「健康そう」に見える習慣の中に潜む落とし穴―数字で判定する生活習慣病予防
第113回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
成人の生活習慣病の発症予防のために改善すべき習慣はどれか。
- a.塩分摂取量12g/日
- b.食物繊維の摂取が50g/日
- c.肉類より魚介類を多く摂取
- d.30分以上の運動を2回/週
- e.ビール350mL/日を2回/週
対話形式の解説
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ドクターまとめ
生活習慣病の一次予防では、食事・運動・飲酒の習慣を「日本人の食事摂取基準」や「健康日本21」などの公的な目安と照らして評価します。食塩相当量の目標量は成人男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満(2020年版以降)であり、12g/日は明らかに過剰で、高血圧や脳卒中、胃癌などのリスクを高めるため減塩が必要です。一方、食物繊維は約20g/日前後「以上」が目標で、魚介類中心の食事はEPA・DHAの点で望ましく、1回30分以上・週2回以上の運動は「運動習慣あり」の基準を満たし、ビール350mL(純アルコール約14g)を週2回は適度な飲酒の範囲に収まります。食塩は上限型、食物繊維は下限型という目標の向きの違いや、純アルコール量の計算法を押さえておくと、保健指導や外来での生活指導に直結する判断ができるようになります。
解答・解説
正解はaです
生活習慣病(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、虚血性心疾患、脳血管疾患など、食事・運動・飲酒・喫煙などの日常習慣が発症に深く関わる疾患群)の一次予防に関する問題である。 各選択肢の習慣が、日本の公的な指標である「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省、5年ごとに改定)や「健康日本21」(国民健康づくり運動)、国民健康・栄養調査の定義などに照らして、望ましい範囲にあるのか、改善が必要な範囲にあるのかを判断すればよい。 考え方の手順は次のとおりである。 1. 食塩・食物繊維のように目標量が数値で定められている栄養素は、その数値と比べる。食塩は「〜未満」という上限型の目標、食物繊維は「〜以上」という下限型の目標である点に注意する。 2. 魚介類と肉類の比較のように質的な食事内容は、含まれる脂肪酸の種類(飽和脂肪酸か多価不飽和脂肪酸か)から評価する。 3. 運動と飲酒は、公的に示された「運動習慣」の定義や「適度な飲酒量」の目安と比べる。 この手順で見ると、改善が必要な範囲にあるのは食塩12g/日だけである。日本人の食塩摂取量は国際的にみても多く、減塩は高血圧と脳卒中の予防でとくに重視される課題である。
選択肢考察
- ○a. 塩分摂取量12g/日
改善すべき習慣である。日本人の食事摂取基準(2020年版以降)の成人の食塩相当量の目標量は、男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満である(2015年版では男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満だった)。高血圧の人や慢性腎臓病の重症化予防には6g/日未満が勧められ、WHOは5g/日未満を推奨している。12g/日はどの基準と比べても大幅に多い。食塩を摂りすぎると、体内のナトリウムと水分が増えて循環血液量が増し、血圧が上がる。その結果、脳卒中・心疾患・腎障害の危険が高まり、胃癌の危険因子にもなる。
- ×b. 食物繊維の摂取が50g/日
改善の必要はない。食物繊維の目標量は「〜以上」という下限型の値で、成人ではおおむね男性20g/日前後以上、女性18g/日前後以上とされている(年齢区分と改定版によって若干異なる)。食物繊維は食後の血糖上昇をゆるやかにし、腸で胆汁酸やコレステロールの再吸収を減らし、便通を整える。このため、2型糖尿病・脂質異常症・肥満・大腸癌などの予防に役立つとされる。日本人の実際の摂取量は目標量に届いていないことが多く、50g/日は目標量を十分に満たしている。極端に多いと腹部膨満やミネラル吸収の低下を起こしうるが、生活習慣病予防の観点で「改善すべき」習慣にはあたらない。
- ×c. 肉類より魚介類を多く摂取
