移植肝を守れるか―「断酒不能」が肝移植の扉を閉ざす理由
第113回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
成人肝移植の適応でないのはどれか。
- a.Wilson病
- b.多発性肝嚢胞
- c.原発性硬化性胆管炎
- d.C型肝炎ウイルス性肝硬変
- e.断酒不能なアルコール性肝硬変
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人肝移植は、非代償性肝硬変、急性肝不全、原発性硬化性胆管炎などの胆汁うっ滞性疾患、Wilson病などの代謝性疾患、基準内の肝細胞癌、肝実質が嚢胞に置き換わった重症の多発性肝嚢胞などが適応となりえます。C型肝炎ウイルス性肝硬変は非代償期であれば適応となりますが、DAAの普及によりその割合は減少しています。アルコール性肝硬変も対象疾患となりえますが、自発的な一定期間の断酒と移植後も飲酒しない見込みが前提であり、断酒不能な例は再飲酒による移植肝障害や服薬遵守の問題から適応外です。ほかにも肝外悪性腫瘍、制御不能な感染症、依存の持続などは適応除外となるため、肝移植の適応は「疾患」と「患者側の条件」の両面から判断するという考え方を身につけることが大切です。
解答・解説
正解はeです
本問は、成人に対する肝移植がどのような疾患・状況で適応となり、どのような場合に適応外となるかを問う問題である。「適応でないもの」を選ぶ点に注意する。 肝移植は、ほかの治療法では救命や生活の質の改善が見込めない進行性・不可逆的な肝疾患に対して行われる最終的な治療である。適応を考える際には次の2つの視点が必要である。
1. 疾患として適応になりうるか
・非代償性肝硬変(ウイルス性、アルコール性、自己免疫性など) ・胆汁うっ滞性疾患(原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、胆道閉鎖症術後など) ・代謝性疾患(Wilson病、家族性アミロイドポリニューロパチー、尿素サイクル異常症など) ・急性肝不全(劇症肝炎など) ・一定の基準を満たす肝細胞癌(ミラノ基準など) ・その他、肝実質が高度に置き換わった多発性肝嚢胞など
2. 患者側の条件を満たすか(禁忌・適応除外)
移植後には生涯にわたる免疫抑制薬の服用と通院が必要となり、提供される肝臓は貴重な資源でもある。そのため、肝外の悪性腫瘍、コントロールできない活動性感染症、重篤な心肺疾患などに加え、移植肝を再び障害する行動(飲酒や薬物乱用)が続くと予想される場合は適応とならない。 アルコール性肝硬変自体は肝移植の対象疾患となりうるが、断酒ができていない患者では移植後の再飲酒によって移植肝が再び障害されるおそれが高く、服薬の遵守も期待しにくい。このため一定期間の断酒の継続と、移植後も飲酒しないと見込めることが前提条件とされている。したがって「断酒不能な」アルコール性肝硬変は適応外であり、正解はeである。
選択肢考察
- ×a. Wilson病
適応となりうる。Wilson病は常染色体潜性(劣性)遺伝の銅代謝異常症で、ATP7B遺伝子の異常により肝細胞から胆汁中への銅の排泄が障害され、肝臓・脳・角膜(Kayser-Fleischer角膜輪)・腎臓などに銅が蓄積する。通常はD-ペニシラミンやトリエンチンなどの銅キレート薬、亜鉛製剤で治療するが、薬物治療に反応しない進行例、非代償性肝硬変に至った例、急性肝不全(劇症肝炎)型で発症した例では肝移植の適応となる。移植によって銅代謝の異常そのものも是正されるため、根治的な治療となる。
- ×b. 多発性肝嚢胞
適応となりうる。多発性肝嚢胞は肝臓に多数の嚢胞が生じる疾患で、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎に合併することも多い。多くは無症状だが、嚢胞が増大して肝臓が著しく腫大すると、腹部膨満、食事摂取困難、呼吸困難などを生じる。治療としては嚢胞穿刺吸引・硬化療法、開窓術、肝部分切除などが行われるが、肝全体が嚢胞に置き換わり残存する肝実質がわずかな重症例(Gigot分類Ⅲ型)では、これらの治療では対応できず、肝移植が根本的治療となる。
