「出血」か「血栓」か―凝固のしくみから見抜く血液疾患の合併症
第120回医師国家試験 F問題 第27問
国試問題にチャレンジ
疾患と合併症の組合せで誤っているのはどれか。
- a.後天性血友病 ―― 筋肉内出血
- b.本態性血小板血症 ―― 脳梗塞
- c.ビタミンK欠乏症 ―― 深部静脈血栓症
- d.抗リン脂質抗体症候群 ―― 習慣流産
- e.血栓性血小板減少性紫斑病 ―― 急性腎障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液疾患の合併症は、その病態が「出血傾向」と「血栓傾向」のどちらを生むかで整理すると理解しやすくなります。後天性血友病は第Ⅷ因子インヒビターによりAPTT単独延長と皮下・筋肉内出血をきたし、ビタミンK欠乏症は第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子が機能せずPT延長と出血傾向を示すため、深部静脈血栓症との組合せは誤りです。一方、本態性血小板血症は脳梗塞などの動脈血栓症、抗リン脂質抗体症候群は動静脈血栓症と習慣流産、血栓性血小板減少性紫斑病はADAMTS13活性低下による微小血栓と急性腎障害が特徴です。血小板減少と血栓症が併存する病態では血小板輸血が病状を悪化させうるため、病態に基づいて出血型か血栓型かを見極める姿勢は、臨床判断の基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
止血・血栓に関わる代表的な血液疾患について、その病態から「出血傾向」と「血栓傾向」のどちらが前面に出るか、また特徴的な合併症は何かを整理できているかが問われている。
考え方
各疾患を病態から「出血型」「血栓型」「両方ありうる型」に分けて考えるとよい。 ・凝固因子が働かない、または足りない病態(後天性血友病、ビタミンK欠乏症)→ 出血傾向 ・血小板の増加や自己抗体・微小血栓による病態(本態性血小板血症、抗リン脂質抗体症候群、血栓性血小板減少性紫斑病)→ 血栓症とそれによる臓器障害が主体(本態性血小板血症は出血も起こしうる) ビタミンK欠乏症では凝固因子が十分に機能しないため出血傾向をきたすのであり、深部静脈血栓症のような血栓症を合併する疾患とはいえない。したがって誤っている組合せはcである。
選択肢考察
- ×a. 後天性血友病 ―― 筋肉内出血
正しい組合せである。後天性血友病(多くは後天性血友病A)は、それまで出血歴のない人に、凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体(インヒビター)が出現して第Ⅷ因子活性が低下する疾患で、高齢者、自己免疫疾患、悪性腫瘍、分娩後などに発症しやすい。広範な皮下出血や筋肉内出血が特徴的で、ときに致死的な大出血となる。先天性血友病で典型的な関節内出血は比較的少ない。検査ではAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が単独で延長し、正常血漿との混合試験(クロスミキシング試験)でインヒビターパターンを示す。止血にはバイパス止血製剤(遺伝子組換え活性型第Ⅶ因子製剤など)を用い、インヒビター除去のため副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法を行う。
- ×b. 本態性血小板血症 ―― 脳梗塞
正しい組合せである。本態性血小板血症(ET)は骨髄増殖性腫瘍の一つで、巨核球の腫瘍性増殖により血小板が持続的に増加する(WHO分類の診断基準では45万/μL以上)。JAK2、CALR、MPLの遺伝子変異を伴うことが多い。増加した血小板により、脳梗塞・心筋梗塞などの動脈血栓症や、四肢末端の灼熱感・疼痛(肢端紅痛症)などの微小循環障害をきたす。一方、血小板数が著しく多い場合(100万/μLを超えるような場合)にはvon Willebrand因子が消費される後天性von Willebrand症候群などにより、出血傾向を示すこともある。血栓症リスク(60歳以上、血栓症の既往など)に応じて低用量アスピリンやヒドロキシカルバミドなどの細胞減少療法を行う。
- ○c. ビタミンK欠乏症 ―― 深部静脈血栓症
