照射2週目の喉の痛み―「細胞の入れ替わりの速さ」で読む放射線有害事象の時間軸
第113回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
中咽頭癌に対する放射線治療の有害事象で,最も早期に出現するのはどれか。
- a.粘膜炎
- b.白内障
- c.唾液腺障害
- d.放射線肺炎
- e.放射線誘発癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
放射線治療の有害事象は、照射中〜照射終了後およそ90日以内に出る急性有害事象と、それ以降に出る晩期有害事象に分けられます。急性有害事象は粘膜・皮膚・骨髄など細胞のターンオーバーが速い組織に起こり、中咽頭癌の照射では口腔・咽頭の粘膜炎が通常分割で照射開始2〜3週(約20Gy)から最も早く出現し、支持療法が重要です。唾液腺障害は性状変化こそ早期からありえますが、自覚的な口渇は粘膜炎より遅く、本質的な問題は長く続く口腔乾燥症であるため、IMRTによる耳下腺の線量低減が行われます。白内障は確定的影響、放射線誘発癌は確率的影響としていずれも晩期に生じ、放射線肺炎は照射後1〜6か月ごろの亜急性経過で、頭頸部照射ではまれです。組織の細胞の入れ替わりの速さから有害事象の出現時期を予測する考え方は、照射中の支持療法と治療後の長期フォローを計画するうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はaです
放射線治療の有害事象は、出現時期によって急性(早期)有害事象と晩期有害事象に大別される。一般に照射開始から照射終了後おおむね90日以内に出現するものを急性、それ以降(数か月〜数年以上)に出現するものを晩期として扱う。 急性有害事象は、細胞分裂が盛んで細胞の入れ替わり(ターンオーバー)が速い組織に起こりやすい。放射線は分裂中の幹細胞を障害するため、表面の細胞が脱落しても補充されず、上皮が薄くなりびらん・潰瘍を生じる。粘膜上皮、皮膚表皮、骨髄、腸管上皮などが典型で、照射中から症状が出て、照射終了後数週で回復することが多い。 一方、晩期有害事象は、細胞の入れ替わりが遅い組織の障害や、微小血管の障害・線維化などによって生じ、不可逆的なことが多い。水晶体(白内障)、脊髄、唾液腺の慢性的な機能低下、皮下組織の線維化などが該当する。放射線誘発癌は確率的影響として、さらに長い潜伏期を経て発生する。 中咽頭癌の照射野には口腔・咽頭の粘膜、耳下腺・顎下腺などの唾液腺、皮膚などが含まれる。このうち最も早く症状が出るのは、細胞の入れ替わりが速い口腔・咽頭粘膜の障害、すなわち粘膜炎である。通常分割照射(1回2Gy、週5回)では、照射開始後2〜3週ごろ(総線量20Gy前後)から粘膜の発赤・びらんが現れ、嚥下時痛などを生じる。
選択肢考察
- ○a. 粘膜炎
正しい。口腔・咽頭の粘膜上皮は細胞のターンオーバーが速く、放射線により基底層の幹細胞が障害されると、脱落した表層細胞が補充されずに発赤・びらん・偽膜・潰瘍を生じる。通常分割照射では照射開始後2〜3週(20Gy前後)から出現し、照射が進むにつれて増強する。疼痛による摂食・嚥下障害、栄養状態の悪化、感染の原因となるため、口腔ケア、鎮痛薬、栄養管理などの支持療法が重要である。多くは照射終了後数週で回復する急性有害事象である。
- ×b. 白内障
誤り。水晶体の放射線障害による白内障は晩期有害事象で、照射から数年(数年〜十数年)を経て出現する。一定の線量(しきい線量)を超えると発生する確定的影響の一つである。また中咽頭は眼から離れており、照射計画上も眼球への線量は極力抑えられるため、中咽頭癌の治療で問題になることは少ない。
- ×c. 唾液腺障害
誤り。耳下腺・顎下腺は照射野に含まれやすく、唾液腺の機能低下は照射早期から始まり、唾液が粘稠になるなどの変化は粘膜炎と同じ頃から現れうる。しかし口渇(口腔乾燥)が自覚症状としてはっきりしてくるのは一般に粘膜炎より遅い。さらに唾液腺障害の本質的な問題は、照射後も長期間持続する、あるいは回復しない口腔乾燥症(晩期障害)であり、う歯の増加や味覚・嚥下機能の低下につながる。これを防ぐため強度変調放射線治療(IMRT:照射野の形と線量分布を細かく調節する照射法)による耳下腺の線量低減が行われる。最も早期に出現するものとしては粘膜炎が選ばれる。
- ×d. 放射線肺炎
誤り。放射線肺炎は肺に照射された場合に、照射終了前後から照射後およそ6か月以内(多くは1〜3か月後)に生じる。粘膜炎より明らかに遅く出現する。また中咽頭癌の照射野は頭頸部(原発巣と頸部リンパ節領域)であり、肺は通常含まれないため、本治療で問題となることはまれである。
- ×e. 放射線誘発癌
誤り。放射線誘発癌(二次癌)は、照射によりDNAに生じた変異が残った細胞から、照射後十数年〜数十年という長い潜伏期を経て発生する。しきい線量がなく線量に応じて発生確率が増す確率的影響に分類され、最も遅く出現する有害事象の一つである。
放射線治療の有害事象の分類
1. 急性(早期)有害事象:照射中〜照射終了後およそ90日以内に出現。細胞の入れ替わりが速い組織(粘膜、皮膚、骨髄、腸管上皮など)に起こり、多くは可逆的。 例:粘膜炎、放射線皮膚炎、骨髄抑制、下痢、味覚障害、照射初期の唾液性状変化 2. 晩期有害事象:照射後数か月〜数年以上で出現。細胞の入れ替わりが遅い組織の障害や血管障害・線維化による。多くは不可逆的。 例:口腔乾燥症の遷延、皮下組織線維化・開口障害、顎骨壊死、甲状腺機能低下症、白内障、放射線脊髄症、放射線誘発癌 ※放射線肺炎は照射後1〜6か月ごろに出現し、亜急性の経過をとる。その後に肺線維症へ移行することがある。
確定的影響と確率的影響
・確定的影響:しきい線量があり、それを超えると線量に応じて重症度が増す(白内障、皮膚障害、不妊など)。 ・確率的影響:しきい線量がないと仮定され、線量に応じて発生確率が増す(発癌、遺伝的影響)。
頭頸部癌放射線治療の主な有害事象
急性:口腔・咽頭粘膜炎、放射線皮膚炎、味覚障害、口腔乾燥の始まり、嚥下時痛による摂食障害 晩期:口腔乾燥症、う歯、顎骨壊死(照射前の歯科処置が予防に重要)、甲状腺機能低下症、嚥下障害、頸部の線維化、頸動脈狭窄
POINT
・急性有害事象は細胞の入れ替わりが速い組織(粘膜・皮膚・骨髄)に、照射中から出現する。 ・頭頸部照射で最も早く出るのは口腔・咽頭の粘膜炎(通常分割で照射開始2〜3週、約20Gyから)。 ・唾液腺障害の主な問題は長期に続く口腔乾燥症であり、口渇症状の顕在化は粘膜炎より遅い。 ・白内障・放射線誘発癌は晩期有害事象。放射線肺炎は照射後1〜6か月の亜急性で、頭頸部照射ではまれ。
