StudyMed医師国家試験

その義務、根拠はどの法律?―医師法・刑法・医療法を整理する

第112回医師国家試験 F問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第112回 F問題 第24問

医師の義務と規定する法律との組合せで正しいのはどれか。

  1. a.守秘義務 ―― 医師法
  2. b.応召義務 ―― 民法
  3. c.説明義務 ―― 医療法
  4. d.処方箋の交付義務 ―― 健康保険法
  5. e.異状死体の届出義務 ―― 刑法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医師が負う法的な義務と、それを定めている法律の組合せを問う問題だ。ポイントは「医師の義務の多くは医師法にまとまっているが、例外がある」という点。その例外を押さえられているかが試されているよ。
医学生医学生
医師の義務なら全部医師法に書いてあるものだと思っていました。守秘義務も医師法ではないんですか。
ドクタードクター
実はそこが一番よくあるひっかけなんだ。医師の守秘義務は医師法には条文がなく、刑法第134条の秘密漏示罪で定められている。医師、薬剤師、助産師、弁護士などが、正当な理由なく業務上知った他人の秘密を漏らすと処罰される仕組みだ。
医学生医学生
医療倫理の講義で、守秘義務は医療の大原則と習ったので、てっきり医師法かと思っていました。看護師も刑法なんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。看護師や保健師の守秘義務は保健師助産師看護師法に定められていて、職種によって根拠法が違うんだ。助産師は刑法の方に含まれている点も、紛らわしいけれど覚えておくといい。
医学生医学生
では、正解は説明義務と医療法の組合せですか。インフォームド・コンセントって法律にも書いてあるんですね。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。医療法第1条の4第2項に、医師・歯科医師・薬剤師・看護師などの「医療の担い手」は、医療を提供するにあたって適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めなければならない、とある。インフォームド・コンセントの考え方を法文に取り入れたもので、罰則のない努力義務という形をとっている。
医学生医学生
医療法って、病院の病床数とか施設基準の法律というイメージでした。
ドクタードクター
主には医療提供体制を規律する法律だね。でも冒頭部分には医療提供の理念や医療の担い手の責務も置かれているんだ。次は応召義務。民法との組合せになっているけれど、どうかな。
医学生医学生
臨床実習の救急外来で、指導医の先生から「医師法19条があるから、正当な理由なく診療は断れない」と聞きました。なので民法ではないと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。応召義務は医師法第19条第1項で、医師が国に対して負う公法上の義務だ。違反に直接の罰則はないけれど、医師としての品位を損なう行為として行政処分の対象になり得る。民法は契約や不法行為など私人間の関係を定める法律で、診療契約上の責任や損害賠償の根拠にはなるが、応召義務の根拠ではない。
医学生医学生
処方箋の交付義務は健康保険法となっていますが、保険診療の話なので一瞬それらしく見えました。
ドクタードクター
そう見えるよね。でも交付義務そのものは医師法第22条だ。治療上薬剤を投与する必要があると認めたら、原則として処方箋を交付しなければならない。患者が不要と申し出た場合や、暗示的効果を期待する場合など、例外も定められている。健康保険法は医療保険制度の根拠法で、保険診療のルールは療養担当規則で細かく決められているけれど、交付義務の根拠とは区別しよう。
医学生医学生
異状死体の届出は警察に届けるので、刑法と結びつけてしまいそうです。
ドクタードクター
そこも典型的なひっかけだ。根拠は医師法第21条。死体や妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたら、24時間以内に所轄の警察署へ届け出る。違反には医師法上の罰則がある。犯罪捜査のきっかけになる規定だから刑法を連想しやすいけれど、医師法だよ。
医学生医学生
整理すると、応召義務・処方箋交付・異状死体届出はすべて医師法で、守秘義務だけ刑法、説明義務は医療法ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。医師法の義務はほかにも、診断書などの交付義務、自分で診察せずに治療や診断書交付をしてはいけない無診察治療等の禁止、療養方法などの保健指導義務、そして診療録の記載と5年間の保存義務がある。条文番号の順に19条から24条まで並べて覚えると頭に入りやすいよ。
医学生医学生
医師法以外の届出もありますよね。感染症の届出は感染症法でした。
ドクタードクター
そう。麻薬中毒者の届出なら麻薬及び向精神薬取締法だ。それから刑法では、守秘義務違反のほかに業務上過失致死傷罪や虚偽診断書等作成罪なども医師が問われ得る。研修医になると、診断書や死亡診断書を書く場面、患者情報を扱う場面が一気に増える。日々の診療の行為一つひとつに法的な根拠と責任がある、と意識しておくことが大切だね。

まとめ

医師の業務上の義務の多くは医師法に規定されており、応召義務(第19条)、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体等の24時間以内の警察署への届出(第21条)、処方箋の交付義務(第22条)、保健指導義務(第23条)、診療録の記載と5年間保存(第24条)がその代表です。一方、守秘義務は医師法ではなく刑法第134条(秘密漏示罪)に、説明義務(インフォームド・コンセント)は医療法第1条の4第2項に「医療の担い手」の努力義務として定められています。看護師・保健師の守秘義務は保健師助産師看護師法、感染症の届出は感染症法というように、義務の種類や職種によって根拠法が異なる点にも注意が必要です。「たいていは医師法、守秘義務は刑法、説明は医療法」という整理は、国試だけでなく、診断書作成や個人情報の取り扱いなど日常診療での責任を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

