StudyMed医師国家試験

保健所の仕事、どこまでが守備範囲?―「医療保険の事務」は誰のものか

第112回医師国家試験 F問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第25問

保健所の業務として誤っているのはどれか。

  1. a.難病に関する相談を受ける。
  2. b.食中毒患者の届出を受ける。
  3. c.医療保険に関する事務を行う。
  4. d.保健師による家庭訪問活動を行う。
  5. e.人口動態統計に関する事務を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、保健所が担う業務の範囲を問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから、保健所の守備範囲の外にあるものを見つければいい。手がかりは、保健所の業務を定めた法律と、市町村や保険者との役割分担だよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、保健所は地域保健法で決まっていると習いました。でも業務の中身までは正直あいまいです。
ドクタードクター
大丈夫、整理すれば覚えやすい。保健所の業務は地域保健法第6条に14項目が列挙されていて、大きく「対物保健サービス」と「広域的・専門的な対人保健サービス」の2本柱に分けられる。対物は食品衛生、環境衛生、医事・薬事、試験・検査など。対人は精神保健、難病、結核・感染症など、専門性が高く市町村単位では対象者の少ないものだ。
医学生医学生
ということは、乳幼児健診とか予防接種みたいな身近なサービスは保健所じゃないんですか。
ドクタードクター
その通り。身近で一般的な対人サービスは主に市町村、つまり市町村保健センターが担う。では選択肢を見ていこう。まず難病に関する相談。これはどうかな。
医学生医学生
難病は患者数が少なくて専門的なので、広域的に保健所が対応する、という理屈に合いそうです。
ドクタードクター
正解。第6条にも「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健」が明記されていて、保健所は療養相談や訪問相談、患者・家族の交流会などを行っている。次は食中毒患者の届出だ。
医学生医学生
臨床実習の前に習った届出のルールで、食中毒を診断した医師は保健所長に届け出るんでしたよね。
ドクタードクター
そう。食品衛生法で、食中毒患者やその疑いのある人を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出ることになっている。保健所は原因食品や施設を調査する。食品衛生は代表的な対物サービスだね。
医学生医学生
保健師の家庭訪問は、市町村の保健師さんもやっていますよね。地域医療実習で新生児訪問に同行させてもらいました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。新生児訪問のような一般的な母子の訪問は主に市町村の保健師が担う。一方、保健所の保健師は精神障害者や難病患者、結核患者、医療的ケアが必要な子どもなど、専門的支援を要する人を訪問する。第6条にも「保健師に関する事項」があるから、家庭訪問は保健所の業務に含まれる。
医学生医学生
人口動態統計は、出生届や死亡届を受け付ける市区町村の仕事だと思っていました。
ドクタードクター
届出自体は市区町村長に出されるけれど、作成された人口動態調査票は保健所長を経由して都道府県知事、さらに厚生労働大臣へ送られる。保健所はその経由機関として調査票を点検しているんだ。第6条にも「人口動態統計その他地域保健に係る統計」が挙がっているよ。
医学生医学生
となると残るのは医療保険の事務ですね。これは保険者の仕事ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。被保険者の資格管理、保険料の徴収、保険給付といった医療保険の事務は、各制度の保険者が行う。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、国民健康保険なら都道府県と市町村、後期高齢者医療なら広域連合だね。診療報酬の審査・支払は社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会が担う。
医学生医学生
「保健」と「保険」、字が似ているので混同しやすいですね。CBTでも引っかかりそうです。
ドクタードクター
まさにそこが出題者の狙いだと思う。最後に発展知識として、保健所と市町村保健センターの違いを押さえておこう。保健所の設置主体は都道府県、指定都市、中核市、政令で定める市、特別区で、所長は原則として医師。市町村保健センターは市町村が任意で設置し、所長が医師である必要はなく、対物サービスは行わない。
医学生医学生
臨床の現場で保健所とかかわるのは、どんな場面が多いですか。
ドクタードクター
結核や感染症の届出、食中毒の届出、精神保健福祉法に関わる対応、難病患者の在宅支援の連携などが典型だね。医師になれば届出義務を果たす立場になるから、「何をどこに届けるか」を具体的に知っておくことが大切だよ。

まとめ

保健所の業務は地域保健法第6条に定められ、食品衛生・環境衛生・医事薬事などの対物保健サービスと、精神保健・難病・結核や感染症などの広域的・専門的な対人保健サービス、人口動態統計などの地域保健統計が中心です。難病相談、食中毒の届出受理、保健師による専門的な家庭訪問、人口動態調査票の経由・点検はいずれも保健所の業務ですが、医療保険の事務は協会けんぽや健康保険組合、国民健康保険などの保険者が担うもので、保健所の業務ではありません。乳幼児健診や予防接種など身近な対人サービスは市町村保健センターの役割であり、保健所・市町村・保険者の役割分担を整理しておくことが理解の近道です。医師は食中毒や感染症の届出を通じて保健所と日常的に連携するため、この知識は国試対策にとどまらず臨床の実務に直結します。

