StudyMed医師国家試験

その針、キャップに戻さないで―針刺し事故を防ぐ注射針の正しい捨て方

第112回医師国家試験 F問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第4問

患者に用いた注射針の処理として正しいのはどれか。

  1. a.リキャップして一般廃棄物として処理する。
  2. b.リキャップせず一般廃棄物として処理する。
  3. c.リキャップして感染性廃棄物として処理する。
  4. d.リキャップせず感染性廃棄物として処理する。
  5. e.リキャップせず煮沸して感染性廃棄物として処理する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、使い終わった注射針をどう処理するかという、臨床の現場で毎日のように出会う問題だ。考えるポイントは2つ。キャップをもう一度かぶせる「リキャップ」をしてよいかどうか、そして、どの区分の廃棄物として捨てるか。まずはリキャップから考えてみよう。
医学生医学生
針がむき出しのままだと危ないので、キャップをしてから捨てたほうが安全な気がしますが……。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも実は逆なんだ。針刺し事故は、針をキャップに戻そうとして手元が狂い、キャップを持っている側の手を刺してしまう場面でとても多く起こる。つまりリキャップの動作そのものが事故の主な原因になっているんだ。
医学生医学生
臨床実習の初日のオリエンテーションで、「リキャップ禁止」と何度も言われたのはそういう理由だったんですね。
ドクタードクター
その通り。針刺しで怖いのは、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVといった血液を介して感染する病原体への曝露だ。だから使った針はキャップをせず、その場ですぐに専用の廃棄容器へ捨てるのが原則になる。
医学生医学生
でも、廃棄容器が近くにない場面もありそうです。そういうときはどうするんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。まずは処置をする手元に容器を準備しておくのが基本。それでもどうしてもキャップが必要な場合は、キャップを台に置いて、片手で針をすくうように差し込む片手リキャップ法を使う。両手でのリキャップはしてはいけない。
医学生医学生
なるほど。では2つ目の廃棄物の区分ですが、患者さんが感染症を持っていなければ一般廃棄物でもよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事な落とし穴だね。廃棄物処理法とそれに基づくマニュアルでは、注射針やメスのような鋭利なものは、血液が付いているかどうか、患者が感染症かどうかに関係なく、感染性廃棄物として扱う。これは、すべての患者の血液や体液を感染の可能性があるものとして扱う標準予防策の考え方とも一致しているんだ。
医学生医学生
感染症学の講義で習ったスタンダードプリコーションですね。「感染症があるかわからないから、全員に同じ対策をする」という考え方でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから、リキャップして一般廃棄物にするのは二重の誤り、リキャップせず一般廃棄物にするのは区分の誤り、リキャップして感染性廃棄物にするのは手技の誤りということになる。正しいのは、リキャップせず感染性廃棄物として処理する方法だ。
医学生医学生
煮沸してから捨てる、というのは消毒をしているぶん、より丁寧に見えますが。
ドクタードクター
そう見えるけれど、医療機関で使用済みの針を煮沸する必要はないんだ。煮沸するには針を集めて移し替えたり取り出したりすることになり、そのたびに針に触れる機会が増える。かえって針刺しの危険が高まってしまうんだよ。それに金属製の針は消毒しても一般ごみにはならず、専門の処理業者に委託する必要がある。
医学生医学生
「針に触る回数をできるだけ減らす」というのが全体を通した考え方なんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。実際の運用も押さえておこう。感染性廃棄物の容器にはバイオハザードマークがついていて、赤は血液などの液状のもの、橙は血液の付いたガーゼなどの固形物、黄は注射針やメスなどの鋭利なものだ。黄色の容器は針が突き抜けない耐貫通性のもので、満杯まで詰めず8割程度で蓋を閉めて交換する。
医学生医学生
もし実習中に針刺しをしてしまったら、どうすればいいでしょうか。
ドクタードクター
まず刺した部位を流水と石けんでよく洗い、すぐに報告する。そのうえで患者側と受傷者の感染状況を確認し、必要に応じてHBVなら抗HBs人免疫グロブリンやワクチン、HIVなら抗HIV薬の予防内服を行う。HIVの予防内服はできるだけ早く始めることが大切だから、隠さずにすぐ報告することが何より重要だ。
医学生医学生
入学後にB型肝炎ワクチンを打って抗体価を測ったのも、こういう事故に備えるためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。安全装置付きの針の使用やワクチン接種も含めて、針刺し対策は医療者自身を守るための大切な知識なんだ。

まとめ

使用後の注射針は、リキャップせずにその場で耐貫通性の専用容器に捨て、感染性廃棄物として処理するのが原則です。リキャップは針刺し事故の主な原因であり、やむを得ない場合でも両手ではなく片手リキャップ法を用います。注射針やメスなどの鋭利なものは、標準予防策の考え方に基づき、患者の感染症の有無や血液付着の有無にかかわらず感染性廃棄物として扱い、黄色のバイオハザードマークの容器を使います。煮沸などの前処理は針に触れる機会を増やすため不要です。針刺し時の洗浄・報告・予防内服の流れやB型肝炎ワクチンの接種も含め、自分と周囲を守る基本として確実に身につけておきたい内容です。

