StudyMed医師国家試験

「深い呼吸」の正体はアシドーシスかアルカローシスか―異常呼吸を病態生理で見分ける

第112回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第9問

異常呼吸と疾患の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.起坐呼吸 ―― 肺水腫
  2. b.呼気延長 ―― 気管支喘息
  3. c.口すぼめ呼吸 ―― COPD
  4. d.Kussmaul呼吸 ―― 過換気症候群
  5. e.Cheyne-Stokes呼吸 ―― 脳梗塞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、異常呼吸のパターンと代表的な疾患の対応を問う問題だ。「誤っているもの」を一つ選ぶ形式だから、それぞれの呼吸が「なぜ起こるのか」という病態生理まで遡って確認していくのがコツだよ。まず全体を眺めて、引っかかる組合せはあるかな。
医学生医学生
Kussmaul呼吸と過換気症候群が気になります。どちらも「呼吸が増える」イメージなので、合っている気もしてしまうんですが…。
ドクタードクター
そこがまさに出題者の狙いどころだね。見かけ上「換気が多い」という共通点はあるけれど、背景にある酸塩基平衡がまったく逆なんだ。Kussmaul呼吸はどんな状況で出てくる呼吸だったか覚えている?
医学生医学生
生理学の講義で、糖尿病性ケトアシドーシスの患者さんで深く大きな呼吸になると習いました。
ドクタードクター
その通り。Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシスに対して呼吸中枢が刺激され、CO2をたくさん吐き出してpHを戻そうとする代償性の呼吸なんだ。深く大きく規則的なのが特徴で、糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症が代表だね。一方の過換気症候群は?
医学生医学生
不安やストレスがきっかけで息をしすぎて、PaCO2が下がる…呼吸性アルカローシスですね。あ、だから向きが逆なんですね。
ドクタードクター
そう。過換気症候群は何かを代償している呼吸ではなく、過剰な換気そのものが原因で呼吸性アルカローシスになる病態だ。だからKussmaul呼吸とは呼ばない。これが誤った組合せ、つまり正解になる。
医学生医学生
救急外来の実習で過換気の患者さんを見たとき、手指がこわばっていました。あれもアルカローシスのせいですか。
ドクタードクター
よく観察していたね。アルカローシスになるとイオン化カルシウムが低下して、口周囲や手指のしびれ、助産師手位のようなテタニー様症状が出るんだ。では残りの組合せも確認しよう。起坐呼吸と肺水腫はどうかな。
医学生医学生
循環器内科で、心不全の患者さんが「横になると苦しい」と言ってベッドを起こしていました。
ドクタードクター
まさに起坐呼吸だね。仰臥位では下半身からの静脈還流が増えて、弱った左心が処理しきれず肺うっ血が悪化する。坐位では静脈還流が減り、横隔膜も下がって肺が広がりやすくなるから楽になるんだ。左心不全による肺うっ血・肺水腫が代表で、重症の喘息発作でもみられる。正しい組合せだよ。
医学生医学生
呼気延長と気管支喘息は、気道が狭くなって息が吐きにくいからですよね。
ドクタードクター
正解。喘息では炎症や平滑筋収縮、粘液分泌で末梢気道が狭くなる。しかも呼気時には胸腔内圧が上がって気道がさらに狭まるから、吐き出すのに時間がかかる。呼気時のwheezesを伴うことが多いね。COPDでも同じく呼気延長がみられる。
医学生医学生
口すぼめ呼吸はCOPDの患者さんが自然にやっている、とOSCEの前に呼吸器の先生から聞きました。どうして楽になるんですか。
ドクタードクター
肺気腫では肺胞壁が壊れて弾性収縮力が失われ、末梢気道を外から引っ張って開いておく力も弱い。だから呼気時に気道が早く潰れて空気が取り残される、いわゆるエアトラッピングが起こる。口をすぼめてゆっくり吐くと気道内圧が高く保たれ、虚脱を防げるんだ。呼吸リハビリでも指導されるよ。
医学生医学生
Cheyne-Stokes呼吸は、だんだん深くなってまた浅くなり、無呼吸になるのを繰り返す呼吸でしたね。脳梗塞で合っていますか。
ドクタードクター
合っているよ。両側大脳半球や間脳の障害、つまり脳梗塞や脳出血などの脳血管障害でみられる。CO2への反応性の変化や、肺から脳への循環時間の延長で換気調節が行き過ぎと不足を繰り返すのが機序だ。重症心不全や、高齢者の睡眠中、高地でも見られることがある。
医学生医学生
脳の障害部位で呼吸パターンが変わるという話も、神経の講義で出てきた気がします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。大まかには、両側大脳半球・間脳でCheyne-Stokes呼吸、中脳〜橋上部で持続する速く深い中枢神経性過換気、橋で吸気の終わりに息を止める持続性吸息呼吸、延髄でリズムがまったく不規則なBiot呼吸、という流れだ。Biot呼吸は呼吸停止が近いサインとして重要だよ。
医学生医学生
過換気症候群の治療は紙袋を口に当てるものだと思っていました。
ドクタードクター
昔はよく行われたけれど、低酸素血症の危険があるので現在は推奨されていない。安心させてゆっくり呼吸してもらうのが基本だ。それと臨床で大事なのは、過換気に見えて実は肺塞栓症や気胸、心疾患が隠れていることがある点。若い人の「過換気」でも、器質的疾患を除外してから診断することを忘れないでほしい。