解答・解説

正解はcです

保健所が担う業務の範囲を問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、保健所の業務に当たらないものが正解となる。 保健所は地域保健法に基づいて都道府県、指定都市、中核市、その他政令で定める市および東京都の特別区が設置する、地域の公衆衛生の中核機関である。その業務は地域保健法第6条に列挙されており、大きく次の2つに整理できる。 ・対物保健サービス:食品衛生、環境衛生(住宅、水道、下水道、廃棄物処理など)、医事・薬事、衛生上の試験・検査など。 ・広域的・専門的な対人保健サービス:精神保健、難病対策、結核・感染症対策、エイズ・性感染症対策など。 さらに、人口動態統計をはじめとする地域保健統計、保健師に関する事項、公共医療事業の向上なども含まれる。 これに対し、身近で一般的な対人サービス(乳幼児健診、予防接種、住民の健康診査や健康相談など)は主に市町村(市町村保健センター)が担う。また、医療保険の運営(被保険者の資格管理、保険料の徴収、保険給付など)は、各医療保険制度の「保険者」の仕事であり、保健所の業務ではない。 選択肢を地域保健法第6条の各事項に照らし、どれが保健所の守備範囲外かを判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  難病に関する相談を受ける。

    保健所の業務である。地域保健法第6条は「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健」に関する事項を保健所の業務として掲げている。難病は専門性が高く、患者数も市町村単位では少ないため、広域的・専門的な対人サービスとして保健所が療養相談、訪問相談、患者・家族の交流会、地域の支援体制づくりなどを行っている。

  2. ×b.  食中毒患者の届出を受ける。

    保健所の業務である。食品衛生法により、食中毒患者またはその疑いのある者を診断した医師、あるいはその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。届出を受けた保健所長は都道府県知事等に報告するとともに、原因食品や原因施設の調査、検査などを行う。食品衛生は代表的な対物保健サービスである。

  3. ○c.  医療保険に関する事務を行う。

    保健所の業務ではないため、これが「誤っているもの」として正解である。医療保険の事務(被保険者資格の管理、保険料の徴収、保険給付など)は保険者が行う。保険者には、全国健康保険協会(協会けんぽ)、健康保険組合、共済組合、市町村(都道府県とともに国民健康保険を運営)、国民健康保険組合、後期高齢者医療広域連合などがある。また、診療報酬請求の審査・支払は社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会が担う。地域保健法第6条にも医療保険事務は含まれていない。

  4. ×d.  保健師による家庭訪問活動を行う。

    保健所の業務である。地域保健法第6条には「保健師に関する事項」が挙げられており、保健所の保健師は、精神障害者、難病患者、結核患者、医療的ケアの必要な小児など、専門的な支援を要する人を対象に家庭訪問を行っている。なお、新生児訪問や乳児家庭全戸訪問など一般的な母子の訪問は主に市町村の保健師が担う。家庭訪問そのものは保健所と市町村の双方で行われる活動である。

  5. ×e.  人口動態統計に関する事務を行う。

    保健所の業務である。地域保健法第6条は「人口動態統計その他地域保健に係る統計」に関する事項を掲げている。出生・死亡・死産・婚姻・離婚の届出は市区町村長に提出され、市区町村が作成した人口動態調査票は保健所長を経由して都道府県知事に送付され、さらに厚生労働大臣に送られて集計される。保健所はこの経由機関として調査票の点検などを担っている。

地域保健法第6条に定める保健所の業務(14項目)

1. 地域保健に関する思想の普及および向上 2. 人口動態統計その他地域保健に係る統計 3. 栄養の改善および食品衛生 4. 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生 5. 医事および薬事 6. 保健師に関する事項 7. 公共医療事業の向上および増進 8. 母性および乳幼児ならびに老人の保健 9. 歯科保健 10. 精神保健 11. 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健 12. エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防 13. 衛生上の試験および検査 14. その他地域住民の健康の保持および増進

保健所と市町村保健センターの比較

・保健所:設置主体は都道府県、指定都市、中核市、政令で定める市、特別区。所長は原則として医師。対物サービス(食品衛生、環境衛生、医事・薬事など)と、広域的・専門的な対人サービス(精神保健、難病、結核・感染症など)を担い、市町村への技術的援助も行う。 ・市町村保健センター:市町村が設置(任意)。所長は医師である必要はない。住民に身近な一般的対人サービス(乳幼児健診、母子健康手帳の交付、予防接種、健康相談、健康教育、がん検診など)を担い、対物サービスは行わない。

医療保険の保険者

被用者保険:全国健康保険協会、健康保険組合、共済組合など。 地域保険:国民健康保険(都道府県と市町村、国民健康保険組合)。 後期高齢者医療制度:後期高齢者医療広域連合。

POINT

・保健所の業務は地域保健法第6条に規定。 ・保健所=対物サービス+広域的・専門的対人サービス(精神保健、難病、結核・感染症)+統計。 ・市町村保健センター=身近で一般的な対人サービス(乳幼児健診、予防接種など)。対物サービスはない。 ・医療保険の事務は保険者の仕事で、保健所の業務ではない。 ・食中毒を診断した医師は直ちに最寄りの保健所長へ届け出る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。