医師が負う主な法的義務と、それぞれを定めている法律を対応させる問題である。 医師の業務上の義務の多くは「医師法」にまとめて規定されている。応召義務(第19条第1項)、診断書等の交付義務(第19条第2項)、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体等の届出義務(第21条)、処方箋の交付義務(第22条)、療養指導義務(第23条)、診療録の記載・保存義務(第24条)がその代表である。 一方、医師法に置かれていない義務もある。守秘義務は刑法第134条(秘密漏示罪)で医師を含む特定の職業に課されており、説明義務は医療法第1条の4第2項に「医療の担い手」の努力義務として書かれている。 したがって「医師の義務はたいてい医師法、ただし守秘義務は刑法、説明(インフォームド・コンセント)は医療法」という整理ができていれば、正しい組合せは説明義務と医療法だとわかる。

選択肢考察

  1. ×a.  守秘義務 ―― 医師法

    誤り。医師の守秘義務は刑法第134条(秘密漏示罪)に規定されている。医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士などが、正当な理由なく業務上知り得た他人の秘密を漏らしたときに処罰される(6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。2025年の刑法改正前は「懲役」と表記されていた)。医師法には守秘義務の条文がない点が要注意である。なお看護師・保健師の守秘義務は保健師助産師看護師法に定められており、職種によって根拠法が異なる。

  2. ×b.  応召義務 ―― 民法

    誤り。応召義務は医師法第19条第1項に規定され、診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合に正当な事由がなければ拒んではならない。これは医師が国に対して負う公法上の義務であり、違反に対する罰則は設けられていない(ただし医師としての品位を損なう行為として行政処分の対象になり得る)。民法は契約や不法行為など私人間の関係を定める法律で、診療契約上の責任や損害賠償の根拠にはなるが、応召義務の根拠法ではない。

  3. ○c.  説明義務 ―― 医療法

    正しい。医療法第1条の4第2項は、医師・歯科医師・薬剤師・看護師などの「医療の担い手」に対し、医療を行う際には患者へ適切に説明し、その理解を得られるよう努めることを求めている。これはインフォームド・コンセント(十分な説明を受けたうえでの患者の同意)の考え方を法文に取り入れたもので、罰則のない努力義務という形をとる。医療法は主に病院・診療所など医療提供体制を規律する法律だが、第1条の2以下には医療提供の理念や医療の担い手の責務も置かれている。

  4. ×d.  処方箋の交付義務 ―― 健康保険法

    誤り。処方箋の交付義務は医師法第22条に規定されている。患者に治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、原則として患者または看護者に処方箋を交付しなければならない。ただし患者や看護者が処方箋を必要としない旨を申し出た場合や、処方箋の交付が診療・治療に支障を来す場合(暗示的効果を期待する場合、病状の短時間ごとの変化に即応する場合、覚醒剤を投与する場合など)は例外とされる。健康保険法は医療保険制度の根拠法であり、保険診療における処方箋の様式などは同法に基づく保険医療機関及び保険医療養担当規則で定められているが、交付義務そのものの根拠は医師法である。

  5. ×e.  異状死体の届出義務 ―― 刑法

    誤り。異状死体の届出義務は医師法第21条に規定されている。死体や妊娠4か月以上の死産児を検案した医師は、そこに異状を認めた場合、24時間以内に所轄の警察署へ届け出る必要がある。違反には医師法上の罰則(50万円以下の罰金)がある。犯罪捜査の端緒となる規定であるため刑法と結び付けやすいが、根拠法は医師法である。

医師法に定められた主な医師の義務

・応召義務(第19条第1項):正当な事由なく診療を拒んではならない。 ・診断書・検案書・出生証明書・死産証書の交付義務(第19条第2項):求めがあれば正当な事由なく拒んではならない。 ・無診察治療等の禁止(第20条):自ら診察せずに治療・診断書や処方箋の交付をしてはならず、自ら検案せずに検案書を交付してはならない。 ・異状死体等の届出義務(第21条):24時間以内に所轄警察署へ届け出る。 ・処方箋の交付義務(第22条)。 ・療養方法等の保健指導義務(第23条):本人または保護者に対し療養の方法その他保健の向上に必要な事項を指導する。 ・診療録の記載・保存義務(第24条):診療したときは遅滞なく記載し、5年間保存する。

医師法以外に定められた主な義務・規定

・守秘義務:刑法第134条(秘密漏示罪)。 ・説明の努力義務:医療法第1条の4第2項。 ・感染症の届出:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)。 ・麻薬中毒者の届出:麻薬及び向精神薬取締法。

刑法で医師が問われ得る主な罪

守秘義務違反(秘密漏示罪)のほか、業務上過失致死傷罪(第211条)、虚偽診断書等作成罪(第160条)、業務上堕胎罪(第214条)などがある。

POINT

・医師の義務の多くは医師法に規定(応召義務、診断書交付、無診察治療禁止、異状死体届出、処方箋交付、保健指導、診療録記載・保存)。 ・守秘義務は医師法ではなく刑法第134条。 ・説明義務(インフォームド・コンセント)は医療法第1条の4第2項の努力義務。 ・異状死体の届出は24時間以内に所轄警察署へ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。