- ×c. 原発性硬化性胆管炎
適応となりうる。原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内外の胆管に原因不明の慢性炎症と線維化が起こり、胆管が多発性に狭窄して胆汁うっ滞が進行する疾患である。潰瘍性大腸炎の合併が多く、胆管癌の発生リスクも高い。進行を確実に抑える薬物治療は確立しておらず、胆管狭窄に対しては内視鏡的拡張術やステント留置が行われるが、胆汁性肝硬変や肝不全に至った例、繰り返す胆管炎を制御できない例では肝移植が唯一の根治的治療となる。ただし移植後に再発することがある。
- ×d. C型肝炎ウイルス性肝硬変
適応となりうる。C型肝炎ウイルス(HCV)による慢性肝炎が進行して非代償性肝硬変(腹水、肝性脳症、黄疸、静脈瘤出血などを伴う状態)に至った場合や、肝細胞癌を合併し移植の基準を満たす場合には肝移植の適応となる。従来、日本の成人肝移植で最も多い原因疾患の一つであった。近年は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によってほとんどの例でウイルス排除が可能となり、移植前後のHCV再感染による移植肝の障害も治療できるようになったため、その割合は減少傾向にある。
- ○e. 断酒不能なアルコール性肝硬変
適応とならず、これが正解である。アルコール性肝硬変も非代償期に至れば肝移植の対象疾患となりうるが、それは本人の自発的な意思に基づいて一定期間以上(6か月以上が目安とされることが多い)断酒を継続しており、移植後も飲酒を再開しないと判断できる場合に限られる。断酒できない患者では、移植後に飲酒を再開して移植肝にアルコール性肝障害が再発するリスクが高く、免疫抑制薬の確実な内服や通院も期待しにくい。限られたドナー肝を有効に活用する観点からも、断酒不能な例は適応外とされる。断酒期間中に肝機能が改善し移植が不要になる例があることも、断酒期間を設ける理由の一つである。
肝移植の種類
・生体肝移植: 健康な親族などから肝臓の一部を提供してもらう方法。日本では肝移植の大部分を占めてきた。 ・脳死肝移植: 脳死と判定されたドナーから肝臓を提供される方法。日本臓器移植ネットワークに登録し、医学的緊急度などに基づいて配分される。
肝移植の主な適応疾患(成人)
・肝硬変: HBV・HCVによるもの、アルコール性、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、現在はMASHとも呼ばれる)、自己免疫性肝炎など ・胆汁うっ滞性疾患: 原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC) ・急性肝不全(劇症肝炎) ・代謝性疾患: Wilson病、家族性アミロイドポリニューロパチー、尿素サイクル異常症など ・肝細胞癌: ミラノ基準(単発で5cm以下、または3個以下でいずれも3cm以下、かつ脈管侵襲・肝外転移なし)などを満たすもの ・その他: Budd-Chiari症候群、重症の多発性肝嚢胞など
肝移植の主な禁忌・適応除外
・肝臓以外の悪性腫瘍(治療後一定期間を経たものを除く)、肝外転移を伴う肝癌 ・制御できない活動性の感染症(敗血症など) ・重篤な心肺疾患など、手術に耐えられない全身状態 ・アルコールや薬物の依存が続いている場合 ・免疫抑制薬の服薬や通院を継続できない、十分な支援体制がないなど社会的・心理的な問題
重症度評価
肝移植の必要性や優先度の評価には、Child-Pugh分類やMELDスコア(血清ビリルビン値、PT-INR、血清クレアチニン値などから算出する予後予測スコア)が用いられる。
POINT
・肝移植は非代償性肝硬変、急性肝不全、胆汁うっ滞性疾患(PBC、PSC)、代謝性疾患(Wilson病など)、基準内の肝細胞癌などが適応 ・残存肝実質のわずかな重症多発性肝嚢胞も適応となりうる ・アルコール性肝硬変は「自発的な一定期間の断酒」と「移植後も飲酒しない見込み」が前提。断酒不能例は適応外 ・依存の持続、肝外悪性腫瘍、制御不能な感染症などは肝移植の禁忌・適応除外
