腹腔鏡で取ってはいけない胆嚢―「癌を疑ったら開腹」の理由
第113回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
胆嚢結石に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応禁忌となる併存疾患はどれか。
- a.胃癌
- b.胆嚢癌
- c.胆管結石
- d.急性胆嚢炎
- e.胆嚢腺筋腫症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹腔鏡下胆嚢摘出術は症状のある胆嚢結石の標準術式ですが、胆嚢癌(疑いを含む)は原則禁忌です。腹腔鏡操作による胆嚢損傷で腹膜播種やポートサイト再発を招く危険があり、根治には胆嚢床切除やリンパ節郭清を伴う開腹手術が必要となるためです。一方、急性胆嚢炎はTokyo Guidelines 2018で早期の腹腔鏡下手術が推奨され、総胆管結石はERCP・ESTでの除去と組み合わせて対応し、胃癌や胆嚢腺筋腫症の合併も禁忌にはなりません。「手術が難しくなる」ことと「腹腔鏡で取ること自体が害になる」ことを区別する視点は、術式選択を考えるうえでの基本です。あわせて、胆嚢癌の危険因子や偶発胆嚢癌への対応、胆管損傷を防ぐCVSの確認も押さえておきましょう。
解答・解説
正解はbです
問われていること
腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy: LC、Lap-Cとも略す)は、症状のある胆嚢結石に対する標準的な手術である。本問は、胆嚢結石と一緒にある病気のうち、LCそのものを行ってはならない(禁忌となる)ものを選ぶ問題である。
考え方
LCの禁忌かどうかは、「腹腔鏡で胆嚢を摘出することが、併存疾患の治療として不適切、あるいは患者に害を与えるか」で判断する。手術が難しくなる、開腹に切り替える可能性がある、別の処置を組み合わせる必要がある、というだけでは禁忌にならない。 胆嚢癌が疑われる、あるいは確定している場合は、LCは原則として行わない。理由は次のとおりである。 (1)胆嚢壁は薄く、腹腔鏡の操作中に胆嚢が破れて胆汁や癌細胞がこぼれやすい。気腹(腹腔内に炭酸ガスを入れて膨らませること)や鉗子の操作も加わり、腹膜播種やポート(器具を入れる穴)の部位への再発を起こす危険がある。 (2)胆嚢癌の根治には、深達度に応じて胆嚢を肝臓の一部(胆嚢床)ごと切除し、リンパ節郭清や胆管切除を加える必要がある。単純な胆嚢摘出では不十分で、癌の治療にならない。 このため、胆嚢癌が疑われるときは開腹での根治手術を計画するのが原則である。 ほかの選択肢(胃癌、胆管結石、急性胆嚢炎、胆嚢腺筋腫症)は、手術の方法やタイミングを工夫したり、別の治療を組み合わせたりすることで対応でき、LCの禁忌とはならない。
選択肢考察
- ×a. 胃癌
胃癌があってもLCの禁忌にはならない。胃癌の手術の際に胆嚢結石があれば、同時に胆嚢を摘出することもある(胃切除後は胆嚢の動きが悪くなり、胆石や胆嚢炎が起こりやすくなるためでもある)。腹腔鏡下胃切除術と同時に行うこともできる。どの順番でどう治療するかは、胃癌の進行度や予後と、胆石治療の緊急度を考えて決める。
- ○b. 胆嚢癌
胆嚢癌はLCの適応禁忌となる。腹腔鏡の操作で胆嚢が破れると、胆汁とともに癌細胞が腹腔内にこぼれ、腹膜播種やポートの部位への再発を起こす危険がある。また、胆嚢癌の根治には胆嚢床の肝切除やリンパ節郭清などを伴う拡大手術が必要で、LCによる単純な胆嚢摘出では不十分である。癌が胆嚢管や肝十二指腸間膜の近くまで広がっていると、胆嚢管を安全に処理できないこともある。胆嚢癌が疑われるときは、開腹での根治手術を選ぶのが原則である。
- ×c. 胆管結石
