StudyMed医師国家試験

責任追及ではなく「学び」のために―医療事故調査制度の目的と流れを押さえる

第113回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第2問

医療事故調査制度について正しいのはどれか。

  1. a.調査は院外機関のみが行う。
  2. b.診療に起因した死亡全てが対象となる。
  3. c.事故発生時は医療機関から警察に速やかに届け出る。
  4. d.調査が終了するまで,医療機関は事故の説明を遺族にしてはならない。
  5. e.医療の安全を確保するために医療事故の再発防止を目的とした制度である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療安全に関する制度の問題だ。2015年10月に施行された医療事故調査制度について、何のための制度か、どんな事例が対象か、誰がどこに報告し誰が調べるのか、そして遺族への説明はどうするのか。この骨格を押さえていれば解ける。まず、この制度の目的は何だと思う?
医学生医学生
事故を起こした医師の責任をはっきりさせるため……ではないんですよね?
ドクタードクター
そこが一番大事なところ。この制度は医療法の「医療の安全の確保」の章に位置づけられていて、目的は医療事故の原因を明らかにし、再発防止につなげることだ。個人の過失を追及したり、損害賠償などの紛争を解決したりするための制度ではない。
医学生医学生
なぜ責任追及と切り離しているんでしょうか。
ドクタードクター
医療安全の報告制度は、責任を問う「説明責任型」と、学習して再発を防ぐ「学習型」に分けて考えられることがある。報告した人が罰せられるおそれがあると、報告そのものが集まりにくくなるよね。この制度は学習型として設計されているんだ。だから、目的を「医療の安全を確保するための再発防止」と述べた記述が正解になる。
医学生医学生
臨床実習の初日の医療安全オリエンテーションで、インシデントレポートは「犯人探しではない」と言われたのと同じ考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。では次に対象。診療に関連した死亡はすべて対象になると思う?
医学生医学生
全部だと思っていました。違うんですか。
ドクタードクター
対象になる「医療事故」は、提供した医療に起因する、または起因が疑われる死亡・死産で、なおかつ管理者がその死亡を「予期しなかった」もの。この2条件を両方満たす場合に限られる。例えば事前に死亡の可能性を患者や家族に説明し、診療録に記載していたような予期された死亡は対象外だ。原病の自然経過による死亡も当然入らない。「全て」は言い過ぎなんだよ。
医学生医学生
報告先は警察ですか。事故というと警察のイメージがあって……。
ドクタードクター
そこも混同しやすいね。この制度での報告先は第三者機関の医療事故調査・支援センターで、日本医療安全調査機構が指定されている。警察への届出はこの制度の手続きではない。ただし、医師法第21条で、死体を検案して異状を認めた医師は24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務がある。これは目的も根拠法も別の仕組みで、一方の手続きをしたからもう一方が免除される、という関係ではないことも覚えておこう。
医学生医学生
CBTの勉強で医師法21条は出てきました。別物として整理しておきます。では、調査は外部の専門機関がするんでしょうか。
ドクタードクター
調査の基本は、事故が起きた医療機関自身による院内調査なんだ。中立性や専門性を補うため、医師会や学会、病院団体などの医療事故調査等支援団体が専門家派遣などで支援する。センターが調査するのは、医療機関または遺族から依頼があった場合だ。だから「院外機関のみが調査する」は誤り。
医学生医学生
遺族への説明は、調査が終わるまで控えたほうがいいように思ってしまいます。
ドクタードクター
それも誤り。管理者はセンターへ報告する前に、あらかじめ遺族へ事故の概要や今後の調査予定を説明することになっている。調査が終われば結果も遺族に説明する。説明を禁じる規定はなく、むしろ丁寧な説明で信頼関係を保つことが求められるんだ。
医学生医学生
流れとしては、事故発生、管理者が該当するか判断、遺族へ説明、センターへ報告、院内調査、結果をセンターと遺族へ、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、対象施設は病院だけでなく、歯科を含む診療所や助産所も含まれる。センターは集まった事例を分析して、再発防止策の提言や普及啓発を行っている。現場の一人ひとりの事例が、全国の医療安全につながる仕組みなんだ。
医学生医学生
研修医になったら、予期しない急変があったときに自分も当事者になりうるので、制度の流れを知っておくことが大事ですね。
ドクタードクター
そう。いざというときに慌てないためにも、目的・対象・報告先・調査主体・遺族説明の5点をセットで押さえておこう。

まとめ

医療事故調査制度は2015年10月に施行された医療法に基づく制度で、医療の安全を確保するため、医療事故の原因を究明して再発防止につなげることを目的としており、個人の責任追及や紛争解決のためのものではありません。対象は、医療に起因する(疑いを含む)死亡・死産のうち管理者が予期しなかったものに限られます。管理者は遺族に説明したうえで医療事故調査・支援センターに報告し、支援団体の協力を得て院内調査を行い、その結果をセンターと遺族に伝えます。警察への届出は医師法第21条に基づく別個の仕組みであり、混同しないことが大切です。報告者を罰しない「学習型」の考え方を理解することは、医療者として医療安全文化を支える基盤になります。