誤った組合せであり、これが正解である。ビタミンKは、肝臓で合成される凝固因子(第Ⅱ〈プロトロンビン〉・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子)がカルシウムと結合して機能するために必要なγ-カルボキシ化(Gla化)の補酵素である。欠乏するとこれらの因子が機能を持たない形(PIVKA:ビタミンK欠乏時に生じる異常凝固因子)で産生され、凝固能が低下して出血傾向を示す。半減期の最も短い第Ⅶ因子が早く低下するため、まずPT(プロトロンビン時間)が延長し、進行するとAPTTも延長する。原因として、新生児(新生児メレナ、乳児の頭蓋内出血)、抗菌薬長期投与による腸内細菌叢の変化、閉塞性黄疸や脂肪吸収障害、摂食不良、ワルファリン内服などがある。抗凝固因子であるプロテインC・Sもビタミン K依存性に合成されるが、臨床的に主体となるのは出血傾向であり、深部静脈血栓症を合併症とする疾患ではない(ワルファリン開始直後にプロテインCが先に低下して一過性に凝固亢進状態となり、皮膚壊死を起こすことがあるが、これは特殊な状況である)。
- ×d. 抗リン脂質抗体症候群 ―― 習慣流産
正しい組合せである。抗リン脂質抗体症候群(APS)は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体といった抗リン脂質抗体が持続的に陽性となり(12週以上の間隔をあけて再確認する)、動静脈の血栓症や妊娠合併症をきたす自己免疫疾患である。妊娠合併症には、習慣流産(反復する妊娠早期の流産)、妊娠中期以降の原因不明の胎児死亡、妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による早産などがある。胎盤の血栓形成や補体活性化が関与すると考えられている。全身性エリテマトーデスに合併することも多い。APS合併妊娠では低用量アスピリンとヘパリンの併用療法が行われる。
- ×e. 血栓性血小板減少性紫斑病 ―― 急性腎障害
正しい組合せである。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、von Willebrand因子(VWF)の超高分子量多量体を切断する酵素ADAMTS13の活性が著しく低下し(10%未満)、全身の細動脈・毛細血管に血小板血栓が多発する疾患である。多くは後天性でADAMTS13に対する自己抗体による。古典的五徴は、血小板減少、微小血管症性溶血性貧血(破砕赤血球を伴う)、腎機能障害、動揺する精神神経症状、発熱である。腎の微小血栓により急性腎障害を合併しうる(溶血性尿毒症症候群〈HUS〉と比べると腎障害は軽いことが多い)。治療は血漿交換が基本で、副腎皮質ステロイド、リツキシマブ、カプラシズマブ(抗VWF抗体薬)などが併用される。血小板輸血は血栓を増悪させるおそれがあり原則避ける。
出血傾向と血栓傾向の整理
・主に出血傾向: 血友病A・B、後天性血友病、von Willebrand病、ビタミンK欠乏症、免疫性血小板減少症(ITP)、再生不良性貧血など ・主に血栓傾向: アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍(Trousseau症候群)、ネフローゼ症候群、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、TTP・HUSなどの血栓性微小血管症 ・両方ありうる: 本態性血小板血症、真性多血症、播種性血管内凝固(DIC)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(血栓が主体だが血小板減少を伴う)
凝固検査の見方
・PT延長のみ: 第Ⅶ因子低下(ビタミンK欠乏の初期、ワルファリン内服など) ・APTT延長のみ: 第Ⅷ・Ⅸ・Ⅺ・Ⅻ因子の低下・インヒビター(血友病、後天性血友病)、ループスアンチコアグラント(試験管内では延長するが臨床的には血栓傾向) ・PT・APTTともに延長: 共通経路の因子の低下、進行したビタミンK欠乏、肝不全、DIC
血小板減少と血栓が同時にみられる病態
TTP、HUS、HIT、DIC、抗リン脂質抗体症候群などでは、血小板が減っているのに血栓症を起こす点が重要であり、安易な血小板輸血は避ける必要がある。
POINT
・ビタミンK欠乏症では第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子が機能せず、PT延長と出血傾向をきたす(血栓症ではない) ・後天性血友病: 第Ⅷ因子インヒビター、APTT単独延長、皮下・筋肉内出血 ・本態性血小板血症: 動脈血栓症(脳梗塞など)が主体、著明な血小板増加では出血も ・抗リン脂質抗体症候群: 動静脈血栓症と習慣流産などの妊娠合併症 ・TTP: ADAMTS13活性低下、五徴(血小板減少・溶血性貧血・腎障害・精神神経症状・発熱)
