亡リスクは下がっている(診断や治療の進歩などによる)が、その疾患で死亡しやすい高齢者が増えたために、死亡数や粗死亡率としては増えている状態を表す。高齢になるほど死亡が急に増え、かつ人口全体で死亡数が多い疾患が当てはまる。 2006年から2016年にかけて、選択肢の5つの死因はいずれも年齢調整死亡率が低下した。このうち粗死亡率が増加したのは、高齢化の影響を大きく受ける悪性新生物と心疾患である。脳血管疾患、自殺、結核は粗死亡率も低下した。
選択肢考察
- ×a. 自殺
該当しない。自殺による死亡数は1998年から3万人を超える状態が続いたが、2010年ごろから減り始め、2012年には3万人を下回った。2016年には約2万2千人まで減った。この期間は粗死亡率、年齢調整死亡率のいずれも低下している。自殺は高齢者に偏った死因ではないため、高齢化によって粗死亡率が押し上げられる効果も小さい。
- ×b. 結核
該当しない。結核による死亡は長期的に減少が続いており、この期間も粗死亡率、年齢調整死亡率ともに低下した。現在の結核患者・死亡者は高齢者が大部分を占めるが、もともと死亡数が少なく、結核の罹患自体が減っているため、高齢化があっても粗死亡率は上がらなかった。
- ○c. 心疾患
該当する。心疾患(高血圧性を除く)は、虚血性心疾患や心不全などによる死亡が高齢者に集中している。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの治療の普及により年齢調整死亡率は低下したが、高齢者人口の増加によって死亡数と粗死亡率は増加した。1985年以降、悪性新生物に次いで死因の第2位を占めている。
- ○d. 悪性新生物
該当する。悪性新生物(がん)は1981年から死因の第1位であり、死亡数は増え続けている。がんの多くは年齢とともに罹患が増えるため、高齢化に伴って粗死亡率は増加した。一方で、喫煙率の低下、ヘリコバクター・ピロリ感染の減少(胃癌の減少)、検診や治療の進歩などにより、年齢調整死亡率は低下している。部位別にみると、男女とも肺癌、大腸癌などの死亡数が多い。
- ×e. 脳血管疾患
該当しない。脳血管疾患も高齢者に多い疾患だが、この期間は粗死亡率、年齢調整死亡率ともに低下した。降圧治療の普及や食塩摂取量の減少による高血圧管理の改善で、特に脳出血による死亡が大きく減ったことが大きい。脳血管疾患は1951年から1980年まで死因の第1位だったが、その後順位を下げた。2016年には悪性新生物、心疾患、肺炎に次ぐ第4位であった。
年齢調整死亡率の計算法(直接法)
観察集団の年齢階級別死亡率を、基準人口の各年齢階級の人口に当てはめて「期待死亡数」を出し、その合計を基準人口の総数で割る。基準人口には長く昭和60年(1985年)モデル人口が使われていたが、2020年からは平成27年(2015年)モデル人口に切り替えられた。基準人口が変わると値そのものも変わるので、異なる基準による値を直接比べてはならない。
間接法と標準化死亡比(SMR)
対象集団の人口が小さく年齢階級別の死亡率が安定しないとき(市町村など)は、基準集団の年齢階級別死亡率を対象集団の人口に当てはめて期待死亡数を求め、実際の死亡数との比をとる。これが標準化死亡比(SMR)であり、基準を100(または1)として比べる。
主要死因の動向(概略)
・悪性新生物:1981年以降第1位。死亡数・粗死亡率は増加傾向、年齢調整死亡率は低下傾向。 ・心疾患:1985年以降第2位。粗死亡率は増加傾向、年齢調整死亡率は低下傾向。 ・脳血管疾患:1951〜1980年は第1位。その後は粗死亡率・年齢調整死亡率ともに長期的に低下。 ・老衰:高齢化に伴い急増し、近年は悪性新生物、心疾患に次ぐ第3位となっている。 ・肺炎:2011〜2016年は第3位だったが、2017年に死因分類の基準が変わり(誤嚥性肺炎を別項目にするなど)、順位を下げた。 ・自殺:2012年に年間3万人を下回って以降、減少傾向が続いた。若年層では死因の上位を占める。
この形の設問の解き方
「粗死亡率が増加し、年齢調整死亡率が減少」とあれば高齢者に多い主要死因(悪性新生物、心疾患など)を考える。「両方減少」なら治療・予防が大きく進んだ疾患(脳血管疾患など)や罹患自体が減っている疾患(結核など)を考える。
POINT
・粗死亡率は人口の年齢構成の影響を受け、高齢化が進むと高齢者に多い疾患では上がりやすい。 ・年齢調整死亡率は年齢構成の影響を除いた指標で、時代や地域を比べるのに用いる。 ・悪性新生物・心疾患:粗死亡率は増加、年齢調整死亡率は低下。 ・脳血管疾患・結核・自殺:粗死亡率、年齢調整死亡率ともに低下。 ・年齢調整死亡率の基準人口は、2020年に昭和60年モデル人口から平成27年モデル人口へ変更された。 ・本問は特定の年の統計に基づくため、最新の統計で主要死因の順位と傾向を確認しておくこと。