望ましい習慣である。肉類(とくに脂身の多い畜肉)には飽和脂肪酸が多く、摂りすぎると血中LDLコレステロールが上がり、動脈硬化を進める。一方、魚介類、とくに青魚には、n-3系多価不飽和脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多い。これらには中性脂肪を下げる作用、血小板の凝集を抑える作用、抗炎症作用があり、虚血性心疾患などの予防に有利と考えられている。魚介類は良質な蛋白質源でもある。肉類を魚介類に置き換えることは、生活習慣病予防の方向に沿った食習慣である(偏らずバランスよく摂ることが前提である)。
- ×d. 30分以上の運動を2回/週
望ましい習慣である。国民健康・栄養調査では、「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者」を「運動習慣のある者」と定義している。本選択肢はこの基準を満たす。定期的な有酸素運動は、インスリン抵抗性の改善、血圧の低下、HDLコレステロールの上昇と中性脂肪の低下、体重の管理などを通じて、生活習慣病の予防に役立つ。運動量をさらに増やせば一層望ましいが、この習慣自体は改善すべきものではない。
- ×e. ビール350mL/日を2回/週
適正な範囲の飲酒である。健康日本21では、「節度ある適度な飲酒」の目安を1日平均の純アルコール量で約20g程度としており、ビール中瓶1本(500mL)、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯がこれに相当する。純アルコール量は「飲酒量(mL) × アルコール度数 × 0.8(エタノールの比重)」で求められ、アルコール5%のビール350mLでは約14gとなる。本選択肢は1回あたりの量が目安以下であるうえ、飲むのは週2日だけで、休肝日(飲酒しない日)も十分にある。なお健康日本21(第三次)では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を、1日あたりの純アルコール摂取量で男性40g以上、女性20g以上としている。
日本人の食事摂取基準
厚生労働省が5年ごとに改定する、エネルギーと各栄養素の摂取量の基準である。指標には、推定平均必要量・推奨量・目安量(欠乏を防ぐための指標)、耐容上限量(過剰摂取による健康障害を防ぐための指標)、目標量(生活習慣病の発症予防のための指標)がある。食塩(ナトリウム)と食物繊維には目標量が設定されている。食塩は「これより少なく」、食物繊維は「これより多く」が目標であり、向きが逆である点を押さえておく。
日本人の食塩摂取量
国民健康・栄養調査では、成人の平均摂取量は約10g/日前後で、目標量を大きく上回る状態が続いている。健康日本21(第三次)でも食塩摂取量の減少が目標の一つに掲げられている(目標値7g/日)。
脂肪酸の種類と健康影響
・飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、乳製品など):摂りすぎるとLDLコレステロールが上昇する。 ・n-3系多価不飽和脂肪酸(魚油のEPA・DHA、植物油のα-リノレン酸):中性脂肪の低下、抗血栓作用。 ・n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸など):植物油に多い。 ・トランス脂肪酸:LDLコレステロールを上げ、HDLコレステロールを下げる。
飲酒の目安
・節度ある適度な飲酒:純アルコール約20g/日程度 ・生活習慣病のリスクを高める飲酒量:男性40g/日以上、女性20g/日以上(健康日本21(第三次)) ・純アルコール量(g) = 飲酒量(mL) × 度数 × 0.8 女性や高齢者、アルコールを分解しにくい体質(顔が赤くなりやすい人)では、より少ない量が適当とされる。
POINT
・成人の食塩相当量の目標量は男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満(2020年版以降)。12g/日は過剰で、減塩が必要。 ・食物繊維の目標量は成人で約20g/日前後「以上」。多く摂るのは問題ない。 ・魚介類(EPA・DHA)を中心にし、肉の飽和脂肪酸を控えるのは望ましい。 ・「運動習慣のある者」=1回30分以上・週2回以上・1年以上継続。 ・適度な飲酒は純アルコール約20g/日(ビール中瓶1本)。ビール350mLは約14g。
