3系統そろって減るのはなぜ?―「障害の首座」で読み解く汎血球減少
第117回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
汎血球減少を呈するのはどれか。2つ選べ。
- a.赤芽球癆
- b.鉄欠乏性貧血
- c.再生不良性貧血
- d.骨髄異形成症候群
- e.慢性リンパ性白血病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
汎血球減少は赤血球・白血球・血小板の3系統がそろって減る状態で、原因は「骨髄での産生低下」と「末梢での破壊・分布異常」に大別されます。産生低下のうち、造血幹細胞レベルの障害である再生不良性貧血(低形成骨髄)と骨髄異形成症候群(無効造血、異形成)は汎血球減少をきたす代表的疾患です。一方、赤芽球癆や鉄欠乏性貧血は赤血球系に限局した障害で、鉄欠乏ではむしろ血小板が増えやすく、慢性リンパ性白血病は成熟リンパ球の増加で白血球数が増えるのが基本です。発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血、急性前骨髄球性白血病、脾機能亢進症なども汎血球減少の原因として押さえておきましょう。「障害の首座がどの段階の細胞にあるか」を考える習慣は、血球減少の鑑別全般に応用できる臨床の基本になります。
解答・解説
正解はc, dです
汎血球減少とは、末梢血の赤血球(ヘモグロビン)・白血球(好中球)・血小板の3系統がそろって減少した状態を指す。原因を考えるときは「骨髄で作られない(産生低下)」のか「作られたが末梢で壊される・取り込まれる(破壊・消費・分布異常)」のかに分けると整理しやすい。 産生低下側では、さらに①造血幹細胞そのものの量的・質的異常(再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症)、②DNA合成障害による無効造血(巨赤芽球性貧血)、③骨髄が腫瘍細胞や線維で置き換わる骨髄占拠(急性白血病、がんの骨髄転移、骨髄線維症など)を考える。破壊・分布異常側では脾機能亢進症(肝硬変など)、血球貪食症候群、全身性エリテマトーデスなどが挙がる。 本問では、選択肢のうち3系統すべてに影響が及ぶのは、造血幹細胞レベルに障害がある再生不良性貧血と骨髄異形成症候群である。一方、特定の系統だけが障害される疾患(赤芽球癆、鉄欠乏性貧血)や、腫瘍細胞の増加で白血球数がむしろ増える疾患(慢性リンパ性白血病)は汎血球減少の典型ではない。「障害の首座がどの段階の細胞にあるか」を考えれば、正解を導ける。
選択肢考察
- ×a. 赤芽球癆
赤芽球癆(pure red cell aplasia: PRCA)は、骨髄で赤血球系の前駆細胞(赤芽球)だけが選択的に著減する疾患である。そのため網赤血球が著しく減って正球性正色素性貧血を示すが、白血球と血小板は原則として保たれる。原因には胸腺腫、大顆粒リンパ球性白血病などのリンパ増殖性疾患、薬剤、パルボウイルスB19感染(一過性の赤芽球癆)などがある。障害が赤血球系に限られるので、汎血球減少にはならない。
- ×b. 鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの材料であるヘム(鉄を含む色素部分)を合成するための鉄が足りなくなり、小球性低色素性貧血をきたす疾患である。障害されるのは赤血球系のヘモグロビン合成であり、白血球は通常正常である。血小板はむしろ反応性に増加することが多く、減少はしない。したがって汎血球減少は呈さない。なお、同じ栄養性の貧血でも、ビタミンB12や葉酸の欠乏による巨赤芽球性貧血はDNA合成障害が全血球系に及ぶため汎血球減少をきたしうるので、混同しないようにする。
- ○c. 再生不良性貧血
再生不良性貧血は、骨髄の造血幹細胞が減少して骨髄が低形成(脂肪髄化)となり、すべての血球系の産生が落ちる疾患である。多くは後天性で、細胞傷害性T細胞などによる免疫学的機序で造血幹細胞が攻撃されると考えられており、このため抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリンによる免疫抑制療法が有効である。ほかに薬剤、肝炎後に起こるもの、先天性(Fanconi貧血)などがある。全系統の源である造血幹細胞が障害されるため汎血球減少を呈し、網赤血球も減少する。
- ○d. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS)は、造血幹細胞に後天的な遺伝子異常が生じてクローン性に増える腫瘍性疾患である。骨髄は正~過形成であることが多いが、異常な細胞は成熟の途中で死んでしまう(無効造血)ため、末梢血では血球が減る。血球の形態異常(異形成:偽Pelger核異常、環状鉄芽球、微小巨核球など)が特徴で、1系統から3系統までの血球減少を示し、汎血球減少をきたしうる。高齢者に多く、一部は急性骨髄性白血病へ移行する。造血幹細胞レベルの異常であるため、汎血球減少を呈する代表的疾患の一つである。
- ×e. 慢性リンパ性白血病
慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia: CLL)は、成熟した小型のB細胞がクローン性に増える疾患で、高齢者に多い。末梢血の成熟リンパ球増加(単クローン性B細胞が5,000/μL以上)が診断の起点であり、白血球数はむしろ増加する。病期が進むと骨髄への浸潤や脾腫、自己免疫性溶血性貧血・免疫性血小板減少症の合併によって貧血や血小板減少がみられ(Rai分類III・IV期、Binet分類C期)、予後不良の指標となるが、白血球は増えているため3系統がそろって減る汎血球減少の典型とはいえない。
汎血球減少をきたす主な疾患
1. 造血幹細胞の異常:再生不良性貧血、骨髄異形成症候群(MDS)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:補体による血管内溶血を起こす造血幹細胞の後天的異常で、再生不良性貧血と合併・移行しやすい) 2. 無効造血(DNA合成障害):巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏) 3. 骨髄占拠:急性白血病(特に急性前骨髄球性白血病〈APL〉は初診時に白血球減少を伴う汎血球減少で見つかることが多い)、がんの骨髄転移、骨髄線維症、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤 4. 末梢での破壊・分布異常:脾機能亢進症(肝硬変の門脈圧亢進など)、血球貪食症候群、全身性エリテマトーデス 5. その他:抗がん薬・放射線による骨髄抑制、重症感染症(敗血症)など
単一系統の減少を示す代表例
赤血球のみ:赤芽球癆、鉄欠乏性貧血、溶血性貧血 血小板のみ:免疫性血小板減少症(ITP) 好中球のみ:薬剤性無顆粒球症
鑑別の手がかり
網赤血球数、平均赤血球容積(MCV)、骨髄の細胞密度(低形成なら再生不良性貧血、正~過形成で異形成があればMDS)、末梢血塗抹での異常細胞の有無、脾腫の有無、ビタミンB12・葉酸値などを組み合わせて鑑別する。
POINT
・汎血球減少=赤血球・白血球・血小板の3系統の減少。 ・造血幹細胞レベルの障害(再生不良性貧血、MDS、PNH)は汎血球減少をきたす。 ・巨赤芽球性貧血、急性白血病(特にAPL)、脾機能亢進症、血球貪食症候群も汎血球減少の原因となる。 ・赤芽球癆、鉄欠乏性貧血は赤血球系のみの障害で、鉄欠乏性貧血では血小板はむしろ増加しやすい。 ・CLLは成熟リンパ球の増加により白血球数が増えるのが基本である。
