大動脈弁が遅れて閉じるとき―Ⅱ音の奇異性分裂と完全左脚ブロック
第113回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
Ⅱ音の奇異性分裂をきたすのはどれか。
- a.動脈管開存症
- b.肺動脈弁狭窄症
- c.心室中隔欠損症
- d.心房中隔欠損症
- e.完全左脚ブロック
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Ⅱ音は大動脈弁閉鎖音(Ⅱa)と肺動脈弁閉鎖音(Ⅱp)からなり、通常はⅡa→Ⅱpの順で、吸気時にⅡpが遅れて分裂が開くのが生理的分裂です。左室の駆出が遅れてⅡaがⅡpより後ろにずれると順序が逆転し、呼気時に分裂して吸気時に狭まる奇異性分裂となり、その代表が右室から興奮が始まる完全左脚ブロックです。ほかに右室ペーシング、重症大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、重症高血圧なども原因となります。一方、肺動脈弁狭窄症や完全右脚ブロックは分裂の拡大、心房中隔欠損症は固定性分裂、心室中隔欠損症は全収縮期雑音、動脈管開存症は連続性雑音が特徴です。どちらの弁の閉鎖が早まるか遅れるかという仕組みから考えると、Ⅱ音分裂の4パターンを丸暗記せずに整理でき、聴診から病態を推測する力につながります。
解答・解説
正解はeです
Ⅱ音の成り立ち
Ⅱ音は心室の駆出が終わって流出路の弁が閉じるときの音で、大動脈弁の閉鎖音(Ⅱa、A2とも表記)と肺動脈弁の閉鎖音(Ⅱp、P2)の2成分からなる。健常者では左室の駆出時間が右室よりやや短いため、Ⅱaが先、Ⅱpが後に生じる。
生理的分裂
吸気時には胸腔内圧が下がって右心系への静脈還流が増え、右室の1回拍出量が増加して駆出時間が延びる。さらに肺血管床が拡張して肺動脈側の圧が下がるため、肺動脈弁の閉鎖が遅れる。一方、肺に血液が貯留して左心系への還流はわずかに減り、Ⅱaはやや早まる。その結果、吸気時にⅡa-Ⅱp間隔が開いて分裂が聴取され、呼気時には間隔が狭まって単一音に近くなる。これを生理的分裂という。
奇異性分裂(逆分裂)
左室の興奮や駆出が遅れる病態では、Ⅱaの時点がⅡpより後ろにずれ、順序が「Ⅱp→Ⅱa」と逆転する。この状態で吸気が加わるとⅡpが遅れてⅡaに近づくため分裂は狭くなり、呼気時にはⅡpが早まって分裂が広がる。つまり呼吸性変動が生理的分裂と逆になるので「奇異性」と呼ぶ。 左室の駆出遅延をきたす原因は、大きく次の2つに分けて考えるとよい。 ・電気的な遅れ:完全左脚ブロック、右室ペーシング(右室から興奮が始まり左室の興奮が遅れる)、右室起源の期外収縮 ・機械的な遅れ:重症大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症(閉塞性)、重症高血圧、左室機能低下など 本問の選択肢の中で左室の駆出遅延を起こすのは完全左脚ブロックであり、これが正解となる。他の選択肢は、むしろⅡpの遅れ(分裂の拡大)や固定性分裂、連続性雑音などを特徴とする。
選択肢考察
- ×a. 動脈管開存症
誤り。動脈管開存症(PDA)では、大動脈から肺動脈へ収縮期・拡張期を通じて短絡血流が生じるため、胸骨左縁第2肋間付近にⅡ音を挟んで途切れない連続性雑音(機械様雑音)を聴取するのが特徴である。雑音にⅡ音が覆われるため、Ⅱ音の分裂は評価しにくい。短絡量が非常に大きく左室の容量負荷が著しい場合に奇異性分裂を生じうるとする記載もあるが、典型的な所見ではなく、本問の選択肢の中で最も適切なのは完全左脚ブロックである。
- ×b. 肺動脈弁狭窄症
