StudyMed医師国家試験

「つらいですね」の一言が治療を始める―慢性疼痛患者に届く共感の言葉

第113回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第11問

慢性疼痛患者への共感を示す言葉として,適切なのはどれか。

  1. a.「その痛みはつらいですね」
  2. b.「我慢できる痛みなら大丈夫です」
  3. c.「痛みを受け入れることが大事です」
  4. d.「自分はもっと強い痛みがありますよ」
  5. e.「これくらいの痛みはよくあることですよ」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接での共感的な声かけを問う問題だ。ポイントは、痛みは本人にしか感じられない主観的な体験だということ。医療者が痛みを評価したり比べたりせず、患者の体験をそのまま受け止める言葉はどれか、という視点で選んでみよう。
医学生医学生
OSCEの医療面接で「共感を示す」という評価項目がありました。でも正直、共感と同情の違いがあいまいなんです。
ドクタードクター
大事な疑問だね。共感とは、患者の気持ちを理解しようと努め、理解したことを言葉や態度で伝えること。医療者は自分の立場を保ったまま相手の気持ちを理解する。一方、同情は相手をかわいそうに思う気持ちで、医療者自身の感情が中心になりやすい。一緒に動揺してしまうのも共感とは違うんだ。
医学生医学生
そうすると、患者さんの気持ちを言葉にして返している「その痛みはつらいですね」が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。評価を加えずに、痛みとそれに伴う苦痛をそのまま受け止めて返している。感情の言語化、反映と呼ばれる技法の典型だ。自分の訴えが信じてもらえたと感じると、患者は安心して症状や生活への影響を話しやすくなる。不安が和らぐことで、痛みの感じ方そのものが軽くなることもあるんだよ。
医学生医学生
「我慢できる痛みなら大丈夫です」は、安心させようとしているので悪くないように思えました。
ドクタードクター
意図はわかるけれど、我慢できるかどうかは本人にしか判断できない。それを医療者が「大丈夫」と決めつけるのは安易な保証で、「我慢しなさい」と受け取られるおそれもある。それに、我慢できる程度の痛みでも生活の質を損なっていれば、十分にケアの対象になる。
医学生医学生
「痛みを受け入れることが大事です」はどうでしょう。精神科の講義で、慢性疼痛の認知行動療法では痛みとの付き合い方を学ぶと聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。痛みとともに生活する姿勢を身につけることは、確かに治療目標の一つになりうる。でもそれは患者自身が時間をかけて取り組むものだ。つらさへの理解を示す前に医療者が一方的に言うと、共感ではなく説得や助言になってしまう。患者には「わかってもらえない」と響くんだ。
医学生医学生
「自分はもっと強い痛みがありますよ」は、励ましのつもりでも明らかにまずいですね。
ドクタードクター
そうだね。痛みは主観的だから、医療者自身の痛みと比べることはできない。しかもこの言葉は話題の中心を医療者に移し、「その程度で訴えるのか」と患者の苦痛を小さく扱う意味合いを含む。自分の経験を引き合いに出すことは共感ではないんだ。
医学生医学生
「これくらいの痛みはよくあることですよ」も、痛みの強さを医療者が勝手に評価してしまっていますね。
ドクタードクター
その通り。ありふれたものとして扱われると、患者は真剣に聞いてもらえていないと感じる。特に慢性疼痛の患者は、検査で異常が見つからず「大げさ」「気のせい」と言われてきた経験を持つことが少なくない。医療者への不信感や不安、抑うつを抱えやすいから、こうした一言が信頼関係を大きく損なうんだ。
医学生医学生
否定しない、軽視しない、評価しない、比べない。そのうえで気持ちを言葉にして返す、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。共感を示す技法はほかにもある。「そんな状況なら不安になるのは当然だと思います」と感情を自然なものと認める正当化、「一緒に対策を考えていきましょう」と伝える支持・協力の表明、それにうなずきや視線、沈黙を待つといった非言語的コミュニケーションも大切だよ。
医学生医学生
麻酔科の実習でペインクリニックを見学したとき、先生が最初に患者さんの話をじっくり聞いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それが基本の姿勢なんだ。慢性疼痛は一般に3か月以上持続または反復する痛みを指し、組織の損傷だけでなく、不安や抑うつ、痛みへの破局的思考といった心理的要因、仕事や家庭などの社会的要因が持続や増悪に関わる。だから生物・心理・社会的な視点で評価し、多職種で集学的に治療する。その出発点が、まず訴えを受け止めることなんだ。

まとめ

共感とは、患者の気持ちを理解しようと努め、理解したことを言葉や態度で伝えることであり、「その痛みはつらいですね」のように評価を加えず苦痛をそのまま受け止めて返す言葉がその典型です。痛みは本人にしか感じられない主観的な体験なので、医療者が程度を決めつける安易な保証、軽視、一方的な助言、自分の経験との比較は共感的な対応になりません。慢性疼痛の患者は訴えを「気のせい」と受け取られた経験を持つことが多く、不信感や不安、抑うつを抱えやすいため、まず訴えを受け止めることが信頼関係の基盤となります。共感の技法には感情の言語化のほか、正当化、支持・協力の表明、非言語的コミュニケーションがあり、生物・心理・社会的な視点に立った集学的治療の出発点として、あらゆる診療場面で求められる基本的な臨床能力です。

