「平均寿命」は赤ちゃんの命で延びた―戦後日本の死因と寿命の変遷を読み解く
第113回医師国家試験 F問題 第1問
国試問題にチャレンジ
我が国の死亡と寿命の変遷について正しいのはどれか。
- a.1950年以降,死亡率の最も高い死因は一貫して悪性新生物である。
- b.1960年代中盤までの寿命の延伸の最大原因は乳幼児死亡の減少である。
- c.1970年代の脳卒中死亡率の低下は主として脳梗塞の減少による。
- d.1980年以降,肺炎の年齢調整死亡率は増加が続いている。
- e.1990年以降,自殺による死亡数は一貫して3万人を超えている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
平均寿命は0歳の平均余命であり、若年での死亡が減るほど大きく延びるため、戦後から1960年代中盤までの急速な寿命延伸の最大要因は乳幼児死亡の減少でした。死因第1位は結核(〜1950年)、脳血管疾患(1951〜1980年)、悪性新生物(1981年〜)と移り変わり、1960〜70年代の脳卒中死亡の減少は減塩や降圧治療による脳出血の減少が主因です。肺炎の粗死亡率は高齢化で上昇しましたが年齢調整死亡率は1990年代半ば以降低下しており、自殺者数が3万人を超えたのは1998〜2011年に限られます。粗死亡率と年齢調整死亡率の違い、そして「いつからいつまで」という期間を意識して統計を読むことが、公衆衛生の問題を解くうえでも、現在の医療課題の背景を理解するうえでも重要です。
解答・解説
正解はbです
問われているテーマ
第二次世界大戦後の我が国における死因構造と平均寿命の変化を、時代ごとの流れとして理解しているかを問う問題である。押さえるべき大きな流れは次の通りである。 ・終戦直後:結核などの感染症と、乳幼児の死亡が多かった。 ・1950年代~1960年代:抗菌薬の普及、栄養・衛生環境の改善、母子保健の充実により、感染症死亡と乳幼児死亡が急減し、平均寿命が大きく延びた。死因の第1位は結核から脳血管疾患へと移った。 ・1960年代~1970年代:減塩や降圧治療の普及によって脳出血による死亡が大きく減少した。 ・1981年以降:悪性新生物(がん)が死因の第1位となり、その後も首位が続いている。 ・1980年代以降:人口の高齢化により、死亡率(粗死亡率)は上昇に転じたが、年齢構成の影響を除いた年齢調整死亡率は低下を続けている。
正解を導く考え方
平均寿命は0歳時点の平均余命であるため、若い年齢、特に乳児期・幼児期の死亡が減ると大きく延びる。戦後から1960年代中盤までの急速な寿命延伸は、乳幼児死亡の激減によるところが最も大きい。各選択肢では、死因順位の入れ替わりの年、脳卒中の病型別の推移、自殺者数の推移など、具体的な年代と数値を正しく覚えているかが試されている。
選択肢考察
- ×a. 1950年以降,死亡率の最も高い死因は一貫して悪性新生物である。
1950年の死因第1位は結核であった。翌1951年から1980年までは脳血管疾患が第1位であり、悪性新生物が第1位となったのは1981年(昭和56年)である。それ以降は現在まで一貫して悪性新生物が第1位であるが、「1950年以降一貫して」という記述は誤りである。
- ○b. 1960年代中盤までの寿命の延伸の最大原因は乳幼児死亡の減少である。
平均寿命(0歳平均余命)は、全年齢の死亡状況を反映するが、若年で死亡する人が減るほど延びる幅が大きくなる。戦後間もない時期には乳児死亡率(出生千対)が50~60台と高かったが、母子保健の向上、栄養状態や衛生環境の改善、抗菌薬・予防接種の普及による感染症の減少によって急速に低下し、1960年代中盤には20を下回った。終戦直後に男女とも50歳台であった平均寿命が1960年代中盤に男性約68歳・女性約73歳まで大きく延びた主な要因は、この乳幼児死亡の減少である。その後の寿命延伸は、主に中高年の脳血管疾患死亡の減少などによってもたらされている。
- ×c. 1970年代の脳卒中死亡率の低下は主として脳梗塞の減少による。