誤り。肺動脈弁狭窄症では右室の駆出に時間がかかるためⅡpが遅れ、Ⅱ音の分裂は拡大する(幅広い分裂)。順序はⅡa→Ⅱpのままなので奇異性分裂にはならない。狭窄が強いほどⅡpは遅れて小さくなる。胸骨左縁第2肋間に収縮期駆出性雑音を聴取し、駆出音(クリック)を伴うことがある。
- ×c. 心室中隔欠損症
誤り。心室中隔欠損症(VSD)では左室から右室への短絡があり、胸骨左縁第3〜4肋間に全収縮期雑音(逆流性雑音)を聴取する。左室の血液が駆出時に右室側へ逃げるため左室の駆出が早く終わり、Ⅱaは早まって分裂はむしろ広がる傾向となる。肺高血圧を合併するとⅡpが亢進し、分裂間隔は狭まるが、順序が逆転する奇異性分裂にはならない。
- ×d. 心房中隔欠損症
誤り。心房中隔欠損症(ASD)の特徴はⅡ音の固定性分裂である。左房から右房への短絡により右室は常に容量負荷を受けて駆出時間が延び、Ⅱpが遅れて分裂が広がっている。吸気時に右房への静脈還流が増えても、その分だけ左房からの短絡量が減るため右室の拍出量はほとんど変化せず、呼吸による分裂幅の変動が消える。このほか、相対的肺動脈弁狭窄による胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音などを聴取する。
- ○e. 完全左脚ブロック
正しい。完全左脚ブロックでは、刺激伝導が左脚で途絶し、心室の興奮は右脚を通って右室から始まり、心筋内をゆっくりと左室へ伝わる。このため左室の収縮開始と駆出終了が遅れ、Ⅱaが遅延してⅡpより後ろにくる(Ⅱp→Ⅱaの順)。吸気時にはⅡpが遅れてⅡaに近づき分裂が狭まり、呼気時には分裂が広がる、という奇異性分裂を呈する代表的な病態である。
Ⅱ音分裂の4つのパターン
①生理的分裂:吸気時に分裂、呼気時に単一化。健常者、特に若年者で明瞭。 ②病的な幅広い分裂(分裂の拡大):呼吸性変動は保たれるが、呼気時にも分裂が残る。原因はⅡpの遅れ(完全右脚ブロック、肺動脈弁狭窄症)またはⅡaの早まり(僧帽弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症など、左室の駆出が早く終わる病態)。 ③固定性分裂:呼吸による分裂幅の変化がない。心房中隔欠損症が代表。 ④奇異性分裂(逆分裂):呼気時に分裂し、吸気時に狭まる。原因はⅡaの遅れ(完全左脚ブロック、右室ペーシング、重症大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、重症高血圧など)。
Ⅱ音の強さの変化
・Ⅱpの亢進:肺高血圧症(心室中隔欠損症のEisenmenger化、肺血栓塞栓症など) ・Ⅱaの減弱:重症大動脈弁狭窄症(弁の可動性低下による) ・Ⅱaの亢進:高血圧症
主な先天性心疾患の聴診所見
・動脈管開存症:胸骨左縁第2肋間の連続性雑音 ・心室中隔欠損症:胸骨左縁第3〜4肋間の全収縮期雑音(小欠損ほど音が大きいこともある) ・心房中隔欠損症:Ⅱ音の固定性分裂、胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音、短絡量が多いと三尖弁を通る血流増加による拡張期ランブル ・肺動脈弁狭窄症:胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音、Ⅱ音の分裂拡大とⅡpの減弱
POINT
・Ⅱ音はⅡa(大動脈弁)→Ⅱp(肺動脈弁)の順。吸気でⅡpが遅れるのが生理的分裂。 ・奇異性分裂=Ⅱaの遅れで順序がⅡp→Ⅱaに逆転し、呼気時に分裂する。 ・原因:完全左脚ブロック、右室ペーシング、重症大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、重症高血圧。 ・固定性分裂は心房中隔欠損症、分裂の拡大は完全右脚ブロック・肺動脈弁狭窄症。 ・左と右を取り違えないこと(左脚ブロック=奇異性分裂、右脚ブロック=分裂の拡大)。
