「疑い」で通告してよい―児童虐待防止法の定義・通告・保護を押さえる
第112回医師国家試験 F問題 第38問
国試問題にチャレンジ
児童虐待について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.児童虐待の通告は保健所に行う。
- b.言葉の暴力は児童虐待には含まれない。
- c.児童と保護者との通信は制限できない。
- d.児童にわいせつな行為をさせることが含まれる。
- e.児童虐待を受けていると思われる児童を発見した者は医師以外でも通告できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
児童虐待防止法では、保護者が監護する18歳未満の児童に対する身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待の4類型を児童虐待と定義し、暴言や面前DVは心理的虐待、わいせつな行為を「させる」ことも性的虐待に含まれます。虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、医師に限らず誰でも、疑いの段階で市町村・福祉事務所・児童相談所に通告する義務を負い、この通告は守秘義務違反になりません。通告先に保健所は含まれず、また一時保護や施設入所の措置中は保護者との面会・通信を制限でき、接近禁止命令も設けられています。不自然な受傷機転や新旧混在する外傷などのサインに気づき、ためらわず通告につなげることは、子どもの命を守るうえで医療者に求められる重要な役割です。
解答・解説
正解はd, eです
本問は「児童虐待の防止等に関する法律」(児童虐待防止法)の基本事項を問う問題である。押さえるべき柱は次の3つである。 (1) 児童虐待の定義:保護者(親権を行う者、未成年後見人など、児童を現に監護する者)が、その監護する18歳未満の児童に対して行う次の4類型の行為である。 ・身体的虐待:外傷を生じる、またはそのおそれのある暴行 ・性的虐待:わいせつな行為をすること、またはわいせつな行為をさせること ・ネグレクト:著しい減食、長時間の放置、同居人による虐待の放置など、監護を著しく怠ること ・心理的虐待:著しい暴言、拒絶的な対応、児童の目の前での配偶者への暴力(面前DV)など、著しい心理的外傷を与える言動 (2) 通告:虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者は、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所、または児童相談所に通告しなければならない。確証がなくてもよく、発見者が誰であっても義務を負う。この通告は守秘義務違反には問われない。 (3) 児童の保護:児童相談所による一時保護や施設入所などの措置がとられた場合、児童相談所長や施設長は、保護者との面会や通信を制限できる。さらに一定の場合には、都道府県知事等が保護者に対し児童へのつきまといや住居付近の徘徊を禁止する命令(接近禁止命令)を出せる。 これらを踏まえて各選択肢を判断すると、性的虐待に「わいせつな行為をさせること」が含まれる点と、通告が医師に限られない点が正しい。
選択肢考察
- ×a. 児童虐待の通告は保健所に行う。
児童虐待防止法で定められた通告先は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所であり(児童委員を介して通告することもできる)、保健所は含まれない。児童相談所は一時保護や施設入所措置などの法的権限をもつ専門機関で、通告を受けた機関は速やかに児童の安全確認を行う。なお、児童相談所の全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」も設けられている。保健所や市町村保健センターは、乳幼児健診や新生児訪問などを通じて虐待の早期発見・予防に関わるが、通告の受け手として法定された機関ではない。
- ×b. 言葉の暴力は児童虐待には含まれない。
児童に対する著しい暴言や、拒絶的な対応、きょうだい間での著しい差別的扱いなど、児童に著しい心理的外傷を与える言動は「心理的虐待」として児童虐待に含まれる。児童の目の前で家族に暴力をふるう面前DVも心理的虐待にあたる。身体に傷が残らなくても、児童の情緒や発達に深刻な影響を与えるためである。近年の児童相談所の虐待相談対応件数では、心理的虐待が最も多い類型となっている。
- ×c. 児童と保護者との通信は制限できない。
児童虐待防止法では、児童虐待を受けた児童について一時保護や施設入所等の措置がとられた場合、児童虐待の防止と児童の保護のために必要があると認めるときは、児童相談所長や施設長が保護者との面会や通信の全部または一部を制限できると定めている。保護者が児童を連れ戻そうとしたり、児童に圧力をかけたりするのを防ぐための規定である。さらに状況に応じて、都道府県知事等は保護者に対し、児童へのつきまといや住居・学校付近の徘徊を禁止する接近禁止命令を出すこともできる。したがって「制限できない」は誤りである。
- ○d. 児童にわいせつな行為をさせることが含まれる。
児童虐待防止法の定義では、性的虐待として「児童にわいせつな行為をすること」に加えて「児童をしてわいせつな行為をさせること」が明記されている。保護者が自ら児童に性的行為をする場合だけでなく、児童に性的な行為を強要する、性器や性交を見せる、ポルノグラフィの被写体にするといった行為も性的虐待にあたる。性的虐待は表面化しにくく、相談対応件数としては少ないが、実際には潜在している例が多いと考えられている。
- ○e. 児童虐待を受けていると思われる児童を発見した者は医師以外でも通告できる。
児童虐待防止法は、虐待を受けたと思われる児童を発見した「者」に通告を義務づけており、医師に限らず、すべての国民が通告できる(通告しなければならない)。虐待の確証は必要なく、疑いの段階で通告してよい。通告は刑法の秘密漏示罪やその他の守秘義務に関する法律の規定に妨げられないため、医療者が守秘義務を理由にためらう必要はない。また、学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士など、職務上児童虐待を発見しやすい立場にある者には、早期発見に努める努力義務も課されている。
児童虐待防止法の要点
・児童:18歳未満の者。 ・虐待の主体:保護者(親権者、未成年後見人、その他児童を現に監護する者)。 ・4類型:身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待。 ・通告:虐待を受けたと思われる児童を発見した者はすべて通告義務を負う。通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所。守秘義務の規定は通告を妨げない。通告者を特定させる情報は漏らしてはならないとされている。 ・早期発見の努力義務:学校、児童福祉施設、病院などの団体と、教職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士などの専門職。 ・安全確認:通告を受けた機関は速やかに児童の安全を確認する。保護者が調査に応じない場合には、裁判所の許可状を得て臨検・捜索ができる。 ・保護:一時保護、施設入所措置。面会・通信の制限、接近禁止命令。 ・体罰の禁止:親権者等による児童へのしつけに際しての体罰は法律で禁止されている(2020年施行)。また民法の懲戒権の規定は2022年の改正で削除された。
医療現場で虐待を疑う所見
・受傷機転の説明が不自然・変遷する、受診の遅れ ・新旧混在する多発外傷、多発骨折(特に肋骨骨折、骨幹端骨折) ・乳幼児の頭部外傷で硬膜下血腫や網膜出血を伴うもの(虐待による乳幼児頭部外傷) ・タバコの火による熱傷、境界明瞭な浸水熱傷 ・体重増加不良、不衛生(ネグレクト) ・年齢不相応の性的知識・行動、性感染症(性的虐待)
関連機関
・児童相談所:都道府県・政令指定都市等に設置。相談、調査、一時保護、施設入所措置などを担う。全国共通ダイヤル189。 ・要保護児童対策地域協議会:市町村に置かれ、関係機関が情報を共有して支援する。
POINT
・児童虐待は身体的、性的、ネグレクト、心理的の4類型。暴言や面前DVは心理的虐待、わいせつな行為を「させる」ことも性的虐待に含まれる。 ・通告はすべての国民の義務で、疑いの段階でよい。守秘義務違反にはならない。 ・通告先は市町村、福祉事務所、児童相談所(保健所ではない)。 ・一時保護・施設入所中は保護者との面会・通信を制限でき、接近禁止命令もある。