まとめ

Kussmaul呼吸は代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症など)に対する呼吸性代償としての深く規則的な呼吸であり、過剰な換気により呼吸性アルカローシスをきたす過換気症候群とは病態が正反対です。起坐呼吸は左心不全による肺うっ血・肺水腫、呼気延長は気管支喘息やCOPDなどの閉塞性障害、口すぼめ呼吸はCOPDで呼気時の気道虚脱を防ぐ代償法、Cheyne-Stokes呼吸は脳梗塞などの両側大脳半球・間脳障害や重症心不全でみられます。脳の障害部位により中枢神経性過換気や持続性吸息呼吸、Biot呼吸と呼吸パターンが変化することも合わせて押さえておきましょう。過換気症候群では紙袋再呼吸は推奨されず、肺塞栓症や気胸などの器質的疾患の除外が重要です。呼吸の「見た目」ではなく背景の病態生理で整理することが、ベッドサイドでの的確な判断につながります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

呼吸の型(パターン)の異常と、その原因となる代表的疾患との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」型であり、対応関係が成り立たない組合せを一つ選ぶ。

異常呼吸を整理する視点

異常呼吸は、次のような観点で整理すると覚えやすい。 ・体位との関係:仰臥位で苦しく坐位で楽になる起坐呼吸(左心不全による肺うっ血など)。 ・呼気・吸気のバランス:気道狭窄で呼気が延長する(気管支喘息、COPD)。 ・代償のための呼吸法:COPD患者が自ら行う口すぼめ呼吸。 ・換気の深さ・回数の異常:代謝性アシドーシスを代償する深く規則的なKussmaul呼吸。 ・リズムの異常:周期的に増減と無呼吸を繰り返すCheyne-Stokes呼吸、不規則なBiot呼吸(失調性呼吸)など。

考え方

Kussmaul呼吸は「代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償」である点が本質であり、原因疾患は糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症などである。過換気症候群は不安などを契機に必要以上の換気が生じ、PaCO2が低下して呼吸性アルカローシスとなる病態であり、酸塩基平衡の向きがまったく逆である。見かけ上「換気が多い」という共通点に惑わされず、背景の病態生理で区別することが正解への鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  起坐呼吸 ―― 肺水腫

    正しい組合せである。起坐呼吸は、仰臥位で呼吸困難が増強し、坐位や半坐位をとると軽快する状態である。仰臥位では下半身からの静脈還流が増え、機能の落ちた左心では処理しきれず肺うっ血・肺水腫が増悪する。坐位をとると静脈還流が減って肺うっ血が軽くなり、横隔膜も下がって肺が広がりやすくなるため、呼吸が楽になる。左心不全による肺うっ血・肺水腫が代表的な原因であり、重症の気管支喘息発作などでもみられる。

  2. ×b.  呼気延長 ―― 気管支喘息

    正しい組合せである。気管支喘息では、気道の炎症・平滑筋収縮・粘液分泌により末梢気道が狭くなり、閉塞性換気障害を呈する。気道は呼気時に胸腔内圧の上昇で一層狭くなるため、息を吐き出すのに時間がかかり、呼気が延長する。呼気時の笛様の連続性副雑音(wheezes)を伴うことが多い。COPDでも同様に呼気延長がみられる。

