小さくて色の薄い赤血球―ヘモグロビンの「材料不足」から考える小球性貧血
第113回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
小球性低色素性貧血を呈する疾患はどれか。2つ選べ。
- a.サラセミア
- b.溶血性貧血
- c.鉄欠乏性貧血
- d.葉酸欠乏性貧血
- e.骨髄異形成症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小球性低色素性貧血はヘモグロビン合成の障害によって生じ、鉄の不足による鉄欠乏性貧血と、グロビン鎖の合成障害によるサラセミアが代表です。ほかに慢性疾患に伴う貧血の一部、鉄芽球性貧血、鉛中毒なども原因となります。鉄欠乏性貧血ではフェリチン低下とTIBC上昇がみられ、サラセミアでは赤血球数が多めでフェリチンは正常〜高値となり、標的赤血球やMentzer指数が鑑別に役立ちます。溶血性貧血は通常正球性、葉酸欠乏は大球性、骨髄異形成症候群は正球性〜大球性です。MCVによる分類と「なぜその大きさになるのか」という病態の理解は、日常診療で貧血の原因を効率よく絞り込むための基本となります。
解答・解説
正解はa, cです
問われていること
貧血は、赤血球恒数(赤血球の大きさや色素量を表す指標)によって、小球性・正球性・大球性に分けられる。本問は、小球性低色素性貧血をきたす疾患を2つ選ぶ問題である。
赤血球恒数
・平均赤血球容積(MCV)=ヘマトクリット(%)÷赤血球数(10⁶/μL)×10。基準はおよそ80〜100fL。80fL未満を小球性、100fLを超えるものを大球性とする。 ・平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)=ヘモグロビン(g/dL)÷ヘマトクリット(%)×100。基準はおよそ31〜36%。これより低いと低色素性となる。
小球性低色素性貧血の成り立ち
ヘモグロビンは、ヘム(鉄とプロトポルフィリンからなる)とグロビン鎖からできている。このどれかが不足すると、赤血球の中のヘモグロビンが十分に作られない。赤芽球は、ヘモグロビンが一定量に達するまで分裂を続けるため、分裂の回数が増え、結果として小さく色の薄い赤血球になる。つまり小球性低色素性貧血は、ヘモグロビン合成の障害を表している。 ・鉄の不足:鉄欠乏性貧血 ・鉄はあるが利用できない:慢性疾患に伴う貧血(ヘプシジンが増え、鉄が組織に閉じ込められる) ・ヘム(プロトポルフィリン)合成の障害:鉄芽球性貧血、鉛中毒 ・グロビン鎖合成の障害:サラセミア 鉄の輸送障害である無トランスフェリン血症もまれな原因である。 選択肢のうち、ヘモグロビン合成が障害される疾患はサラセミア(グロビン鎖の障害)と鉄欠乏性貧血(鉄の不足)である。溶血性貧血は通常正球性、葉酸欠乏性貧血は大球性、骨髄異形成症候群は正球性〜大球性である。
選択肢考察
- ○a. サラセミア
サラセミアは、グロビン鎖(α鎖またはβ鎖)の合成量が遺伝的に低下する疾患である。ヘモグロビンが十分に作られないため、小球性低色素性貧血となる。鉄欠乏性貧血との違いは次のとおりである。(1)貧血の程度の割にMCVが非常に小さい。(2)赤血球数は正常か、むしろ多い(Mentzer指数=MCV÷赤血球数〔10⁶/μL〕が13未満ならサラセミアを考える)。(3)血清鉄やフェリチンは正常か高い。(4)末梢血に標的赤血球がみられる。βサラセミアの軽症型では、HbA2(α2δ2)が増える(3.5%以上)ことが診断に役立つ。
- ×b. 溶血性貧血
溶血性貧血は、赤血球が壊れる速さが骨髄の産生を上回る状態である。ヘモグロビンの合成には問題がないため、通常は正球性正色素性貧血となる。骨髄が代償して網赤血球が大きく増えると、網赤血球は成熟赤血球より大きいため、MCVがやや高くなることがある。遺伝性球状赤血球症ではMCHCが高くなるのが特徴である。いずれの場合も、小球性低色素性には当てはまらない。
