StudyMed医師国家試験

「他県で療養したい」をかなえる人―退院後の行き先をつなぐ医療ソーシャルワーカー

第112回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第112回 E問題 第37問

78歳の男性。脳梗塞のため入院中である。症状は安定し意識は清明である。左上下肢の運動麻痺がありリハビリテーションを行うことになった。一人暮らしのため,息子夫婦が住む他県での療養生活を希望している。  今後の療養について,施設間の連携を調整するのにふさわしい職種はどれか。

  1. a.看護師
  2. b.保健師
  3. c.薬剤師
  4. d.作業療法士
  5. e.医療ソーシャルワーカー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、急性期の治療を終えた患者さんの「次の療養の場」を誰が調整するのか、という多職種連携の問題だ。注目してほしいのは、リハビリの継続が必要なこと、一人暮らしであること、そして療養先が他県になることの3点だよ。
医学生医学生
リハビリが必要なら、作業療法士がリハビリ先も含めて調整するのかなと最初は思いました。
ドクタードクター
そう考えたくなる気持ちはわかる。でも設問が問うているのは「リハビリをする人」ではなく「施設間の連携を調整する人」なんだ。そこを分けて考えよう。まず、この患者さんは退院後どうなると思う?
医学生医学生
片麻痺が残っていて一人暮らしなので、自宅にそのまま帰るのは難しそうです。回復期リハビリテーション病棟への転院でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。いまは急性期、回復期、慢性期、在宅と医療機関の機能分化が進んでいて、患者さんは病期に応じて施設を移りながら療養を続ける。今回は息子夫婦のいる他県で、受け入れ先の病院や施設を探し、診療情報を引き継ぎ、介護保険の申請や身体障害者手帳といった制度の利用も整える必要がある。転居を伴うから、介護保険の手続きも転居先の市町村とやりとりすることになるね。
医学生医学生
医療だけでなく、行政や介護、家族の事情まで絡んでくるんですね。
ドクタードクター
その「間に立つ」のが医療ソーシャルワーカー、MSWだ。社会福祉の立場から、患者さんと家族の経済的・心理的・社会的な問題の解決を支援し、転院・入所先の選定や受け入れ調整、社会制度の利用支援、医療機関・介護施設・行政との連絡調整を担う。だから正解は医療ソーシャルワーカーになる。
医学生医学生
臨床実習で脳外科を回ったとき、カンファレンスで「転院先はMSWさんと相談中」と言われていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその場面だね。では他の職種も確認しよう。看護師はどうだろう。
医学生医学生
病棟で退院支援をしている看護師さんもいた気がします。看護師でも間違いではないのでは?
ドクタードクター
鋭い指摘だ。実際、退院支援を専門に担う看護師を置く病院は多く、MSWと協働している。ただ看護師の本来の役割は療養上の世話と診療の補助で、セルフケア指導や訪問看護などで力を発揮する職種だ。他県の施設を探して受け入れを調整し、制度利用を支援する中心となると、MSWの方がよりふさわしい。
医学生医学生
保健師は地域で活動するイメージがあるので、退院後の調整にも関わりそうですが……。
ドクタードクター
保健師は保健所や市町村保健センター、地域包括支援センターなどで、健康相談や保健指導、母子保健、感染症対策といった公衆衛生活動を担う。退院後に地域で関わることはあっても、入院中の患者さんの転院調整をする立場ではないんだ。薬剤師も同じで、抗血小板薬や抗凝固薬の服薬指導、転院先への薬剤情報提供では大事な役割を果たすけれど、療養先の確保は担当外だね。
医学生医学生
作業療法士は、食事や更衣などのADL訓練が中心でしたよね。
ドクタードクター
その通り。片麻痺のリハビリでは中心的な存在で、住環境の調整や福祉用具の選定にも助言する。でも療養先の病院や施設との連携調整を担うわけではない。それぞれの専門性を区別しておくことが大切だよ。
医学生医学生
リハビリ職だと、理学療法士が起居や歩行などの基本動作、言語聴覚士が失語や嚥下でしたね。
ドクタードクター
よく整理できているね。発展知識として、MSW自体は国家資格の名称ではなく、多くは社会福祉士、精神科領域では精神保健福祉士の資格をもつ人が担っている。また、自院で治療を終えた患者さんを他施設や在宅へ送り出す連携を「後方連携」、紹介を受けて受け入れる連携を「前方連携」とよぶ。脳卒中では急性期から維持期まで情報を切れ目なく共有するために地域連携クリティカルパスが使われているよ。
医学生医学生
退院後に在宅生活になったら、今度はケアマネジャーが中心になるんですね。
ドクタードクター
そう、介護支援専門員はケアプランを作ってサービス事業者との調整を行う。臨床では、入院早期から「退院後どこで、誰と、どう暮らすか」を意識して、MSWに早めに声をかけることが、患者さんの希望をかなえる近道になるんだ。

まとめ

急性期治療を終えた患者の転院・施設入所・在宅移行といった療養先の調整は、医療ソーシャルワーカー(MSW)の中心的な役割です。MSWは社会福祉の立場から、受け入れ先の選定や連絡調整、介護保険・障害者福祉制度の利用支援を行い、患者・家族の経済的・心理的・社会的問題の解決を助けます。看護師は療養上の世話と診療の補助、保健師は地域の公衆衛生活動、薬剤師は服薬指導や薬剤情報の提供、作業療法士はADL訓練と、それぞれ専門領域が異なります。施設の機能分化が進んだ現在、後方連携や地域連携クリティカルパスを含めた多職種の役割分担を理解しておくことは、患者を切れ目なく支える医療の基盤となります。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

