「障害者のための分類」は誤解―ICFが描く、すべての人の「生きること」
第112回医師国家試験 F問題 第33問
国試問題にチャレンジ
国際生活機能分類〈ICF〉について誤っているのはどれか。
- a.疾病は健康状態に含まれる。
- b.環境因子は背景因子に含まれる。
- c.健康状態は参加に影響を与える。
- d.対象を障害者とした分類である。
- e.機能障害がなくても活動が制約される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
国際生活機能分類(ICF)は2001年にWHOで採択された分類で、障害者に限らずすべての人の健康と生活機能を記述する共通言語です。生活機能は心身機能・身体構造、活動、参加の3レベルからなり、それぞれの問題が機能障害、活動制限、参加制約として表され、その総称が障害とされます。健康状態には疾病のほか妊娠・加齢・ストレスも含まれ、背景因子は環境因子と個人因子からなり、全要素が双方向に影響し合う相互作用モデルであるため、機能障害がなくても環境次第で活動制限は生じえます。前身のICIDHが一方向にマイナス面を分類したのとの違いを押さえることが、問題を解く鍵になります。この視点は、リハビリテーションや在宅医療で多職種が環境に働きかけ、患者の生活を支える実践の土台になります。
解答・解説
正解はdです
国際生活機能分類〈ICF〉は、世界保健機関(WHO)が2001年の総会で採択した、人が「生きること」全体を捉えるための分類である。前身の国際障害分類〈ICIDH, 1980年〉が「機能障害→能力障害→社会的不利」という一方向の、障害というマイナス面に注目した枠組みであったのに対し、ICFは生活機能というプラス面を中心に据え、要素同士が双方向に影響し合う相互作用モデルをとる。 ICFの構成要素は次のとおりである。 ・健康状態:疾病、外傷、妊娠、加齢、ストレスなどを含む広い概念。 ・生活機能(3つのレベル):心身機能・身体構造(生物レベル)、活動(個人の生活行為のレベル)、参加(社会の中で役割を果たすレベル)。それぞれに問題が生じた状態を、機能障害(構造障害を含む)、活動制限、参加制約とよび、これらを総称したものが「障害」である。 ・背景因子:環境因子(物的環境、人的環境、社会制度・サービスなど)と個人因子(年齢、性別、生活歴、価値観など)。 この枠組みは障害のある人に限らず、すべての人の健康と生活機能を記述するために作られたものである。本問は「誤っているもの」を選ぶ形式であり、ICFの対象と構成要素の関係を正しく理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 疾病は健康状態に含まれる。
正しい記述である。ICFの「健康状態」は疾病(急性・慢性疾患)や外傷のほか、妊娠、加齢、ストレス状態なども含む包括的な概念であり、生活機能の低下を引き起こしうる要因の一つとして位置づけられる。
- ×b. 環境因子は背景因子に含まれる。
正しい記述である。ICFでいう背景因子とは、本人を取り巻く「環境因子」と、本人固有の特徴である「個人因子」を合わせたものである。環境因子には建物の段差や福祉用具などの物的環境、家族や支援者などの人的環境、医療・福祉制度や社会の意識などが含まれ、生活機能を促進する方向にも阻害する方向にも働く。
- ×c. 健康状態は参加に影響を与える。
正しい記述である。ICFでは各構成要素が双方向の矢印で結ばれ、健康状態は心身機能・身体構造、活動、参加のどのレベルにも影響を与えうる。逆に、参加の状況が健康状態に影響を及ぼすこともある(例:社会的役割を失うことで抑うつが生じる)。
- ○d. 対象を障害者とした分類である。
誤った記述であり、これが正解である。ICFは障害のある人だけを対象とした分類ではなく、すべての人の健康状態と生活機能を記述するための共通言語として作られた。障害を特別な少数者の問題ではなく、誰にでも生じうる生活機能の状態として捉える点がICFの基本的な考え方である(普遍性)。前身のICIDHが障害というマイナス面を分類したのとは異なり、生活機能というプラス面から人を捉える。
- ×e. 機能障害がなくても活動が制約される。
正しい記述である。活動は歩行・食事・排泄・入浴などの日常生活動作(ADL)に限らず、家事、仕事、余暇などあらゆる生活行為を含む。ICFは相互作用モデルであるため、心身機能に問題がなくても、環境因子や個人因子によって活動が制限されることがある。例えば、身体機能は保たれていても周囲が過度に介助してしまい自分で行う機会を失っている場合や、必要な道具・技能・資格をもたないために特定の行為ができない場合が該当する。さらに活動の制限は、就労や地域生活などの参加の制約にもつながりうる。
ICIDHとICFの比較
・ICIDH(国際障害分類, 1980年):疾患・変調→機能障害→能力障害→社会的不利という一方向の因果モデル。障害というマイナス面を分類し、環境の影響が十分に考慮されていなかった。 ・ICF(国際生活機能分類, 2001年):「生活機能」というプラス面を中心とした中立的な用語を用いる。機能障害・活動制限・参加制約は生活機能の各レベルで問題が生じた状態として表現される。背景因子(環境因子・個人因子)を明示し、全要素が相互に影響し合う。
対応関係
・機能障害 ↔ 心身機能・身体構造 ・能力障害 → 活動制限 ・社会的不利 → 参加制約
臨床での活用
リハビリテーションや介護の領域では、ICFの枠組みを用いて患者の生活機能を多面的に評価し、多職種で目標を共有する。環境因子は介入によって変えられるため、住宅改修や福祉用具、サービス導入などによって活動・参加を改善できる点が重要である。
POINT
・ICFは2001年にWHOで採択された、すべての人を対象とする分類である(障害者に限らない)。 ・生活機能は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3レベル。 ・背景因子=環境因子+個人因子。 ・健康状態には疾病のほか妊娠・加齢・ストレスも含まれる。 ・相互作用モデルであり、機能障害がなくても活動制限や参加制約は生じうる。