胆嚢結石に総胆管結石が合併することは多いが、LCの禁忌ではない。一般的には、手術の前に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行い、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)などで総胆管の結石を取り除いてから、LCを行う。施設によっては、LCと同時に腹腔鏡下で総胆管を切開したり、胆嚢管を経由したりして結石を取り除くこともある。胆嚢管に結石がはまり込んでいると手術が難しくなることはあるが、禁忌ではない。
- ×d. 急性胆嚢炎
急性胆嚢炎は、かつては炎症による癒着や出血のためLCに向かないとされた時期もあった。しかし手術の技術と経験が積み重なり、現在はLCが標準の治療である。急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン(Tokyo Guidelines 2018)でも、手術に耐えられる患者では、軽症・中等症を中心に早い時期(発症から72時間以内が目安)のLCが推奨されている。炎症が強く解剖がわかりにくいときは、開腹への移行や胆嚢亜全摘を考える。全身状態が悪い場合は、まず経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)などで炎症を抑えてから手術を行う。
- ×e. 胆嚢腺筋腫症
胆嚢腺筋腫症は、胆嚢壁の上皮と筋層が増えて壁が厚くなり、壁の中にRokitansky-Aschoff洞(RAS)と呼ばれる小さな憩室が広がる良性の病変である。症状がなければ、通常は治療を必要としない。胆石を合併して症状があるときや、癌との区別がつかないときには手術の適応となり、その場合もLCで胆嚢を摘出できる。壁が厚いことはLCの禁忌にはならない。
腹腔鏡下胆嚢摘出術の概要
臍などから数か所に小さな穴(ポート)を開け、腹腔内に炭酸ガスを入れて膨らませたうえで、カメラと鉗子を用いて胆嚢を摘出する。開腹手術に比べて傷が小さく、痛みが少なく、入院期間も短い。そのため、症状のある胆嚢結石や急性胆嚢炎に対する標準的な手術となっている。
LCの重要な合併症と安全な手技
最も注意すべき合併症は胆管損傷である。予防のために、胆嚢管と胆嚢動脈を切る前にCritical View of Safety(CVS)を確認する。CVSとは、胆嚢三角(Calot三角)の脂肪や結合組織をはがし、胆嚢に入るのが胆嚢管と胆嚢動脈の2本だけであることを確かめた状態のことである。ほかの合併症には、出血、胆汁漏、腸管損傷、結石の腹腔内への落下などがある。
LCを避ける、あるいは慎重に考える状況
・胆嚢癌が疑われる、または確定している場合(原則禁忌)。 ・全身麻酔や気腹に耐えられない重い心肺疾患、治療できない出血傾向。 ・上腹部の手術を何度も受けて高度な癒着がある場合、妊娠中などは慎重に判断する(現在は多くの場合、相対的な問題にとどまる)。
胆嚢癌と胆嚢摘出術
胆嚢癌の危険因子として、胆石、膵・胆管合流異常、陶器様胆嚢(胆嚢壁の石灰化)、10mm以上の胆嚢ポリープなどが知られている。術前の画像で癌が疑われれば開腹の根治手術を計画する。一方、良性と考えてLCを行った後に病理検査で癌が見つかることがある(偶発胆嚢癌)。癌が粘膜内(T1a)にとどまれば、通常は追加の切除は不要である。固有筋層より深く広がっていれば、追加の切除(胆嚢床の肝切除やリンパ節郭清)を考える。
POINT
・胆嚢癌(疑いを含む)はLCの原則禁忌である。胆汁が漏れて腹膜播種やポートの部位への再発を起こす危険があり、根治には肝切除やリンパ節郭清を伴う開腹手術が必要となる。 ・急性胆嚢炎は禁忌ではなく、むしろ早期のLCが標準である(Tokyo Guidelines 2018)。 ・総胆管結石の合併は、ERCPとESTで結石を取り除いてからLCを行えばよい。 ・胃癌、胆嚢腺筋腫症の合併もLCの禁忌にはならない。 ・LCで最も重大な合併症は胆管損傷で、CVSの確認によって予防する。