解答・解説

正解はaです

医療面接における共感的な対応、特に慢性疼痛の患者に対する声かけを問う問題である。 共感とは、患者が感じている気持ちを医療者が理解しようと努め、「理解した」ことを言葉や態度で患者に伝えることである。ここで大切なのは、医療者自身の価値判断や経験を持ち込まず、患者の体験をそのまま受け止めて返すことである。医療者が患者と同じように感じたり、同情して一緒に動揺したりすること(同情・同一化)とは区別される。 痛みは本人にしか感じられない主観的な体験であり、国際疼痛学会(IASP)も痛みを感覚的であると同時に情動的な不快な体験と定義している。その強さやつらさを他人が評価したり、他人の痛みと比べたりすることはできない。慢性疼痛(一般に3か月以上持続・反復する痛み)の患者は、検査で明らかな異常が見つからないために「大げさだ」「気のせいだ」と受け取られた経験を持つことが少なくなく、医療者への不信感や不安、抑うつを抱えやすい。そのため、まず患者が訴える痛みとつらさをそのまま認める言葉が信頼関係の出発点となる。 この観点から選択肢をみると、患者のつらさを否定・軽視・評価・比較せずに受け止めているのは「その痛みはつらいですね」だけである。

選択肢考察

  1. ○a.  「その痛みはつらいですね」

    適切である。患者が訴える痛みとそれに伴う苦痛を、医療者の評価を加えずにそのまま受け止め、「あなたのつらさを理解している」と言葉にして返しており、共感を示す典型的な表現である。患者は自分の訴えが信じてもらえたと感じることで安心し、その後の問診で症状や生活への影響を話しやすくなる。こうした受容と理解は信頼関係を築くだけでなく、不安を和らげることを通じて痛みの感じ方そのものの軽減にもつながりうる。

  2. ×b.  「我慢できる痛みなら大丈夫です」

    不適切である。痛みの程度や我慢できるかどうかは本人にしか判断できないものであり、それを医療者が「大丈夫」と決めつける根拠はない。この言葉は患者の苦痛を軽く扱い、「我慢すべきだ」と受け取られるおそれがある。また、我慢できる程度の痛みであっても生活の質を損なっていることは多く、治療やケアの対象となりうる。

  3. ×c.  「痛みを受け入れることが大事です」

    不適切である。痛みとともに生活する姿勢を身につけることは、慢性疼痛に対する認知行動療法などで治療目標の一つになりうる。しかし、それは患者自身が時間をかけて取り組んでいくものであり、つらさへの理解を示す前に医療者が一方的に「受け入れるべきだ」と指示するのは、患者の気持ちを受け止める共感の言葉ではなく、説得や助言にあたる。患者には「わかってもらえない」と感じさせてしまう。

  4. ×d.  「自分はもっと強い痛みがありますよ」

    不適切である。痛みは主観的な体験であり、医療者自身の痛みと患者の痛みを比べることはできない。この発言は話題の中心を患者から医療者自身へ移してしまい、さらに「その程度の痛みで訴えるのか」と患者の苦痛を相対的に小さく扱う意味合いを含む。自分の経験を引き合いに出すことは共感とは異なる。

  5. ×e.  「これくらいの痛みはよくあることですよ」

    不適切である。患者が感じている痛みの強さを医療者が「これくらい」と勝手に評価し、ありふれたものとして扱っているため、患者のつらさを否定・軽視する発言になっている。不安を和らげようとする意図があったとしても、患者には自分の訴えを真剣に聞いてもらえていないと受け取られやすく、信頼関係を損なう。

共感と関連する概念

・共感:患者の感情を理解しようと努め、理解したことを患者に伝えること。医療者は自分の立場を保ったまま相手の気持ちを理解する。 ・同情:相手をかわいそうに思う気持ち。医療者自身の感情が中心となりやすい。 ・受容:患者の考えや感情を、善し悪しの評価をせずにそのまま受け止めること。

医療面接で共感を示す技法

・感情の言語化(反映):「それはつらいですね」「ご心配でしたね」のように、患者の気持ちを言葉にして返す。 ・正当化(妥当化):「そのような状況なら、不安になるのは当然だと思います」と、その感情が自然なものであると認める。 ・支持・協力の表明:「一緒に対策を考えていきましょう」と、ともに取り組む姿勢を示す。 ・非言語的コミュニケーション:うなずき、相づち、視線、姿勢、沈黙を待つ態度など。

共感を妨げる対応の例

安易な保証(「大丈夫ですよ」)、評価・批判、説教や一方的な助言、医療者自身の経験との比較、話題をすぐに変えること。

慢性疼痛

一般に、通常の治癒期間を超えて3か月以上持続または反復する痛みを指す。組織の損傷だけでなく、不安・抑うつ・痛みへの破局的思考などの心理的要因や、仕事・家庭といった社会的要因が痛みの持続や増悪に関わるため、生物・心理・社会的な視点からの評価と多職種による集学的な治療が重要となる。

POINT

・共感とは、患者の気持ちを理解し、それを言葉で伝えること(例:「その痛みはつらいですね」)。 ・痛みは主観的体験であり、医療者が程度を評価したり、他人の痛みと比べたりしない。 ・安易な保証、軽視、説教・一方的な助言、自分の経験との比較は共感的対応ではない。 ・慢性疼痛では、まず訴えを受け止めて信頼関係を築くことが治療の出発点となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。