StudyMed医師国家試験

「ちょっと見るだけ」が信頼を壊す―電子カルテ閲覧から考える医師のプロフェッショナリズム

第113回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第1問

医師の職業倫理に反するのはどれか。

  1. a.他の医師の不適切な医療行為に対して忠告する。
  2. b.患者からのセカンドオピニオンの求めに応じる。
  3. c.認定を受けた専門医資格をホームページに掲載する。
  4. d.自身の業務に関係のない患者の電子カルテを閲覧する。
  5. e.判断能力のない患者の利益擁護者に病状や治療内容を説明する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医師の職業倫理、いわゆるプロフェッショナリズムの問題だ。どの行為も一見ありふれているけれど、判断の軸は「その行為は患者の利益や権利に資するか」「患者の信頼を損なわないか」の二つ。これで一つずつ見ていこう。
医学生医学生
倫理の問題って、どれも正しそうに見えて逆に迷うんですよね。
ドクタードクター
だからこそ軸を持つことが大事なんだ。まず、他の医師の不適切な医療行為に忠告すること。これはどう思う?
医学生医学生
同僚を批判するのは、医師同士の信頼関係を崩す気がして少しためらいます。
ドクタードクター
その感覚は自然だけど、医師には患者の安全と医療の質を守る責務がある。医師集団が自分たちで互いをチェックする、いわゆるプロフェッショナル・オートノミーは、社会が医師を専門職として信頼する前提なんだ。見て見ぬふりをするほうが倫理的には問題だよ。
医学生医学生
医療安全の講義で、インシデントを隠さず共有する文化が大切だと習ったのと同じ発想ですね。
ドクタードクター
そのとおり。次はセカンドオピニオンだ。
医学生医学生
主治医以外の医師の意見を聞くことで、患者さんが納得して治療を選べるようにする仕組みですよね。自己決定権を支えるものだと思います。
ドクタードクター
完璧だ。求められた医師が応じるのはもちろん、主治医も診療情報提供書などで協力するのが望ましい姿勢だ。世界医師会のリスボン宣言でも、選択の自由としてセカンドオピニオンを求める権利が示されている。
医学生医学生
専門医資格をホームページに載せるのは、宣伝っぽくて少し引っかかりました。
ドクタードクター
いい疑問だね。たしかに医療機関のホームページは医療広告規制の対象で、虚偽や誇大な表示は禁止されている。でも、正式に認定を受けた専門医資格を事実どおりに示すのは、患者さんが医療機関を選ぶ際の客観的な情報になる。問題になるのは嘘や大げさな表現のほうなんだ。
医学生医学生
判断能力のない患者さんの利益擁護者に説明するのは、本人以外に病状を話すことになるので守秘義務に触れないか心配です。
ドクタードクター
そこは混同しやすいね。意識障害や重度の認知症、小児などで本人が説明を理解して意思決定できないとき、家族や成年後見人、親権者といった本人の利益を代弁する人に説明し、本人にとって最善の方針を一緒に考えるのは適切な対応だ。もちろん、可能な範囲で本人にも理解度に合わせて説明し、意向を尊重することが大切だよ。
医学生医学生
となると、業務に関係のない患者さんの電子カルテを閲覧するのが倫理に反する行為ですね。病院内の人間なら見てもいいのかと思っていた時期もありました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。カルテには病名や既往歴、家族歴、生活状況など、とても機微な個人情報が詰まっている。医師がそれに触れてよいのは、その患者さんの診療など業務上の正当な目的があるときだけ。興味本位で見ることは、外に漏らさなくても守秘義務の精神と個人情報保護の原則に反するんだ。
医学生医学生
臨床実習の初日に、受け持ち以外の患者さんのカルテは開かないようにとオリエンテーションで念を押されました。
ドクタードクター
大切なルールだね。電子カルテには誰がいつどの記録を開いたかというアクセスログが残り、多くの病院で監査されている。知人や有名人のカルテを覗いて処分された例もあるから、決して他人事ではないよ。
医学生医学生
守秘義務は刑法にも規定がありましたよね。
ドクタードクター
刑法134条の秘密漏示罪だね。正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすことが処罰の対象になる。さらに医療機関には個人情報保護法に基づいて、アクセス権限の設定などの安全管理措置が求められている。法律と倫理の両面から、カルテは「必要な人が必要な範囲で見るもの」と覚えておこう。
医学生医学生
患者さんの利益になる行為は倫理にかない、信頼を裏切る行為は倫理に反する。軸で考えると迷わずに済みますね。
ドクタードクター
そのとおり。日本医師会の医の倫理綱領も、患者の人格の尊重と十分な説明、医師同士の協力、法規範の遵守といった柱を掲げている。知識として覚えるだけでなく、日々の小さな行動で実践することがプロフェッショナリズムなんだ。

まとめ

医師の職業倫理を問う問題では、その行為が患者の利益や権利に資するか、患者の信頼を損なわないかという軸で判断するとわかりやすくなります。他の医師への忠告は医療の質を守る相互チェックであり、セカンドオピニオンへの対応や判断能力のない患者の利益擁護者への説明は患者の自己決定を支える行為、認定資格の事実どおりの掲示は正確な情報提供であって、いずれも倫理にかないます。これに対し、業務と無関係な電子カルテの閲覧は、守秘義務と個人情報保護の原則に反し、患者の信頼を根本から損なう行為です。電子カルテにはアクセスログが残り監査も行われており、刑法の秘密漏示罪や個人情報保護法とあわせて理解しておくことが重要です。臨床実習の段階から「カルテは必要な人が必要な範囲で見るもの」という意識を持つことが、信頼される医師への第一歩になります。