・78歳男性。脳梗塞で入院中だが、病状は安定し意識も清明である。 ・左上下肢の運動麻痺が残っており、今後もリハビリテーションの継続が必要である。 ・一人暮らしのため自宅への単独退院は難しく、息子夫婦が住む他県での療養を希望している。

何が求められているか

急性期病院での治療が一段落した患者には、回復期リハビリテーション病棟をもつ病院への転院、介護老人保健施設などへの入所、あるいは在宅療養への移行といった次の療養の場が必要になる。本例では療養先が他県であるため、転院先・入所先の病院や施設を探して受け入れを依頼し、診療情報や介護情報を引き継ぎ、介護保険(要介護認定の申請、ケアマネジャーとの連絡)や身体障害者手帳などの社会制度の利用も整える必要がある。転居を伴うため、介護保険の手続きは転居先の市町村との間で行うことになる点も調整が必要である。 このように、医療機関・介護施設・行政窓口・家族の間に立って療養先の確保と制度利用の手続きを調整し、患者と家族の経済的・心理的・社会的な問題の解決を支援するのが医療ソーシャルワーカー(MSW)の中心的な役割である。設問は「施設間の連携を調整する」職種を問うており、これに最もふさわしいのは医療ソーシャルワーカーである。

選択肢考察

  1. ×a.  看護師

    看護師は、保健師助産師看護師法に基づき「療養上の世話」と「診療の補助」を行う職種である。入院中の看護や、退院後の生活を見据えた指導(服薬・食事・排泄・移動などのセルフケア)、退院後の訪問看護などで重要な役割を担う。近年は退院支援を専門に担当する看護師を置く病院も多く、MSWと協働して退院支援に関わるが、他県の病院・施設を探して受け入れを調整し、社会制度の利用を支援するといった施設間調整の中心となる職種としては、医療ソーシャルワーカーがよりふさわしい。

  2. ×b.  保健師

    保健師は、保健所や市町村保健センター、地域包括支援センター、企業などに所属し、地域住民や労働者を対象とした健康相談・保健指導、母子保健、感染症対策などの公衆衛生活動を担う。退院後に地域で生活する段階で関わることはあり得るが、入院中の患者の転院・施設入所に向けた施設間の調整を行う職種ではない。

  3. ×c.  薬剤師

    薬剤師は調剤、服薬指導、薬歴管理、処方内容の確認(疑義照会)などを担う。脳梗塞の再発予防には抗血小板薬や抗凝固薬の継続服用が重要であり、退院時の服薬指導や転院先・かかりつけ薬局への薬剤情報の提供で役割を果たすが、療養先の確保を含めた施設間の調整を担う職種ではない。

  4. ×d.  作業療法士

    作業療法士(OT)は、食事・更衣・整容・入浴などの日常生活動作(ADL)や、家事などの応用的動作、高次脳機能障害に対する訓練・指導を行うリハビリテーション専門職である。本例のような片麻痺患者のリハビリテーションでは中心的な役割を担い、住環境の調整や福祉用具の選定にも助言するが、療養先の病院・施設との連携を調整する職種ではない。

  5. ○e.  医療ソーシャルワーカー

    医療ソーシャルワーカー(MSW:medical social worker)は、病院などの保健医療機関で、社会福祉の立場から患者・家族の経済的・心理的・社会的問題の解決を支援する職種である。業務には、退院・転院先の選定と受け入れの調整、介護保険や障害者福祉制度・医療費助成などの制度利用の支援、地域の医療機関・介護施設・行政との連絡調整が含まれる。本例のように他県の施設へ療養の場を移す場合、こうした施設間の連携を調整するのに最もふさわしい職種である。

医療ソーシャルワーカーの業務

厚生労働省の「医療ソーシャルワーカー業務指針」では、主な業務として次のものが挙げられている。 1. 療養中の心理的・社会的問題の解決・調整援助 2. 退院援助(転院・施設入所・在宅療養への移行の支援) 3. 社会復帰援助(復職・復学の支援) 4. 受診・受療援助 5. 経済的問題の解決・調整援助(医療費、生活費、各種給付制度の利用) 6. 地域活動(地域の保健医療福祉ネットワークづくりへの参画) MSW自体は国家資格の名称ではなく、多くは国家資格である社会福祉士(または精神科領域では精神保健福祉士)の資格をもつ者が担っている。

医療連携の考え方

医療・介護施設の機能分化(急性期、回復期、慢性期、在宅)が進み、患者は病期に応じて施設を移りながら療養を続けるようになった。他の医療機関から患者を紹介されて受け入れる連携を「前方連携」、自院で治療を終えた患者を他の医療機関や介護施設・在宅へ送り出す連携を「後方連携」とよぶ。本例は後方連携にあたる。脳卒中では、急性期から回復期、維持期まで切れ目なく診療情報を共有するために「地域連携クリティカルパス」が活用される。

関連する職種と役割

・介護支援専門員(ケアマネジャー):介護保険サービスの利用計画(ケアプラン)を作成し、サービス事業者との調整を行う。退院後の在宅生活で中心となる。 ・理学療法士(PT):起居・移乗・歩行などの基本動作の訓練。 ・作業療法士(OT):ADLや応用動作、高次脳機能の訓練。 ・言語聴覚士(ST):失語症などの言語障害、構音障害、摂食嚥下障害の訓練。

POINT

・転院・施設入所・在宅移行など、退院後の療養先をめぐる施設間の調整は医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割である。 ・MSWは社会福祉の立場から、患者・家族の経済的・心理的・社会的問題の解決を支援し、社会制度の利用を助ける。 ・MSWの多くは社会福祉士・精神保健福祉士の有資格者である。 ・各職種の主な役割(看護師、保健師、薬剤師、PT・OT・ST、ケアマネジャー)を区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。