- ○c. 鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、ヘムの材料となる鉄が足りないためにヘモグロビンが作られにくくなる疾患である。典型的な小球性低色素性貧血を示し、貧血の中で最も多い。検査では、血清鉄の低下、総鉄結合能(TIBC)の上昇、血清フェリチンの低下(体内の貯蔵鉄が減っていることを示し、最も鋭敏な指標)がみられる。症状としては、さじ状爪(匙状爪)、舌炎、口角炎、異食症(氷を食べたがる氷食症など)が知られている。原因として、過多月経(子宮筋腫など)、消化管出血(消化管の癌や潰瘍)、妊娠・成長期の需要増加、胃切除後の吸収不良などを調べることが重要である。
- ×d. 葉酸欠乏性貧血
葉酸はビタミンB12とともにDNA合成に必要である。葉酸が不足すると、核の成熟が細胞質の成熟より遅れる(核と細胞質の成熟の乖離)。赤芽球は分裂できないまま大きくなり、骨髄に巨赤芽球が現れる。その結果、大球性正色素性貧血(巨赤芽球性貧血)となり、末梢血では好中球の過分葉がみられる。原因には、アルコール多飲、偏った食事、妊娠、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬がある。小球性ではない。
- ×e. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS)は、造血幹細胞のクローン性異常により、血球が形態異常(異形成)を示し、うまく成熟できない(無効造血)疾患である。血球減少をきたし、急性骨髄性白血病へ移行することがある。貧血は正球性〜大球性を示すことが多く、ビタミンB12や葉酸の不足がない高齢者の大球性貧血ではMDSを考える。環状鉄芽球を伴う病型もあるが、小球性低色素性貧血をきたす疾患としては挙げられない。
MCVによる貧血の分類
・小球性(MCV 80fL未満):鉄欠乏性貧血、サラセミア、慢性疾患に伴う貧血(一部。多くは正球性)、鉄芽球性貧血(遺伝性のもの)、鉛中毒、無トランスフェリン血症。 ・正球性(MCV 80〜100fL):溶血性貧血、急性出血、再生不良性貧血、腎性貧血、慢性疾患に伴う貧血、赤芽球癆、白血病などによる骨髄への浸潤。 ・大球性(MCV 100fL超):ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血、MDS、肝疾患、アルコール多飲、甲状腺機能低下症、網赤血球の著しい増加。
小球性貧血の鑑別に役立つ検査
・鉄欠乏性貧血:血清鉄の低下、TIBCの上昇、フェリチンの低下。 ・慢性疾患に伴う貧血:血清鉄の低下、TIBCは正常か低下、フェリチンは正常か上昇。 ・サラセミア:血清鉄・フェリチンは正常か上昇。赤血球数は多めで、標的赤血球がみられる。ヘモグロビン分析が診断に役立つ。 ・鉄芽球性貧血:血清鉄・フェリチンは上昇。骨髄に環状鉄芽球(ミトコンドリアに鉄がたまり、核の周りを囲むように並ぶ赤芽球)がみられる。遺伝性のものはALAS2(δ-アミノレブリン酸合成酵素2)遺伝子の異常によるものが代表で、ピリドキシン(ビタミンB6)が効くことがある。 ・鉛中毒:δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)とフェロケラターゼが阻害される。赤血球に好塩基性斑点がみられる。
鉄欠乏性貧血の治療
経口鉄剤で治療するのが基本である。消化器症状が強くて飲めない場合や、吸収が悪い場合、出血が続く場合などは静注鉄剤を使う。治療を始めると、まず網赤血球が増え(7〜10日ほどでピーク)、続いてヘモグロビンが回復する。ヘモグロビンが正常になった後も、貯蔵鉄を補うためにフェリチンが回復するまで(目安として数か月)鉄剤を続ける。原因の検索と治療を同時に行うことが重要である。
POINT
・小球性低色素性貧血はヘモグロビン合成の障害による。代表は鉄欠乏性貧血(鉄の不足)とサラセミア(グロビン鎖の障害)で、ほかに鉄芽球性貧血、慢性疾患に伴う貧血、鉛中毒、無トランスフェリン血症がある。 ・鉄欠乏性貧血とサラセミアの区別:フェリチン(鉄欠乏で低下、サラセミアで正常〜上昇)、赤血球数(サラセミアでは多め)、標的赤血球、Mentzer指数。 ・溶血性貧血は正球性、葉酸・ビタミンB12欠乏は大球性、MDSは正球性〜大球性。 ・鉄剤を投与すると、まず網赤血球が増える。ヘモグロビンが正常になってもフェリチンが回復するまで鉄剤を続ける。