解答・解説

正解はdです

医師の職業倫理(プロフェッショナリズム)に関する問題である。医師には、患者の利益を最優先にすること、患者の自律と人格を尊重すること、患者の秘密・個人情報を守ること、医療の質を保つために自己研鑽と相互の監視・協力を行うこと、社会に対して誠実であることが求められる。日本医師会の「医の倫理綱領」も、生涯学習、職業の尊厳と責任の自覚、患者の人格の尊重と十分な説明、医師同士・医療関係者との協力、法規範の遵守、営利を目的としないこと、などを掲げている。 各選択肢を「患者の利益・権利に資する行為か」「患者の信頼を損なう行為か」という観点で検討するとよい。医療の質を守る行為(他の医師への忠告)、患者の自己決定を支える行為(セカンドオピニオンへの対応、利益擁護者への説明)、正確な情報提供(認定資格の掲示)はいずれも倫理にかなう。これに対し、業務上の必要がないのに患者の診療記録を閲覧することは、守秘義務と個人情報保護の原則に反し、患者の信頼を根本から損なう行為である。

選択肢考察

  1. ×a.  他の医師の不適切な医療行為に対して忠告する。

    倫理に反しない。医師には同僚を尊重する一方で、患者の安全と医療の質を守るため、不適切な医療行為を見過ごさずに指摘する責務がある。医師集団による自律的な相互チェック(プロフェッショナル・オートノミー)は、社会から医師が専門職として信頼される前提であり、忠告は職業倫理にかなう行為である。

  2. ×b.  患者からのセカンドオピニオンの求めに応じる。

    倫理に反しない。セカンドオピニオンとは、患者が診断や治療方針について主治医以外の医師の意見を求めることであり、患者が十分な情報に基づいて自ら治療を選ぶ(自己決定権)ための重要な手段である。求められた医師がこれに応じ、主治医側も診療情報提供などで協力することは、患者の権利を尊重する適切な対応である。

  3. ×c.  認定を受けた専門医資格をホームページに掲載する。

    倫理に反しない。正式に認定を受けた専門医資格は、医師が研鑽を積んできたことを示す客観的な情報であり、患者が医療機関を選ぶ際の参考になる。医療機関のホームページは医療法の医療広告規制(医療広告ガイドライン)の対象であり、虚偽・誇大な表示は禁止されるが、一定の基準を満たす団体が認定した専門医資格を事実に即して示すことは認められている。

  4. ○d.  自身の業務に関係のない患者の電子カルテを閲覧する。

    職業倫理に反する。診療録には病名、既往歴、家族歴、生活状況など、極めて機微な個人情報が含まれる。医師がそれに触れることが許されるのは、その患者の診療など業務上の正当な目的がある場合に限られる。興味本位など業務と無関係な閲覧は、守秘義務の精神と個人情報の適正な取扱いに反し、医療機関の規程違反として処分の対象にもなる。電子カルテではアクセス記録(ログ)が残り、不正閲覧の監査が行われている。

  5. ×e.  判断能力のない患者の利益擁護者に病状や治療内容を説明する。

    倫理に反しない。意識障害、重度の認知症、小児などで患者本人が説明を理解し意思決定することができない場合、本人に代わってその利益を代弁する者(家族、成年後見人、親権者など)に病状や治療方針を説明し、本人にとって最善の方針をともに考えることは適切である。可能な範囲で本人にも理解度に応じた説明を行い、意向を尊重することも大切である。

医の倫理綱領(日本医師会、2000年)の要点

1. 生涯学習の精神を保ち、医学の知識と技術の習得に努め、その進歩・発展に尽くす。 2. 職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め人格を高める。 3. 医療を受ける人の人格を尊重し、医療内容をよく説明して信頼を得る。 4. 医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。 5. 医療の公共性を重んじ、法規範の遵守と法秩序の形成に努める。 6. 医業にあたって営利を目的としない。

守秘義務と個人情報

・医師の守秘義務は刑法134条(秘密漏示罪)に規定されている。正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすことが処罰対象となる。 ・医療機関は個人情報保護法に基づき、個人情報を利用目的の範囲内で取り扱い、安全管理措置(アクセス権限の設定、ログ監査など)を講じる義務を負う。 ・医療機関の職員であっても、業務上必要な範囲を超えて診療情報にアクセスすることは許されない。

患者の権利に関するリスボン宣言(世界医師会)

良質の医療を受ける権利、選択の自由(セカンドオピニオンを求める権利を含む)、自己決定権、情報を得る権利、守秘義務に対する権利、意識のない患者・法的無能力の患者に対する代理人による意思決定などが示されている。

POINT

・診療録の閲覧は業務上の正当な目的がある場合に限られ、興味本位の閲覧は守秘義務・個人情報保護に反する。 ・セカンドオピニオンは患者の自己決定権を支える仕組みであり、医師は協力すべきである。 ・判断能力のない患者では、代理人(利益擁護者)への説明と協議を行う。 ・他の医師の不適切な医療を指摘することは、医療の質を守る専門職の責務である。 ・認定された資格を事実どおり掲示することは問題ない(虚偽・誇大広告は禁止)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。