1970年代の脳血管疾患(脳卒中)による死亡の減少をもたらしたのは、主に脳出血(脳内出血)による死亡の減少である。脳出血の最大の危険因子は高血圧であり、減塩運動の普及、降圧薬による高血圧治療、栄養状態の改善などにより、脳出血による死亡率は1960年代から大きく低下した。一方、脳梗塞による死亡率は1980年頃まで上昇しており、1970年代半ばには脳梗塞が脳出血を上回って脳血管疾患死亡の中で最多の病型となった。
- ×d. 1980年以降,肺炎の年齢調整死亡率は増加が続いている。
肺炎の粗死亡率は高齢化に伴って上昇し、肺炎は2011年に死因の第3位となった(その後、2017年からの死因統計の分類ルール変更で誤嚥性肺炎が別に集計されるなどして順位は下がった)。しかし年齢調整死亡率で見ると、1980年代以降、男性はごく緩やかな上昇、女性はほぼ横ばいで推移した後、1990年代半ば以降は男女とも低下傾向にある。「増加が続いている」という記述は誤りである。粗死亡率と年齢調整死亡率の違いに注意する。
- ×e. 1990年以降,自殺による死亡数は一貫して3万人を超えている。
自殺者数は1990年代前半には年間2万人台前半であったが、経済危機のあった1998年に急増して3万人を超え、2011年までの14年間にわたり3万人台が続いた。2012年に3万人を下回って以降は減少傾向となり、近年は2万人台前半で推移している。したがって「1990年以降一貫して」は誤りである。なお、2006年には自殺対策基本法が制定されている。
死亡率と年齢調整死亡率
・死亡率(粗死亡率):一定期間の死亡数を人口で割ったもので、通常は人口千対(死因別では人口10万対)で表す。我が国の粗死亡率は1947年の14.6から1960年頃には7台へと半減し、その後も低下したが、1980年代前半を底として高齢化の影響で上昇に転じている。 ・年齢調整死亡率:年齢構成が異なる集団や年次を比較できるよう、基準人口の年齢構成に合わせて調整した死亡率である。我が国の年齢調整死亡率は男女とも長期的に低下を続けている。粗死亡率の上昇は高齢者人口の増加によるものであり、健康水準の悪化を意味しない。
主要死因の変遷(第1位)
・1950年まで:結核 ・1951~1980年:脳血管疾患 ・1981年以降:悪性新生物 近年の上位は、悪性新生物、心疾患(高血圧性を除く)、老衰、脳血管疾患、肺炎などである。老衰は高齢化を背景に増加し、上位を占めるようになった。
乳児死亡率
・生後1年未満の死亡数を出生千対で表したもので、地域の衛生状態・経済状態・母子保健水準を反映する指標である。 ・我が国では大正期には出生千対150を超えていたが、戦後急速に低下し、現在は2前後と世界で最も低い水準にある。 ・戦後初期は新生児期以降(生後4週以降)の乳児死亡の減少が大きく寄与し、近年は周産期医療の進歩による早期新生児死亡の減少が寄与している。
脳血管疾患の病型別の推移
・脳出血:高血圧が最大の危険因子。1960年代以降、減塩と降圧治療の普及で死亡率が大きく低下した。 ・脳梗塞:1970年代半ばに脳出血を上回り、脳血管疾患死亡の最多の病型となった。粗死亡率は1980年頃まで上昇し、その後は横ばいから低下傾向である。
平均寿命
・0歳の平均余命のことで、生命表から算出される。乳幼児死亡の影響を強く受ける。 ・終戦直後は男女とも50歳台であったが、現在は男性81歳台、女性87歳台で、世界有数の長寿国である。
POINT
・平均寿命は0歳平均余命であり、乳幼児死亡の減少で大きく延びる。戦後~1960年代中盤の寿命延伸の主因は乳幼児死亡の減少である。 ・死因第1位の推移:結核(~1950年)→脳血管疾患(1951~1980年)→悪性新生物(1981年~)。 ・1960~70年代の脳卒中死亡減少の主因は脳出血の減少(減塩・降圧治療)である。 ・肺炎の年齢調整死亡率は1990年代半ば以降低下傾向。粗死亡率との違いに注意する。 ・自殺者数が3万人を超えたのは1998~2011年。2012年以降は3万人未満である。