解答・解説

正解はeです

医療事故調査制度は、2014年の医療法改正により創設され、2015年10月から施行された制度である。目的は医療の安全の確保であり、医療事故の原因を明らかにして再発防止につなげることにある。個人の責任追及や紛争解決を目的とするものではない点が最も重要である。 本問では制度の骨格として、①対象となる「医療事故」の定義、②報告先、③調査の主体、④遺族への説明、⑤制度の目的、を正確に押さえているかが問われている。 【対象】医療法上の「医療事故」とは、病院・診療所・助産所に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、その管理者が当該死亡・死産を予期しなかったものをいう。「医療に起因(疑いを含む)」と「予期しなかった」の2条件を両方満たすものだけが対象である。 【流れ】医療機関の管理者は、医療事故と判断した場合、まず遺族に説明したうえで、第三者機関である医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構が指定されている)に報告する。次に医療機関自らが院内調査を行い(必要に応じて医療事故調査等支援団体の支援を受ける)、その結果をセンターに報告するとともに遺族に説明する。医療機関または遺族は、センターに調査を依頼することもできる。 この流れを理解していれば、「院外機関のみが調査」「すべての死亡が対象」「警察に届け出る」「遺族に説明してはならない」はいずれも誤りと判断でき、制度目的を正しく述べたeが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  調査は院外機関のみが行う。

    調査の基本は、事故が起きた医療機関自身が行う院内調査である。院内調査には、医師会や学会、病院団体などの医療事故調査等支援団体が専門家の派遣などで支援し、中立性・専門性を補う。院外の医療事故調査・支援センターが調査を行うのは、医療機関または遺族から依頼があった場合であり、院外機関のみが調査するという記述は誤りである。

  2. ×b.  診療に起因した死亡全てが対象となる。

    対象は、提供した医療に起因する(または起因が疑われる)死亡・死産のうち、管理者がその死亡・死産を「予期しなかった」ものに限られる。例えば、事前に患者や家族へ死亡の可能性を説明し診療録に記載していた場合など、予期されていた死亡は対象外となる。また、医療に起因しない死亡(原病の自然経過など)も対象外である。「全て」とする点が誤りである。

  3. ×c.  事故発生時は医療機関から警察に速やかに届け出る。

    本制度における報告先は、第三者機関である医療事故調査・支援センターである。警察への届出は本制度の手続きではない。なお、これとは別に、医師法第21条では、死体を検案して異状があると認めた医師に24時間以内の所轄警察署への届出を義務づけている。両者は目的も根拠法も異なる別個の仕組みであり、混同しないことが大切である。

  4. ×d.  調査が終了するまで,医療機関は事故の説明を遺族にしてはならない。

    医療機関の管理者は、センターへ報告する前に、あらかじめ遺族へ事故の概要や今後の調査の予定などを説明することとされている。調査終了後には結果も遺族に説明する。調査中であっても、必要に応じて丁寧に説明を行い、遺族との信頼関係を保つことが望ましい。説明を禁じる規定はなく、誤りである。

  5. ○e.  医療の安全を確保するために医療事故の再発防止を目的とした制度である。

    本制度は医療法の「医療の安全の確保」の章に位置づけられ、医療事故の原因を究明し、その知見を再発防止に役立てることを目的としている。個人の過失の追及や、損害賠償などの紛争解決を目的とするものではない。センターは集まった事例を分析し、再発防止策の提言や普及啓発を行っている。制度の目的を正しく述べた記述である。

制度の流れ(概要)

1.医療事故の発生(予期しなかった、医療に起因する死亡・死産) 2.管理者が医療事故に該当するかを判断 3.遺族への説明 4.医療事故調査・支援センターへの報告 5.院内調査の実施(医療事故調査等支援団体が支援) 6.調査結果をセンターへ報告し、遺族にも説明 7.医療機関または遺族の依頼があれば、センターが調査を行い、結果を両者に報告 8.センターが事例を収集・分析し、再発防止に関する普及啓発を行う 【対象施設】病院、診療所(歯科診療所を含む)、助産所のすべてが対象である。 【WHOドラフトガイドラインの考え方】医療安全の報告制度は、責任追及のための仕組み(説明責任型)と学習・再発防止のための仕組み(学習型)に分けられ、本制度は学習型として設計されている。報告者を罰するおそれがあると報告が集まりにくくなるためである。 【医師法第21条との違い】医師法第21条は、医師が死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めた場合に、24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務を定めたもので、犯罪の発見などを念頭に置いた規定である。医療事故調査制度とは別の制度であり、一方の手続きがもう一方の義務を免除するものではない。

POINT

・医療事故調査制度は2015年10月施行(医療法に基づく)。 ・目的は医療安全の確保と再発防止であり、責任追及ではない。 ・対象は「医療に起因(疑い含む)」かつ「管理者が予期しなかった」死亡・死産。 ・報告先は医療事故調査・支援センター(警察ではない)。 ・調査の基本は院内調査で、支援団体が支援する。 ・遺族には報告前に説明し、調査結果も説明する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。