  3. ×c.  口すぼめ呼吸 ―― COPD

    正しい組合せである。COPD(慢性閉塞性肺疾患)、特に肺気腫では肺胞壁の破壊により肺の弾性収縮力が失われ(コンプライアンスが過度に高い状態)、末梢気道を外から引っ張って開いておく力も弱くなる。そのため呼気時に気道が早期に虚脱して空気が肺内に取り残される(エアトラッピング)。口をすぼめてゆっくり息を吐くと気道内圧が高く保たれ、気道の虚脱が防がれて呼出しやすくなる。患者が自然に身につけていることが多く、呼吸リハビリテーションでも指導される。

  4. ○d.  Kussmaul呼吸 ―― 過換気症候群

    誤った組合せであり、これが正解である。Kussmaul呼吸は、代謝性アシドーシスに対して呼吸中枢が刺激され、CO2を排出してpHを是正しようとする代償性の呼吸で、深く大きく規則的な呼吸(しばしば回数も増える)が特徴である。糖尿病性ケトアシドーシスや尿毒症(腎不全)などでみられる。一方、過換気症候群は心理的ストレスや不安を契機に過剰な換気が起こり、PaCO2が低下して呼吸性アルカローシスを生じる病態であり、頻呼吸と呼吸困難感、口周囲や手指のしびれ、テタニー様の手指のこわばり(助産師手位)などを伴う。代謝性アシドーシスの代償ではないため、Kussmaul呼吸とは呼ばない。

  5. ×e.  Cheyne-Stokes呼吸 ―― 脳梗塞

    正しい組合せである。Cheyne-Stokes呼吸は、浅い呼吸から一回換気量が次第に増えて深い呼吸となり、再び次第に浅くなって無呼吸に至るという周期を繰り返す周期性呼吸である。呼吸中枢のCO2に対する反応性の変化や、血液が肺から脳へ届くまでの循環時間の延長によって換気の調節が行き過ぎと不足を繰り返すことで生じる。両側大脳半球や間脳の障害(脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、髄膜炎など)、重症心不全でみられ、高齢者の睡眠中や高地でも認めることがある。

主な異常呼吸のまとめ

・起坐呼吸:仰臥位で増悪、坐位で軽快。左心不全(肺うっ血・肺水腫)、重症喘息発作。 ・呼気延長:末梢気道の狭窄。気管支喘息、COPD。 ・口すぼめ呼吸:呼気時の気道虚脱を防ぐ。COPD(肺気腫)。 ・Kussmaul呼吸:深く規則的な大呼吸。代謝性アシドーシスの代償(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症など)。 ・Cheyne-Stokes呼吸:漸増・漸減と無呼吸を周期的に繰り返す。両側大脳半球・間脳の障害、重症心不全。 ・Biot呼吸(失調性呼吸):呼吸の深さ・回数・リズムが不規則で、呼吸と無呼吸が突然入れ替わる。延髄など下位脳幹の障害(血管障害、腫瘍、炎症、外傷)。呼吸停止が近いことを示唆する。 ・中枢神経性過換気:持続する速く深い呼吸。中脳〜橋上部の障害。 ・持続性吸息呼吸:吸気の終わりで息を止める。橋の障害。 ・下顎呼吸:吸気時に下顎を動かしてあえぐような呼吸。死戦期にみられる。

過換気症候群のポイント

不安・緊張などを誘因とし、若年女性に多い。動脈血ガスでPaCO2低下、pH上昇(呼吸性アルカローシス)を示す。アルカローシスによりイオン化カルシウムが低下し、しびれやテタニー様症状が出る。治療は安心させてゆっくり呼吸させることが基本であり、紙袋再呼吸法は低酸素血症の危険があるため現在は推奨されない。器質的疾患(肺塞栓症、気胸、心疾患など)の除外が重要である。

POINT

・Kussmaul呼吸=代謝性アシドーシスの呼吸性代償(糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症)。過換気症候群は呼吸性アルカローシスであり別物。 ・起坐呼吸=左心不全(肺うっ血・肺水腫)。 ・呼気延長=閉塞性換気障害(気管支喘息、COPD)。 ・口すぼめ呼吸=COPDで呼気時の気道虚脱を防ぐ。 ・Cheyne-Stokes呼吸=両側大脳半球・間脳障害、重症心不全。Biot呼吸=延髄障害。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。