解答・解説

正解はdです

使用後の注射針を安全に処理する方法を問う問題である。考えるべき点は、①リキャップ(使用後の針にキャップをもう一度かぶせること)をしてよいか、②どの区分の廃棄物として処理するか、の2つである。 ①リキャップ 針刺し事故は、針をキャップに戻そうとして手元が狂い、キャップを持つ手を刺してしまう場面で多く起こる。針刺しにより、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)など、血液を介して感染する病原体に曝露するおそれがある。そのため、使用後の針はリキャップせず、使用したその場ですぐに専用の廃棄容器へ捨てるのが原則である。 ②廃棄物の区分 廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)とそれに基づくマニュアルでは、注射針やメスのような鋭利なものは感染性廃棄物として扱う。実際に血液が付着しているかどうか、患者が感染症にかかっているかどうかは問わない。これは、すべての患者の血液・体液を感染の可能性があるものとして扱う標準予防策(スタンダードプリコーション)の考え方とも合っている。 以上より、「リキャップせず、感染性廃棄物として処理する」が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  リキャップして一般廃棄物として処理する。

    2つの点で誤りである。第一に、リキャップは針刺し事故の主な原因であり、原則として行わない。第二に、使用済みの注射針は鋭利で、血液を介した感染の危険があるため感染性廃棄物にあたる。一般廃棄物として捨てると、清掃や収集の作業をする人に針刺しや感染が生じるおそれがある。

  2. ×b.  リキャップせず一般廃棄物として処理する。

    リキャップしない点は正しい。しかし、使用済みの注射針は感染性廃棄物であり、一般廃棄物として処理してはならない。耐貫通性(針が突き抜けない性質)の専用容器に入れ、感染性廃棄物として処理する必要がある。

  3. ×c.  リキャップして感染性廃棄物として処理する。

    感染性廃棄物として処理する点は正しい。しかし、リキャップは原則として禁止である。リキャップするときに針先がキャップから外れ、キャップを持つ手を刺す事故が起こりやすい。なお、針を廃棄容器まですぐに運べないなど、どうしてもキャップが必要な場合には、キャップを台に置き、片手で針をすくうように差し込む方法(片手リキャップ法、スクープ法)を用いる。両手でのリキャップは行ってはならない。

  4. ○d.  リキャップせず感染性廃棄物として処理する。

    正しい処理方法である。リキャップをしなければ、針刺し事故の大きな原因を取り除ける。鋭利な器具は感染性廃棄物として扱うと定められているので、患者が感染症にかかっているかどうかに関係なく、感染性廃棄物として処理する。実際には、耐貫通性の専用廃棄容器を処置をする場所の手元に用意し、使い終わったらすぐに容器へ入れる。容器は満杯になるまで詰めず、8割程度で蓋を閉めて交換する。

  5. ×e.  リキャップせず煮沸して感染性廃棄物として処理する。

    リキャップしない点と感染性廃棄物として扱う点は正しい。しかし、医療機関で使用済みの針を煮沸する必要はない。煮沸するには針を集めて移し替えたり取り出したりすることになり、そのたびに針に触れる機会が増えるので、かえって針刺しの危険が高まる。また、金属製の注射針は産業廃棄物にあたるため、消毒・滅菌したとしても一般ごみにはならず、専門の処理業者(特別管理産業廃棄物処理業者)に処理を委託する必要がある。

標準予防策(スタンダードプリコーション)

感染症の有無にかかわらず、すべての患者の血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして扱う考え方である。主な内容は、手指衛生、個人防護具(手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなど)の使用、鋭利な器具の安全な取り扱い、環境の整備などである。

感染性廃棄物の区分

医療機関から出る感染性廃棄物は、廃棄物処理法で「特別管理廃棄物」に分類される。さらに、排出物の種類によって次の2つに分けられる。 ・感染性一般廃棄物:血液が付着したガーゼや脱脂綿、紙くずなど ・感染性産業廃棄物:注射針、メス、血液そのもの、血液が付着したプラスチック製品など

バイオハザードマークの色分け

・赤:液状・泥状のもの(血液など) ・橙:固形状のもの(血液が付着したガーゼなど) ・黄:鋭利なもの(注射針、メスなど)。耐貫通性の容器を使う。

針刺し事故への対策と事後対応

・リキャップをしない。使ったその場ですぐ廃棄できるように、専用容器を手元に置く。 ・安全装置付きの器材(針が自動で収納されるものなど)を使う。 ・医療従事者はB型肝炎ワクチンを接種しておく。 ・針刺しが起きた場合は、まず刺した部位を流水と石けんでよく洗う。次に報告を行い、患者側と受傷者の感染状況を確認する。HBVに対しては抗HBs人免疫グロブリンやワクチン、HIVに対しては抗HIV薬の予防内服を状況に応じて行う。HIVの予防内服はできるだけ早く始めることが重要である。

POINT

・使用後の注射針はリキャップしない。リキャップは針刺し事故の主な原因である。 ・注射針などの鋭利なものは、感染症の有無にかかわらず感染性廃棄物として扱う。 ・耐貫通性の専用容器に入れる。バイオハザードマークは黄色である。 ・煮沸などの前処理はいらない。かえって針に触れる機会が増え、危険である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。